The first day3
目的の場所に到達し、何度かドアをノックする。しかし反応がないため軽く声をかけ中に入る。
初めて入るその部屋には長テーブルが一つに椅子が四脚とひどく殺風景だった。
そんな中で一際輝くオーラを放つ存在がその場にはあった。そう、俺を呼び出した張本人でもある。
しかし彼女は疲れからか眠っていて、当分起きそうにない。
呼び出しといて寝てるのかよ、そう独り言ちるが今日初めて会った人にそんなことを言うのは少し忍びないのでまあ我慢しよう。
空いている席に腰かけ一度思考をリセットする。ふと向かいの彼女に目が釘付けになってしまう。
それこそ先ほどまでの高圧的な言葉や態度、鋭い視線がなければとても綺麗で素敵な女性だと思ってしまうほどだった。
気をそらすためこんな状況になった運びを思い出し揺れる心を落ち着かせようとした。
自己いやもはや事故紹介を終えた俺たちは、先生からのありがたいお言葉を受け取り帰路に就こうとしていた。
親友とともに教室のドアから出ようとする。すると目の前に冷凍庫が現れた。しかしこの言い方だと〇されるのでおとなしく言い直そう。先程まで話していた冷酷非道の担任、伽藍先生である。まだ何か用でもあるのだろうか。そう思い話しかけようとする。
が先手を取られてしまった。
「衿香君、ちょっと生徒指導室まで来てもらっていいかしら。難波君は帰って大丈夫よ。」
そう言って彼女は歩き出した。
「悪いな樹。なんか呼び出されちゃったから行ってくるな。先帰っててくれ。」
「りょうかいりょうかーい。なんか面倒事じゃないといいね笑」
そんな不安を胸に抱き向かった結果がこれか。げんなりしながらも待つこと十分、ようやくお目覚めのようだった。
「っくちゅん…」
予想外にかわいらしいくしゃみに思わず振り向くが、もちろんそこには誰もいない。この部屋にいるのは俺と先生だけだ。
となると消去法で今のくしゃみは…
視線を前に向けると、赤面し、上着で顔を隠そうとする彼女がそこにいた。
怒られることを覚悟し、謝ろうとするもまたも遮られてしまった。
「あはは、恥ずかしいとこ見せちゃったなあ///このことはみんなには内緒だからね…」
「は!?!?だ、だだ、誰ですか?さっきまでのスーパー激怖クールビューティーな先生はどこ行っちゃったんですか!?」
「まあそうなるよねえ、実は私、アルコール摂取すると、性格変わっちゃうんだよね。」
(いや、変わりすぎだろお。てゆーか校内でそういうの摂るのってどうなんだよ…)
今にも叫びだしたい気持ちがあふれ、あまりにも現実離れした情報に頭が混乱してくる。
「私の家系はね、昔からアルコールにめちゃくちゃ強くてね。分解速度が常人の十倍なんだってー。まあ未成年の君に言ってもあまりぱっとしないと思うけど。だから今日も緊張ほぐすためにちょっと呑んでたんだけどね。」
そもそも校内で呑むことがおかしいとは思わないのだろうか…
「実は私ってすっごくお酒弱いんだよね…テンパりすぎて忘れちゃった。」
ベロを出し頭をコッツンコ☆ じゃねーよ
こうして俺は一つの事実に気づいてしまった。
〈担任の先生である 伽藍 楓先生は天然であり、ポンコツである〉
こうして俺の生活を大きく変える初日が終わ………らなかった。
「流石に今日結構やらかしちゃったしね?実は君に私のサポートしてもらいたいんだけど…ダメ…かな…?」
寝起きで色っぽい声色に加え、上目遣いでこちらを見てくるのは本当にずるい。女子に慣れてない俺じゃなく、たらしの樹であっても答えは同じだったであろう。
「精一杯、務めさせていただきます。」
理性は一瞬ではじけ飛び、否定の二文字は虚空へ消え去った。
「ありがとう!!じゃあよろしくね。一応便宜上学級委員という形にしとくけど、大体の決め事は君中心で決めちゃって貰ってかまわないから。」
「畏まりました。お任せください。」
偉い人を崇拝し、付き従う従者の気持ちがとてもよく分かった。今のこの気持ちは
彼らの物と酷似しているだろう。
「では先生。また明日。」
「はい。じゃあ明日からよろしくね。」
颯爽と部屋を出たが、ふと思う。
大人の色香に惑わされ、面倒なことを押し付けられてしまっただけだ、と。
しかし一度了承してしまった手前断ることはできなそうだ。
この学校に入学した意味を二度と間違えぬように、今回の失敗を噛みしめて下校したのだった。