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磯の海 終日またり 獲物狩り

 青い空と、紺碧の彼方に広がる水平線と、岩場に打ち付ける波飛沫……うーん。海に来てるって感じがするなぁ!

 今回は納品や依頼には関係がないということで、多くの冒険者さん達が集まる浜辺ではなく、そこからさらに離れた場所にある岩場の方まで足を伸ばしておりまする。

 岩場が多い分、今回の主目的の潮溜まり(タイドプール)も大小さまざまより取り見取り状態! ……なんだけど、「ここぞ!」っていう決定打にかける感じかな。



「リン、危ない所には行くなよ?」


「はい! 命は大事ですからね。危なそうなところは行かないようにします!」



 ぴょいぴょいと岩場を見て回る私の背後から、ごまみそを抱いたヴィルさんが心配そうに声をかけてくる。

 その声に応えつつ、岩から岩に移る私の足が、ふと止まった。

 今目の前にあるのは幅3m、長さ5m程もある、ある意味で温泉の大浴場サイズのタイドプールだ。

 今まで私が見たことのある最大のタイドプールというと、せいぜいユニットバスくらいの大きさで、タライみたいな浅さのモノだったことを考えると、かなり大きいタイドプールだ。

 実家の近くにあった、あの緑に濁った野晒しの防火水槽よりも大きいんじゃなかろうか?

 深さもそこそこあるし、岩の隙間もたくさんあるし、海藻やら小魚やら、生き物の気配が濃い。

 ここ、かなり当たりなのでは……!



「……浅くもなく深すぎでもなくて……うん、ここがいいかな!」


「お、おい、リン!?」


「ヴィルさん、ちょっと行ってきます! ごまみそ、お願いしますね!」



 いつも着ているロールアップのカーキシャツを脱ぎさった私を見て、ヴィルさんが悲鳴のような戸惑っているような、悲痛な声をあげる。

 安心してください、ちゃんと長袖インナー着てますよ!!

 安全のためにスニーカーは履いたまま、ちょっと厚手の手袋を嵌めてゆっくり潮溜まりの中に身体を沈めていく。

 水は、程よく冷たかった。日差しが若干強めな分、水の冷たさが心地いいくらいだ。

 さっき買った銛を携え、海スライム眼鏡をつけて……いざ……!



「………………!!!!!」



 初めて潜った異世界の海は、思った以上にキレイだった。

 初めて使った海スライム眼鏡も違和感らしい違和感がまったくないのが嬉しい。

 一番深い所で2mくらいかな? あとは私でも足が付くくらいの深さだ。安心して遊べそう!

 

 それにしても、水の透明度が高くて奥の岩壁までしっかり見通すことができるなぁ。そして、凄くカラフル!

 一番奥の岩肌に、真っ赤な花が咲いてる? ……と思ったら、触手を伸ばしたイソギンチャクだったし。その隣でまったく重力を感じていないかのような緑の海藻が、全身でのたりのたりと漂う傍らを、銀鱗を翻して小魚の群れが泳ぎ抜けていく。

 それを追いかけて水中でくるりと身体を反転させると、モザイクグラスのように不規則で幾重にも割れた水面が見えた。

 その向こうからは青味を帯びて見える陽光が……いくつもの光の帯が、燦々と海中に降り注いでいた。

 外からの音が聞こえないせいか、水の中は存外に静かだった。

 海の(あお)と空の(あお)とを混ぜ合わせた青白い静寂の中、ただコポリと自分が吐いた息の音が耳に響く。

 いつまでも水中に身を置いて、この光景を眺めてたかったんだけ、ど……流石に、息……が……。



「ぷはぁぁ!!!」



 水面を割って、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。

 顔を上げれば、近くの岩に腰かけて驚いた顔をしたヴィルさんと、真剣な表情で水面を覗き込むごまみその姿が見える。

 ……何だろう、この現世に戻ってきた感。

 そのままさぷさぷとヴィルさんとごまみその近くまで泳ぎ寄ると、顔にへばりついた髪の毛をヴィルさんが指で除けてくれる。



「ずいぶん潜ってたな、リン。大丈夫なのか?」


「昔っから泳いだり潜ったりが得意なんですよねぇ…………ごまみそは何見てるの?」


『ちょっとだまって! 朕いましんけん!』

 

「さよか」



 割と昔から水の中はマイフィールドなんだよ……それこそ、釣り堀で釣れないときに「いっそ潜ってやろうか」……と思う程度にはマイフィールドだ。ホームと言ってもいいかもしれない。

 ……いや、その論理で言うと陸上がアウェイになるからやめておこう……。

 ごまみそは……「しんけん」って言われても、何してんだろ、この子?

 ……と……。

 ごまみその金色の瞳が、カッと見開かれた。



『にゃぁっっ!!!』


「ふへっ?!」


「は!?」



 次の瞬間、子猫の鳴き声と共にぶっとい前足が翻った……かと思えば、水飛沫と共に何匹もの小魚がビチビチと宙を舞う。

 えー!? 「しんけん」って、狩りをしてるって(そういう)こと!?

 お前はスナドリネコか!!!



「凄いな、おみそ! 自分のご飯、自分で獲ったのか!」


『でしょー? でしょー? 朕すごいでしょ? えらいでしょ?』


「凄い凄い! 偉い偉い!」



 ドヤァっと胸を張る子猫の足元でビチビチと跳ねまわる魚は、10cmくらいの青背の魚だ。キビナゴとかコイワシとか……見た目的にはそんな感じだろうか。

 生存戦略(サバイバル)さん曰く……。


【ソードフィッシュ(幼魚)

 ソードフィッシュの幼魚。

 成長すると漁師の網も切り裂いてしまうほど鋭いヒレを持つようになるが、今はヒレも鱗も脆い。

 美味ではあるが、可食部が少ないので刺身などで生食するには数が必要。

 姿のまま揚げるなどして丸ごと食べる食べ方が一般的。】


 おうふ! コレが成長すると討伐対象というか、駆除対象の魚になるのか!!

 そして、食べても美味なのか!!

 勢いが弱ってきたように見える小魚を、慌ててスカリに回収する。

 私が持っているヤツは、四角くて、ネットの内側にフロートが付いてて、ジッパー式のフタを全開して魚を入れることも、フタの上の小さい窓口からも魚を入れられるタイプのヤツ。

 いくら水に浮くとはいえ、いくらここが潮溜まりとはいえ、ぷかぷか漂われては面倒……ということで、スカリの紐はしっかりと岩の出っ張りに結び付けておいた。



『朕のこと、撫でてもいいんだよー?』


「あー…………ヴィルさん、ごまみそが撫でて欲しいそうなので、撫でてもらってもいいですか?」


「……俺で、良いのか?」


『いいともー!』


「ヴィルさんにぜひ撫でて欲しいそうです! さて、私はもう一潜りしてきます!」



 ぺろぺろと塩水に濡れた前足を舐めたごまみそが、一瞬『うぇぇ』っという顔になる。塩分の摂りすぎは良くないもんな。

 撫でて欲しそうに頭を差し出すけど、海水に濡れた私の手で撫でたりしたら、確実にごまみその頭がしょっぱくなる……!

 そんなわけで、ヴィルさんにはごまみそを褒める係になってもらうことにしましょうかね!!

 ふにゃ、と嬉し気にはにかむヴィルさんが、「撫でれ」と頭を押し付けてくるごまみそをゆったりと撫でている。

 全身から幸せオーラが出てるのは、気のせいじゃないんだろうなぁ。

 何とも平和な光景を目に焼き付けて、大きく息を吸い込んで……私は青い世界に舞い戻る。


 水の中は、相変わらず静かだった。


閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。

リンたちが遊んでいる潮溜まりは、某水曜どうでしょうで屋久島に於いて24時間釣り対決をした際に、O泉さんやY田さん、O尾さんが潜っていたような、大きめの物を想定しています。


もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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