お肉を焼くと お肉が増える そんな不思議なマジックある?
小一時間ほど焼いたところで塊肉に金串を刺して、中の温度を確かめる。引き抜いた金串を唇に当てて……うん! しっかり熱が伝わってくるし、これでもう加熱はOK!
大きめのお皿に移してアルミホイルを被せたら、肉汁が落ち着くようそっと置いておくよ。
一緒に焼いたジャガイモも、焦げ目こそついていないけどホクホクに焼きあがっていた。これも一緒にお肉のお皿に除けておく。
クッキングシートに溜まった肉汁も、ソースに混ぜておくと良い味が出るから無駄にはしないよ!
「……アリアさんとエドさん、ずいぶん遅くないですか……? 怪我とかしてるんじゃ……」
「そういえば、1時間以上たってるが……まぁ、あの二人だからな……」
「あまり心配しなくても大丈夫ですよ。おそらく、久しぶりに二人で出かけて嬉しさのあまりハメを外しているんでしょうから」
今度はステーキを焼くべく分厚い板状の肉に塩・胡椒を振ろうとして、はたと気が付いた。
エドさんとアリアさん、遅くね? 駆け出し荷物運びの私が言うのもなんだけど、近くの散策と採取って、こんなに時間がかかるものなの、か??
キッチンの窓から周囲を見てみたけれど、まだ車の周りに人影はない。
強い敵でも出て苦戦してるんだろうか? 罠か何かにかかって身動きが取れなくなったりしてるんだろうか……?
心配になってつい漏れた呟きに、ちぎりパン用の生地を丸めてくれていたヴィルさんとセノンさんが顔を上げた ……ん、だけど……なんか、こう……いまいち心配してる雰囲気でもなさそうな……??
でも、理由を聞いてちょっと納得した。一狩り行くついでにイチャイチャしてるわけかー。
怪我とかはあんまり心配しなくてもいいのかな?
「えーと……じゃあまあ、ステーキはお二人が帰ってから焼き始めますか。その間に、ちょっとこれでも味見しててください」
「い、いいのか!?」
「ご飯作り手伝ってもらいましたもの! ご飯番の役得ですよ」
ステーキならローストビーフ程肉汁を落ち着かせる必要はないだろうし、エドアリ夫婦が帰ってきてから焼き始めた方が焼き立てアツアツを食べてもらえるかなー。
とはいえ、待ってる間にお腹空いちゃうだろうし、ご飯作り手伝ってもらったし……ヴィルさんとセノンさんにはお腹抑え的なものを出しておこうか。
塊肉と一緒に焼いていたジャガイモの上にくつくつ煮込んでいたソースをかけたものに、昨日作っておいたケークサレを添えて出してみた。
普通の人たちならご飯前にこんなに出したりしないけど、暴食の卓のみんななら『おやつの食べ過ぎで夕飯が入らない』なんて心配はないからね!
とはいえ、もともと行動食にする予定のケークサレだったから、味見分として供したのは端っこの部分だ。
個人的には、食パンとかパウンドケーキとか羊羹とかカステラとかの端っこって、特別な美味しさがあるんだよなぁ。
「ソースだけでも十分に美味しいですね! これがお肉にかかるのが楽しみです」
「けーくされ? とかいうのも美味いな! 肉とチーズを一緒に食えるのが良い!」
瞬く間になくなっていく皿の上を眺めつつ、トマトを切ったり生地を乗せたフライパンを火にかけたり、頭の中のシミュレーション通りに身体を動かしていく。
料理の良い所は、完全に私の裁量で作業を仕切れるところだろうか。
とろ火で焼き始めたちぎりパンが香ばしい香りを漂わせる頃、エドさんの弾んだ声と共にキャビンのステップを登る足音が聞こえた。
エドさんとアリアさんが帰ってきたようだ。
「お帰りなさい! ……って、すごい荷物ですね!」
「ん! きあい、いれた!!」
「久しぶりのアリアとのデートだったからさー。楽しくてついつい時間を忘れちゃった! ご飯待たせただろうし、そのお詫びも兼ねて狩ってきたよー♪」
仲良く手を繋いで帰ってきた二人の顔は、久しぶりの『デート』とやらを満喫したのかつやつやと輝いているようにも見える。
でも、それ以上に特筆すべきは、お二人の繋いでる方の手とは逆の腕に抱えられた肉やらなにやらの食材の山だ。
……あれれー? おかしーなー?
私の記憶にあるデートって言うと、ドライブに行ったり水族館行ったりご飯食べたり映画見たり……そんな感じなんだけど、肉狩って野菜採って魚釣ってくるデートって、ある?
……いや、魚は釣りデート、野菜は果物狩りとか日曜菜園とかのアウトドアデート……って考えられるけど、肉を……狩る…………ハンティングデートって聞いたことない!!
静かな混乱の渦に飲み込まれた私の目の前で、エドさんとアリアさんが調理台と食卓の上にデートの戦利品の山を築いていた。
【オークジェネラル/ロース(熟成済み)】【オークジェネラル/バラ(熟成済み)】【鍾乳ワサビ】【ハジロカンラン】【洞穴マス】【コカトリス/骨付きモモ(熟成済み)】etc……。
………………っっっ!!
視界が生存戦略さんのウィンドウで占拠され、一瞬軽い眩暈を覚える。想像以上の情報量が、脳髄に流れ込んできたせいだ。
クラリと揺らぐ背中に、ボスっと何かが添えられる。
「大丈夫か、リン! 張り切りすぎて疲れたか?」
「あ、ああ……すみません、ヴィルさん。ありがとうございます。ちょっと予想外の量にびっくりしただけです」
どうやらヴィルさんが咄嗟に支えてくれたらしい。お陰様で、コケずにすみました!
面倒見のいいリーダーに感謝しつつ、改めて机の上を眺めてみた。あの情報の暴力はいろいろな食材をひと固まりに眺めてしまったが故に起こったらしい。
対象を決めて生存戦略さんで見定めれば、今度は何ら苦も無く情報を読むことができた。
「……それにしても、凄い量ですねぇ!」
「美味しいもの、いっぱいあった! あたり!!」
「これだけの量のドロップがある、ってことは、かなり魔物と戦ったんじゃないですか? 疲れてないですか? 怪我とかは?」
「怪我も何にもしてないよー♪ 心配してくれてありがとね、リンちゃん。それよりヴィル。ここに出る連中、あの火熊に似てるぞ」
「…………見掛け倒し、という事か」
「うん。そうでなくちゃ、オレとアリアだけで『オークジェネラル』なんて倒してこれないよ」
「……そのことは、おいおい調べる必要がありそうですね」
ドロップ品は、魔物を倒さないと手に入らない。それなのに、これだけの量があるってことは……それなりの数の戦闘をこなしてきた、ってことだ。
慌てて目の前のアリアさんの全身を上から下まで眺めるが、傷どころか服に汚れすらついていない。
……エドさんも何事もないようにひらひらと手を振ってるし……無事、ってこと……かな。
まずは一安心だ。
「お腹すいた」と私を抱きしめて頬ずりしてくるアリアさんの後ろから、男性陣の何とも深刻そうな話が漏れ聞こえてくる。
でも、私にとっての修羅場は、一気に増えた食材の使い道を考えないといけない……ってことで……。
ハンバーグ、生姜焼き、トンテキ、串焼き、カレーにシチューに竜田揚げ……。
それでも余ったら、やりたくないけど冷凍にしちゃおうか??
ぐるぐると渦を巻く思考回路に半ば飲み込まれつつ……鼻先を掠めた香ばしいにおいに、慌ててちぎりパンをひっくり返しに向かうのだった。
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誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
ステーキも好きですが、ハンバーグも大好きです。チーズが入ってる奴も好きです。
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