お肉もダンジョンもぐーるぐる
簡単で美味しい、か。バラ肉もあることだし、チャーシュー丼とかどうだろうか? 炊飯器でチャーシュー炊いておいて、その煮汁使ってご飯炊いて……。
あ。それは美味しそうだ。実に美味しそうだ!
冷蔵庫に入れておいた大きなバラ肉を取り出してみる。体感的には、ある程度の厚みがあるB5ファイルみたいな感じだろうか。
分厚い脂の間にうっすらと赤い線のようなお肉が入ってるバラ肉ではなく、ある程度の厚みをもった脂とお肉とが段々と層を成している良いバラ肉だ。
真っ白な脂とピンクのお肉のコントラストが、何とも美しい。
遠目に見ればイチゴショート的な巨大なケーキに見えなくもない、かな??
「ふむ……生存戦略さんを纏めると『上質の脂が非常に美味』か。よし、今夜はチャーシュー丼だ!!!」
調理前に生存戦略でチェックすると、『肉質は柔らかで、脂臭さも獣臭さもなくどんな調理法でも美味しく食べられる。』『上質の脂身は加熱すると蕩けるように柔らかで甘くなり、非常に美味』との2文が目に入った。
これはもうチャーシュー丼を作れという思し召しだろう!
……タコ糸とか、あるかなぁ?
野営車両の調理台の引き出しをごそごそしてみると、奥の方からタコ糸が一巻き、見つかってくれた。
よし! これであの豚バラを巻ける!!
お肉が分厚くなっている所には包丁を入れて均一な厚みにしてから、グルリとお肉を丸めてロールケーキのようにしてしまう。
真っ白な脂肪層が一番上に、その下には赤身と脂身が丸く巻き込まれていて…………うん。色味的にもイチゴのロールケーキだな。
あとはコレがバラけないよう、しっかりとタコ糸で縛ってやる。こうして丸めると、形もキレイに仕上がるし、お肉と脂身が程よく食べられる、気がするよ。
煮てる間にお肉と脂身がほぐれてこないせいかな?
「あとはコレの表面を焼いて、ざっくり下茹でして……炊飯器に放り込めばOKかな?」
長辺の方をくるくる巻いたから、そのごろんとしたフォルムは本当にロールケーキみたいだ。
その表面を焼いて香ばしさをプラスしたら、10分ほど茹でてざっくりと脂とアクを抜いておく。
その間に、お醤油とみりん、砂糖と水とお酒でちょっと薄めのタレを作っておいて、下茹でが終わったオークバラ肉、スライス生姜と一緒に炊飯器にブチ込んで炊飯ボタンを押すだけだ。
あ。所々に穴をあけたクッキングシートで落し蓋をしておくと、味がお肉全体に回るよー。
炊飯モードで加熱するうちにタレが煮詰まるから、ちょっと薄めにしていたんだ。
炊けた後は上下を返して、保温モードでしばらくほっとけばいいから楽だよねー。
「リン、そろそろ出発するが、大丈夫か?」
「はい。下拵えもできたので、こっちは大丈夫です!」
付け合わせの野菜をどうするかと考えている最中に、野営車両の入り口からヴィルさんが顔を覗かせた。見れば、みんな各自武器や防具の点検、小休止を済ませたようだ。
私が調理場を使っていたことに気付いたのか、野営車両に乗りこんできたヴィルさんが、使っていた調理器具に洗浄魔法をかけてくれた。
あっという間にピカピカになる、かつ、カラっと乾燥しちゃうんだから、魔法って凄いなぁ……。
「何か作っていたのか? ショウユ、とやらの匂いがするが」
「オーク肉の下拵えしてました。今日はソレをご飯に乗せて食べますよ!」
「ああ、昨日エドとアリアが狩ってきたやつか」
「そうです。あの山のようにあったお肉のうちの一角ですね!」
納得したように頷くヴィルさんにサムズアップしながら炊飯器のボタンを押すと、ヴィルさんの後に続いて野営車両から降り、そのまま顕現を解いた。
…………そういえばコレ、顕現を解いた後の車内の時間経過ってどうなるんだろ……?
私が飛んだり跳ねたり走ったり転んだりしても、車内が悲惨なことになったことはないから炊飯器が落ちたり倒れたりすることはないと思うんだけど……?
ま、もし仮に時間が止まってるんだとしても、調理中の炊飯器が無事ならさして問題はないか!
ちょっと時間はかかるけど、加熱しなおせばいい……というか、顕現させて時間を経過させればいいだけだしね。
……と。みんなの元へと赴いてみれば、なんだかアリアさんの表情が暗い、ような……?
「どうかしたんですか? 元気ないように見えますけど……」
「…………下の階、イヤ……行きたく、ない」
「ありゃ? 何かありました?」
「…………………………冷たい、の……ほら……」
「うひゃおぅ!!!」
何となくしょんぼりしているようにも見えるアリアさんに近づけば、アリアさんの手が伸ばされて私の頬を包み込んだ。
うっひょう!!! なに、この手! 氷じゃん!!
いや、アリアさんが冷え性だっていうのは知ってるけど、これちょっと冷えすぎじゃないです!?
よく見れば、指先の方が真っ白を通り越して青くすら見えるんですが、コレ……ヤバいヤバい指先に血が通ってないんじゃ……!?
「アリアさん、ちょっと手、触りますね! 何でこんなに冷たくなってるんですか!」
「……下の階、探ってたら…………冷気……が……………………リンの手、温かい……」
短く断りを入れてアリアさんの手を取って、温度と色を確かめてみる。手の温度に左右差はなし。というより、手どころか腕まで冷えてるから相当なもんだ。
とりあえず「座りましょう」と目で促して地面に腰を下ろしてもらい、片方ずつ手と前腕を軽くマッサージしていく。
末端が冷えると、身体全体どころか精神的にもキッツくなるらしいからなぁ。
……私はほら、万年常夏体温だから……。パイ生地とかスコーン作るのに向いてない手の温度だから……冷えて辛い、っていう経験がないんだよなぁ……。
そんな私の肉布団体温は、アリアさんの心のスキマ、体温のスキマにジャストフィットしたらしい。よほど冷えが辛かったんだろうなぁ。
少しずつ少しずつ掌に温もりが戻ってくるに従って精神的にもほぐれてきたのか、アリアさんがグスグスと鼻を啜りながらポツポツと状況を話してくれた。
話を整理すると、下の階を探ろうと糸を繰り出したはいいが、その糸から『尋常ではない寒さ(アリアさん談)』が伝わってきたのだそうな。
それでも地形も罠もわからないまま引き下がるわけには……と頑張った結果、めちゃくちゃ冷えてしまったとのこと。
……次の階層、冷え性のアリアさんにとっては地獄のような場所なのでは……?
「あ、そうだ! みなさん、ちょっとお時間貰っても? 温熱アイテム、作りましょう!」
くるくるとアリアさんの指を根元から指先に向かって円を描くようにあたりをほぐしていると、不意に脳裏に閃くものがあった。
クロヨモギ!
灸師の友・モグサの原料になるかもしれないクロヨモギちゃんを、大量に所持してたぜ!!
寒い所に向かうのであれば、多少なりとも温熱効果のあるアイテムを作るって言うのは悪くないのでは??
『温熱アイテム』という単語にアリアさんが目を輝かせる。
「もぐさ、作れるかどうかやってみますか!」
灸師のお供、作れてくれよー!!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
とうとう! とうとうもぐさが! ようやく日の目を見れそうです!
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