緊急発進 鍼灸師!
結論から言おう。もぐさは、作れた。完璧に……完璧に、だ。
ヴィルさんが乾燥魔法をかけてくれ、それをエドさんが電動ミルの要領で粉砕してくれ、その粉砕したものを私が篩いつつセノンさんが唐箕の要領でヨモギ粉を吹き飛ばしてくれて……という作業を何度か繰り返して、ようやく小さなボウル一杯分くらいのクロヨモギの繊毛を……もぐさを取り出すことができたのだ!
最初のうちは黒みがかった緑色を帯びていたもぐさも、粉砕と篩がけを何度も繰り返すうちに不純物が取り除かれていき、最終的には仄かに緑味がかって、る? 程度の色合いに落ち着いてくれた。
草いきれのような青臭い香りではなく、ほんのりと爽やかな香りがするふわふわしたもぐさだ。
流石にこれで直接灸をする勇気はないけど、間接灸とか温灸はいけるんじゃないかな?
本当は年単位で寝かせて余計な揮発成分を飛ばした方が良いんだろうけど、今回メインはもぐさパックだし問題はなかろうよ。
なお、肝心のモグサを入れる袋は『温熱アイテム』と聞いたアリアさんが、嬉々として糸繰りをして作ってくれた。
片方はガーゼとまではいかないが、ざっくりとした目の粗さの薄手の袋。もう片方は目の詰まった厚手の袋。
その薄手の袋の方に今作ったもぐさと、攻略前に市場で買っておいた岩塩を小石くらいに砕いたもの、この前食べたオレンジの皮を乾燥させたもの、思ったよりも香りがよかった乾燥野草を詰めたら、水に湿らせて、レンジで様子を見ながら加熱して……厚手の布に包んで温めたい場所に当てるだけ!
ね、簡単でしょ?
専門学校時代にクラスメイトが教えてくれたもぐさパックなんだけど、岩塩が保温、もぐさ成分の温熱効果と、オレンジの香りがリラックス効果を誘う……と、個人的に思っている。
もぐさが余ったら棒灸にしたかったんだけど、流石に量が足りなかったな。棒灸は棒灸であったかくて気持ちいいから、またクロヨモギを見つけたら乱獲する勢いで集めておこうと思う、
灸頭鍼もあったまるけど、アレ、総ステンレス製の鍼が必要なんだよね。鍼は、ないもんなぁ……。
「ご協力ありがとうございました! これでもぐさが作れるって確信できました!」
「そうだな。また欲しかったら、採取してくれば乾燥だの粉砕だのは請け合うぞ」
「ありがとうございます!! たぶん、お願いすることになると思います!」
リーダー、マジで気配りの人ですな。
ありがたく甘えておこう。温灸用のもぐさ、もうちょっと欲しいし……。
でも、とりあえず今は野営車両を再顕現させてレンジでもぐさパックを温めようっと。レンチンの間にちらりと炊飯器を眺めれば、どうやら顕現を解いていた間も時間は経過していたようで、炊きあがりまでの時間はちゃんとカウントダウンされていた。
ついでに、風呂敷を探して、と……。
「ちょっと大椎の辺りを温めておきますね。東洋医学的に陽経と陽気が交わるところですし、西洋医学的にも自律神経を整えてくれるので、冷えの改善なんかにもいいんですよ」
「ん! これ、あったかい! 気持ちいい、ねぇ……!」
「…………うーん、でも、首のあたりだから動きにくいかもしれませんね……市販のカイロみたいな薄手のものがあればよかったんですが……」
「動きは、だいじょぶ! むしろ、あったかいから、動きやすい!」
もぐさパックを風呂敷に包んで、アリアさんの首の後ろに巻き付ける。位置的には、大椎……第7頸椎と第1胸椎の棘突起間にある経穴で、衛気――様々な外邪から身体を防御する、身体を衛る陽気のこと――の巡りをよくするといわれてる場所だ。
ついでに、風邪の出入り口と言われている風門という経穴も近くにあることだし、そこにももぐさパックがかぶさるように調整してやる。
まぁ、もぐさパックは枕くらいの大きさだし、大椎と風門の両方を自然とカバーできるんだけどね。
アリアさんに確認してみると、さほど動きにくくはないようだ。まぁ、ちょっと大きめのフードが付いてるようなもの、と思ってもらえばいいか。
本当なら冷えの対策としては風邪よりは寒邪なんだろうけど、大椎なら陽気の回復も期待できるし、風門も気血を集めるのにいい、って話も聞いた気がするし……あと、寒邪対策って関元とかのお腹の経穴とか三陰交とか太渓とかの足にある経穴になっちゃうんだよ。
お腹と足に装着する方が動きにくくなりそうかな、って……。
余裕があれば命門の辺りも温めておくとより効果的なんだけどね。『腎』の近くにあるし、『命の門』って書くだけあって、エネルギーが集まる重要な場所だし。
にくづき……身体の要と書く腰にある経穴でもあるし、温めておくだけでも違うと思うけど、もぐさパックを腰に巻いたらバッスルスタイルっぽくなって、狭いところでの活動とかでものを探したり動いたりがしにくそうなんだよなぁ……。
動きにくさの心配をしていた私の横で、アリアさんが復活を遂げた。ふんすふんすと胸を張っている。
「復ッ活ッ!」
「ああ、良かったです。もぐさパックが冷めたら、また温めるので言ってください」
「ん! マッサージも、してね!」
「わかりました。ハンドマッサージもおつけしましょう」
「ありがと! それじゃ、下に、行こう!」
某AAのごとくシュババっと動くアリアさんに、ヴィルさんは深くため息をつき、セノンさんはただただにこやかに穏やかに微笑んでおり、エドさんはアリアさんを抱きしめて「良かったねー」っていちゃついている。
……あー、うん。念のため上着や毛布なんかの用意をしてから、下の階に降りますかね!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
ようやく鍼灸師らしいことができました!(´∀`)
専門学校時代のノートや教科書を駆使していますが、諸説ある話でもあるので『フーン』くらいで考えて頂ければ幸いです。
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