前世妹との日常
新作です。人気があったら今書いてるやつが区切りのいいところまでいったらやろうと思います。
「ねえ、お兄ちゃん何読んでるの?」
銀髪の髪を綺麗に紐で結び、それをゆらゆらと揺らしながら一人の美少女は俺に尋ねる。
「ん?ああ、これかこれは最近巷で噂になっている恋愛小説だ。アイリスもこれに興味あるのか?」
「ううん、別にそれ私内容知ってるからいいや。それより兄さんこんな可愛い妹が構ってオーラを出しているのに何で何もしてくれないのかな?」
はぁ、と俺は溜息を吐き本を閉じる。こうなったこいつは構ってやらないと駄々をこねて面倒なことになるのは長い付き合いで分かっているため、アイリスの綺麗な碧眼を真っ直ぐに見つめて俺は何をして欲しいのか訊ねる。
「で、何をして欲しいんだ?今日は寮に用事があるからそんなに時間のかかることはできないぞ」
「う〜ん、そう言われると悩んじゃうなぁ。じゃあお兄ちゃんが私のして欲しいことを考えてやって欲しいな!」
ニコニコと顔を緩ませながら、彼女はテーブルに肘をつけ頬杖をする。これまた、面倒なことを吹っかけてきたものだ。正直長い付き合いの俺でもこいつのして欲しいことは、未だに分からない。まぁ、何故かと言うと何をしても嬉しそうにするので逆に何をしたら良いのか分からないのだ。俺は顎に手を添え考える。
(この間は、街に二人で一緒に散策したしその時に甘い食べ物も食べた。その前の日はこいつに勉強を教えてやったり、手料理を振る舞ったりした。その前の日はこいつに髪留めをプレゼントしたし、俺の思いつきそうなことは大抵しているな、さーて何をしようか?)
「ふぇ!?」
特に考えても何も思いつく訳ではないので昔良くしていたみたいに俺はアイリスの頭を撫でてやる。こっちに来てからは今まですることはなかったがやはり落ち着く。昔はこうやってよく頭を撫でてやると猫のように頬を胸に擦りつけて甘えてきたのを思い出す。アイリスは突然の出来事に何をされているのか頭の処理が追いついていないが大好きな兄の体温を感じゆっくりと身体中に入っていた力を抜き、大人しく撫で続けられる。
「どうだ、俺たちの関係は変わったけどこっちの方は変わってないだろ?」
「そうだね、いや前よりも気持ちよくなってるよ。だって…」
そう言ったアイリスは俺の手を取り、自分の手と見比べる。
「だって、私達兄妹じゃなくなったから感じかたが違うよ、なんて言うか恋人にやってもらってる気持ちよさな気がする」
「お前恋人一度もいたことないのにそんなこと分かるのか?」
俺の記憶が正しければこいつに彼氏がいた記憶はない。幾つになっても俺に引っ付いていたからだ。
「もう!どうしてここまで分かりやすくしているのに気づかないのかな〜」
アイリスは何故か急に機嫌を悪くしプイっとそっぽを向く。
こう言うところも変わらないなと思いながら俺は美少女になってしまった妹の髪を優しく撫でてやる。アイリスは恥ずかしいのか黙って俺に撫でられる続けられ、しばらくすると俺たち二人の時間は終わりを迎える。
「アイリス様〜、そろそろご帰宅の時間になりますから本を返しに行きますよ」
一人の少女が図書室であるにも関わらず大きな声で、アイリスを呼ぶ。
「もう、カレンったらここが何処か分かってるのかしら恥ずかしい。では、兄さんまた明日会いましょう」
「おう、じゃあまたな。気いつけて帰れよアイリス様」
「ふふっ、じゃあねアレス君」
そう言ってアリスは俺の書斎から出て行く。俺はドアが閉まるまで手を振りカチンと閉まったのを見届けると深く椅子に腰掛ける。
「前世の妹がまさか『私に構わないで!』の主人公なんて信じられないよな。しかも、あいつ何故かこっちに来てからも俺の周りに付き纏うからヒロイン共に何故か目の敵にされるし、あーもう!何でよりもやってこの世界なんだよ」
俺はそう言って頭をガシガシと毟りながら、呟く。そう、先程まで俺のことお兄ちゃんと呼んでいた彼女、アイリス・フローラは西洋風の魔法がある乙女ゲームの主人公なのであり前世の俺の妹だ。普通乙女ゲームというと自分から動いてヒロインの野郎共を攻略するのだが、このゲームは違う。最初からヒロイン共のアイリスへの好感度はめちゃくちゃ高い。どれくらい高いかと言うと入学初日に全校生徒の前で一目惚れしたと宣言し告白するくらい高い。そのため主人公側が何もしなくても勝手にイベントが発生し気がつけばヒロインの誰かと付き合いエンディングを迎えるという完全受け身形乙女ゲームなのだ。そんなゲームに転生した俺は物語に一切関わることのないモブ、スタッフロールにちゃっかり名前だけ載っているタイプの奴だ。そんなわけで顔は普通(と言っても前世に比べたらめっちゃイケメン)な俺にアイリスが懐いているのを見てヒロイン共に俺を目の敵されている。
「はぁ、でも俺が辛いからってアイリスがヒロインの誰かと付き合うのは嫌だな。ここのヒロインって全員頭おかしいからあいつらに前世血の繋がりがあったアイリスを付き合わせたくない。ああ誰かアイリスの彼氏に名乗り出るような猛者はいないだろうか」
と起こるはずのないことを願いながら、俺は現実逃避のため恋愛小説の続きを読むのだった。
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