とある少女の独白1
目を覚ますとそこは見慣れた部屋のベッドの上だった。この部屋の主である養護教諭は誰かと談話中のようで、こちら目覚めに気付く様子はなかった。
状況を整理するため、少し起き上がり、軽く伸びをする。
事が起こったのは先の入学式だ。新入生代表の彼の突然の発言により、失神してしまった事を思い出す。
彼は一体なんと言っていただろうか…
思い出そうとすると頭に靄がかかったような、不思議な感じで上手く出来ない。
「ーーーー 下さいっ!!」
何を頼まれたのだろうか…彼は初対面のはずだ…確か彼もそう言っていただろうに。
しかし何故か懐かしい話し方に胸がちくりと傷んだ。
「良かったら俺と………付き合って下さぁぁぁい!!」
「あっっ!!」
鮮明に思い出し、思わず声を上げてしまう。
ここまで大袈裟にしておいて、彼女らが気付かぬ訳がなかった。
「大丈夫だった!?急に倒れたから超心配したんだからね?」
こういって心配してくれた心優しい子は私の親友である衿香 莉音だった。
「うん。ありがとうね、りぃ。急すぎてびっくりしただけだよ。」
「やっぱりまだ完全に大丈夫な訳じゃなかったんだね。」
「時間が経てば解決するかと思ってたけど…
やっぱり逃げてただけだったから変わってないみたい。」
そう。私、七郷 棗には秘密がある。
それは……
『男性が苦手だということだ』
女子校にわざわざ転校したのに共学に変わるとは驚愕とかくだらないことは考えられたが、あまりに急で心の準備をする余裕もなかった。
そして彼女とのやり取りの間にもう1つ大切な事を思い出した。
「ちょ、ちょっと待って!りぃとさっきの新入生の子の苗字って同じ衿香だったよね?
もしかして何か関係あるの??」
「あれ?言ってなかったっけ?あたしとあーちゃんは姉弟だよ?
けどまさかあんなことするとは思わなかったよ。
それにさー、なつ?あんた昔あーちゃんとよく遊んでたこと覚えてないの?」
「!!」
彼女の言葉がトリガーとなり過去の記憶か蘇る。
あーちゃん?もしかして…あっくん?彼はあっくんなんだ。昔良く一緒に遊んでいた男の子だ。彼とはどうして遊ばなくなったんだっけ?
……………そうだ。
私が拒絶し、傷ついた…
そのせいで彼は変わってしまっ た 否、私が変えてしまったのだ
だから私は彼と関わってはいけない
また私は彼の人生を狂わせてしまうかもしれない
そう思うと一層彼と会うことすら出来ないと思ってしまい恐怖で震える。
正直、突然でなければ告白は嬉しい。緊張で上手く話せないかもしれないが、それでも真摯に答えてあげたいと思う。それがやっぱり礼儀だと思うから。
助けてくれた教諭に礼を言い、親友と二人立ち上がる。
とっくに過ぎた下校時刻を追うように、私たちは学校を出た。
彼女と別れ、一人になるとこっそり、こう呟いた。
「やっぱり私は……
彼には、彼だけには答えてあげられない………」
そして後に残ったのは、罪悪感とこれからの学校生活への不安だけだった。