内部の調査が進むと共に どんどんお肉が増えていく
顕現させた野営車両の中で、身を縮めて息を殺す。
私の姿は敵から見えないと頭ではわかってても、イラつくように蹄で何度も地面を掻きながらこちらに向かってくるバカでかい牛のような魔物の姿を見てしまうと、どうしても構えてしまうのだ……。
下の階に続いている階段を降りれば、そこに広がっていたのは一面の草原だった。
『ダンジョンとは現実から隔絶された異世界』と呼ばれているだけはあるようで、色々な法則を無視した場所……というのを改めて実感させられた。
何故か地平線すら見渡せてしまう程に開けた場所では私が身を隠す場所もなく、何かあったら即野営車両に駆け込むことを約束させられた。
そして今、例の巨大牛の接近を感知したことにより、私は野営車両に隠れることになったのだ。
…………いや、それにしてもデカいねぇ……そもそも、三日月みたいに湾曲してる角自体もデカいんだよねぇ。
なもんで、その角を支える頭と体も比例するようにバカでかいんだよなぁ……。
気性も荒そうだし、あんなのが突進してきたらみんな無傷ではすまない気が……!!
生存戦略さんによれば、名前は『ワイルドオックス』って見たまんまの名前なんだけど、『その肉は赤身と脂身のバランスが良く、肉質も柔らかく非常に美味』なんですって!
あんな大きいのにお肉は柔らかで、非常に美味なんですって!!
だいじなことなので にかい いいました!!
これはもうぜひドロップ品に期待をしたい……んだけど……生存戦略さん曰く『角や皮は武器や防具を作成する際の材料になる』とも書かれてたから、お肉だけじゃなくて角とか皮もドロップするんだろうなぁ。
お肉……お肉が落ちますように……! 何としてもお肉が落ちますように……!
……そして何より、あんなでっかい角と巨体の魔物に立ち向かう暴食の卓のみんなが、怪我なく無事に戦闘を終わらせられますように……!!
「……って、真摯に祈ってた私の純情を返してほしい……!」
「ん? 何の話だ?」
「こっちの話ですー! あんな強そうな魔物だったのに、あっさり倒しちゃうんですもん!! 怪我がなくて何よりですけども! 何よりですけども!!」
巨大牛の血走った目がギラリと光ったかと思うと、パーティめがけて猛突進してきて…………バラバラになった。
…………うん。「お前は何を言っているんだ?」っていう目が痛いけど、今言った通りなんだもん!
よーく目を凝らせば、アリアさんの糸が蜘蛛の巣のような網目状に張り巡らされていて、そこに突っ込んだオックスさんが爆裂四散したという、ね……うん。
てっきりあの網で絡め獲って身動きできないところを袋叩きにするのかと思ったら、まさかの網自体が凶器になるなんて……!
……なんていうか……血沸き肉踊る(物理)を目の当たりにしちゃうと、流石にアレだよね! すぐに塵になって消えていくとはいえ、大惨事だよね! 目の毒だよね!!
けしからんお胸をドヤァっと張って、こちらを得意げに見てくるアリアさんは眼福だけども……!!
「?? なんだかよくわからんが、すまな、い?? まあそれは置いておくとして、見ろ、リン!」
「ふ、ふおおおおおお!!!! お、お肉!! ワイルドオックスの極上お肉!!! しかも、二つも!?」
「身体がデカかったからもしや……と思ったんだが、複数ドロップだ!」
「こ、これは……赤身とサシのバランスが絶妙ですね……!! これ絶対美味しいヤツ!!」
ニィっと笑うヴィルさんが差し出してくれたのは、丸太のようにごろんとした塊肉と、骨付きの分厚いお肉。
塊肉の方には【ワイルドオックス/ランプ(熟成済み)】、分厚い方には【ワイルドオックス/Tボーン(熟成済み)】と記載されたウィンドウが浮かんでるじゃないですかー!
熟成済み、ってことは、もうこのまま美味しく頂けるヤツじゃーん!!
しかし、ドロップしたてだっていうのに、冷蔵庫から出したてのお肉みたいに冷えてるってどういうことなんだろう……?
塊肉の方は、みっちりむっちりとした赤身の中に真っ白なサシが適度に入っていて、見るからに美味しそうだ。触った感触も程よく弾力があり、火を通してもガチガチに硬くなる……ということはなさそうな感じがする。
骨付き肉の方は、これはもう『肉の板』と呼んでも差し支えない程に分厚く、大きい。厚みなんか5㎝以上あるんじゃないかな? これ一枚で柔らかそうなヒレと、赤身とサシのバランスが美しいサーロインの部分が味わえるTボーン……これはヒレもかなり大きいから、特別に『ポーターハウス』って呼ぶんだっけ?
ああ、もう下に降りてから驚いたり喜んだりで、心臓がもう大変なことになってるよー! 寿命縮んだらどうしよう!?
Tボーンはもうステーキ一択として、ランプの方もローストビーフかな? あの赤身の中に入ったサシが熱で蕩けて、しっとり仕上がるんじゃないかな??
「……っっっ!! ヴィルさん!!!!」
「応っ!!」
『GiIIiii GyaaaAAAAaaAAAAA!!!!』
うっかり妄想の世界に飛んでいた私を呼び戻したのは、やはり生存戦略さんの警告アラートだった。
それは前方でも背後でもなく、上から突然降ってきて……無意識のうちにヴィルさんの名前が口を衝いて出た。
間髪入れずに振りかざされた大剣の刀身に弾かれたのは、翼を広げたら大人程もありそうな大きな鳥だ。鋭い爪と嘴は捕食者の証、という所だろうか。
尤も、先ほどの一撃でどこかを痛めたのか、地面に落ちて藻掻いている姿からは上位捕食者の脅威を感じられはしないけれど……。
大股で鳥に近づいたヴィルさんが小枝でも折るかのように首を折れば、そのまま塵になって消えていく。
「よく気付いたな、リン。こいつの急降下の勢いは結構すごいんだ。当たりどころが悪けりゃ怪我じゃすまないくらいだ」
「流石に、緊急の時は視界に入ってなくても生存戦略さんが発動してくれるみたいですね……さっきまでは奇襲がなかったから気付きませんでした」
「ああ、そういえばそうだな。順当に遭遇した戦闘だけだったもんな。ま、なんにせよ、怪我がなくて何よりだ」
「こちらこそ、助けて頂いてありがとうございました! 次のご飯、期待しててくださいね!」
生存戦略さんの有能さを噛みしめている私の背中を、ヴィルさんの掌がポンと叩く。
私が無傷なのは、咄嗟に名前を呼んだだけなのに瞬時に反応してくれたリーダーのお陰ですからね!
ヴィルさんの前でグッと拳を握って見せれば、厳つめのその顔が笑み崩れた。
このお肉なら、どう料理したって美味しいと思うし! 私も気合入れるし!
あー! これで料理するのが楽しみだ―!!!
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モフモフ分が足りない……。
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