リアルアイディア、キミだけが頼りだ!
『その部屋に入ると、君たちたんしゃk……ゴフンゴフン……探索者たちは部屋の中央に4つの彫像が乗った大きな台と、部屋を囲む四方の壁のそれぞれに扉が一つついているのが見えるだろう。その一つは君たちが入ってきたものだ。
これ以上の情報が欲しい時は目星を…………』
…………。
……………………。
……ん? 何だ? 今、脳裏にKPの声が聞こえた気が……げ、幻聴!?
でも、実際にその通りなんだよね。台座に乗った彫像と、壁と、その壁にある閉まった扉しか見えないんだよなぁ。
「……とりあえず、彫刻でも見ておこうかな、うん……」
ヴィルさんとエドさん、アリアさんがそれぞれの扉を。セノンさんが台座に書かれた文字を調べている間、私は彫刻を見ておこう。
みんなが働いてるのにぼーっとしてるのは性に合わないんだよー!
えーと……今私たちが入ってきた方の入り口に顔を向けているのは死の神・ディーター。そこを起点に時計回りに農耕の神・シュメルツァー、商いの女神・ヴェルネッタ、慈愛の女神・フォルトナート……と並んでいる。
ディーター……お爺ちゃんはローブのフードを深く被った眼光鋭い老人の姿をしていて、彫像では剣を携えた姿で表されているようだ。
その隣に並ぶシュメルツァーは、農耕の神と言われれば納得の筋骨隆々っぷりのおいちゃんだった。開墾とか、体力使うんだろうなぁ。
ヴェルネッタさんは長い髪をポニーテールに結い上げた快活そうな女の子の姿をしていて、溌剌とした表情と今にも動き出しそうな生気に溢れている。
フォルトナートさんは、抱っこされたらそりゃあ気持ちいんだろうなぁって言うお胸に慈愛溢れる表情と、何ともママ味に満ち満ちているというか……うん。
ちなみに、シュメルツァーさんが向いている扉をエドさん、ヴェルネッタさんの扉をヴィルさん、フォルトナートさんの扉をアリアさんが調べてくれておりますよ。
……ん? あ、何だろ……像の足元に、窪み……みたいな? ……あ! そういえば、ここ神殿内って室内扱いなの? 野外扱いなの?
像を調べている時にふと思ったんだけど、もしここが室内扱いだったら野営車両顕現できなくない!?
慌てて野営車両を顕現しようとして………………無事できました。
……神殿内……見た目は屋内だけど、そもそもがダンジョンだから顕現は問題なくできる、ってことなのかな。ちょっと安心したぜ!
探索を終えたみんなが、文字を読んでいたセノンさんの傍に集まってきていた。そろそろ情報共有タイム、かな。
「扉には鍵がかかっているわけではないようだ。中にあったのはコレだけだ」
「オレの所も! 何だろ、猫のぬいぐるみ、みたいな?」
「私のは、ドラゴンのブローチ、だった……敵とかも、いない……っぽい」
「ちなみに皆さんが調べてた小部屋って、そこから別の場所に繋がっていそうな隠し通路とかないんですかね?」
「……探って、みた……けど、特に、なさそう」
難しい顔をしたヴィルさんが差し出してきたのは、透明感のある黒い石で作られたモチーフが付いたストールピンのようなもの……ツルリとした甲羅と、オールのようなヒレ…………なんだろ、ウミガメ、かな?
それを皮切りに、それぞれ別の部屋を調べていたエドさんとアリアさんからも部屋の中で見つけたという品物が差し出された。
エドさんが見つけたのが、白い子猫、アリアさんは青味がかった透明な石が埋め込まれたドラゴンモチーフのブローチみたいだ。
扉を見回しながらアリアさんに聞いてみたけど、どうやらあの扉の向こうはガランとした部屋以外にないようだった。うーん……やっぱり謎を解かないと先に進めない、か……。
「台座に書かれていた文字は『従者を引き連れた神々は季節と共に廻り来る』でしたよ」
「そういえば、神様の彫刻の足元……何か置けそうな窪みがありましたよ! でも、従者……さっきの神様たちに従者っているんですか?」
「さて……関係が近しい神や伴侶のような神がいたとは思うのですが、従者となると……」
台座を調べた組のセノンさんと私が出した情報に、お互いが頭を捻ることになった。像の前に集まって、ああでもないこうでもないと話し合う。
私のTRPG脳が囁いている。
多分ね、それぞれの神様の足元にある窪みに『従者』を意味する何かをはめ込むと隠し扉か何かが開いて、次の場所に進めるようになってるんだと思う。
……で、その『従者』はそれぞれの扉の向こうにいる……というか置いてあって…………問題は、その従者が『誰の』従者なのかな、ってことだと思うわ、うん。
それぞれの神様が、顔を向けている部屋にあったモノがその神様の従者……ってことなのかな……?
うーん……やだなぁ……間違えたら即死……とかのトラップじゃないと良いんだけど……。
「そういえば、ディーターが向いている方の扉……俺たちが入ってきた方には何かなかったの?」
「ああ、そうそう! あそこの場所でこれを見つけたんでした!」
「小鳥、ですね……ディーターには、彼と共に死を告げて回るスゥバルゥの乙女達と呼ばれる小鳥の化身の乙女たちが傍にいるのが常なのですが……」
「小鳥の乙女、ですか。小鳥……小鳥かぁ……」
そんな中、ちょっと不思議そうに首を傾げたエドさんの言葉に、私は向こうの前庭から持ってきていた小鳥のことを思い出した。
まだ余裕のあるボディバッグに入れていた、羽根細工の赤い小鳥。
そっとバッグに入れていたとはいえ、脆そうな作りにもかかわらずしっかりと形を保っている。
やっぱり大事なアイテムだったらしい赤い小鳥を他のアイテムと一緒にして、また頭を捻って考えてみる。
四季の神様の、従者……単純に考えれば、やっぱりそれぞれの顔が向いていた部屋にあったアイテムが従者なんだろうけど……なんか、こう……しっくりこないというか……。
……四季の神様……春夏秋冬……青赤白黒…………あ、なんか引っかかった!
専門学校の授業で、なんか……えーと……東洋医学概論……? 五行思想の時に、そんな感じのこと、やらなかったか?
確か、春は木、肝、青、東。夏は火、心、赤、南。秋は金、肺、白、西。冬は水、腎、黒、北。
…………東西南北、青赤白黒……そして、ドラゴン、猫、小鳥、ウミガメ……!
「わかった! 方角だ! ちょっとコレ、借りてもいいですか?」
「おい、リン! 何か気付いたのか?」
「たぶん、たぶんですけど、コレで合ってるんじゃないかな、って!」
季節の神様は、それぞれ方角を表していて、従者って言うのがそれぞれに対応する守護獣を……漫画や小説でよく出てくる、四神――青龍・白虎・朱雀・玄武――を配すればいいんじゃないかな、と……!
ちょっとアレだよね……厨二病に罹患していた時期がある方はよーくご存じな存在ではないだろうか?
いや、こっちの世界の神話とかさっぱりわかんないから、コレで合ってるのかどうかわかんないんだけど、なんか、こう……しっくり来たというか……?
……まぁ、コレで正解となったら、ギリシャ神話の世界から古代中国の瑞獣って、だいぶ世界観飛んだなとは思うし、元の世界と妙な共通点あるなぁ……って思うより他にないね。
春の神・シュメルツァーさんの所に、ドラゴンのブローチを。
夏の女神・ヴェルネッタさんには赤い小鳥を。
秋の女神・フォルトナートさんには白い子猫を。
冬の神・ディーターさんには黒いウミガメを……。
それぞれの足元の窪みに小部屋で見つけたアイテムを乗せる。そして、あの台座の文言の残りは『季節と共に廻り来る』だから……。
像の乗った台座の下の床辺りに目を凝らす……ビンゴ! 何かが擦れたみたいな跡が残ってるじゃんか!!
「ヴィルさん、北ってどっちの方向ですか?」
「は? 北? 北は…………向こう……ヴェルネッタが向いている方、になるな……」
「うん。やっぱり。たぶんコレ、神様の顔をそれぞれが司る方角の方に向けるんです。私の勘が正しければ、シュメルツァーが東、ヴェルネッタが南、フォルトナートが西、ディーターが北、かと……」
「勘、ですか。しかし、こうも手詰まり感がある中ではありがたい方針ですね。一度試してみませんか、ヴィル?」
「ああ。考えるのに少し疲れてきたところだ。一度やってみよう! ダメだったらその時にまた考えればいいさ」
男性陣が、台座に手をかけて力を籠める。巨大な台座はなかなか動かなかったが、次第にズズッとゆっくりだが動き始めた。それに伴い、石像の顔も少しずつ少しずつ別の方向を向き始める。
思った以上の時間をかけて、台座が約半周して……ガチリと何かがはまる音と共に、不意に台座の一部がまばゆい光を放ちだした。
それは上の階で見た魔力溜りにも似た光で、中へどうぞ、と言わんばかりの輝きを放っていた。
「……凄いな、リン!! アレが多分先へ繋がる扉だ!」
「リンちゃん、凄いね! よくわかったね!!!」
「何が決め手だったか、後で聞かせてくださいね。リンはなかなか面白そうな知識を持っているようなので楽しみです」
「リン! リン! 凄い! 偉い!! よく、頑張りました!!」
四方から伸びてきた手が、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
マジ、か……! これが正解か!!! よかったぁ……! 間違ってたらどうしようと思ったよー!
ちょっとは……ちょっとは役に、立てたのかな?
溢れる喜びと安堵を抱えつつ、それでも次々と光に飛び込んでいくみんなに後れを取らないように、私も光に飛び込んだ。
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
特に何かのシナリオを参考にしたわけではないのですが、もし類似した話があったらギミックを考え直すので教えて頂けましたら幸いです。
もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。





