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第162話 エルネストの説教

こんばんは、何とか年末までにもう一話投稿できました。

何卒よろしくお願いいたします。

 フィガロの邸宅からやや離れた石造りの建物に、アマンシオが担う食堂はできていた。


 元々あった石造りの建物を、里からやってきたドワーフ達の圧倒的な建築力によりリノベーションした結果、新築同様の出来を誇る出来栄えとなった。


 彼等がやってきて翌日だというのに、余りにも迅速なクオリティに誇太郎は圧巻する。


「え、すご。突貫クオリティじゃないよな……?」


 そんな疑念を口にする誇太郎に、食事中のドワーフ達が抗議する。


「おうおう、(あん)ちゃん! ドワーフの腕前舐めちゃあいけねえよ!」

「元の素材がありゃあ、補修工事なんざちょちょいのちょいよ!」

「とはいえ、まだ途中だがよ! もっともっと頑丈な出来栄えにしてやっから、よーく見守っとけよ!」


 最後のドワーフの言葉がそこはかとなく突貫工事を匂わせるものだったが、下手に突っ込めば揉め事になるだろうと踏んだ誇太郎は苦笑で応対した。


 すると、ドワーフ達と同席する黒ローブを羽織る黒髪ブルーインナーカラーのドモヴォーイ、エンツォも誇太郎に声をかける。


「大丈夫だよ。彼等の腕前は確かなものだ、家屋の守護霊たる僕が保証する」

「そ、そうか。なら安心だ」

「でも途中なのも事実、機を見て補強工事施す予定だ。僕とドワーフ達が責任もってね」

「やっぱ突貫工事じゃねーか! 頼むぞ、皆の憩いの場所なんだから!」

「ごめんって、でも連合国の建物は基礎だけはしっかり出来てる建物が多いから。この食堂もそうだし。とにかくちゃんと仕事はするから、怒らないで……」


 しょぼくれるエンツォへのツッコミもそこそこに、誇太郎とエルネスト達は食堂に入っていく。


 ディナータイム真っ只中を僅かに過ぎた夜八時過ぎ、客足がまばらになり始める時間帯の中、誇太郎達は空いているテーブル席に腰を下ろす。


 三人が席に座ったタイミングを見計らって――。


「いらっしゃいませー!」

「ご、ご注文お願いし、します!」


 ウェイターのエルフの姉弟が姿を現した。


 すると、エルネストとパトリシアは目を丸くした。


「あ? テメェ等、よく見りゃ一昨日クソ料理悪魔(ウコバク)に泣きついてたエルフのガキ共じゃねーか」

「何、ここで働いてんの?」


 二人はこのエルフ姉弟を知っていた。


 それもそのはず、この二人は連合国に降り立った初日に、空腹のあまり炊き出しに割り込みかけてアマンシオが引き留めたエルフの姉弟だったのだ。


「そうよ、あの後アマンシオさんが私達を雇ってくれたの!」

「でも、覚えること沢山で……色々大変」


 姉が得意げに、弟が控えめに答えていると――。


「はぁぁい、メリッサぁぁ、ミータぁぁ。早く注文取れ、この野郎ぉぉぉ」


 アマンシオの気だるげな声色が厨房から聞こえてきた。


「あ、そうだった!」

「ごめんなさい、アマ……料理長! えっと、ご注文をどうぞ」


 弟エルフのミータの呼びかけに、誇太郎は煮卵トッピング付きのリフレッシュヌードル、エルネストはワイバーンのウェルダンステーキ、パトリシアはスパークストロベリーの炭酸ジュースを注文する。


 程なくしてカロリーのある料理が各々のテーブルに渡った所で、誇太郎はエルネストに尋ねる。


「それで……わざわざ俺を誘い出した狙いは一体何だ?」

「さっき言った通りじゃ、アホ。テメェが浮かねえ顔してっから、色々聞いてやろうってんだ」


 相変わらずぶっきらぼうな口調で、エルネストはステーキにかぶり付く。


 対する誇太郎は、困惑の最中から抜け出せずにいた。普段ぶっきらぼうなエルネストのらしくない言動に、戸惑いを隠せずにはいられない。


「色々って……何をだよ」

「スミレから聞いてンぞ。作戦会議冒頭で言っとった……徴兵部隊(ヴェアプフリヒト)の副団長とやらと()り合って、医者から安静にしろって言われるぐれぇのダメージ負ったって」

「どうしてそれを……」


 先の作戦会議で告げなかったことを知っていたエルネストに、誇太郎は困惑のあまり食事の手が止まる。


 一方、エルネストはその問いには答えず自身の不満を口にする。


「解せねえな、ホントにそこまで苦戦する程の相手だったンかよ」

「いや、実際強かったよ。パワーだけならお前やランハートレベルの威力だったし、ある程度本気で臨まなきゃやられて――」

「嘘つくな」


 言い終えようとした誇太郎の言葉を、寸前でエルネストが遮る。


「本気で臨んでンなら、無傷で勝つことだってできたろーが。少なくともこの俺と死闘しやがる実力はあンだ、出来ねぇなんて言わせねぇ」

「鋭いな……探偵かよ」

「ンなモン、少し考えりゃ分かるわ。まあ、大方最初は小手調べ程度に結構なダメージ食らうまで様子見してたンだろ?」

「……あってる」

「百歩譲ってそこは見逃すとして、その後(ドタマ)かち割れる程の頭突きぶちかました……ってぇのが理解できねンだわ。ンなリスキーなことせずに勝つことなんざ、いくらでもできるはずのテメェがだぞ。普通なら有り得ねえ」

「そうよそうよ、有り得ないことなのよ!」


 パトリシアがエルネストの尻馬に乗るような言葉を飛ばすも、誇太郎は反論できなかった。


 エルネスト含む龍人族(ドラゴニュート)は、魔人の強さ序列三番目にあたる最上位魔人だ。嫌われ者の秘島内で起きた攻城戦においても、誇太郎がエルネストに勝ち得たのは奇跡に近い。


 故にエルネストは疑問を抱かずにはいられなかった。鍛えられているとはいえツーガントの一人間相手に、ドクターストップを受ける程のダメージを負うことなど考えられなかったのだ。


 対する誇太郎はまだ答えない。そんな彼に、エルネストはこう続ける。


「だけどよぉ、テメェと闘り合った俺には分かる。テメェは相手の気持ちを汲んだ上で戦うルールがある。俺ン時もそうだ。逆鱗にぶち抜いてフラフラの俺相手に、テメェは『何でそこまで戦う』って聞いてきやがった。問答抜きでトドメ刺してりゃよかったものをよぉ。覚えてるか?」

「覚えてるよ。面談でも確認した、『龍人族(ドラゴニュート)を世界で一番誇らしい種族にする』って目標も……な」

「はっ、ご丁寧なこった。とにかくだ、テメェは相手の事情も受け止めた上でテメェの理屈をぶつける人間だってことを俺は知ってる。だからよ、はっきり言えや」


 一呼吸入れて、エルネストは穏やかな圧を感じさせる眼で尋ねる。


「どうしても許せねえ挑発吹っかけられたんだろ、そのツーガントの人間(下等種族)から」

「……どうして、そう思った?」

「何べんも同じこと言わせんな。会議中のテメェの表情(ツラ)はずーっと浮かねえまんまだった、だからスミレに聞いたんだよ。昼間ぶつかった連中と何かあったンかって。そしたら最初に言った話に辿り着いた、ンでもってスミレはこうも言ってたぜ」


 呆れた様子で、エルネストはスミレの一言を代弁する。


「『我を忘れた怒り方してた』ってよ」

「……」

「人間魔人に限らず、ぶちぎれる理由は何となく分かる。自分(テメェ)か仲間を馬鹿にされたか、それ以上の何かを侮辱されたか。テメェも……そーなんだろ?」

「……」

「スミレは優しい奴だからよ、直接答えちゃくんなかった。だから……テメェに聞く」

「どーなのよ、実際は?」


 エルネスト兄妹の問い詰めに、誇太郎は逃げ場を失う。


 短くため息を付き、誇太郎は口を開く。


「……一旦、飯食わせてくれ。食べ終わってから話すから」


 そう前置きし、誇太郎はズルズルとリフレッシュヌードルをすする。


 さっぱりとした塩味スープは、誇太郎の気持ちを洗い流すように麺と共に彼の食道を通っていった。


 やがて、完食したところで誇太郎はゆっくりと語り始める。


「……許せなかった」

「何をだ?」


 エルネストが問い返すと、誇太郎はやや苛立ちを込めた声色で答える。


徴兵部隊(ヴェアプフリヒト)副団長の言葉をだ。生まれ故郷を……馬鹿にされた気分だったからだ」

「詳しく話せや」


 ぶっきらぼうながらもそっと発言を促すエルネストの言葉に、誇太郎はせきを切った勢いでエラードに排撃した想いを吐露する。


 現世界(げんせかい)――引いては、誇太郎の出身国である日本は戦後七十年以上になる平和主義国だということ。


 そんな戦を知らない世代に対し、エラードが言い放った「召喚されたなら精々国の盾になって死ね」という言葉が許せなかったこと。


 ツーガントの一方的な事情で呼び出しているにもかかわらず、現世界人(げんせかいじん)を「外様の腑抜け」と侮辱したこと。


 エラードの放った言葉は、膨大な犠牲の果てに培った日本の歴史を侮辱するものだった。戦の犠牲を悼む式典に参加したことのある誇太郎だからこそ、エラードの言葉は尚更許せなかった。


 その全てを、誇太郎はエルネスト達に吐露した。


 だがその主張を最後まで聞き届けたのは、エルネスト達に留まらなかった。


 ラストオーダーを過ぎていたのか、厨房にいるはずのアマンシオとメリッサにミータ、食堂ができるまでは炊き出し担当として動いていた地元エルフ女性のボーナ、会計を済ませようとしたドワーフ一行とエンツォも途中から誇太郎の主張に耳を傾けていた。


 そんな誇太郎の想いを全て受け止めたエルネストは、納得いった様子でステーキを食べ終えた。


「……それが理由か、らしくねえ無茶しやがったのは」

「振り返れば、我ながら情けない。でも……それでも、許せなかったんだ。生まれ故郷の完全否定された感じがして、怒りを抑えられなかった。その結果、大事な仲間の故郷の危機に力添えできなくなった。不甲斐なくて仕方ねえよ」


 申し訳なさそうに誇太郎は己の行為を猛省する。


 対してエルネストは、やれやれと言わんばかりに短くため息を付いた。


「……ったくよぉ、横暴だった俺が言えた義理じゃねーけどよ。テメェよぉ!」


 エルネストは語気を強め、自身の考えを告げる。


「ンなに後悔するくれぇなら、何で俺等呼ばなかった! そもそもスミレが側にいたはずだよな、何でアイツに任せずテメェが前に出た!」

「……この怒りはほぼ私怨だ。リーダー一人の私怨を皆に背負わせるわけにはいかない」

「だったら何だ、テメェ一人の怒りが現世界(げんせかい)そのモンの怒りだってか!? 思い上がンなよ、下等種族!!」


 誇太郎の胸倉をつかみ、エルネストは咆える。


「別にいいだろが、背負わせたって! 何もかんもテメェ一人で背負い込んでんじゃねーぞ、水臭(みずくせ)ェ!」

「エルネスト、お前……」

「……腹立つだろーが。自分(テメェ)の生まれ故郷を、それも俺等の世界じゃ有り得ねえような平和が実現してる世界を侮辱されて……黙ってられるわけねェだろが。コタロウは(ちげ)ェにしても、大半の現世界人(げんせかいじん)は好きでこの世界に連れて来られてんじゃねえ……!!」

「……!」

「何でそんな怒りをテメェ一人で背負い込めると思っとンだ、クソが! コタロウ、中途半端に他人の怒り背負うつもりならやめちまえ! やんなら徹底的にだ! 中途半端じゃなく徹底的に!! クソみてぇな理不尽や血も涙もねぇ外道共から国や仲間を守んだよ!!! それで耐え切れねえ怒りや苦痛があったら愚痴でも何でもいい、仲間(俺達)にも背負わせろ!!!! それがテメェが率いる偉大なる少数派(グラン・マイノリティ)だろが!!!!!」


 渾身の想いを全てぶちまけ、エルネストは誇太郎の胸倉を解放した。


 それと同時――。


「かっこよかったですよ、兄様ああああああ!!!」

「熱い演説だったぜ、龍人族(ドラゴニュート)(あん)ちゃんんんんんっ!!!」


 パトリシアとギャラリーのドワーフ達がエルネストの説教をこれでもかと囃し始めるのだった。


「当然のこと言ったまでだっつの。つーか何勝手に盛り上がってんだ、テメェ等! 見世物じゃねンだ、早く帰れ!!」

「嫌です、兄様! 兄様はもっともてはやされるべきなんですううう!!」

「テメェもテメェで煽んじゃねぇ、パト!!」


 兄にすり寄るパトリシアを尻目に、誇太郎をフォローするようにアマンシオ口を開く。


「そっすよぉぉ、隊長さぁぁん。ってか、さっきの招集時にその件についてもうちょい触れても良かったんじゃねーすか、そこまで不愉快な思いしてたんなら」

「……スミレの故郷が乗っ取られたって話の方が重要度は高いと思ってな。俺個人の気持ちと比べりゃ、そっち優先すんのは当然だろ」

「まあ、そりゃぁぁそっすけどぉぉ……そうじゃなくて。こぉぉいう形での愚痴くれぇぇなら、いくらでも付き合いますよって言いたかったの。一組織のリーダーの愚痴程度、酒の肴にしたって罰は当たりゃしねえだろ?」

「ホントに当たらない?」

「多分」

「多分かよ!!」


 どこか中途半端なアマンシオの言葉に、誇太郎は反射的に突っ込んだ。


 されど、気持ちはどこか軽くなっていた。


 エラードの一言とスミレの力添えできなかったことに対する自身への怒りが、ほんの少し薄れたことによるものだろう。


「……ありがとう」


 自身の想いを少しでも受け止めてくれた仲間達に、誇太郎は呟くように礼を口にした。


 *


 そして時は流れ、翌日の正午近く。


 大きな転移門の前で、戦支度を整えたスミレ達に誇太郎が最終確認を取る。


「スミレ、忘れ物はないな? ポーション、ポータブル転移門、スマホとか色々……」

「大丈夫よ。あなたの方こそ、無理はしないようにね」

「分かってる」


 誇太郎とのやり取りが終わり、次はソフィーがスミレの前に来る。


「スミレさん、やり方は午前中に説明した通りにね。あなたが目指す行き先をイメージして扉を開けば、目的地に繋がるから」

「ありがとうございます、ソフィー様」


 背後にある転移門の説明を受け、スミレはソフィーに礼を告げる。


 そして、一同が完全に準備が整った所で誇太郎が声を張り上げる。


「他国を土足で踏み荒らすような侵略者相手に遠慮はいらねえ!! オーガの里の奪還、必ず成し遂げろ!!」


 誇太郎の啖呵に、スミレ達も呼応する。


「……もちろん。腐っても私の故郷、ギーアの人間には渡さない!」

暴王の嘲笑(タイフリッシュ)の連中は残らず爆殺してやるんだな!!」

「懲りないギーアの奴等を臭い目に合わせてやるから、リーダーは期待して待ってて!!」


 スミレを筆頭にカジミア、バレンティアもやる気十分だ。


 付き添いのオーガの使者、ハッカもその想いをひしひしと感じ取る。


 加えてツーガントの遊牧民族、ノマドも負けう劣らずだ。


「オーガの里は私等にとっても狩りの重要拠点だ。何としても取り戻すぞ」


 族長ルイーサの言葉に、仲間は返事代わりに猟銃と各々の武器を意気揚々と掲げる。


 各々の陣営が気合を入れ終えた所で、スミレが転移門に手を触れる。


 ゆっくりと門が開く中、スミレは振り返ってこう告げる。


「行ってきます」


 穏やかな笑顔を浮かべ、スミレは転移門の中へと飛び込んでいった。


 オーガの里の一世一代をかけた戦いが、本格的に始まる。

いかがでしたでしょうか?

スミレの最大の試練は、ここから数話続きます。

今年もありがとうございました、来年もまたよろしくお願いいたします!

皆様、よいお年をお迎えください!

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