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ごはんたべて ゆっくりねたら なおるよ!


「リン、怪我はないか?!」


「だ、大丈夫です! 怪我をする前に野営車両(モーターハウス)に駆け込めました!」



 切り落とされた断面からパチパチと軽いショート音を響かせる白い機体の頭部に大剣を突き刺しながら、まだ怒気冷めやらぬ様子のヴィルさんが声を張り上げた。

 開けっぱなしになっていたドアから四つん這い状態ながら顔を出せば、前線に立っているみんなの顔が安堵に緩んだ……ように見える。



「怪我がないようで何よりです。怖かったでしょう?」


「いやぁ……いきなり出てくるし、ビームとか初めて見るし、初めて撃たれるしで、怖いというよりはただただビックリしました」


「あの魔導絡繰起動装置の一定距離内に入ることが、起動条件だったんでしょうね」



 後衛ということもあり、一番近くにいたセノンさんがひょいっと車内を覗き込んできた。

 そのままやんわりと手を取られ、すいっと立ち上がらせてくれる。その上、野営車両(モーターハウス)のステップを降りる時も手を添えてくれて……。

 今までされたことのないお姫様のような扱いに心が……弾めば良かったんだけどねぇ……。

 本来であれば「イケメンにエスコートされるなんて…!」とときめくべきなんだろうけど、何せ床からの立ち上がりや段差の昇り降りなんかで利用者さんを介助していた身としては、何というか「イケメンに介助されてる……ありがてぇありがてぇ」と思うばっかりでな……。

 セノンさんの優しさが身に沁みるばかりですよ、ええ。



「リン! 大丈夫、だった?!」


「ぐぇっ!」


「索敵……たりなくて、ごめん、なさい!! こわかった、でしょう?」


「い、いや……だいじょ、ぶ……で…………ぐぎゅぅぅ……」


「ああ、ほら、アリア。リンちゃんが潰れちゃうから放してあげようねー? リンちゃんも、いい逃げっぷりだったよ!」



 電光石火の一足飛びでこちらに駆け寄ってきたアリアさんが、その勢いも殺さぬままに抱き着いてくる。細身ながらもスピードの乗ったその衝撃に、思わずカエルが潰れたような悲鳴が喉から漏れた。

 その後は例によってけしからんお胸に顔を押し付けるようにぎゅうぎゅうと抱きしめられての酸欠コンボである。

 

 そんな私とアリアさんとをやんわりと離しながら、ビシっと笑顔で親指を立ててくれたのはエドさんだ。同性と言えど、最愛の嫁が他の人に抱き着いてる所は見たくないんだろうなぁ。


 ただまぁ、彼らの反応を見る限り、野営車両(モーターハウス)に逃げ込んだ私の判断は間違っていなかったみたいだ。



「リン……俺の見通しが少し甘かった。怖い思いをさせてすまなかったな」


「いえいえ。結局怪我もなく無事でいますし、終わり良ければすべて良し、ですよ!」 

 


 ドロップ品だろうか? 金属特有の光沢を放つ銀色の塊を抱えたヴィルさんが、しょんぼりと眉を下げて頭を下げる。

 いやいやいや! どれくらい近づいたら発動するかなんて、初見ではわかんないじゃないですか!

 異常に気付いた瞬間も真っ先に私を心配して指示を飛ばしてくれましたし、私としては思う所はないです!

 ……そう。私としては何にも気にするところはないんだけど、何となく周囲の空気が重い気がするわー。

 みんな、どことなく自省の念に駆られているような雰囲気だ。


 えーと、私は大丈夫ですよー。

 むしろ、ダンジョン攻略中だというのに、こんな探索&戦闘ド素人を五体満足でいさせてくれるみんなの手腕には感謝しかないわけで……。

 みんなにそんなに申し訳なさそうな顔をされると、めっちゃ心苦しいのですが……。

 

 …………さて……この雰囲気を吹き飛ばすにはどうすればいいかなぁ……?



「……みなさん、そろそろお腹空いたんじゃないですか? 敵も倒したことでこの辺のエリアも安全ぽいですし、そろそろご飯にしませんか?」


「……ご、ごはん……!」


「そろそろお肉も、良い温度になってると思うんですよねぇ」


「ああ、あの肉……あの肉、か……!」


「なかなか分厚くて食べ応えのありそうな肉だったように記憶していますが、どんなメニューになるんでしょうね?」


「ステーキとローストビーフ……端っこはミンチにしてシェパーズパイかほぼコロッケですかね」



 私と同じ食いしん坊達の士気を上げるには、ご飯の話題しかあるまいて!

 ちょっとわざとらしいかな、と思いつつも食事の提案をしてみれば、まずアリアさんがぱぁっと顔を輝かせてくれ、それを見たエドさんもつられて柔らかな笑みを浮かべてくれる。


 ついで、と言わんばかりに例の極上肉の話題を口の端に上らせれば、項垂れていたヴィルさん(リーダー)の赤い瞳にほんのりと生気が戻った。

 はんなりとした笑みを崩さないセノンさんも、その微笑みに凄みが増した気がする。 


 ああ、良かった! ちょっとテンションが上向いてくれたかな?

 

 私も人の事は言えないけど、食いしん坊は美味しいものに弱いんだよねぇ……。


 魔力の淀みは消えたようだが、風景に何ら変わりは見られない。『本命』ではなかったのか、淀みを完全除去していないせいなのか、私には判断がつかないが、それでも生存戦略(サバイバル)さんで見渡す限りは赤枠の警告アラートは出ていない。

 この辺でご飯食べて、ゆっくり休めばまたみんな元気を取り戻せるんじゃないかなー??


 どんなに落ち込んでても、美味しいもの食べてゆっくり寝たら治っちゃうもん!



「ここらでちょっと一息入れて、英気を養いませんか? 腕によりをかけますから!」



 迷える哀れな子羊たちを誘惑するがごとく、殊更笑みを深めながら拳に力を入れてみた。

 ごくり……と、誰かの喉が鳴る。


 食の悪魔(わたし)の、勝ちだ!

 

 誰とはなしに鳴った腹の虫の音を皮切りに、銘々が顔を見合わせて一斉に笑い出した。

 

 ……うん、よし! 湿っぽさは吹き飛んだ!

 

 見回りがてら追加の食材を探してくる、と手を繋ぎながら駆けて行ったエドアリ夫妻と、念のため簡易結界を張ってくれるというセノンさんを見送って……。



「ヴィルさんは、私の手伝いをしてもらえますか? 付け合わせも欲しいので……!」


「敵はぶった切れても、食材は、なぁ……」


「大丈夫ですよ! そんなに難しくないですから!」



 野菜の皮を剥いたりだとか、切り落とし肉をミンチにしたりしてもらう感じの軽作業なので、そんなに手はかからないと思うんだ、うん。


 さぁて、あの極上肉……どう料理してやろうかな?

 まぁ、何をどうしたって美味しいとは思うんだけどね!!


 不安げな視線を送ってくるヴィルさんにしっかりと頷き返しながら、調理の段取りを改めて反芻することにした。


閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。


次回は肉祭り! ダンジョン攻略中はお酒は飲まないだろうから、酒池肉林ならぬ麦茶池肉林くらいの勢いで書いていきたいです(`・ω・´)

もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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