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Fry Meet The Good

「さぁ。生もの消費フライ、熱いうちにどうぞ!!」



 いうが早いが、わっとカトラリーが伸びてきた。何しろ中身は肉か魚かのどちら……ということが確定している状況で、タンパク質大好きなうちのメンバーが食べるのを躊躇する理由なんてないもんね。

 もちろん、私も膝に乗ってきたごまみそを落とさないよう気を付けながら、負けじと箸を伸ばす。最近はようやくこの争奪戦に負けじと加わることができるようになったのだ!!

 衣が付いているせいで中身はわからないけど、カラッとキツネ色に揚がったフライは中身が何であれ美味しそうだ!

 アリアさんが切ってくれたレモ……ン……えらくちっちゃくね???

 ずいぶんとスパスパ切られてしまったみたいだなぁ……まぁ、使えないこともないから、そこは良いか、うん!

 そんなレモンをギュッと搾って、とっておきのちょっと良いお塩をパラリと振って食べるわけだよ!



「はふっ!! 熱っっ!!!」



 中身は、オークのロース肉だった。しかも、ちょうど真ん中あたりの、お肉も脂身も楽しめるところ!

 歯を立てればカリカリと小気味よく上がった衣の感触と、ギュギュッと歯に食い込んでくる筋肉質なお肉の感触とが襲ってくる。

 そのままグッと顎に力を入れると、むっちりした感触と共に簡単に噛み千切れてしまった。

 中心部にほんのりとピンクを残した色味は、予熱で芯まで火を通せたからだろう。じゅわりと滲む肉汁が、断面から皿の上に滴っていく。

 よーく見ると、お肉の中にもサシ状態で脂が入り込んでいるらしく、それがこの豊富な肉汁を生み出しているようだ。



「リン! 美味しい!! 何を、食べても……何をかけても、美味しい!!!!」


「もーこれ最高じゃない!? 何コレ! エールが進みすぎるよー!!」


「それは良かったです! 足りなければ……まぁ、揚げ野菜も作れるので言ってくださいね」


「えー……おやさい……? ……でも、揚げてる、おやさい………………うーん……」



 レモンにお塩にお醤油にソースに……周囲を調味料で囲った席の中心で、アリアさんが叫ぶ快哉に意識が現実に戻ってきた。

 気が付けば、周囲からは呻きのようなため息のような謎の音声が上がっていた。セノンさんとヴィルさんに至っては、ただただ無言で顎とフォークを動かす作業に没頭しているようだ。

 私の方も、これ以上美味しい肉汁を皿に食わせるわけにはいかないので、精進揚げを提唱しつつ残った分のフライをそのまま口に放り込む。

 ぎゅむぎゅむとお肉を噛みしめる。衣の中で蒸されつつ熱が通った脂身が、トロリと蕩けて甘みと旨味を口の中にぶちまけていく。

 お肉の味が、濃い。

 豚肉の旨味をもっと強くしたような……でも、獣臭さも脂臭さも微塵もないお肉……レモンの酸味のお陰か、ちっともくどく感じないのがまた怖い……。いくらでも食べられちゃいそうじゃん!!!

 飲み込んでからも、しばらく口の中に肉の余韻が旨味として残っている。

 口を開くとそれが逃げてしまいそうな気がして、しばらく口を閉じていたんだけど……。



「……美味しいなぁ……オーク肉、めっちゃ美味しい……! みなさんがキング肉食べたくなる気持ちもわかります!」


「そうだろう!? やはり、ここはキング狩りに……」


「…………あー……気持ちはわかりますが、王都で報連相してからにしましょう……? その方が、心置きなく食べられるから美味しさ倍増だと思いますよ?」



 やっぱり、興奮を抑えることはできなかった。

 ため息と共に零れ落ちた感想に、フォークを動かしていたヴィルさんがすかさず反応してくる。

 ……あのお家騒動の話を聞いてしまったが故に、ヴィルさんの足が遠のく気持ちもわかるけど、そこはほら……やることやってからにしましょうよ。

 「ヤだなー、行きたくないなー、でも行かなくちゃなー」って思いながら食べるより、バシッと報告を終えて一仕事終えた解放感と達成感を感じながら食べるのとでは、後者の方が美味しそうじゃない?

 まぁ、引き延ばしている自覚はあるんだろう。視界の向こうでヴィルさんがガクンと肩を落とした。



「リンの言う通りですよ。まずは義務を果たすべきでしょう?」


「そうそう。どのみち行かなきゃいけないことには変わりないんだしさー。いい加減肚決めろよなー」


「………………………………………………わかっては、いる……!」



 フライの山から自分の小皿にいくつもフライを取り分けながら、セノンさんとエドさんも異口同音の意見を具申している。

 不貞腐れたような顔でもそもそとフライを咀嚼するヴィルさんの背中から、悲哀というか悲壮というか……そんな感じのオーラが漂っているのが目に見えそうだ。

 ……えーと……この状況で何かやる気が出そうなこと……やる気スイッチを入れる方法、何かないかな…………??

 うーん…………。



「……あー……王都での報告が終わって、キング狩りして、いいお肉が手に入ったら、トンカツ……このフライのもっと大きいバージョン作るんで、それを目標にして行きませんか?」


「…………コイツの、デカいの……だと……!? このサイズですら凶器だっていうのに、コレの、大きい版……!?」


「ああ、はい、そうです。ドロップするお肉の形状にもよりますけど、少し厚めのカツにしますから……とりあえず今は、やることを終わらせましょう?」



 食いしん坊殿堂入りのご飯番としては、「ご飯で釣る」方法しか思い浮かばなかったよね。

 「ちょっと大変な仕事を終わらせた、自分へのご褒美♪ ぶ厚い揚げたてのトンカツを食べるの☆彡」ってヤツよ!

 そして、「大きなフライ」という言葉が出た瞬間、ヴィルさんのイチゴ色の瞳がギラリと輝いた。

 うん。やっぱり食いしん坊筆頭にして私の魂の兄弟(どうるい)

 コレで食いついてきてくれると思ったよ!

 やっぱり、やる気を出そうと思ったら美味しいご褒美ご飯、ですよねー! 



「……その言葉に、嘘偽りはないだろうな、リン?」


「もちろんです! 全力で美味しいカツ揚げますよ!!」


「……信じよう……! リンの飯がマズかったことはないからな!」



 剣呑な光を帯びてすらいる血色の瞳をじっと見返せば、ふとその色が和らいだ。



「……よし。明日の朝、ギルドで天気や街道の情報を仕入れるか。その後に支度を整えて、明後日の早朝に出発しよう」



 迷いを吹っ切ったパーティリーダーの言葉に、メンバーみんなが深く頷いた。

 何だかんだで、みんなもヴィルさんが迷っているのに気が付いて、気が済むまで迷わせてあげてたんだろうなぁ。みんな人間ができてるよね、うん。


 明日は、設定ルートに関する情報収集と、旅の支度……か。買うものと、欲しいもの、リストアップしておこう……!


 あ。今までの話とはまったく関係ないんだけど、コカ肉フライもガンセキダイのフライも、非常に美味しかったことをここに記しておく。

 コカ肉フライは、肉厚でジューシーなチキンカツ!

 「体重を支えて走り回る」という役目を持った筋肉だから、筋張っていて筋肉も固いかと思ったら、分厚いのに難なく噛み切れて、肉汁で口の中がいっぱいになるくらいにはジューシーだった。

 それじゃあ柔らかいのか……といわれれば、お肉の半ばくらいまで噛みしめると中から歯を押し返すくらいの弾力があって、歯と顎が「今日もいい仕事しますぜ!」と喜んで働いてくれる。

 むしろ、柔らかいのはガンセキダイの方だ。

 一口齧るとポッコリと大きな断片が口の中に入ってくるくらい繊維が大きいのに、その口当たりはあくまでもふわふわほろほろと柔らかく、舌の上で崩れてほぐれていく。

 皮付きのまま揚げたおかげか、皮と身の境目の部分の油が滑らかに蕩けて柔らかな身と混じり、カリカリした衣としっとりとしてくる身肉との対比が絶妙に心地いい。

 多少あった磯の香りも、油で揚げたことでマイルドになっており、これなら磯の匂いが苦手な人でも食べられるんじゃないだろうか??


 いずれにせよ、惜しむらくはタルタルソースがなかったこと!!!

 コカ肉フライにも、ガンセキダイフライにも、絶対ベストマッチだったのに……!!!!


 明日の買い物では、卵を絶対に買い込もう……余裕があれば、ピクルスとかも買おう……。

 再びフライ争奪戦に身を投じつつ、心のメモ帳にその二点を深く深く刻み込んだ。

閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。


近所のお肉屋さんの揚げたてトンカツとコロッケとレバーフライ、どうしてあんなに美味しいのか……冷めても美味しいもんな、あそこの肉屋……。

いつか、東京Xとか薩摩黒豚とか平牧三元豚とか……ブランド豚の厚切りロースで作るトンカツ……食べてみたいものです。

もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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