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ダンジョンと行動食と私


「少し動き回ってみましたが、出現する魔物や魔生物自体は大して強くはないですね……というより、見掛け倒し、と言った方が良いでしょうか?」


「あー、うん。見かけは大仰だったり派手だったりして見栄えはするけど、中身がスカスカっていうか……弱っちいよね?」


「この前の火熊(ファイアベア)と似たような印象だな……」


「罠も、そんなに強く、ない」



 旺盛な食欲を発揮しつつ、情報共有が進められておりますよ。ご飯が話し合いの邪魔になっていないようで何よりですな。

 「美味しい!」って思ってもらえることも大事だけど、こういう場で集中を切らさず何となく食べられる、って言うのも大事だと思うんだよ、うん。

 野菜スープとハムエッグ丼なら、スプーン使ってわしわし食べられるからこぼすとかどうとか、気にせず食べられるもんね。


 実際に戦ってもいなければ罠を確認したわけでもない私には、敵の強さとかはよくわからないんだけど、話を聞く限りこの階の敵は暴食の卓(みんな)にとって大した脅威ではないように思えるなぁ……。


 あー……それにしても、ハムエッグ丼、美味しいなぁ……。

 ハムは香ばしくカリっと焼けていて、ちょっと縮れた脂身の所を噛み千切ると濃厚な旨味と脂が混じった肉汁がじゅわっと溢れるわけよ。

 そこに熱で水分が飛んだおかげか、濃厚さを増してトロっとした黄身と淡泊ながらもプルンとした食感の白身……お酒とお砂糖でちょっぴり甘みをつけたお醤油とふっくら炊けた甘みのあるもっちりご飯が混じり合ってだね……お匙が進んでしまうよね!!

 ハジロカンランとトマトがハムと目玉焼きの脂っぽさをさっぱり中和させてくれるから、いくらでも食べられそうなくらいだ。



「すまん、リン…………スープがもうなくなった……」


「ありゃ……結構多めに作ったつもりでしたけど、足りなかったですかね?」


「あぅ……もっと、食べたかった……!」


「オレもー!! 次のご飯の時は、もう少し多く作ってもらう事ってできる?」


「材料になりそうなものは獲ってきますから……!!」


「わかりました! 大きいお鍋もありますし、次はもう少しいっぱい作りますね!」



 話が切れた頃合いに、テーブルにでんと据えたお鍋を覗き込んだヴィルさんが、何とも情けない声でこちらを眺めてくる。

 結構大きめのお鍋で作ったつもりだったんだけど、足りなかったかな?

 そして、おかわり分がもうないと分かった途端みんなのテンションがダダ下がってるんだけど、そこまでのことなんだろうか…………そこまでのことだよねぇ……。

 おかわりしたいのにできない、って、けっこう切ないもんなぁ、うん。


 節約を意識しすぎて、無意識に作る量をセーブしてたんだろうか? ちょっと反省しなくちゃな……。

 ダンジョンに入る前からみんな「材料は獲ってくるから!」って言ってくれてたんだし、心配しなくてもよかったんだよね。

 次からは、ちょっと意識して多めに作ってみよう。そうすれば、きっと足りるんじゃないかな?



「腹ごしらえと休憩が済んだら、次の階に進むか」


「そうねー。先に進むのは賛成かな。早い所調査を終わらせた方が良いでしょ?」


「しかし、次の階では多少は敵が強くなっている可能性もありますし、傾向がつかめるまでは慎重に進んだ方が良いと思いますよ」


「ん。リンもいる、し……ある程度、見当がついたら、今日はそれで終わりに、しよ?」


「そうだな。休めそうな場所が見つかったら、今日はそこで休むことにしよう。リンもそれでいいか?」


「私は皆さんについていくだけですし、索敵も戦闘もやってる皆さんの判断にお任せします! 体力もまだ持ちそうですしね!」

 


 うむ。進行状況に関して、私がやれることは自分自身の疲労度の申告くらいだもんな。


 ……と。着々と予定が決まっていく中、チーンとオーブンが出来上がりの音を告げる。

 ふと途切れた会話と食い入るような視線を背中に受けながらオーブンの扉を開ければ、炭水化物が加熱された時の甘い匂いと、チーズの焼ける香ばしい匂いが一気に車内に充満する。

 ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえてきた。



「ふむ……久しぶりにしては良い出来、かな?」


「リン、それは……? 焼き菓子……のように見えるが……?」


「焼き菓子というか、軽食というか……お肉とか野菜が入った、しょっぱいケーキ、ですね。行動食になるかな、と思って」



 もともとあった薄力粉とベーキングパウダー、本日買ってきた牛乳と卵・ベーコンと余り野菜を使って、活動時の小腹満たしになりそうなものを作っておいたんだ。

 粗熱が取れたら切り分けて、ラップにでも包んでおけば行軍を止めずに食べられるかな、と。


 ちなみに、冷蔵庫には強力粉とベーキングパウダー、水、塩でよく練った生地を寝かせてある。コレさえあれば蒸し饅頭にもできるし、フライパンでちぎりパンみたいにも焼けるし、主食にはなると思うんだ。

 あとは余裕があればご飯を追加炊きして冷凍しておきたいなぁ……。


 ベースキャンプでみんなの帰りを待つ方式ではなく一緒に行軍する形態だから、ご飯は時短で作りたいじゃないか!

 一仕事の後だし、みんなお腹空いてるだろうしね。

 


「……それを今食うのではダメか?」


「これは行軍の行動食にしたいんですよね……足りないのであれば、果物でも剥きますから勘弁してください」



 すっかり見慣れた「もっと食べたい」という顔で見つめてくるパーティメンバーの視線から焼き立てのケーク・サレを庇いつつ、野菜室で冷やしておいたオレンジを掲げてみる。

 途端に8つの瞳がそちらに注目するのだから、素直というか何というか……。


 ついでに、オレンジの皮は干しておいて、もぐさホットパックの材料にでもしましょうかね。


 中の果実まで切らないように気を付けつつ、少しずつオレンジの皮を剥いでいく。

 ……余裕があれば、マーマレードジャムとか作ってみたいなぁ…………クレープシュゼットとかも美味しいよね……作ってみたい料理は山のようにあるからなぁ。

 次のご飯のメニューを考えつつ、少しずつ少しずつオレンジの山を築くのだった。


閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。


某狩りゲームの猫コックは偉大だ、と、改めて思いました。美味しそうに作るもんなぁ。

そして、その旦那さんも美味しそうに食べるなぁ、と思いましたよ、ええ!

もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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