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第1回 チキチキ爆弾発言耐久レース、はーじまーるよー

 ごくりと唾を飲み込んだ喉の動きで、混乱する思考の渦に飲まれていた意識が浮上した。乾いた唇を、舌が無意識に舐める。

 こんな話をしてくれる、ってことは、多少なりとも私に気を許してくれてるんだろうなぁ、とは思うんだけど、いったいどう返せばいいのか……。



「………………えーと……部外者が口を挟んでいいのかどうかわかんないんですけど……お、お兄さんと仲がお悪い、とかですか?」


「兄弟仲は悪くなかったように思う。そもそも、兄貴は人間が良くできててな……悪ガキだった俺にも優しくしてくれていたしな」


「良いお兄さんだったんですねぇ……私なんか弟たちとは喧嘩ばっかりしてましたよ」



 ようやく口から出た声は、若干震えが残っていた。それに応えるヴィルさんの声も、いつもの快活なものではなく、若干の陰りと……懐かしさのようなものが混じっている。

 ……お兄さん、いい人だな。弟に優しい、という時点で良い兄貴だ。

 歳が近いせいもあるだろうけど、私なんか弟たちと毎日のように大乱闘オヤツ争奪姉弟(ブラザーズ)を開催してたよ、うん……。

 ……でも、そうなると、兄弟仲が悪くて顔を合わせたくない……っていうわけじゃなさそうだなぁ。

 それにしても、跡取りって言う単語がサラっと出てくるって……ご商売でもしているのか、一子相伝的な職人さんなのか……はたまた結構なお偉いさん、とか……??



「人格者な上に人となりも実に跡取向きだった兄貴が、ウチの跡取りと決まっていたんだが、俺を担ぎ上げたい連中も多くてな……」


「え? 話を聞く限り、『ヴィルさんのお兄さんが跡取りでよいのでは?』って感じじゃないですか? え?」


「……兄貴が妾腹、俺が正妻腹のせいだろうな。結局そのイザコザが煩わしくて、勝手に家を出たからな……今更どんな顔をして帰ればいいのか、と……」


「ふぁー!!」



 お兄さん優しそうだし、兄弟仲も悪くないし……っていう状態で、どうして行き渋るような事態に?? ……と、首を捻る私の前で、しょぼんと肩を落とすヴィルさんが語る経緯に、もう草を生やすことしかできない(生えるとは言っていない)。

 何なんですか、このぼこぼこ投下される爆弾発言!?

 さっきから弾着してばっかりですよ!!! 私のメンタル大破ですよ、大破!!!


 ……ってか、そのストーリー、時代劇とかでよく見るお家騒動そのものじゃないですか、ヤダー!!!

 そして、そんなお家騒動が持ち上がるなんて、ヴィルさんってかなり良いとこの坊ちゃんだったのでは……!?

 …………え? もしかしてこの世界って、西洋風時代劇の世界ってこと!? 欧風ファンタジーの世界じゃなくて、欧風時代劇の世界に召喚されたってこと!?

 それなら私、うっかり八兵衛ポジションが良いんですけど!!!


 …………………………でも、ちょっと待って? それなら……異世界から召喚された聖女って、どんな役柄……?

 か、唐とか南蛮あたりから、ご禁制の積み荷と共に密かに渡ってきた奇跡を起こせる美女……とか……?

 ……。

 ………………。

 …………………………………………うん。どう考えても上様とかご老公とか桃太郎なお侍さんとか愉快な三匹トリオに成敗される側です本当にありがとうございました。



「…………………」


「……どうした、リン? 何かあったか?」


「あ、いえ……その…………ナンデモナイデス……」



とは思うんだけど、それにどう返すのが正解なのかな?

 色々と言いたいことも聞きたいこともあるのに、それを言葉にできず……。

 ただただ無言で視線を彷徨わせる私に気付いたのか、ヴィルさんの方から尋ねてくれたけど、結局何も聞けなかったよ、ママン……。


 気まずい沈黙が、野営車両(モーターハウス)の車内に満ちる。

 とにかく、一番気になることだけでも聞いてしまおうか、と……口を開きかけた時……。



「ただいまー! すっごく楽しかったよー! コレ、お土産ね!」 


「ただいま……楽し、かった……!」



 キャビンのドアを勢い良く開け、エドさんとアリアさんがひょっこりと顔を覗かせた。

 二人とも、瞳がキラキラ輝いているし、頬っぺたは薔薇色になっているし……相当楽しかったんだろうな。

 「満足です!」って、顔に描いてあるもんねぇ。

 エドさんとアリアさんの手には、お土産……お酒の瓶やら焼き菓子のような物が携えられていた。

 


「晩御飯はリンちゃんが作ってくれる、って言うからさ!」


「飲み物と……デザート、買ってきた!」


「わー! ありがとうございます!! あとはセノンさんが戻ってきたら、ご飯にしますね」


「呼びましたか?」


「うわぁっっっ!!!!」



 ワインがメインの酒瓶と素朴な焼き菓子を受け取って、まだ帰ってきていない人の名前を上げれば、エドさんの後ろからセノンさんがその端正な顔をひょいと出してきた。

 予想外の出来事に、思わず妙な悲鳴を上げて一歩後ずさってしまった。視界の端で、私の悲鳴に驚いたのであろうごまみそが背中の毛を逆立てるのが見える。

 目の前のセノンさんも、私の反応に「予想外……」とでも言いたげに目を丸くしていた。

 いやいやいや……気配を探れない一般人が、目の前にいきなり人が現れたら驚きますって!!



「帰る途中でエドとアリアと会ったので、一緒に帰ってきたんですよ。驚かせてしまってすみませんね」


「い、いえ……大丈夫です。ビックリしてしまってごめんなさい」



 すまなそうな顔で視線を伏せるセノンさんの手にも、果物らしきものが入った籠が携えられていた。きっと、お土産に、ということで買ってきてくれたものだろう。

 みんな優しいんだよなぁ、本当に……。ご飯番に優しい、いいパーティですな! 


 さて。少々アクシデントはあったものの、これで全員集合ですね!



「…………飯の前に、妙な話をしてすまなかった」


「いいえ。話してもらえてよかったです! ……ただ、ちょっとご飯の後で聞いてほしいことがあって……」


「わかった。時間を取ろう…………だが、まずは……」


「ええ、わかっています。まずは、腹ごしらえをしてからにしましょう!!!」



 クンと軽く服の裾が引っ張られた。何事かと思って視線でたどれば、ヴィルさんの指が私の服の裾を摘まんでいる。

 周囲に聞こえない程度の小声で囁かれた謝罪の言葉に、私も軽く頭を振った。

 むしろ、話してもらえたことで、ヴィルさんが行き渋る原因もわかりましたし、思いついたこともあるし……。

 ついでに、真偽はともかくさっき思いついたことを話しておこうと口を開けば、快く了承を貰えましたよ!

 パーティのメンバーの相談に素早く対応してくれるヴィルさん、マジ有能リーダー。

 ……その周囲に響く腹の虫の鳴き声さえなければ、ピシッと締まった雰囲気のまま終われたんだろうけどなぁ……。

 でも、確かにお腹は空きましたもんね!



「さあ、ご飯ですよ!! フライパーティなので、気分もアゲて、パーっと行きましょう、パーっと!!!」



 さぁ、揚げ物パーリィの始まりですよ、ヒャッハァァァァァ!!!!


閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。


時代劇のキャラになれるなら、ご隠居の所の八兵衛か、親分の所のガラッパチのようなおっちょこちょいの三枚目か、上様の所の爺みたいなお茶目な所もある教育係ポジがいいなぁ、と常々思っております(´∀`)

もしくは、これまた上様の所のお由利の方様のようなお助けキャラポジでしょうか??


もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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