The first day2
期待と不安を抱きながら開けた扉の先は、早くも混沌と化していた。
姦しい騒ぎ声に加えそこら中に散らばっているごみや紙。他のクラスではきれいに並んでいた机もすでにぐちゃぐちゃだった。
「おい、お前たちが一番最後だぞ。もっと高校生としての自覚を持てんのか。」
酷く冷酷な声に背筋が凍り冷や汗が滴る。
「わかったらとっとと席に就け。お前たちの席は窓側の空いたところだ。」
指を指したその先では数少ない男子生徒がこちらを見ていた。
問題はその見た目である。
刈り込みの入った長めの金髪、そこから顔を覗かせる豪快なピアス。極めつけにその鋭い目つきでこちらをじっと見つめていた。
直後俺と樹はアイコンタクトを交わす。
(おいおいなんだよあいつ、絶対怖いだろ。)
(ハハハ、あれはちょっと予想外だよねー。)
(先生にもにらまれてるしさっさと行かないとな。覚悟決めるか。)
そう言って向かうと左方から聞いたことのない声がかけられた。
「おい」
「!!ハ、ハイ、ナンデショウカ。」
恐怖のあまり片言になってしまう。
「なんで……なんだよ。」
「!?」
よく聞こえなかったが怒っているようだった。戸惑っていると再び声がした。
「だから、なんでもっと早く戻ってきてくれなかったんだよう。こんな女子ばっかのところに一人で待機はしんどすぎだろ…」
「…」「…」「っぷっ。ふふっ」
見た目とのギャップに驚き、思わず笑ってしまった。
「なんだよ、こっちはまじめに困ってたんだぞ。名前も知らんのに笑いやがって。」
「悪かったな。まあなんだ、これからその…よろしくな。俺は入学式でも挨拶した通り衿香 薊だ。こいつは難波 樹だ。」
「そうか、薊に樹か。よろしく。俺の名前ははじめだ。」
初見だとビビってしまうが結構いいやつかもしれない。こいつとなら仲良くなれそうだ。
はじめねえ、ふーん。いや待てよ、なんでこいつは名前しか言わないんだ?まあなんかしら知られたくない理由があるのかもしれないがクラスメイトなのだからすぐに知られるだろう。
そんなこんなでさっきの激怖な担任が話し始めた。
「私がこのクラスの担任を務める伽藍 楓だ。君たちがより良い学校生活を送れるようにサポートしていきたいと思う。これからよろしくな。」
サポートの前にこの教室の悲劇をどうにかしたほうがいいと思うけどな。そんなことを考えながら視線を彷徨わせていると、衝撃的なものが目に入った。
教卓にかかったカバンから少し見えている数本の空き缶。
それはお酒であった。
「んなっ」
あまりの衝撃に椅子ごと後ろにひっくり返ってしまった。
皆に見られ少し恥ずかしいがそれどころではない。
「どうかしました?」「いえ、何でもないです。」
後で追及することを心に決め、この場を終わらせることに専念しようと気持ちを切り替える。
担任の話はつつがなく終わり、自分たちの自己紹介が始まった。
この学校は少し特殊で入試や学年末テストの順位で出席番号やクラスが決まるらしい。 詰まるところ俺はトップバッターだ。
入学式であんなことをしてしまったせいかかなり注目されはしたが、特に問題はなく終わった。
二番は樹でぶっちぎりで顔がよいため、彼もまた注目を集めた。
その後数人が終わり、次の名前が呼ばれた。
「ええと次は、乙姫君ね。どうぞ。」
君? 確かはじめのやつ男は俺たち三人しかいないって言ってたからな。乙姫ってはじめのことなのか。
そう思い彼の方を見やると耳が熟した林檎の如く赤くなっていた。
はて?と思いそうなる理由を考えてみる。
苗字と名前をセットで知られたくない。また知られると恥ずかしい。
脳内でピースが一つ、また一つと埋まっていく。
おとひめ はじめか。
………
「「ぷっ。」」
答えにたどり着き思わず笑ってしまった。右でも噴出したやつがいるので同じ考えに至ったのだろう。
「なあ、はじめ。お前の名前ってさ…」
「おい、それだけは言わないでくれよ。なあってば。」
(しょうがねえな、まあ流石にかわいそうだしな。)
「くっそ、下ネタじゃんwwww」
自称空気を読むことのスペシャリストである樹は特大の爆弾を投下した。
きっとこのくらいの年齢ならわかる人も少なくないだろう。理解した人が少しづつ増え、教室は笑い声に包まれていった。
「「あっ…」」
もはや俺から言える言葉はなかった。
不憫な彼の肩をそっと叩き、せめて俺だけは彼に優しくしようと思うとともに決して彼の前では姫は〇めなんて言わないようにしようと固く誓ったのであった。
更新遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。
これからもまた、読んでいただけると幸いです。