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腹が減ってはダンジョン攻略はできぬわけで……


 酒池肉林ならぬ肉肉林の宴は狂乱索餌の如き勢いを保ったまま終わり、ふと気が付くとバングベッドでスマホのアラームに起される……という事態でしたとさ。

 あれだけあったローストビーフとステーキは、きれいさっぱり腹ペコ冒険者たちのお腹に収められていた。

 ちぎりパンもご飯も、みんな綺麗に平らげてくれたようだ。

 これだけしっかり食べてもらえたらご飯番としてはめちゃくちゃ嬉しいし、ワイルドオックスも諦めて成仏するよりなかろうよ。


 とっぴんぱらりのぷぅ。


 キャビンに降りていくと、見張り役だったらしいヴィルさんが簡易スツールに腰を下ろして窓の向こうを眺めていた。

 腕時計的には早朝と言える時間なんだけど、時間の経過がないようにしか見えないダンジョン内部にいる身としてはこれを『朝』と言っていいものかどうかよくわかんないんだけどね。



「あさごはんはー…………どうけつマスつかおう……」


「リン。何か手伝うことはあるか?」


「みはりのかたを、どういんしなきゃいけないほどではないのでだいじょうぶですよー。おきもちだけいただいておきます」



 スツールからヴィルさんが立ち上がろうとしてくれてるけど、見張りの人に他の仕事をさせるわけにはいきませんよぅ!

 手伝おうとしてくれるお気持ちだけで十分です! ありがとうございます!

 寝起きのせいかまだうまく回らない頭で、欲望の赴くままに朝食と行動食を作ろうかな。

 

 ご飯を炊いてる間に、50㎝はあろうかという大物の洞穴マスを3枚におろして、ブツ切りにして……アラは塩をしてグリルで焼いて……。

 朝ご飯は、焼いたアラのほぐし身を混ぜたマスご飯と、玉ねぎとジャガイモのお味噌汁……行動食はサーモンバーガーならぬ、マスのライスサンド……おにぎらずにしよう。

 卵が潤沢に使えるならポーク卵お握りの要領で一緒に挟むんだけど、ちょっと節約したいな。


 玉ねぎとジャガイモの皮を剥いて、玉ねぎは厚めのスライス、ジャガイモは一口大にして水からゆっくり煮ていきますよ。ある程度火が通ったら白出汁をちょろっと入れて、火を止める。

 味噌はみんなが起きてから入れようっと。

 

 ぶつ切りにしたマスの分厚い身をフライパンで焼いてみたり、焼けたアラの身をほぐしたりしているうちに、仮眠をとっていた他のみんなももぞりもぞりと起き出してきた。



「おはようございます、すぐご飯にしますよー」



 起きてきた3人に声をかけつつ、炊きあがったゴハンにほぐしたマスの身と生姜を混ぜこむ。なお、生姜は生のまま。炊き立てご飯の予熱で、適度に熱が入って美味しくなるんだ。

 みんな若干眠気は残っているようだけど、『ご飯』という単語に目が輝いた。

 これは朝ご飯もしっかり食べるだろうな、うん。

 

 大鍋のプレ味噌汁も沸騰直前まで沸かしてから火を止めて味噌を投入し、味噌汁に仕上げてしまおうか。


 それにしても、暴食の卓(ウチ)のみんなが味噌とか醤油の発酵食品が大丈夫な人たちでよかった……!

 日本人(わたし)にとっては慣れ親しんだ味だけど、独特な風味がダメ……っていう外国の方も多いみたいだし。でも、日本人(わたしら)にもチーズとか魚醤とか、馴染みのない発酵食品に抵抗を示す人もいるわけで……。

 食べなれない食べ物を『美味しい!』って思ってもらえるって、実にありがたいことですよ、ええ。



「はい、ご飯もお味噌汁もセルフでどうぞ! 追い生姜はお好みでお願いしますね」


「よし! 飯を食いながら今日の予定をすり合わせるか」


「……と言っても、残りの魔力溜りを潰しに行くのでしょう?」


「ん。あと、4つ……」


「徹底的につぶすんでしょー?」



 混ぜご飯を内釜ごとどーん、味噌汁の大鍋も鍋ごとどーんとテーブルに乗せ、麦茶ポットもどーんと出したら私の仕事は一段落だ。

 あとはセルフで、自分が食べられるだけ食べて頂きましょう!

 

 まずは玉ねぎとじゃがいものお味噌汁を一啜り。

 味噌の甘いようなしょっぱいような香りが鼻を抜けるとともに、しゃくしゃくした甘い玉ねぎと、ほっこり優しい食感のジャガイモが口の中で溶けるようにほぐれていく。

 マスご飯は、高級サケフレークご飯を想像してもらうのが一番近い、かな??

 カマの部分とかアラの部分をほぐしたおかげで、しっとりと脂気があるんだけど、生の生姜を混ぜ込んでいるから後口はピリッと爽やかだ。

 多分ね、コレ……ベースのご飯を酢飯にして、ミョウガとか大葉を一緒に混ぜても美味しいと思う!

 よりさっぱり香りよくいただけるんじゃないかな? 街に帰ったら、薬味の類をもっとよく探してみよう!



「……ふむ……厄介なのは強制ワープ、か」


「昨日のうちにある程度法則性は掴んだから、今日は割とすんなりいくと思うな」


「ルート間違うと、飛ぶ……系」



 みんな器用に匙を操りながら、マスご飯とお味噌汁を平らげていく。 

 進むルートを間違えたら強制ワープとか、めんどくさいタイプのギミックじゃないですか、ヤダー!

 手書きでマッピングしながらあーでもないこーでもないしてるうちにエンカウントして、地味~~にリソースを削られるやつだ!


 ……で、そういう時に限ってバックアタック喰らったりするんだよなぁ……。

 …………呪殺は……バックアタックからの呪殺攻撃だけは……!!!!



「大丈夫ですか、リン? あまり顔色が良くないですよ?」


「え、あ、大丈夫です! なんかちょっと強制ワープとか体験したことがないもんで……」


「手掛かりは、掴んだから……安心して?」


「そうそう! そんなに強い魔物も出てこないみたいだしね!」


「そうは言うが、慢心は命とりだ。索敵と罠感知はしっかりやりながら進むぞ」



 ヴィルさんが空になった器を置くのを皮切りに、瞬く間にお釜もお鍋も空っぽにしたみんなも装備の点検や持ち物の点検に移った。

 例によって、食べ終わった後の食器や調理器具にはエドさんが洗浄魔法をかけてくれる。


 ……作るのは好きだけど後片付けが苦手な私にとって、料理だけしてればいいこの環境って天国すぎる……!

 よーし、調子に乗って、どんどん料理作っちゃうぞー!!



「リン、そろそろ出発するぞ」


「はーい! 今行きまーす!!」



 ドアの外で差し出してくれるヴィルさんの手を取って、私は再びダンジョンの中へと身を投じる。

 鬼が出るか蛇が出るか……いずれにせよ、出たもの全部ぎったぎたに料理してやんよ!!


閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。


玉ねぎとじゃがいものお味噌汁、実家ではメジャーな具でした。皆さんの家のレギュラーみそ汁の具が知りたい今日この頃……。

もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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