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第10話 探れ、魔法術! 備えろ、最終課題!

お待たせしました、一ヶ月ぶりの投稿になります。

今回もがっつりと説明回になっております、多少混乱するところもあるかもしれませんが何卒ご了承ください。

 季節は八月の中旬近く。誇太郎がこの異世界に訪れてから、一ヶ月と半ばが経とうとしていた。


 フェリシアに仕えて本格的に生きようという決意を胸に、異世界に戻ってきた誇太郎。数々の課題を達成し、残すは一週間後に実施が決まった三つの最終課題を達成するのみとなった。


 また、その最終課題はフェリシアが「嫌われ者の秘島」の中で統治していないエリアであるという事も判明し、全てを達成した先に本土に位置する同盟国のラッフィナートを支援するという更なる目標も明らかとなった。


 そして、フェリシアの素性と出身地。本土における世界情勢。自分が想像していたよりも不安定な世界情勢を目の当たりにし、誇太郎はこの世界に来て以来初めて漠然とした不安を抱いていた。


 しかし、それ以上に疑問に思っていたことがもう一つある。


 それは、自身に与えられていた能力が身体術フィジカルスキルだけではなく魔法術マジックスキルも与えられていたという事。しかも、「心力しんりょく」という初めて聞くワードで発動するものだという。魔法術マジックスキルは創作を楽しむ側視点としてのイメージでは、「魔力」などが源となって力を振るうものとしてのイメージが強かった。しかし、それとは別に聞きなれない「心力」という言葉を前に、誇太郎は疑問を解消すべくある人物の元に尋ねざるを得なかった。


 その人物とは、分身魔法の使い手であり魔法術マジックスキル研究者でもある魔女のシャロンである。初めて邂逅した時は、お手伝いの分身がド派手な演出と共に自身をアピールするという破天荒な自己紹介だったが、フェリシアはそんなシャロンは配下の中でも一番の賢さを誇ると豪語したのだ。


 ならば、聞くしかない。魔法術マジックスキルについて少しでも理解を深め、身体術フィジカルスキルと共に研鑽を積めるのならば聞くしかない。


 その提案をシャロンは大歓迎と言わんばかりに、誇太郎の手を引っ張り地下にある書庫へと招き入れた。分厚い本がずらりと並ぶ本棚を挟んで、誇太郎は机に着席した。やがて、伊達メガネを装着したシャロンが得意げな鼻息混じりに姿を現した。


「さてさて、お待たせいたしまーした! 第一回、シャロンちゃんによる魔法術マジックスキル講座の開幕開幕ううう! 司会兼講師はー、このシャロンちゃんがお送りいたしまーす!」


 初対面と変わらずの口上と分身たちが織りなす魔法の演出で、シャロンは高らかなアピールを誇太郎に見せつけた。さながらバラエティー番組のゲストだなと思った瞬間――。


「そしてそして記念すべき第一回のゲストはこの方でっすん、どうぞん!」


――え!? マジでそういうノリなの!? 待って待って、普通に言えばいいのかコレ!?


 まさか本当にそういうノリで自分に振られるとは思っていなかったため、誇太郎は一瞬慌てるも一先ず素直に返事を返した。


「……ひ、樋口誇太郎でーす。よろしくお願いいたしま……」

「テンション低いでーすよ、コタロウさーん! そんなんじゃあ、上位アークスライムにまた負けちゃいまーすよ!」

「いや、いきなり振られても付いていけてないというか……」

「ほらほら、そんなテンションでは駄目駄目でっすん! もっともっとテンション上げていきまっしょー!」


――やべえええええ……もう出だしから結構疲れる……。


 初対面の時から感じてはいたが、シャロンのハイテンションぶりに誇太郎は早くも疲れ気味だった。だが、それでもわざわざ自分の為に時間を作ってくれた彼女の為にも、誇太郎は可能な限り精一杯のテンションで高らかにほえた。


「異世界出身の樋口誇太郎! 偉大なるシャロン先生の魔法術マジックスキル講座、楽しませていただきまーす! どうもでーす!!」

「うわお、いきなりテンション高くなってびっくりしちゃいまーした! その意気でっすん!」


 可能な限り誇太郎は高らかに告げたが、それが全力だったのかすぐにへばって力なくシャロンにこう言った。


「……ごめんなさい、流石にこれずっとキープは無理っす」

「むむむ、仕方ありませーんね。でもでも大丈夫、シャロンちゃんの講座を受ければー! どんな魔法術マジックスキル使いにも対応できる……かもしれませーん!」

「かもしれないって……?」


 曖昧な表現が見られるシャロンの発言に、誇太郎は思わず尋ねる。


「実はでーすね、コタロウさんが思っているよりも魔法術マジックスキルってものすごーく複雑なんでっすん。それも含めて、早速やっていきまーしょい! 始まり始まり~!」


 シャロンの独特のペースに誇太郎は何とか付いていきながら、魔法術マジックスキル講座が今幕を開けるのだった。



 そんなこんなで開幕した、第一回魔法術(マジックスキル)講座。先ず誇太郎が耳にした情報は――。


「ええっ!? 魔法術マジックスキルには、取得できるものとそうじゃないものと分かれてる!?」


 最初にこの世界に来て知った情報として、誇太郎はこの世界では身体術フィジカルスキル魔法術マジックスキルのいずれかの能力を持って生まれてくるとフェリシアから聞いていた。それはつまり、個々人が得たその者ら特有の能力であるため唯一無二の存在というイメージが誇太郎の中で定着していた。だが、そういうわけではないという事実を前に誇太郎は自身の中で見ていた固定観念が崩れ去った。


「フェリシアさーまの言う通りいいリアクションでっすん、コタロウさーん! そうなんでーすよ、もう一度言いまーすけど……魔法術マジックスキルは属性攻撃型・補助型・心力型の三つに分かれていーて、その内属性攻撃型と補助型の一部のみ取得できるんでっすん!」

「三種類に……。どんな感じなのか、伺っても?」

「もちろんもちろん、もっちろん! その為の講座でっすん、じゃんじゃん行きまーすよ!」


 テンションが更に上がっていくシャロンだったが、テンションはそのままの状態で懇切丁寧に説明を始めていく。


 先ず最初に取り上げた属性攻撃型の魔法術マジックスキルとは、火・水・氷・雷・風・大地・闇の七属性の攻撃魔法のことを意味する。誰もが自身に内包する「魔力」を糧に、それぞれの属性専門の魔術書という本から魔法術マジックスキルを学び「知識」という力として自身に宿すことにより、生まれながらにして属性攻撃型以外の魔法術マジックスキルを持つ者はもちろん身体術フィジカルスキルを操る者も同様に簡単に魔法術マジックスキルを操れるようになるのだ。


 そんな説明の中、誇太郎は以下の通りの質問をシャロンに投げかける。


「産まれた時から既に属性を宿した魔法術マジックスキル持ちの方もいたりするのですか?」

「もっちろん! というよーりも、その魔術書を作ったのーが……生まれながらに属性の魔法術マジックスキルを宿しーた、偉大なる方々なのでっすん!」

「では、属性攻撃型の魔術書を生み出したのが……属性を宿した魔法術マジックスキル持ちの方……という事なのですね」


 確認を取るためにオウム返しした誇太郎に、シャロンは鼻息を荒くして答えた。


「大正解でっすん! とはいえ、その後もその魔術書関連の子孫やお弟子さんたーち等でちらほら生まれながらに属性の魔法術マジックスキルを宿してきている人もいまーすが、新しい魔術書を作れーるレベルの魔法使いはここ数十年は見ておりませーんね。特に、新たな属性は数百年は出ておりませーん」

「なるほど……」

「後、そうそーう。もう一つ聞いてもらえまーす?」

「え、な、何でしょう?」


 妙に含みのあるシャロンの発言に、誇太郎は一瞬たじろぐも承諾する。


「さっき、『上位アークスライムにまた負けちゃいまーすよ!』って言ったの覚えてまーす?」

「ええ。それが何か?」

「これはあくまで私の見立てなんでーすけど、コタロウさんが見た上位アークスライムって……前髪の毛色が()()に分かれてたって聞きまーしたけど、それって本当でーすか?」

「ええ。赤・青・黄・緑・紫の五色にキレイに分かれてました」


 そう答えた誇太郎の答えに、シャロンは「あー」と何かしらの結論に達したような声を漏らした。


「……そうでーすか、()()()()そうなんでーすか。だとしたーらコタロウさん、勝手ながーらちょっとお頼みがございまーす」

「た、頼みですか?」


 その時に放たれたシャロンの一言は、改めて上位アークスライムの強さに誇太郎は驚嘆を禁じ得なかった。そしてそれを踏まえた上で告げられたシャロンの頼みを耳にした瞬間、誇太郎は「それはいいけど……本当に勝てるんですか、そいつに!?」と不安になったがシャロンは短く答えた。


「大丈夫、勝てまーす! コタロウさんなーらやれるはずでっすん! なのーで、私のお頼み……可能であればやっていただけまーすか?」

「……分かりました! でも、一先ずは勝利優先でもよろしいでしょうか?」

「もちろんもちろん! 先ずは勝てること前提で頑張ってくーださい! さて……他には、属性攻撃型について質問ありまーすか?」


 その質問に対し、誇太郎は「一先ずは大丈夫」と短く答えた。


「了解でーす! ではでは、ティーブレイクも挟みながら……お次に紹介する魔法術マジックスキルはこちら!」


 そう言い切ると、シャロンの分身の一部が誇太郎の元には紅茶と茶菓子を、もう一方の分身たちは黒板を持ってきた。その黒板にあるチョークを用いて、シャロンは大きく文字を記していった。


「じゃじゃん、補助型でっすん!」

「補助型……! というのは、例えば?」

「補助型は文字通り、戦闘をサポートするようなものが中心となりまーす! 例としてーは、ライムンドの黒穴クロアナ! 戦闘向けでは決してないものーの、サポーターとして必ずいないと苦労すーる影の立役者! そーれーがー!」

「「「「補助型魔法術(マジックスキル)使ーい!!!!」」」」


 ド派手な演出と共に、分身たちの掛け声とともにシャロンは高らかに告げた。スタートしてからずっとこのテンションをキープできているシャロンを前に、誇太郎はローテンションながらもひたすらその情報をメモしながら相槌を打っていた。


「これも属性攻撃型と同様に魔術書とかは出ているんですか?」

「いいーえ! 厳密にはないわけではないでーすが、殆どは出ていないでーすね。それだけ複雑で習得するのは難しーいのでーすよ、コタロウさんっ」

「難しい……」


 シャロンのその一言を前にして、誇太郎は一瞬フェリシアの姿が思い浮かんだ。彼女が宿している魔法術マジックスキルである「際限なき想像力(イマジネーション)」は、自身がイメージしたことは何でもできるだけでなく、その気になれば新たな身体術フィジカルスキル魔法術マジックスキルを生み出せるという他とは一線を画す桁外れな力である。


 そんな中で、誇太郎はライムンドが言っていたあることも思い出した。それは、「ライムンドが自身の魔法術マジックスキルである『黒穴クロアナ』をフェリシアに伝授した」という事である。


 この時はライムンドに叱咤され聞くことができなかったが、今この場であれば。そう決意した瞬間、誇太郎の行動は既に形となっていた。


「シャロン先生、一つ聞いてもいいでしょうか?」

「どうぞどうーぞ! じゃんじゃん聞いてくーださい、どうしまーした?」

「あの……この間、ライムンド殿がフェリシア様に『自身の黒穴クロアナを伝授した』って言っていたんですが……。魔法術マジックスキルって、魔術書がなくても他の人の力を学べるんですか?」

「あっ、それはできませーん! 残念ながーら!」


 手を交差させてバツ印を作り、シャロンは苦い表情で答えた。それに対して、誇太郎は意外そうな表情で相槌を返す。


「あっ、駄目なんだ……。ん……? でも、待ってください。フェリシア様は……それでもライムンド殿の魔法術マジックスキルを習得してますよね? あれって、一体……」

「あ、その理由はシンプルでっすん。フェリシアさーまの『際限なき想像力(イマジネーション)』が規格外すぎるのでっすん! あの方の魔法術マジックスキルは、自身の原動力が尽きない限ーり本当にやりたいと思ったことは際限なくできるんでっすん! それは、他人から魔法術マジックスキルを習得することも同様なのでっすん!」

「マジかよ……」

「とはいっても、あの魔法術マジックスキルは……フェリシアさーまだからこそできる力だと私は思っているのでっすん」

「え……そんなになんですか?」

「と言うーのも、これはフェリシアさーまご本人が仰ってたんでっすん。『際限なき想像力(イマジネーション)』は、イメージできれば何でもできるけど……抽象的なイメージでは力を発現させることができずに不発に終わってしまうらしいのでっすん。

 だからなんでーすかね、あの方は常に勉強熱心なんでっすん。色々なものに興味を示し……使えそうな知識や力があったら、それらを利用して徹底的に努力を惜しまず新たな身体術フィジカルスキル魔法術マジックスキルの開発や習得に取り組む。それが、今のフェリシアさーまの強さたる所以だと私は思うのでーすよ」

「そうだったのですか……」


 フェリシアの規格外すぎる力の詳細を前に、誇太郎は今度はフェリシアと出会った時に彼女が言っていた一言を思い出していた。


「色んなものを楽しんで生きたい! 目で見て、耳で聞いて、肌で触れて、自分が色々感じられるものは全部全部感じて自由に楽しんで生きたい!」という一言。


 あれはつまり、フェリシア自身が魔法術マジックスキルの向上も含めた上での発言なのはもちろん、ありのままに色々な物を楽しみながら生きたいという本人の享楽的な性格と相乗したものが合わさった一言なのだと誇太郎は理解した。それを踏まえ、誇太郎はつぶやく。


「なるべくして、魔王になったんですね……フェリシア様は」

「そうでーすよ、コタロウさんっ! 魔王の二つ名は、飾りなわけはいーっさいありませーん!そしてそして……そんなフェリシア様の魔法術マジックスキルの原動力は~! コタロウさん、お待たせしましーた! ようやーく、このことについて詳しく教えられまーすよ!」

「このこと? って、それってもしかして……!?」


 誇太郎とシャロンが言っている「このこと」というのは、最早二人の間では分かり切っていた。それは――。


「その、もしかしてでっすん! フェリシア様の魔法術マジックスキルの原動力は、強力な『好奇心』から放たれている『心力』によるものなのでっすん!!」


――来た……! ずっと気になっていたワードである、「心力」の名が!!


 ずっと明らかにしたかった念願のワードである「心力」の名が出てきたとき、誇太郎の胸の高鳴りは一気に加速していく。それはシャロンも同様だった。待ってましたとばかりに、二人のテンションのボルテージが上がりながら講座はクライマックスを迎えていく。



 魔法術マジックスキル講座は、いよいよ佳境へと向かっていた。最後に残った魔法術マジックスキルの説明を前に、シャロンは高揚感全開で続けていく。


「さあさあ、コタロウさん! お待たせいたしまーした! 最後に紹介する魔法術マジックスキルは~、心力型! こちらの魔法術マジックスキルは全ーて、魔力ではなーく『心力』によって発動されまーす! 能力としては、フェリシアさーまのような特殊なものも多いでーすが大半は肉体強化のようなものが該当しまーす!」

「……肉体強化?」


 意外な能力が大半という情報を前に、誇太郎は拍子抜けした声を上げてしまった。肉体強化と聞くと、身体術フィジカルスキルなのでは?


 そういう疑問が出てきてしまったからである。


「おやおや、コタロウさーん? 聞きたくてうずうずしておりまーすね?」

「そりゃそうでしょ、魔法術マジックスキルなのに……心力で発動する物って身体術フィジカルスキル寄りなものが多いんですか?」

「というよーりは、その肉体強化が発動するための条件が『心力』という特殊な力を用いるから『心力型』と呼ばれているだけでーすね。そうだ、本格的な『心力型』の説明の前に心力について教えた方がいいかーもでーすね」

「お願いします、シャロン先生!」


 誇太郎の真剣な頼みに、シャロンはコホンと咳ばらいを一つ交えて続ける。


「『心力』とは! ズバリ言います、個々人が瞬間的に爆発させる強い感情が原動力となったもう一つの魔力でっすん!」

「もう一つの魔力……ですか。通常の魔力とは、具体的にどう違うのでしょうか?」

「いい質問でっすん、コタロウさーん! 通常の魔力は体力と同じようなもので、限界が来てしまうとエネルギー切れになってしまいまーす。

 が、心力はまたちょっと違うのでっすん。魔法術マジックスキルを発動するための原動力としては魔力と同じなのでーすが、唯一違うのは……個々人が宿す心力の感情を絶やさない限りは、半永久的にエネルギーが持続するという点なのでっすん!」

「は、半永久的ですって!?」

「そうなのでっすん! つまーり、仮に魔力が乏しい人であっても……その個人が宿している心力の感情を絶やさない限り、その心力で魔法術マジックスキルを発動することができるのでっすん! その中でも『心力型』の魔法術マジックスキルを持って生まれた人は『心術士しんじゅつし』と呼ばーれ、個々人がそれぞれ抱く強い感情の心力を爆発させることで能力を発動させることができる、極めて特殊な魔法術マジックスキル使いなのでっすん!」


 先の説明に出ていた「属性攻撃型」と「補助型」の魔法術マジックスキルの力が霞むレベルの「心力型」の説明を前に、誇太郎は当然ながら驚きを隠せずにいた。シャロンの説明から出た「個々人が宿す心力の感情」という言葉を前に、誇太郎はこう思った。


――感情の持つエネルギーだけでここまで差が出るものなのか?


 そう思った瞬間、誇太郎は再び素直な気持ちで尋ねる。


「心力の強さが凄まじいというのは分かりましたけど……、何というか……そこまで強力なものなのですか? 感情のエネルギーって」

「おやおやぁ、信じられない感じでーすか?」

「いや、何となく分からなくはないですけど……そこまで極端なものなのかなあと思って」

「ところがところがその通りなのでっすん、コタロウさん! 心力って馬鹿にできないものーで、時には極端な力になることだっていーっぱいあるのでーすよ! 例えーば、コタロウさんって色々な本や娯楽作品を楽しまれたんでーすよね?」

「ええ」

「その中ーで、こういう展開とか見たことありませーんか? 『最後まで諦めない登場人物が、驚愕の逆転勝利を収める』という展開をー!」

「……いっぱい見てきましたが、まさかそれも心力の力だと?」

「チッチッチ、馬鹿にしちゃーいけませーんよ!」


 疑うような表情で尋ねる誇太郎だったが、シャロンはそんな彼の意見にテンションをキープしつつも「侮るな」と言わんばかりの言動で返す。


「私が思うーに、あれも立派な心力の力による恩恵だと思っていまーす。どれだけ不利でも厳しい状況でーも、感情のエネルギーが強ければそんなのは一切関係なーい。それだけ、心力の力というのは侮っちゃーいけない代物なのでっすん!」


 ビシッと人差し指を誇太郎に向けて、自身気にシャロンは告げた。


「そしてそして、コタロウさーん。フェリシアさーまから告げられたかは存じませーんが、あなたも実は実はー!」

「「「「「心力で発動する魔法術マジックスキルをあたえられているのでっすん!!」」」」」


 これまで見せてきた演出の中で一番と言っても過言じゃないレベルの演出と声の大きさで、シャロンとその分身たちは告げるのだった。一方の誇太郎は、極めて冷静な対応で短く答えた。


「あっ、それは知ってます。ここに戻る前にフェリシア様から教えられたので」

「ええええー、教えられてたんでーす!? もうー、それならそれで言ってくださいよー!」


 本体含むシャロン達からブーイングが上がり、誇太郎は「すみません」と謙虚に謝罪した。


「でもでーも、フェリシアさーまが教えられたのは『与えた』ってことだけでーすか? どんな能力とーか、発動条件とーかは?」

「あっ……そういえば、教えてもらってなかったな。でも、待てよ……確か俺が今まで心を押し殺していた分の『忍耐』と『根性』から発せられる心力がどうとかは言ってたような……」

「はははーん、なーるほどー」

「な、何ですか……?」


 何かを察したようにニヤニヤと笑むシャロン達を前に、誇太郎は煩悶とした様子だった。


「これはでーすね、コタロウさーん。フェリシアさーまから与えられた、試練だと思いまーす」

「試練……ですって? もう色々とやってるのに!?」

「だーって、コタロウさーん。あなたは未来の戦闘部隊の隊長を担うお方なのでーすよ、それは伺ってまーした?」

「それは……えっ、戦闘部隊の隊長おおおおおおおおおおおおおおおお!!!??」


 いつも通りの誇太郎のオーバーリアクションに、シャロンは「待ってました!」と言わんばかりにその反応を楽しんでいた。当の誇太郎は、戸惑うのを隠せずにいながらである。


「いやいやいやいやいや! 待って、シャロン先生! いくら何でも飛躍しすぎじゃないですか!?俺、まだここに来てそんなに月日経ってませんよ!? 甘く見積もったって、一兵卒ですよ!? 戦闘部隊の隊長って役職は、いくら何でも飛躍しすぎじゃないですか!?」

「いいーえ、それに匹敵する分のお力を持ってると私は思いまーすよ。そうじゃなかったーら、フェリシアさーまはあなたにそこまで至れり尽くせりの身体術フィジカルスキル魔法術マジックスキルを与えるわけないのでーすから」


 特徴的な口調はそのままに、シャロンは突如極めて冷静に自らの意見を誇太郎に投げた。そしてその冷静な口調のまま発言を続ける。


「話を元に戻しまーすけど、試練と申し上げーたのは……コタロウさん自身でその魔法術マジックスキルの正体を探ってほしいという、フェリシアさーまの裏課題だと思うのでっすん」

「それならそうと、はっきり言っていただきたい所なのですが……。自身の能力の把握ができなければ、どう強くなればいいかも分からないので」

「いえいーえ、それじゃあ駄目でっすん! 教えるのは簡単でーすが、フェリシアさーまいわーく『コタロウには自分で探らせるように能力を把握させた方が伸びやすい』とのお達しなのーで」


 そういうシャロンに対し、誇太郎は未だに疑問を抱く表情で納得する様子を見せなかった。見かねたシャロンは、短くため息を付きもう一言付け加える。


「……これはネタバーレになるから言わない方がいいかーなとと思いまーしたが、このままだーと逆にコタロウさん色々進めなさそーうですかーら、少しだーけ申し上げまーすね」

「お願いします!」


 切実に懇願する誇太郎に、シャロンはにんまり笑んで告げた。


「全部は教えられませーんが、能力の一部だけは教えて差し上げまーしょい! コタロウさんの魔法術マジックスキルは、『心術士しんじゅつし』の中でも強い部類でっすん。ところで先ほど、『忍耐』と『根性』と仰ってましたけーど……たぶんそれらがコタロウさんの心力だと思いまーすよ」

「言うほど……ありますかね? ここに来る前にも親父に言われてしまいましたが、俺……言うほど忍耐と根性はないですよ……? ブレードマンティスの時だって、何度か死を覚悟して諦めかけたことがありましたし……」

「でも、逃げずに全部達成できたでーしょ?」


 否定的な誇太郎に対し、シャロンはただ彼が達成した実績を偽りなく告げた。


「普通なら投げ出しかねない課題の数かーずを、あなたは素直に挑みしっかり達成できた。これは、ある種の才能だと私は思いまーす。そして、あなたの心力は『忍耐』と『根性』だけじゃなく……『素直さ』もあると思いまーす」

「素直さ……ですか?」

「これは、私の推測なんでーすが……ライムンドが疑問に思っていーたコタロウさんの急成長の秘密は……『柔軟な肉体(フレキシビリティ)』によるイメージに合わせて柔軟に肉体のレベルアップを手伝ってくれたというのも然りでーすが、それ以上に『素直さ』と『忍耐』の心力による恩恵だと思っていまーす」

「というと、つまり……?」

「フェリシアさーまから伺いまーしたが、コタロウさんは今まーでやりたいことを全て押し殺して耐えていたんですよーね? それで、こちらに来てかーらはただひたすら真っ直ぐな気持ちで頑張ってきたんですよーね?」

「ええ」

「恐らくでーすが、心を押し殺して生きていた時の『忍耐』がコタロウさんの心力を限界まで貯め込んでいーて。そのあーと、この世界で頑張ると決めたこーとによって……『忍耐』の心力が解き放たーれ飛躍的に力が向上しましーた。加えーて、『素直さ』の心力がもたらす成長速度を倍にする効果によーって、戦闘未経験だったコタロウさんのお体は……今や『柔軟な肉体(フレキシビリティ)』によってどんな戦闘スタイルのイメージでも反映できるようになれたのだーと私は思うのでっすん!」


 腑に落ちるような落ちないようなシャロンの説明だったが、誇太郎はこう解釈した。


「つまり……俺が素直になったことで、それまで貯まっていたエネルギーが爆発して成長速度も爆発的になっていたという事?」

「その通りでっすん!」

「じゃあ、それが俺の……魔法術マジックスキル?」

「……だけではありませーん!」

「ええっ、違うの!?」

「そうなのでっすん、ぶっぶー!」


 バツ印を手で作るシャロンを前に、ようやく正解にたどり着いたかと思いきやまた一歩遠のいてしまい誇太郎は悔しくなった。が、シャロンの「だけではない」という発言にやや引っかかる。


「だけじゃない……というのは?」

「正確には……うーん、これも言っちゃいまーすか。改めて正確には、瞬間的にコタロウさんが抱いた心力の感情がそのまま戦闘時における能力強化などに繋がーる。そんな魔法術マジックスキルでっすん!」

「……なるほど。じゃあ、先ほど仰っていた『素直さ』と『忍耐』の心力の効力というのは……俺の魔法術マジックスキルの影響によるものだと?」

「でっすんでっすん! でもでーも、それだけじゃあないのーが……コタロウさんの魔法術マジックスキルでっすん」

「え!? まだこの他にも効果が!? それは一体……」

「はい、ストーップ!」


 深く切り込もうとする誇太郎に、シャロンは透かさず待ったをかけた。 


「ここから先は、コタロウさん自身で答えを見つけ出してくーださい!」

「えええ!?」

「言ったでーしょ、『能力の一部』だけは教えるって。全部教えちゃったーらあなたの成長には繋がらないのでっすん」


 しっかり誇太郎に釘を刺し、シャロンは告げた。その上で、おさらいを兼ねたフォローも付け加える。


「でも、これだけは覚えといてくーださい! あなたの魔法術マジックスキルの力は、『感情によっていくらでも強くなれる』というこーとを!」

「感情によって……ですか」

「はいっ! というわーけで、コタロウさん! その心力型の魔法術マジックスキルの効果を高めーるためにも、身体術フィジカルスキルも鍛えなーがら最終課題に備えてくーださい!」

「了解しました!!」


 力強く誇太郎は答えを返した。いよいよ終わりが間近になった魔法術マジックスキル講座を前に、シャロンはホクホク顔で誇太郎に尋ねる。


「さーて、魔法術マジックスキルのことはこれで理解いただけたでしょうかー?」

「三つの種類に分かれていて、その内自分は『感情』で発動できる魔法術マジックスキルがあるというのは理解できましたが……思った以上に複雑でしたね」

「でしょでーしょ! でもーね、だからこーそ理解できた時の快感はまた面白ーいものでっすん!」

「分からなくなったり、行き詰った時は……また伺ってもよろしいでしょうか?」

「その為の私でーすよ、コタロウさん! 未来の戦闘部隊隊長を後押しできるなーら、いくらでーも!」

「かたじけない……ありがとうございます」


 誇らしげに胸を張るシャロンに、誇太郎は短く礼を告げた。そして、礼を告げられたシャロンはそれを幕引きの合図と判断し分身たちと派手な演出を出して告げた。


「はいはいはい、というわけで! 第一回、シャロンちゃんによる魔法術マジックスキル講座いかがだったでしょうかー? 名残惜しいところでーすが、今回はこれにて閉幕でっすん! ではでーは、皆さーん!」

「「「「またのお越しをー!!!」」」」


――皆さんって……いるの俺だけなんですがそれは……。


 無粋なツッコミを胸にしまい、魔法術マジックスキル講座はこれにて幕を閉じた。



 講座の受講の翌日、誇太郎はただひたすら自己研鑽に努めた。


 魔法術マジックスキルの情報は「三種類の魔法術マジックスキルがあるという事」、「そのうち自身に与えられていた魔法術マジックスキルは感情によって発動する力であるという事」の二つに留めた上で、最終課題の直前までは一先ず「柔軟な肉体(フレキシビリティ)」の研鑽に励むことをメインに絞った。


 これはシャロンに進言された「魔法術マジックスキルの効果を高めるため」という理由もあったのだが、それ以上に誇太郎は「柔軟な肉体(フレキシビリティ)」でできることを見直すことと実践してみたいことがあったからである。


 先ず、「柔軟な肉体(フレキシビリティ)」でできることを見直すことから誇太郎は始めた。スミレと手合わせを行った中庭にて、様々なイメージを脳内に思い浮かべて「柔軟な肉体(フレキシビリティ)」で反映させる。


 ブレードマンティス討伐戦で身に着けた走法である「脱兎ダット」を反映させて高速移動できるのはもちろん、スライム討伐戦にてライガが見せた「獅子武術レオナマーシャルアーツ」の1つである「獅子猛攻レオナエンバーテ」を、自分なりのイメージで定着させた剣法である樋口流剣法の参の剣「刺突閃」で刺突の雨を繰り出せるようにもなった。


 そして、もう一つ「柔軟な肉体(フレキシビリティ)」でできることに誇太郎は気付いた。それは、スミレにビンタを食らった時と手合わせをした時に身に着けた「自身に大ダメージが迫ろうとするとき、無意識のうちに筋肉を一箇所に集中させてダメージを軽減させるイメージが反映される」という能力である。強靭な肉体を持つオーガ族であるスミレの一撃をも軽減させることから、一箇所に全て集中させるこの隠れた力は防御態勢に特化できるメリットがあるのだ。とはいえ「柔軟な肉体(フレキシビリティ)」は鍛えた肉体以上のことはできないため、どれほどのダメージが攻撃を軽減できる上限なのかは未だに不明というデメリットもあるため、誇太郎はそこだけが不安ではあった。


 一先ず、「柔軟な肉体(フレキシビリティ)」でできることはそれなりにあることを誇太郎はざっと振り返った。


 では、逆にできないことは何だろうか?今度は自分にできないことをすべく、色々と実践を試みる。


 誇太郎は、テーブルにリンゴを置いて多少距離を置いて離れる。そこから右手を前に出し、「腕が伸びるイメージ」を「柔軟な肉体(フレキシビリティ)」に反映させてみた。だが、うんともすんとも言わず誇太郎はただその場で何も起きない状況のまま右手を前に掲げているだけだった。他にも足でも同様に試してみたが、結果としては変わらなかった。それを見て、誇太郎は一つの答えにたどり着く。


「なるほど……骨格そのものを変えるような動きはできない、という感じなのか」


 いくら体を鍛えても、いくら新たな戦いのイメージを付けようとも、筋肉の動きを除き四肢を伸ばしたりするような骨格にかかわる動きは変えることはできない。そういう事なのだろうと誇太郎は理解した。


 だが、その悩みはすぐさま払拭することとなった。その翌日のこと、誇太郎は地下工房にいるバスコに呼び出された。誇太郎の姿が見えると、バスコは満足げな表情を浮かべながら歩み寄ってくる。


「待ってたぜ、コタロウちゃん! ついにできたぜ、お前さんの武器!」

「ありがとうございます、バスコ殿!」


 バスコの両手に抱えられた細い日本刀が、誇太郎の元へと手渡った。目を輝かせて受け取ったそれは、正に誇太郎がイメージした通りの日本刀として完璧に再現されていた。


「抜いてみてもいいですか?」

「もちろん、やってくれ!」


 高揚と共に、誇太郎は満を持して鞘をゆっくりと抜刀していく。むき出しになった漆黒の刀身は、僅かに入ってくる日光をまぶしく反射させるほどに美しく見せていた。


「素晴らしい……」

「だろ、コタロウちゃん。でも見てくれだけじゃねえ、ちゃーんとブレードマンティスの鎌を素材に使ったんだ。色んな特異性が盛りだくさんに詰め込まれてんだぜ」

「例えばどんな感じでしょう?」

「ブレードマンティスと戦った時、奴さんの鎌が伸びたりしなかったか?」


 バスコのその問いに、「そういえばあったな」と思い出した。そして、それがどういう意味かすぐに誇太郎は察した。


「まさか、刀身が伸びるんですか!?」

「おうともさ! それだけじゃねえぞ、この間シャロンに魔法術マジックスキルの講座受けたって聞いたんでな。もう一つ……いや、正確には三つか。おまけを付けさせてもらった」

「おまけ? それって一体どんなのですか!」


 鼻息を荒くして迫る誇太郎に、バスコはしてやったりといった具合の表情で答えを返す。


「この日本刀に、炎・氷・雷の三属性の属性攻撃型をシャロンに付与させてもらった!」

「三つも!? っていうか、武器に属性攻撃型の魔法術マジックスキルって付与できるんですね!」

「属性だけを付与するだけなら、魔力の高ェ奴ならできるみたいでな。それでだ、その攻撃の発動の仕方なんだが至ってシンプルだ。コタロウちゃんが身体術フィジカルスキルを使うように、使いたい属性の魔法術マジックスキルをイメージすればできる。ま、物は試しだ。やってみな?」


 イメージすればできるという説明を受け、誇太郎は先ずは刀身に炎を纏わせるイメージを思い浮かべる。すると日本刀の刀身が朱色に染まり、やがて真っ赤な炎が刀身を包み込んだ。


「本当に……できた……! ありがとうございます、バスコど……」

「コタロウちゃん! 喜ぶのはいいが、すぐに消してくれ! あぶねえ!」

「えっ、あっ! ごめんなさい!!」


 室内で発動してしまったことにより、城全体が火事になりかねないということに誇太郎は慌てて気付いて消化するイメージを脳内にイメージさせた。それにより、深紅の炎を纏っていた炎はフッと一瞬のうちに消火されたのだった。


 それから、今度は場所を変えて氷・雷の属性のイメージを浮かべてみるとそれぞれ特色のある状態となって刀身に属性が付与された。鬼に金棒という言葉が似あう武器を前に、誇太郎は激しく喜ばずにはいられなかった。


 それから更に数日、誇太郎は「練磨レンマ」と名付けた日本刀と「山椒サンショウ」と名付けた愛用の小太刀を用いて、「二大剣豪列伝」の登場人物の登場人物の戦い方をひたすらイメージに反映させながら自己研鑽に臨んだ。時折イメージと現実のギャップに苦しみながらも、ただひたすら「どうすればできるのか」というイメージを、数多のトライアンドエラーを経て少しずつ物にしていった。


 その一方で、心力型の魔法術マジックスキルの全容については未だに不明のまま時は過ぎていくのだった。



 そうして迎えた、最終課題前日。


 この日、フェリシアは誇太郎を呼び出して一言こう告げた。


「よく頑張ってるな、コタロウ! でも頑張りすぎだ、一日ぐらいゆーっくり休め!」


 一瞬、思考が停止する。


 最終課題前日なのに、休んで大丈夫なのだろうか?誇太郎は、今までの通り素直にフェリシアに言及する。


「あの……フェリシア様、明日最終課題当日なんですが……よろしいのですか?」

「むしろ、だからこそだよ。頑張るのは結構だけどな、今日も頑張りすぎていざ当日動けない……ってのは本末転倒だろ?」

「いや、それはそうですが……あっ」


 ここに来て、誇太郎は初めて気づいた。フェリシアに止められるまで、ずっと自身の身体術フィジカルスキルの研鑽に励んできた。ただひたすらに研鑽を励んではいたが、その一方で一般的な睡眠以外の休養は取らずに励み続けていたのだ。だが、それは同時に仲間たちに心配をかけていたのも事実であった。


 当日に身体を壊しては元も子もないと判断したライムンド達の意見具申により、フェリシアは前日くらいはゆっくり休めと誇太郎に進言することとなった。流石に魔王様直々の進言とあらば、侍としても断るわけにはいかない。加えて確かに最終課題前日まで、自分は休むことなく頑張りすぎていた。その結果がどうなるか、誇太郎自身も想像に難くはなかった。諸々を踏まえ、誇太郎はフェリシアに自身の考えを示す。


「承知いたしました、ゆっくり休養を取って英気を養わせていただきます」


 膝をつき、丁寧に誇太郎は告げてフェリシアの部屋から去っていった。


 しかし、それからというものの誇太郎は落ち着くことができずにいた。今までずっと自身の能力の研鑽に没頭しすぎた故か、休めば落ち着くはずの気持ちが逆に落ち着かない。


 何せ、翌日に対峙する相手はかつて自分を返り討ちにした上位アークスライム。あの時よりは力がついたとはいえ、再び返り討ちに遭うのではないか。また、シャロンから言われた上位アークスライムの髪色から感じられた本当の能力について聞かされたことについても、誇太郎の不安に拍車をかけていた。


 だが、それ以上にもう一つ別の感情が誇太郎の心の中に根付いていた。


「……どうやって攻略してやろうか」


 「武者震い」である。一度自分を倒した相手に対し、自分はどれだけ強くなれているか。あの時は相手をよく知らずに挑んだ自分だったが、数多のモンスターたちを撃破し多くの仲間の助力を得た今、上位アークスライムにどれだけの力が示せるか。そう思うと、誇太郎は楽しみで心が震えていた。不安の気持ちもそれなりにあったが、今やこの「武者震い」の気持ちが遥かに上回っていた。


 そんな気持ちを抑えられぬまま、時刻は夜十時に差し掛かる。眠れぬ気持ちを抑えられぬまま、誇太郎は少しでも気持ちを落ち着かせようと城の屋上にいた。夏も徐々に終わりに近づいていく影響か、夜風が少し涼しく感じる。独特の心地よさに想いを馳せようとしたその時――。


「……ここで何をしている」


 聞き覚えのある整った声色を背後から受け、誇太郎は振り返った。そこには一張羅である黒ローブを纏ったライムンドの姿があった。


「ライムンド殿」

「夜もかなり更けている、さっさと休まんか。それとも眠れないのか?」

「……はい」


 短く、誇太郎は返事を返した。ただ、その返事は不安によるものではない。早く明日にならないかと高まる武者震いによるものだった。そんな彼の気持ちを察してか、ライムンドはため息を一息ついて言った。


「……初めて会った時と比べて、自信がついた顔つきになったな」

「え……? そ、そうですか?」

「この俺が言うのだぞ? 素直に受け止めてもらわねば困るな」

「ありがとうございます……」


 控えめな態度の誇太郎に対し、ライムンドははっきり告げた。


「……俺から言えることは一つだ。『これまで通り等しく乗り越えろ』、今日こんにちまで課題を乗り越えてきた貴様にとっては造作もあるまい」

「等しく、ですか?」

「そうだ。シンプルに考えろ、コタロウ。お前はこれまでただ直向きに努力を重ねてきた。その気持ちをキープしたまま、これまで通りに等しく乗り越えてしまえ」

「……分かりました」

「なら、後はもう休め。この俺の期待を裏切ってはくれるなよ」


 最後にそう告げると、ライムンドは自身の幽体を活かしてふわふわと浮きながら屋上を降りていった。彼の姿が闇夜に溶け込んでいったのを見送り、誇太郎もまた最後の英気を養うべく屋上を後にするのだった。



 そして……その日はやってきた。



 フェリシアが住まう城の大広間。そこには戦闘部隊のライガやスミレ、軍師のライムンド。その他大勢の幹部やモンスター達が、正面に置かれた滝のような噴水を前に集っていた。噴水はさながら映画のスクリーンのように、スライムの泉とそこにいる誇太郎を映し出していた。全員がその映像に釘付けになっているのを確認し、スクリーンの前に立ったフェリシアが高らかに告げた。


「よくぞ集まってくれた! これより、樋口誇太郎ヒグチコタロウの最終課題を開始する! よーく見届けてくれよ!!」


 かくして、誇太郎の最終課題が幕を開けるのだった。

いかがでしたでしょうか?


次回からはいよいよ最終課題編に突入いたします。

何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 途中までとなりますが読ませて頂きました。 内容の作り込みが細かく◎ですね、そしてフェリシアの放屁を見た時『これはもしかすると安直なエ○シーンばっかり入るのかな?』と不安になりましたがそれも…
[気になる点] 1話のセリフ「大学まで出て?何を学んできたのさ?」含め、改稿中とは思いますが、!や?の後の全角での1マス開け、そこを徹底すればいいだけです。 また、とにかく1話1話が長く感じました。少…
[一言] 最近は読者に成り下がって数々の作品を読むだけになってしまったPV0の底辺作家の私が偉そうに言わせて頂きます。気に入らなければ感想を削除して頂いて構いません!正直な所、文体も構成もしっかりされ…
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