説明と同意と勧誘と私
7月9日 追記
本文を書き直しました。
今後どう動くべきか、何を知るべきか、そして、どう生きていくべきか……。
どっぷり思考の渦にハマりこんでいると、ヴィルさんがふと顔を上げた。
んんん?? 何ぞ決意をされたようなお顔ですが、何かありました?
「……なぁ、リン。さっき『仕事を探す』と言っていたが、どんな仕事をするつもりだ?」
「え? えぇー……うーん………………そう、ですね……」
改めて聞かれて、はたと思考が停止した。
……そうだ……『働きたい』って思っても、私に何ができる?
……本業の鍼灸……は、道具があるかどうかわかんないし、開業の手続きとかどうすればいいかもわかんない……。
ある程度のマッサージもできるけど、これもまた開業の手続きやら何やらがさっぱりわからない。
この時代の介護なんて家族での介護が中心で、他人の手なんて入る余地はないだろうし……。
生存戦略さんを駆使して食べられそうなもの採って売って……ということもできそうだけど、それにしたって仲介業者がいたりとか、売買に関する決まりだってあるだろうし、何より危険生物とかと出会ったときに身を守るすべがない!!!
…………あれれー?
もしかして私……詰んで、る……?
「……その様子だと、今すぐに思いつかない感じか?」
「そう、ですね……やれそうなことはあるんですけど、それに行き着くまでの行程がわかんなくて……」
「そうか……それなら……リンさえよければ、俺の……俺たちのパーティの飯番と、簡単な荷物運びをやらないか?」
「飯番と荷物運び、ですか? 飯番は料理人的な?」
押し黙ったまま考え込み始めた私の目を、ヴィルさんが覗き込んでいた。
パーティという言葉に、一瞬、気分が浮上する。
やっぱり冒険者はパーティを組むんですね!! ダンジョンに潜ったりするんですね!? 前衛と後衛に分かれたり、乱戦エリアが発生したり、味方が遮蔽物になったりするんですね!?
ファンタジー世界での最たる生活でしょうし、それを目の前で見てみたい気はしますが……。
「『料理人』が出すほどの凝ったものを作ってほしいわけじゃないんだ。リンの好きなように、好きなものを作ってもらえればそれでいいんだが……」
「でも、それだとさっきみたいな感じのご飯になるかと思うんですけど、そのくらいなら別に誰でも作れません??」
「…………それが……俺たちのパーティは、何故か飯を作ろうとすると壊滅的な結果になる奴ばかりが集まってて、な……」
飯番かぁ……思わず首を傾げる私に、ヴィルさんがそっと顔をそむけた。
……え……ちょっと……え? マジで……? そんなに壊滅的なんです?
「ダンジョンに潜って魔物とやり合って宝箱を漁って……疲れ切ってキャンプをしても待っているのは焦げた生肉と、舌がひりつく程に塩辛いか、お湯みたいに薄いスープかだけなんだっっ!!」
「ちょっと何言ってるのかよくわかんないんですけど…………あ、いや、ニュアンスはわかりますけど……」
……焦げた生肉て……何その矛盾の塊……。多分、強火で焼きすぎて表面がコゲコゲ、中は血も滴るジューシーすぎるレア……って感じなのかな?
濃すぎるか薄すぎるかなスープって……煮詰まったか水を入れすぎたかのどっちか??
えー、でも、料理ってそんなに難しいか……? ある程度レシピ通りにやれば、そこまでひどいモノはできあがらないんじゃ……??
「昨日食べた……リンが焼いたあの魚は、絶妙な焼き加減と塩加減だった!」
「お、おぅ?」
「朝の粥だって、底が焦げついて炭になっているわけでも、火が通っていなくてガジガジに固いわけでもない!」
「何ですかそのお粥!? 食べたんですか!? まさかの実体験ですか!? 何その大惨事!!」
「そう、依頼のたびに大惨事なんだ! 報酬も出すし、依頼の時以外は自由に過ごしてくれて構わない! だから、頼む! 俺たちのパーティを助けてくれ!!」
気が付けば、恐ろしい程に真剣な表情のヴィルさんの顔が間近にあった。
過去の惨事を思い出したことで、いっそうスカウトに熱がこもったんだろうか……。私の両肩をガッシリと掴んだヴィルさんは、ともすればそのまま私をガクガク揺さぶるんじゃないかという程に鬼気迫る雰囲気を滲ませている。
えーと……うん。わかる。私も食いしん坊だから、ご飯が美味しくないとそれだけでもうげんなりする気持ちはわかるよ?
そして、そんな大惨事表振った結果みたいなご飯になっちゃったら、私だって鬼気迫るだろうなぁ……っていうのも予想できるよ?
でも何も、そんな……世界の中心で哀を叫びそうなほどにならなくても……。
それに、料理のできる冒険者さんなんていっぱいいそうだし、私である必要はないんじゃ……??
「…………リン……『私じゃなくても』って顔をしているが、料理ができる連中はすでにどこかのパーティと専属で契約してたりするんだ……だからここで、実質フリーなリンと出会えたのは僥倖なんだ!」
「おっふ……心読まれた……そして、専属とかあるんですね……」
「何より、リンにとっても悪い話じゃないと思う。やりたい仕事を探している間にカツカツになるより、俺たちを手伝いながら金を貯めて、やりたい職業を目指す方法を考える方が良くないか?」
「…………そう言われると……日々のお金が得られるか、得られないかは大きいですからね……」
「それに、仮に仕事が見つかったとして、リンの事情を全く知らない連中のところで1から人間関係を作って働くより、事情を知ってる俺がいる職場の方が気が楽じゃないか? 俺もフォローもできるし、ほかの連中との橋渡しもしてやれるぞ」
「おおお……フォローしてもらえるのはありがたいですね」
「もちろん100%安全な旅路とは言えないが、うちのパーティはそこそこ腕の立つ連中もいるし、女のメンバーもいるから、多少は安心してもらえると思う」
「……全員男性、とかいう職場だとちょっと肩身が狭いですもんね……」
えー……何というか……めっちゃ気合の入ったプレゼンを以ってスカウトされてる気分です……。
でも、言われてみればそうかもなぁ…とは思うんだ。「異世界からやってきて、お得なスキルがあります!! でも、こっちの常識知らないです!!」……なんて人間がいたら、あんまりロクな目に遭わない気がするんだよね……。
頼れるモノは自分しかいないこの世界で、手を差し伸べてくれたヴィルさんの申し出はかなりありがたいと思う。
当座の生活費すらもない現状に鑑みる限り、断るのは良い手じゃない感じがするんだよねぇ……。
「…………っていうのは、建前だ」
「はぇ?」
…………と。ヴィルさんの説明に聞き入っていると、思わぬ単語が飛び出してきた。
プレゼンではあまり聞かない単語じゃなかろうか……?
思わず顔を上げると、照れたように、はにかむように笑っているヴィルさんの笑顔がすぐ間近にあった。
「空腹で行き倒れかけていた所を救ってくれたお人好しな恩人の助けになりたいと、個人的に好意をかけたり報いたいと思っても良いだろ?」
「…………へぁっ!?」
「何だ、その声? 自分自身も窮地に陥ってるのに、それでも他人を助けようと動いてくれたリンを、助けてもらった俺が助けるのは当然だろう? 余計な苦労をしなくて済むようにしてやりたいと思う程度には、俺はリンのことが気に入ってるんだ」
「い、いやいや……そこまで……そこまで思わなくても大丈夫です!! 却って申し訳ないです!!」
間近で浴びせられたイケメンパワーに妙な声が出てしまったが、別に私悪くなくない!?
……若干強面とはいえまごうことなきイケメンに面と向かって『気に入っている』とか言われるのは、照れるじゃん!!
一宿一飯の恩義的なアレだということはわかっているが、それでも破壊力は十分だ。
イケメンKoeeeeeeeeee!!!!
……でも……。
「少なくとも俺は、リンを仲間に引き入れる事を前提に、お互いに仲良くなりたいと思っている。だから……」
『どうすればお互いに納得し合えるか、相互理解をしようじゃないか』と……。
血色の瞳を眇めて『逃がす気はない』と言わんばかりの獰猛な笑みを浮かべる鬼ぃさんに、一瞬とはいえときめきかけたのは小鳥遊 倫、一生の不覚である!
不覚なんだったら!!!!!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
表現することの難しさを、改めて思い知りました。
書くこと自体は楽しいんですけどねぇ……。
もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。