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第163話 敵の敵は味方

こんばんは&遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。

これが本年最初の投稿となります。

色々忙しくて投稿期間が空いてしまいました、申し訳ありません!

 オーガの里は、海と山の幸に恵まれた自然豊かな都市である。


 秋に収穫できる米と蕎麦は絶品で、食通には未来を担う次世代の穀物と称されるほど。それを任されるのは、里を囲むように位置する下位・中位魔人達の集落だ。だが彼等とオーガは、決して奴隷と主人の関係ではない。共に里を盛り立てる同志として、下位・中位魔人は穀物の栽培を、そしてオーガはそれ等を活かした絶品料理の開発を担う持ちつ持たれつの関係を築いている。


 最北端に位置する漁港集落では、カニやマグロを筆頭とした海産物が取れることもまた忘れてはならない。


 魔獣季(まじゅうき)になればその漁獲量は一気に世界一にまで跳ね上がり、同時に討伐の難易度の高い獲物も多くかかる。だが、上位魔人であるオーガからすれば朝飯前レベルだ。どれ程凶暴な魔獣や海産物がかかろうと、彼等の腕っ節と特殊能力持ちにかかればたちまち豪勢な食材へと早変わりする。


 また、洋風文化のエルフ達で有名なラッフィナート国内にありながら、オーガ達は独自で和風テイストの文化を築き上げた。更にエルフの洋風文化に感銘を受けた者は、エルフの文化にリスペクトを込めて擬洋風建築を完成させた。特に武闘派達を育てる学校や兵舎は、ラッフィナート本国との交流を意識してかほとんどが擬洋風建築で作られている。


 そんな自然と和洋折衷溢れる厳冬の都市、それこそがオーガの里である。


 *


 転移門を通じてスミレ達が降り立ったのは、里の南部にある中規模集落。


 使者のハッカが言うには、ここにクロッカス夫妻が拠点を構えているとのこと。


 辺り一面真っ白な雪景色、ノマドが支給した極寒対策用のコートを着ていなければたまったものではない。


 そうして中規模集落の中に踏み入った一行(いっこう)の目に飛び込んできた光景は、何者かと争ったような痕跡が随所に刻まれた集落の姿だった。


「何で……一体何が」


 茫然自失とするハッカに、スミレは仮説を立てる。


「……多分、敵側に漏れていたんでしょうね。パパ達が拠点にしてた、この場所も」

「まさか、私が見つかったあの時から……!」


 連合国に駆け込む前に暴王の嘲笑(タイフリッシュ)の構成員に見つかったことを、ハッカは思い出す。あの時点で既に連絡は共有されていた、なぜそれに気付かなかったのだろう。


 己が失態に気付いた瞬間、ハッカは雪面の上で頭を地に伏せる。


「も、申し訳ありません! 奴等に見つかりさえしなければ、こんなことには……!」

「謝るのは後よ。大事なのは、これからどうするかじゃないかしら。一先ず、集落を調べてみましょう。もしかしたらまだ生きている人がいるかもしれない、何があったのか詳しく聞く必要があるわ」


 スミレの意見にハッカはもちろん、カジミア達とノマド一同も賛同する。


 早速、現場を調べるべく各自行動に移ることとなった。


 *


 調べること十数分、里の現状は想像以上に凄惨だった。


 明確に争った証拠とみられる血痕が周囲にあり、数人のオーガの(むくろ)が転がっている場所もある。


 だが、集落の規模に反し犠牲者の数は想像以上に少なかった。


 元々ここはオーガが囲っていた中位魔人、コボルドの集落。人口はオーガに遥かに及ばないものの、里を囲む集落の中では最も大きい。争い合った痕跡があるならば、被害は大きくてもおかしくない。


 にもかかわらず、雪面に転がる骸は一時的に里を借りているオーガのみ。しかもたった数人のみという異例の少なさだ。


 里の規模に対する犠牲者の少なさにしても、原住民族の有無にしても明らかにおかしい。


 スミレ一行の疑問がピークに達しかけたその時、一行の眼前に一台のバギーが急停車する。


「誰!?」

「総員、構え!!」


 スミレが二対の金砕棒を、ルイーサの一声でノマド一同が銃を構える。正体不明の存在が現れた、敵だと疑い構えるのは必然と言える。


 その一方で、爆弾魔のカジミアだけは――。


「おや、あのバギー……どこかで見たことあるような」


 何かしら見覚えのあるような様子を見せていた。


 彼の視線の先にあるのはバギーのボンネット。そこにはフォークとナイフを左右に据え、真ん中に丸い皿を置いた食卓を思わせるエンブレムが描かれていた。


 程なくして、四人の影がバギーから姿を現す。


「何だぁ? 見慣れねぇ連中がいるな」


 運転席から降りたのは、身長二メートル近くもある金髪ツーブロックの大男。群青色のコートと漆黒のレザーズボン、二枚目な顔立ちながらもマッシブな肉体が大男の屈強さを際立たせている。


暴王の嘲笑(タイフリッシュ)の奴等なら遠慮なく地獄に落としてやるど」


 続けて後部座席から現れたのは、先の大男よりも更に高身長の茶髪ソフトモヒカンの偉丈夫だ。迷彩模様のジャケット、大柄な紺色ズボンとフットワーク軽く走れそうな戦闘ブーツが特徴的な出で立ちだ。


「ちょっと、周辺部族の奪還終わったばかりなのに新手登場!? 勘弁してよぉ~!」


 茶髪偉丈夫の反対側から泣き言と共に姿を現したのは、一際小柄なライトブルーとチェリーレッドのツートンカラーな髪色がトレードマークの女の子だった。正面から見て右のチェリーレッドの髪をサイドテールにまとめ、左のライトブルーの髪は垂直に落としている。服装も男性陣と比べると赤いジャケットとクリーム色のスカートと言った、全体的に軽装備な印象だ。


 そして助手席から降りた最後の人物は、見目麗しいストロベリーブロンドの女性。


「皆さん、慌てることはありませんわ。様相からして、彼等は暴王の嘲笑(タイフリッシュ)の構成員ではありません」


 気品ある口調と優雅さを感じさせるベージュ色のファーコート、その一方で鋭く輝く金色の瞳は戦い慣れた武闘派らしさを醸し出している。


「まさか、こんな所でアンタ等と出くわすとは思わなかったんだな」

「知っているの、カジミア?」


 首を傾げるスミレとは対照的に、カジミアは彼女等を知っていた。


「ギーアの中でも高い実力を持つ武闘派小隊(パーティー)魔食布教会(ガストロノミー)のフリーデ。アルーシャ財閥と提携関係にあるエッセン商会直属の武闘派なんだな」


 カジミアの語る魔食布教会(ガストロノミー)とは次の通りだ。


 ギーア国内における食品関連事業を手掛ける「エッセン商会」は、一般的な食品の他に魔食(ましょく)シーカー事業も展開している。


 魔食(ましょく)シーカーとは、未知なる魔獣や未開拓の食材を探求する美食家のことを意味する。


 一見すると冒険心をくすぐられる響きだが、実際は生易しいものではない。


 魔食(ましょく)シーカーは、魔獣相手に直接戦闘を仕掛けて食材を確保することが大前提になる。その為、一定以上の戦闘力がなくては務まらない。


 特に、魔物や魔獣が一番活発に動く魔獣季(まじゅうき)では強く問われる。商会にとって秋に並ぶ最大の稼ぎ時になるこの時季に、率先的に暴れ回れる腕前がなければ話にならない。


 その中でもフリーデをリーダーとする魔食布教会(ガストロノミー)は、ギーア国内でその名を知らぬ者はいない程の実力者揃いだ。


 彼女等がここまで名を馳せた理由は他でもない。結成から七年経った現在に至るまで、多数の死者が出て当然の魔獣季(まじゅうき)を七年連続で生き延び、且つ商会に利益以上の捕獲実績を叩き出したという偉業を成し遂げたからだ。


魔獣季(まじゅうき)を確実に生き残る武闘派中の武闘派、これだけでも十分な実力だと分かるんだな?」

「ええ……あなたの説明で理解できたわ」


 可憐さと武骨さの入り混じる眼前の小隊の実力は確固たるもの、カジミアの説明でそれを理解したスミレは息を呑む。


 対して魔食布教会(ガストロノミー)リーダーのフリーデは、照れくさそうな様子を見せる。


「いえいえ、私達(わたくしたち)は食を重んじるランドリヒ会長の理念の元に活動しているだけですわ。今回ここに訪れたのも、オーガの里を奪還する為ですもの」

「それでここにいたんだな! ということはフリーデ、その命令出したのは会長さん?」


 カジミアの問いに答えたのは、フリーデではなく金髪の大男。


「おぅ。独自の食文明が根付いてるオーガの里はウチの会長も夢中でよ、『異文化を荒らす暴王の嘲笑(タイフリッシュ)に容赦はいらぬ!』って怒り心頭なわけさ」

「んでさっき、準備運動代わりに暴王の嘲笑(連中)が乗っ取ってた周辺部族の集落をオデ達が再奪還してきたとこなんだど。な、エメット?」


 軽い一仕事を終えたような言動で語る茶髪の偉丈夫に――。


「おぅ、ワルデン」


 エメットと呼ばれたツーブロックの大男は、茶髪偉丈夫のワルデンに爽快に相槌を打ってみせる。


 すると――。


「いや、何まったり話し込んでんの!?」


 ツートンカラーの少女が至極当然なツッコミを飛ばす。


「アンタ等が暴王の嘲笑(タイフリッシュ)の連中じゃないのはいいけど、素性が分からないのも事実でしょ! ってかそもそも論よ、何でアイツ等暴王の嘲笑(タイフリッシュ)の連中じゃないって言えるわけ!? ねえ、フリーデ!」

「落ち着きなさい、ルチナ。そう断言できる理由は三つありますわ。一つ、暴王の嘲笑(タイフリッシュ)を嫌う戦狂いの猫(クリークス・カッツェ)の一員カジミアさんがいること。二つ、ツーガントの遊牧民族のノマドがいること。ノマドも魔獣季(まじゅうき)の時期にオーガの里に多大な貢献をしてきた部族の一つ、私達と同じ目的でこちらに伺うべきですわ」

「おー、鋭いね。その通り、私等ノマドもオーガの里には随分世話んなった。助けない理由はないね」


 そう言いながらノマドの若き族長ルイーサは、仲間達に武器を下ろすよう命じる。ノマドに呼応するようにカジミアにバレンティア、スミレも武装解除する。


 そうして互いの警戒が一時的に解けた頃合いで、フリーデが口を開く。


「そして三つ目、目の前にオーガの娘さんが二人もいる。一人は恐らく、反攻勢力の使者として……もう一人は初めて見るお人。まあ大方、里が乗っ取られたことを知り、こうしてやってきた……と私は推測しますが、実際はいかがでしょう? 互いの自己紹介も兼ねて、ここは情報交換と参りませんか?」


 フリーデが提案した内容は、意外にも穏やかなものだった。


 意外に話の分かる相手だと判断し、スミレが早速応じようとしたその時。


「見つけたぞ、コラぁ!!」


 聞くからに粗暴な罵声が、一同の耳を(つんざ)いた。


 聞こえてきた方へ視線を移した先には、灰色を基調とした黒ストライプスーツのガラの悪い男達。そう、暴王の嘲笑(タイフリッシュ)の構成員たちだ。


魔食布教会(ガストロノミー)め、よくもやりやがったな!」

「折角支配した周辺部族の集落を奪還しやがって!」

「ただで済むと思うなよ!?」


 三十人近くいる構成員はアサルトライフルに拳銃、ナイフと言った武器を怒り心頭で構える。


 だが、フリーデ達魔食布教会(ガストロノミー)は怯むどころか毅然とした態度で前に出る。


「ただで済むと思うな……ですって? 足がかりとして他人様の集落を問答無用で襲っておいて、どの口が仰いますの?」


 二丁拳銃を抜くフリーデに続き――。


暴王の嘲笑(テメェ等)魔食(ましょく)文化を冒涜したも同然だ、その罪は万死に値するぜ」


 鉄塊の如き肉切り包丁を構えたエメットが睨みつける。


「腹減った、手っ取り早くぶっ潰して飯食うど」


 更にワルデンも、自身の得物である刃の付いた弓を携えて臨戦態勢に入る。


 そんな中――。


「覚悟しなさいよね! ケッチョンケッチョンにしてやるんだから!!」


 ルチナは魔術書と思しき書物を手に、年相応の無邪気さで構成員に威嚇する。されど、彼女の瞳は力強く輝いている。


 各々の武器を構えて構成員と向かい合う魔食布教会(ガストロノミー)。その姿は、結成から今日に至るまで魔獣季(まじゅうき)を乗り越えてきたという噂に違わぬオーラを放っていた。


 そんなフリーデに呼応する形で、スミレ達も前に出る。


「あら、手伝ってくれますの?」

「勿論よ。まだ出会って間もないけれど……あなたの言葉には嘘偽りのない、清らかさがあった。協力する理由としては充分よ」

「お褒めに預かりましてよ」


 妖艶に微笑むフリーデに、スミレは更に続ける。


「何より……私は私を捨てた両親との再会を目指してここまで来た! だから、里を荒らすような連中を見過ごすことなんてことできる訳がない!」


 確固たる決意で告げるスミレに、カジミア等も続く。


「よく言ったんだな、スミレさん」

「こんなクソ共、全員臭い目に合わせてやろう!」

「久々だね。魔獣以外の獲物に銃向けんのは」


 カジミア、バレンティア、そしてノマド一同も臨戦態勢に入る。彼女等も魔食布教会(ガストロノミー)に匹敵するほどの圧を誇っていた。


 そんなスミレ達を、魔食布教会(ガストロノミー)一同は感心した様子を見せる。


「オーガのお嬢様、お名前は?」

「スミレよ。よろしく、フリーデさん」


 スミレがフリーデに名乗ると同時、エメット達も彼女に名乗りを上げる。


「エメットだ、魔食布教会(ガストロノミー)のファニーな料理人だぁ」

「オデはワルデン、これが終わったら飯にするど!」

「今そこ重要視すべきじゃないでしょ、ワルデン! って、私もやらなきゃ。ルチナよ、炎と水魔法なら任せて!」

「最後に……改めまして、魔食布教会(ガストロノミー)リーダーのフリーデと申しますわ。以後お見知りおきを」


 戦闘前とは思えぬほどに和気あいあいと自己紹介を交わすスミレ一行と魔食布教会(ガストロノミー)


 そんな彼女等にしびれを切らしてか、暴王の嘲笑(タイフリッシュ)構成員が怒号を飛ばす。


「何ゴチャゴチャ喋ってんだ、テメェ等!!」

「めんどくせぇ、まとめてやっちまえ!!」


 血気盛んなチンピラの一言を皮切りに、最前列二名の構成員が容赦なくアサルトライフルをぶっ放す。不意打ちに近い一手で放たれた弾雨は、容赦なくスミレ達に襲い掛かる。


 だが、チンピラが声を荒げた瞬間にルチナは迎撃態勢を整えていた。


深層水盾ティフ・ヴァッサーシルト!」


 ルチナが技名を唱えた直後、一行の眼前に分厚い水の盾が現れる。


 それは深海に匹敵するレベルの分厚い水の盾。弾丸が飛び込んだ瞬間、勢いは急速に落ちて最終的に動きを止められてしまうのだった。


「んなあっ!?」

「銃弾が止まった!?」


 動揺するチンピラを余所に――。


「ナイス防御ですわ、ルチナ」


 規格外の跳躍力でフリーデが水盾の上に現れる。


 既に両手には拳銃がある、同時に狙いも定めている。


 次の瞬間、間髪入れずに二発速射。


「散れ」

「がっ!」

「お……」


 フリーデの弾丸は寸分違わず正確無比。


 アサルトライフルを持つチンピラ二人は、フリーデの動きに気付かぬまま眉間を貫かれて死んだ。


 早くも二名死亡、構成員達の間に緊張感が(ほとばし)る。


 それを皮切りに、フリーデが声を張り上げる。


「さあ、ランチ前の準備運動と行きましょう! 皆様方っ!!」


 敵の敵は味方、偶然見知った魔食布教会(ガストロノミー)と共にスミレ達は暴王の嘲笑(タイフリッシュ)との戦闘を開始する。


 武闘派達の血生臭い宴の幕が派手に上がった瞬間だった。

いかがでしたでしょうか?

新たな部隊と共に奪還戦はここから始まってまいります。

何卒よろしくお願いいたします。

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