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新しい朝が来た 空腹の朝だ

7月9日 追記

内容を書き換えました。

 えー。現在時刻は朝の5時半です。辺りはすでに明るくなっていますが、まだうっすらと霧が残っていたりして、いかにも『早朝!』という雰囲気が色濃く残っております。

 そんな時間に起きてるの? と言われそうですが、起きてるんです。起きちゃったんです。


 ……正直あんまり眠れなかったんですが、朝日が昇ったあたりで開き直って、朝マズメのミルクトラウト狙おうと思ってたんです。

 ……思ってたんですけど……。



「本当にすまなかった! 礼を言う!!!」


「あ、いや、そんな大した事してないので大丈夫です……あの……すみません。いたたまれないので顔上げてください」



 ロッドセットを持ってモーちゃんから降りたら、もうすでに起きていたらしい鬼ぃさんに気付かれて、土下座の如き勢いで深く頭を下げられてます。

 イヤイヤ勘弁してください。そんなにたいそうな事してないですよ!

 むしろ、鬼ぃさんが食べてくれたおかげで、今日も釣りが楽しめそうですし!!

 お願いですから顔を上げて~~~~~!!!

 

 私の必死のお願いにようやく身体を起こしてくれた鬼ぃさんは……うん、確かに、昨日と比べるとだいぶ顔に生気が戻っていた。うんうん。野外活動において、栄養補給と休憩は大事だよねー。


 ……ただ気になるのは、その手に持ってる奴……木の皮??



「あの……その木の包み、何ですか……?」


「ああ。ラージラペルの肉だ。たまたま見かけたから、狩ってきたんだ。食事と寝床の礼に、と思って……」



 鬼ぃさんの手には、経木――物を包めるよう、材木を紙のように薄く削ったもの――に包まれたナニかが携えられていた。

 首を傾げる私の前で、鬼ぃさんは経木をゆっくりと開いてくれた。中には、薄桃色をした……お肉??



「らーじらぺる?」


「デカいウサギなんだが、見たことはないか? あっさりしてるんだが、美味いから……礼に丁度いいかと……」



 聞きなれない言葉に首を傾げる私に、鬼ぃさんはさらに注釈を加えてくれた。

 おお! ウサギ肉! 一度食べてみたいと思っていたウサギ肉!

 ………………てか、貰っていいのかな……?

 別にお礼が欲しかったわけじゃないんだよなぁ……ただ単に、見てみぬふりができないチキンだっただけだし……。

 それなのに、お礼になるほど美味しいらしいお肉を貰うとか、ちょっとアカンのでは……?



「その……どうかしたか? 何か考え事をしてるようだが……ラージラペルは嫌いだったか?」 


「あ、いえ! そうじゃなくて、お礼とか考えてなかったので……あの、本当に気にしないでください」


「いや、そうもいかないだろう。貴重な食料と、寝床まで借りたんだ。命を救われてこの程度では足りないと思うが、受け取ってくれないか?」


「えっと……うん。あの、じゃあ、頂きます……」



 真剣な表情でいう鬼ぃさんに気迫負けしたっていうの半分、このままじゃ水掛け論だし……という気になったの半分で、私はラージラペルとやらのお肉を受け取った。

 血が回ってる様子のない綺麗な桃色のお肉と、薄っすら乗っている脂とのコントラストが、見るからに美味しそうなお肉だ。

 

 なんていうか……食料は何というかちょっとは確保できてるし、寝床も別にあったんです!

 …却って気を使わせて申し訳ないッス…。



「そういえば、どうしてあんな感じになっちゃんですか?」


「いや……恥を晒すようで情けない話なんだが……」



 折角のお肉が体温で温まらないようタックルボックスに置くと、ふと疑問に思っていたことを聞いてみた。ちょっと長くなりそうだったので、お互いに適当な大きさの石に腰かけて、だ。立ったままだと疲れちゃうもんね。


 鬼ぃさんの話によれば、水浴びの最中に『フェレッタ』という小型の魔物に食料を含む荷物を遊び半分に持ち逃げされ、周囲にバラまかれてしまったそうで……。

 野営道具は泥まみれだけど回収できたものの食料品は食い荒らされてダメになってしまい、空腹のあまり土手っぷちの木の実をとろうとして失敗→下の川に転落→どんぶらこ~どんぶらこ~……という流れだったらしい。

 なお、せっかく回収した野営道具も、川に流されている間になくなってしまったとのこと。

 手元に残ったのは、しっかり肌着の中にしまい込んでいた身分証と旅費。そして、装備し(みにつけ)ていた軽戦鎧と武器くらいなんだそうだ……。


 鬼ぃさんマジ不運。



「え……フェレッタって、そんな危険な魔物なんですか?」


「いや。見た目は可愛いし攻撃力もさほどないし、基本的にはおとなしいんだがな……。好奇心が旺盛で群れで行動するし、すばしっこいし、器用だしで、見慣れない荷物なんかをかっさらったりしてくるんだ……」


「あぁぁ~~……イタズラ半分に絡んでくる感じですかねぇ……」


「やられる方はたまったもんじゃないがな……」



 そりゃあもう深~~~~~~~いため息をつく鬼ぃさんは、苦虫を噛み潰したかのような表情だ。悪戯半分で死にかけたんじゃあ、そうもなるとは思うけどね。


 ん? あれ? それじゃ……。



「……ってことはもしかして、今は食料品とか野営道具とかなくなって、身一つってことですか?」


「…………………………まぁ、そうなるな……」



 鬼ぃさんがガクっと項垂れた。

 ああ! ごめんなさい!! とどめ刺すつもりはなかったんです!!! ただちょっと気になっただけでゴニョゴニョ……。



「それより俺は、まずこのことを聞かれると思ったんだが……?」


「え? ああ! そういえば!! 個人的に色々ありすぎて、あんまり気にしてませんでした!!」


「……何というか……その……不必要に怖がられなくて良かったとは思うが、多少は気にした方が良いとは思うんだが……?」



 まだショックが抜けきらないのか、項垂れたままの鬼ぃさんが上目遣いにこちらを眺めてきた。その指は、鬼ぃさんの額から生える角に向けられている。


 ……………………。

 

 ………………………………ああ!!! そうね!! 鬼ぃさん、人じゃないっぽいもんね!! でも正直、昨日からあまりに色々なことが起こりすぎて、角くらいじゃあんまり驚かなくなっちゃったというか、なんというか……。

 いや、ビックリしないわけじゃないんだけど、モーちゃんとか生存戦略(サバイバル)さんに比べるとちょっと衝撃が薄いというか、その……何ていえばいいのか……。

  


「…………まぁいいか。俺は、鬼竜(ドラグール)のヴィルだ。鬼竜は……そうだな……エルフとか、ドワーフとか、人外(そんな感じの)種族だと思ってもらえればいい」


「ドラグールの、ヴィルさんですね! 私はリンです! 人間です!」



 おお! 鬼ぃさんのお名前判明です。ヴィルさんですか。なんかこう、似合ってますね、うん。

 鬼竜とかエルフとかドワーフとか……いよいよファンタジックな世界観になってきましたね……。

 

 そして私は、あえて苗字は名乗りませんでした。

 イヤ、なんかねぇ。ファンタジーで舞台になりそうな中世頃の『名字』って、なんかお貴族様とか豪農・豪商さんとか、エライ人にしかついてないイメージがあるもんで……。

 常識知らずの小娘(ただしトウは立っている)なのに名字があるとか、突っ込まれたら面倒だし、いろいろとメンドクサイことって避けたいじゃないですかぁ。


 ニッコリ笑って握手のために手を差し出すと、困ったような顔でヴィルさんがため息をついた。



「……さっきも言ったが、少しは警戒した方が良いんじゃないか?」


「うーん……素人考えですけど、もしヴィルさんが悪い人だったら、お礼のお肉を取ってきてくれたり、事情を説明してくれたり、名前を名乗ったりしないと思うんですね?」


「……ほぅ?」


「もし泥棒なりなんなりするつもりなら、私が起きてくる前に荷物を盗んで逃げればいいし、こんな人目のない所なんですから、人攫いとかなら私に気付かれないよう襲えば証拠も残らないし……」


 

 ……そう。『警戒しろ』と言われても、律儀にお礼を持ってきてくれたり、今までの事情を打ち明けてくれたりと手間を取ってくれる人が、いきなり私を害そうとするか……と言われても……うーん……。

 そんなことするつもりなら、もうとっくにヤられてると思うんだよねぇ……。


 想像の中とはいえ私なんかを相手にすることになったヴィルさんに申し訳ないけど、()るだけ()って()り逃げしたところで、犯行現場が見渡す限り誰もいないようなこのレアル湖の湖畔じゃあ、迷宮(オミヤ)入りどころか、そもそも死体すら見つかんなくて事件になんないんじゃない?

 信用させての物取り……の方向も考えたけど、今時点で何も持ってないように見える私の信用を得てから犯行に及ぶより、私とは適当に別れて他のターゲットを見つけた方がコスパが良いような気もするしね。


 ……そして何より……。



「それに、なんていうか……ヴィルさんが悪い人に見えなかったもので……」


「……う、まぁ、確かに、恩人をどうこうしようという気は天に誓ってないんだが……うーん……」



 結局のところ、今、私の目の前で複雑そうな顔で眉尻を下げるヴィルさん(おにいさん)が、何だかんだで悪い人に見えない……っていうのが一番大きい理由なんだけどさ……。

 そこまで人を見る目があるわけじゃないけど、あの聖女召喚とやらの場所にいた連中よりは良い人に見えるよ、うん!

 

 『この人を信じない』っていう選択肢だってあるだろうけど、今の私はちょっとそんなことも言ってられない状況だしね。



「あのですね……そんなヴィルさんを見込んでお願いがあるんですが、話だけでも聞いてもらえますか?」


「お願い? 俺でできることであれば、協力するのにやぶさかではないが……」


「えっと……一人旅ができるってことは、かなりお強い方とお見受けするんですが……」


「ん? ああ、そうだな。こんなヘマをしておいてアレだが、一応はこれでもそこそこの冒険者だ」



 石に座り直して、改めてヴィルさんの顔をまっすぐに見つめる。

 雰囲気が変わったことを察したのか、こちらを見返すヴィルさんの瞳にも力が籠った。

 

 ちょっと思うに、考えようによっては良い機会だと思ったのですよ。

 近くの村か町まで鬼ぃさんと一緒に行動させてもらって、私からは食料と寝床を提供し、鬼ぃさんに護衛してもらう&こちらの世界の情報を貰えればWin-Winなのでは!? と……!



「冒険者! やっぱりそういうのがあるんですね!!!」


「あ、ああ。ある程度の規模の町や村にギルドや支部があるが……どうかしたのか?」


「いえ……ちょっと事情がありまして、そういったものは縁がなかったもんですから」



 でも、そうか。やっぱり『冒険者ギルド』とかあるのか! まさにファンタジー系TRPGの世界だなぁ。


 怪訝そうな顔をした鬼ぃさんの意識を引き付けるべく、私はなおも言葉を紡ぐ。



「えっと、それでですね……えー……そちらの目的地に着くまでで構いませんので、食料と寝床を提供しますから、街の様子なんかを聞かせて頂くことはできますか?」


「は……? あ、いや……俺としては願ってもない話だが、大丈夫なのか? 見たところ大した荷物もないようだが……?」


「あ。私は何というか、えー…………食べられるものを見分けられるスキルとかいろいろあるので、現地調達が可能なんですよ」


「本当か!? 俺みたいな大食漢からすれば、そのスキルは羨ましいな!」



 ウソは言ってない。生存戦略(サバイバル)さんは食べられるか否か教えてくれるし、『色々ある』うちにはモーちゃんだって含まれてるし……。

 ほんの一瞬、瞬きを忘れた鬼ぃさんが、次の瞬間高らかに笑いはじめた。

 そうだよねー。生存戦略(サバイバル)さん、有能スキルだよねー。戦闘には一切役立たないだろうけどさ。

 何てったって、生存戦略(サバイバル)さんときたら、寝る前にちょっとその辺歩いてたらいきなり真っ赤なアラートが出て、何かと思えば足元にある草が鋭くて太い棘のある毒草だったりと、私が気付いてなくてもオート警告までしてくれるんだぜ!


 ……モーちゃんもすごいけど、生存戦略(サバイバル)(さんかっけー)

 そんな生存戦略(サバイバル)さんからの赤枠(警告アラート)が出てないから、ヴィルさんは安全な(しんじてもいい)んだろうなー、っていうのも、ある。


 ただまぁ、アレか。もし同行させてもらえるというのであれば、モーちゃんのことも黙ってはおけないと思うので、頃合いを見て話そうと思います。

 それまでは何とかごまかそうとは思っているんですけどね……。



「そんなワケなので、もしご迷惑でなければ同行させていただけるとありがたいんです。ちょっと事情がありまして、こちらの知識があまりないもので……」


「いや。そちらに支障がないなら、俺としては願ったり叶ったりだ。よろしく頼む!」



 ニッコリ笑顔とガッシリと力強い握手は、万国共通の親愛の証ですよね!

 何はともあれ、清々しく爽やかな共闘宣託締結の場面をブチ壊した鬼ぃさん……ヴィルさんの腹の虫を治めつつ、詳しい話をしていきたいと思いますよ。

閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。

できるだけ雰囲気に近づけたいのでいろいろと調べているのですが、あんまり蘊蓄ばっかりでも面白くないよね、と思う自分がいます。

皆さんに読んでいただいた時に、少しでも面白いと思ってもらえる文章を書いていきたいです。


もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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