本殿探索
時折吹き荒れる吹雪にホワイトアウトしたり、そのたびに野営車両に避難しつつカーナビで進行方向を確認したり、出来上がったチャーシューをお鍋に移したり、アリアさんのギブアップ宣言に休憩を取ったり、炊飯器にお米をセットして炊飯予約をしたりしながら、ようやく丘の上の建物までたどり着いた。
アリアさんが寒さに立ち向かうのに手いっぱいになっているので、道中では生存戦略さんが役に立ってくれましたとも!
この積雪で罠という罠はなかったものの、クレバス的なものや雪庇的なものを避けることができましたよ! 保護色を纏って襲ってくる魔物たちも発見することもできたし……生存戦略さん、マジ有能!
「建物……っていうか、神殿っぽい感じの作りですね」
「そうですね。作りから見て古代文明の神殿によく似た作りですが……」
なんていうのかな……古代ギリシャチックな神殿が、ででーんと雪の丘に建ってる感じ。太い柱が並んだ前庭的な感じの部分と、壁に囲まれた本殿的な部分とに分かれている。
透き通るように透明感のある白くて滑らかな大理石っぽい石で作られていて、紺碧の海と青空を臨む緑濃き小高い丘の上……というシチュエーションだったら実に様になってたと思うんだけど……こんな雪の中にたたずむ真っ白な建物って、寒々しい以外の言葉が出てこないよ!
いや、実際のところは雪は降ってこないし風も多少は遮られるからかなり楽なんだけどね!
見た目が……見た目が、ね!
入り口には特に巨大で太い柱が4本並んでいて、それぞれに1人、人物の優美なレリーフが刻まれていた。
風に翻る髪の毛の一本一本や風を孕む衣の裾、身体の線を艶めかしく浮き立たせる薄衣や豪奢な甲冑が緻密に、かつ大胆に表現されている。
一番端から、壮年の男性、若い女性、ふくよかな女性、老人……という感じかな。
神殿のレリーフ……ってことは神様か何かなのかな?
「様式的に古代ヘロトースの神殿のようですね。あそこの一番端の男性は春と農耕の神・シュメルツァー、若い女性は夏と商いの女神・ヴェルネッタ、ふくよかな女性は秋と慈愛の女神・フォルトナート、老人は冬と死の神・ディーター、でしょうね」
「あぁ、四季の神様なんですね! それにしてもセノンさん、よくご存じですね」
「長命種ですから、神話や民話の類には強いんですよ。何より、曲がりなりにも神官ですからねぇ。色々な国の神話は勉強がてらよく読んでいましたよ」
「なるほど! 納得です」
おのぼりさん状態でレリーフを眺めている私の傍らに来てくれたセノンさんが、一つ一つ柱を指しながら教えてくれた。
おお! そう言われてみれば、それっぽい雰囲気はあるなぁ。お爺ちゃんなんか目深にかぶったローブから覗く眼光も鋭くて、なんかもう似合ってる、としか言いようがないもん。
あー。それにしても春夏秋冬の神様、か。こういういい方はアレだけど、神話の中ではよくある話だよね。
他にも何かあるのかと思って周りを見てみたものの、この4本の柱以外にはレリーフ的な彫刻を施された柱はないようだ。
……と。
「なんだろ……鳥?」
夏の女神・ヴェルネッタ様とやらが浮き彫りにされた柱のすぐ下に、小さな赤い鳥が転がっていた。
こんな所に鳥がいるとは思わず、保護しようと慌てて掌に乗せてみれば、それは水鳥か何かの大きな羽根に彩色を施して小鳥の形に細工をした羽根細工のようだった。
真っ黒な瞳はビーズで、嘴は薄く削った木片、足は針金のようなものでできており、この雪と風に晒されたところで像の近くにあったのが奇跡のように軽い。
ちょっと首を傾げているようなとぼけたような感じで、愛嬌があって可愛いな、これ。
色合いも赤が基調になっていて派手目だし、冠羽もあるし……オウム、かな? ふわっと豊かな尾羽が何ともきれいだ。
うーん……ここに置いたままじゃ風に攫われちゃいそうだし……本殿の中に奉納なりなんなり……この子を置いておける所くらいあるんじゃないかな? 持って行ってあげようか。
他にも仲間がいるかな、と思って見回してみたけど、あとは何にもなさそうだ。
ただ、柱に囲まれた空間の奥……本殿的な建物部分に繋がっているのであろう扉がぽっかりと黒い口を開けているくらいだろうか。
「中に入るより他に道はなさそうだな」
「そうですね。何もなさそうに見える雪原といかにも何かありそうな神殿の奥なら、神殿の奥の方を探索した方が何かしらの実りがありそうですね」
「だねー。もしこの神殿が核心の場所じゃないとしても、次にどこに行けばいいのかのヒントくらいはあるんじゃないかなー?」
「私もそう思います。流石に何の手掛かりもなしに、この雪原を歩き回るのは自殺行為に近いかと……」
吹きすさぶ風と雪の猛威から多少は逃れられたとはいえ、体力を消耗してしまったらしいアリアさんの手をさすりながら周りを見渡してみる。
前庭には屋根はあるんだけど、壁はなくて柱が並んでるだけだもん。奥が神殿になっているから多少は風は弱められてるけど、完全に防げるわけじゃないからなぁ。
野営車両があるから籠城はお手の物だけど、たぶん、それじゃ解決はできないんじゃないかな。
普通の世界なら時が過ぎればいつかは春なり夏なりが来るだろうけど、ダンジョンの中というだけあって、ここの季節はずっと冬なんだろう。
となれば、野営車両の中でどれだけ籠城しようとも、ここに雪解けは訪れないってことだ。
それなら何かありそうな神殿の奥に進んだ方がよさそうだ。
完全に風も遮られるだろうし、アリアさんの体力も持ち直せそうだと思うし。
話は、決まったかな。
またみんなで集まって、神殿の中に進む方向のようだ。
ざっと周りを見渡したけど、どこにも赤枠は出ていないし、移動するなら今のうちが良いと思う。
「アリア、動けそう? 大丈夫?」
「ん……なん、とか……ありがと、エディ」
フラ付きながらも立ち上がったアリアさんに手を貸そうかな、と思ったんだけど、私が動くより前にエドさんがそっと手を貸していた。
そんなエドさんの手に掴まるアリアさんも、心なしか嬉しそうだ。氷色の瞳がいつもよりも輝いて見えるなぁ。
仲良きことは美しきかな、だよね。
それにしても、この先何かあるのかな?
すんなり先に進ませてくれそうには、思えないんだよなぁ……。
ヴィルさんを先頭に本殿らしき所に繋がっているであろう扉を潜れば、どうやらその考えは当たっていたようだ。
「……祭壇、と…………扉、かぁ……」
四方を壁に囲まれたがらんとした部屋の中心には、先ほどの柱にあったレリーフの神々の彫像が乗った祭壇のようなものがどんと聳えていた。
1m程ある台座の上に4柱それぞれが背中合わせに立っており、それぞれの顔は四方に向けられている。その台座には、何事かの文字が彫り込まれていた。
他にあるものと言えば、その神々の視線の先に別の部屋に繋がっているのであろう扉があるだけだ。
……えー……何というか……謎解きの予感……!
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なぞときひゃっほーい! 目星ファンブル……アイディア失敗……うっ、頭が……っ!!
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