ダンジョン式プロジェクションマッピング
美味しく頂くため……お肉は冷蔵庫には仕舞わずに、敢えて車内に置いて室温に戻しておくことにした。冷たいままだと、美味しく焼くのが難しいんだよね。
今日の休憩拠点が決まるころには、丁度いい温度になってるんじゃないかな、うん。
「いやぁ……でも、ちゃんと熟成された状態のお肉がドロップしてくれてよかったなぁ……! 丸のままとかは流石に解体する自信がないもんね」
「ああ。それなら大丈夫ですよ、リン。解体だけなら私ができますから。ええ、解体だけなら」
「っっ…!! ま、マジですか……いったいどこでそんな知識を……??」
「森の守り手とも言われる長命種ですからねぇ。狩りは生活する上で重要なスキルでしたよ」
野営車両の顕現を解いてなおニマニマと頬が緩むのが止められない私の前で、胸に手を当てたセノンさんが目礼をしつつウィンクを飛ばしてきた。
……おぅふ……! 誰だよ、美形は3日で慣れるとか言い出したやつ!!!!
そんなの……金髪碧眼正統派イケメンエルフのウィンクの直撃に耐えられる奴だけ、美形は3日で慣れる言いやがれ!!
私? 私は耐えられませんでしたよ!! うあぁぁああ!!! 心臓が……心臓が痛い!!
仲間の顔が良すぎて死ぬ!!!
循環器と精神に重大なダメージを受けつつも、何とか声を絞り出したんだけど…………返ってきたのは至極まっとうな答えだった。
……そっか。セノンさん、エルフさんだもんな。イケメンエルフイケメンエルフって連呼してたけど、イケメンの部分に目が行き過ぎて、エルフってこと忘れそうになるんだよね……。
ステレオタイプなイメージで申し訳ないけど、神官さんとは言え弓とかも得意なんだろうか……?
「……あれ……? 解体ができるなら、その延長で料理もできるのでは……?」
「やめとけ、リン。焦げた生肉なんていう代物を作ったのはソコのエルフだ」
「あ、お噂はかねがね伺っていた、あの矛盾の塊ですか……」
「私だけではないですよ。エドもアリアも、そこでシレっとしてるヴィルだって作ってましたからね、矛盾の塊」
肉が捌けるなら、その流れで切ったり焼いたりもできるんじゃないか……と思ったんだけど……底冷えするような低い声のヴィルさんが、クッとセノンさんの方へ顎をしゃくる。
……あぁー……ヴィルさんが虫でも見るような目でセノンさんをジロリと睨んでるよー……。食べ物の恨みは恐ろしいと言いますが、そこまでですか……。
そんなヴィルさんの視線を鼻で笑ったセノンさんの薄く形の良い唇から飛び出したのは、これまたとんでもない爆弾だ。
おぅ……そうか……矛盾の塊、みんな一回は作ってるのか……そうか……。
そりゃ、ご飯番を必死に引き留めたくもなるわな。
か、解体スキルと料理スキルって違うのかな? 『肉を加工する』っていう点では似てる所はあると思うんだけど……?
そもそも私自身がそこそこ料理を作れる方だから、『料理ができない』っていう人の『できない』所がわからないというか……。
うーん……そもそも、みんなが失敗するのって味付けの部分なのかなぁ? それとも、料理に慣れてないせいで何かしらの行程を失敗しちゃうのかなぁ?? 食材の錬金術師はいなさそうだし……??
原因がわかれば、みんな料理ができるようになりそうな気も……??
………………おっと……今はそんなことを考えてる場合じゃないな。警戒だけはしっかりしておかないと……
そんなとりとめもないことを頭の片隅に追いやって、斥候の安全確認と生存戦略さんで個人的に周囲を警戒しながら果て無い草原をてこてこ歩いていく。
「それにしても、これ、ダンジョン……なんですよね……? こんなに広いなんて……」
「……実際は、そんなでも、ないと思う…………幻影の魔術と、空間魔法が、かかってる感じ……それを解かないと先に進めない、かも」
「幻影の魔術……入り口でギルド職員さんがかけててくれたようなやつですか? 感触なんかもあるんですけど……」
「それと、似た感じだね。多分、幻影魔法でオレたちの周囲だけ実体化しつつ、他の階層への出入り口を隠して、空間魔法を使って無限回廊化してる……ってところかな?」
「本来であれば1枚の紙っきれみたいな空間なんだが、その端と端とをくっつけて円環というか球というか……そんな感じにしてるようだな」
「んー……つまり、歩けども歩けども先には進めないで元居た場所に戻っちゃう感じ、ですか?」
「普通であれば、そうなるな。暴食の卓はアリアがいるお陰で道に迷うことはないんだが……初見では厳しいかもしれないな」
幻影と言われて足元の草を触ってみると、ザラリとした植物の質感が指先から伝わってくる。ただ、この草を生存戦略さんで見てみようとしても、何の情報も出てこない。
今まで気付かなかったけど、幻影の魔術じゃあ生存戦略さんが反応しないのか。食べられる・食べられない以前の問題だもんね……。
それにしても、要はだだっ広い部屋をいかにも大きいように見せてるわけか……。規模が大きくて解像度の高いプロジェクションマッピングみたいなもの、って考えて良いのかな。
空間を弄る……って言うのは初耳なんだけど、まぁ、昔やったRPGで特定のルートを通らないと無限に歩かされるギミックのダンジョンに挑んだこともあるから、何となく理解できる。
ここまで精巧な幻影を見破る、且つ、空間の無限回廊化に気付く……っていうのは、流石に初見では難しい気がするなぁ、うん。例のダンジョンでも、何回も迷ったもん!
そして、これから私たちがしなくちゃいけないのは、幻影を投影している……というか、発生させているプロジェクター的なものと、空間を歪ませている魔力的なものを破壊して、幻影魔法と空間魔法を解くこと……というわけか。
「アリア、魔力が集まっているようなところや淀んでいるようなところがあるかどうかわかりますか?」
「んー……何ヵ所かあるから……そこを叩いていけば、良い……と、思う」
セノンさんとアリアさんの会話を聞く限り、アリアさんの索敵の網に何かしらの反応が引っかかってきてるみたいだから、部屋の中を無駄に歩き回って体力を消耗する……っていう事はないかもしれない。
それにしたって大変そうだなぁ……!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
本格的に寒くなってきましたね……次の休みの日は肉まんでも作ろうかなぁ……。
もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。





