まずは休もう! ご飯を食べよう!! 話はそれからだ!!!
・第78部分『本殿探索』の所で、何回か行っている休憩の合間にご飯を炊く準備をしているシーンを入れ忘れていたので、ほんの10文字程度ですがその旨を記載しています。
・ごまみそのセリフは、あえて誤字っています。ご了承ください。
部屋を支配する沈黙に、腹の底がズンと冷える。ゴクリと唾を飲み込む音すら聞こえそうだ。
エドさんとアリアさんはお互いにぎゅっと手を握りあい、セノンさんは顎に手を当てたまま思案に耽っている。
汗が滲んできた掌を我知らず握りしめてた時……強張った腕にふと何かが触れた。何事かと思って視線を下げれば、膝の上にいたはずのごまみそが前足を私の腕にかけるようにして立ち上がっている。
ちょこんと前足を揃え、きゅるんと輝く瞳で見つめてくるその姿はもはや可愛いを通り越してあざといといった方が良さそうな程だ。
『あんなー、朕なー、おななすいたー!』
「え!? この凍った空気の中、言うコトがソレ!? おみそ、ちょっと空気読もうか?」
『くうきはなー、すって、はくものー!』
「だれうま!」
そのまま何を言うかと思えば、よりによってご飯の催促だった。マイペースここに極まれり、だ。
指先でごまみその頭を軽く突いてみるが、当の本猫は屁理屈を言いつつどやぁと胸を張る始末。なんだこの毛玉ホントにゴーイングMyウェイだな!
だが、そんなごまみその空気の読まなさは、凍り付いたような雰囲気を壊すのには十分だったようだ。
何だかんだで、散々打ちのめされていたように見えるトーリさんの抱えられていた頭がゆっくりと持ち上がった。トーリさんの掌が、冷や汗か脂汗か判別がつかないモノで濡れた頭をつるりと撫でる。
「…………確かに、究明を急ぎたい事態ではある……が、それよりまず暴食の卓には休息が必要だ」
「トーリ……」
「まだ『聖女一行が旅立った』という話が入ってきただけで、何か早急に対処が必要な事態になっている、という話は聞いてはいない。ゆっくり休んで、旅の準備を整える程度の余裕はあるだろうさ」
まだ強張りの残る……それでも優しそうな眼差しが私たちを見つめている。
ギルドを束ねる長としては早急な解決案なり行動指針が欲しい所だろうに、私たちの体調面やら精神面やらを慮っての発言なんだろう。
これを甘いと捉えるか人道的と捉えるかは人によって分かれるだろうけど、私にとってはすごくありがたい申し出だったよ。
あんな冒険の後、息つく間もなく長距離旅……っていうのは、なりたて冒険者の私にはちょっと辛いものがあってだな……。トーリさんが申し出てくれなかったら、せめて買い物だけでも……と意見具申しようと心に決めていた程度には衝撃の冒険だったんだ。
そして、トーリさんの言葉と視線に、眉根を寄せていたヴィルさんの表情がふと緩んだ。
「そうだな。そうさせてもらうか」
「今回の報酬はシーラから受け取ってくれ。そろそろ計算が終わる頃だ。俺はもうしばらくは書類と格闘しなくちゃならん」
「いい機会だな。これを機に少しは書類に慣れたらどうだ?」
「ゾッとしねぇ話だぜ! 書き物だけはいくらやっても慣れるってことがねぇな!」
入っていた力が抜けたのか、体をソファーに預けたヴィルさんがからかうように唇の端を上げる。
それに肩を竦めて応えてみせたトーリさんの顔に浮かぶのは、苦笑としか言いようがない表情だ。本当に書類仕事が苦手なんですね……。
今後処理しなければならない書類のことを想像してしまったんだろう。再びがっくりと肩を落とすトーリさんを横目に眺めたヴィルさんが、くっと喉を鳴らした。
だいぶいつもの様子を取り戻してきたギルマスさんとパーティーリーダーのやり取りに、他のメンバーの緊張も少し緩んだようだ。
きゅっと唇を結んでいたアリアさんにほんのりと笑みが戻り、エドさんが安堵したように息を吐いている。張り詰めていたセノンさんの瞳にも、少し余裕が戻っているように見える。
「それじゃあ、今後の予定についてはまた後日相談に来る。今日のところは、うちの飯番の飯でも食って、ゆっくり休ませてもらうさ」
「そうですね。空腹のままでは頭も働きません。詳しいことは、しっかり食べてまた考えましょう」
「さんせー! オレもアリアも、お腹ペコペコだよー!」
「まずは、ご飯、食べる!」
ヴィルさんがソファーから立ち上がったのを皮切りに、他のみんなも口々にご飯の話題を出しながら立ち上がった。
あ、これはアレですわ。栄養補給を望まれてますわ。ご飯番の出番ですわ。
幸い、最後の休憩の時にご飯のセットはしてきたから、野営車両を顕現できればすぐに食べられると思いますよ!
「そうですね……この前荷物を詰めた時みたいに、中庭お借りしてご飯にしましょうか! トーリさん、中庭お借りしてもいいですか?」
「中庭? ああ、スキルに制約があるんだったな。他の冒険者連中もいるだろうが、好きに使ってくれて構わんぜ」
「ありがとうございます! 屋外じゃないと使えないスキルなので、助かります」
「リン、リン! 今日のご飯、なぁに?」
「チャーシューを仕込んでおいたので、それを丼にします。煮汁をちょっと煮詰めてご飯にかけると美味しいと思いますよ!」
何はともあれ、施設長も兼ねているであろうギルマスさんに場所の使用許諾を取っておく。
他の冒険者さん達もスキルの練習とかしてるようだし、誰でも使えるものなのかもしれないけど、ちゃんと許可を得ておく、って大事だと思うのな。
いつの間にか横にいたアリアさんが、私の顔を期待に満ち満ちた瞳で覗き込んできた。メニューを告げれば、キラキラ輝く瞳が嬉しそうに細められる。
美人さんの笑顔、マジでプライスレス。
背後で旦那さんがわざとらしくキーッと歯噛みをしてくれているけど、これはアレか。茶番乙、ってヤツか。
それと同時に、脛の辺りにゴツンと衝撃が加わった。ごまみそが額を擦りつけてくるせいだ。自分のことを忘れるな、と言わんばかりに、真っ赤な口を開いてにゃごにゃご主張してくる。
『朕はー? 朕のはー?』
「ごまみそにも何かあげるから、頭でグリグリしないで!」
んー……コカトリス肉はまだあるけど、私達も食べてみたいし……確か、アリアさんとエドさんがダンジョンで山ほど採ってきた戦利品の中に、小ぶりの洞穴マスが……大きいのは私たちで食べちゃったけど、丸ごと塩焼きにするのにはちょうどよさそうなサイズのヤツが何匹か残ってたはず……!
当日のうちにエラと内臓は取ってあるけど、丸のままあげてもいいもんなのかな?
「ちょいと、おみそや。おみそは、丸のままの魚は食べられる?」
『朕なー、にくしょくけいだし! おさたなくらいペロリだし!』
「さよか。それじゃあ、ごまみそは洞穴マスでいいね、うん」
基本的に「猫は魚を食べるのに向いてない」っていう話らしいので、本猫に聞いてはみたけど、なんか、うん……心配なさそうかな。
肩に飛び乗ってきたごまみそが、ゴロゴロと喉を鳴らしながら私の頬に頭を擦りつけてくる。
「それじゃあ、ご飯にしましょうか!」
手の代わりに書類をひらひらと振ってくれるトーリさんに見送られ、私たちは書類と資料に埋もれかけた執務室を後にした。
食べる気満々の面々の視線をひしひしと感じながら、少しでも無駄がないよう入念に脳内シミュレートを繰り返す。
さぁ。ここからはスピード勝負ですよ!!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
ようやく更新再開です。
色々とアレなのですが、やっぱり小説を書くのが大好きだな、と実感しました。
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