さあ、ファンタジーらしくなってきましたよ? 命の保証がない所とかね!
ヴィルさんが言っていた通り、二人がかりでの積み込み作業はあっという間に終わってしまった。
ヴィルさんが車外に身を置き、私は車内に陣取って、バケツリレーの要領で荷物の受け渡しを行ったのだ。
いつもであれば、すぐに入り口付近に荷物が積み上がりすぎて次の荷物が積めなくなって、それを整理しては積み、整理してはまた積みを繰り返してたんだけど……それをしなくていいだけでこんなに楽だとは……!!
「な? 二人なら早く終わるだろ?」
「はい。思った以上に早かったです! ありがとうございました!」
冷蔵庫や収納庫にきっちりと物品を収め終わっても15分もかかっていないとか、普段の私なら考えられないスムーズさだ。
これも、3Dパズルが如く冷蔵庫に於ける食材の収納場所をきっちりと考えてくれた、ヴィルさんの空間把握能力の賜物だろう。
暴食の卓のリーダー、マジで頼りになるぜ!
「よし。それじゃあ俺はアイテムを取ってくる。他の奴らもそうしてるだろうし、30分後に大門前で合流しよう」
「わかりました! でも、お礼……というワケではないんですが、お腹抑えのオヤツ作るんで、持ってってください!」
「……ん? なんだ、これ……ダンジョン用の食料だろう? 今食っていいのか?」
「お店の人がおまけしてくれた分なので、食料計画外のものですし、そもそも大して量もないのでケンカになる前に証拠隠滅しちゃおうかな、と……」
ふーっと一息ついたヴィルさんに麦茶を渡した時、そのお腹の虫が不穏な音をあげ始めたのが聞こえたんだ……。
手伝ってもらっておきながら、空腹の人を手ぶらで準備に行かせるとか、そんな不義理しちゃあダメだ!
さっきの買い物の最中に、売れ残りだからとお店のおばちゃんがオマケしてくれたピタパンに手を伸ばし、ヴィルさんの目の前で掲げてみた。
「いいのか」といいつつも、期待の色に満ちたイチゴ色の瞳がキツネ色に焼けたパンを追って動くのが何とも可愛い……ように見えるから困るんだよなぁ……。
売れ残りというだけあってこれ一個だけだし、パーティみんなで分けて食べるには圧倒的に量が足りなくてケンカになるかなー……と思ってたヤツだったからちょうどいいや!
ピタパンを包丁も使わずに手でざっくりと二つに割って、ぽっかり空いている空洞に空き時間に作っておいたハールベリーのジャムをざっと塗る。
よし! 1分かからずにジャムパンの完成ですよ!!
……え? ピタパンの空洞にはおかずを詰め込むのが正義だろう、って?
私もそう思うけど、一刻を争う事態の時に悠長におかずを作る程、考えなしじゃないからなぁ……。
冷蔵庫の中の残りのハムを使う……ってことも考えたけど、アレはダンジョン用の食料に回したいというかなんというか……。
それに、炭水化物+糖分の組み合わせは手っ取り早くエネルギーになるから、当座の活動用熱量としてはちょうどいいかな、って。
「そういうことか。それならもらおう……他の連中には黙っておけばいいんだろう?」
「そうですね、このことはぜひご内密にしていただけると有難いです」
「なるほどなるほど……秘め事を抱えるとは、ウチの料理番もなかなかワルのようだなぁ」
「いえいえ……パーティーリーダー様と比べましたら、わたくしめなどまだまだ……!」
「この頭の黒いネズミは口も回るようだな! さて、それじゃあ、また大門前で!!」
何ともワルそうな笑みを浮かべたヴィルさんが、ペロリとジャムパンを平らげ、残った麦茶も飲み干して……ついでと言わんばかりに私の頭をくしゃりと撫でて、荷物を取りに預り所の方へ向かっていった。
……なんていうか、『二人だけの秘密☆彡』とかいうと何とも甘酸っぱいけど、『二人きりで密談』ってなると一気にご用改め案件だよね、わかります。
ま、非常事態だろうが何だろうが、こういう茶番は大好きですよ、ええ!
「それじゃあ、ついでに買い物しながら大門前に行きますかね……」
ボディバッグに風呂敷を忍ばせて、野営車両を解除する。
さっき少し試してみたんだけど、どうやら私が移動をするときは野営車両の顕現を解除しておかないと、顕現したその場から移動しないっぽいんだよね……。
まぁ、大した手間でも何でもないからいいんだけど。
先を急ぎつつ、目を引いた食材を手に持てる範囲で買っていく。瓶入りの牛乳が買えたのは幸いだったなあ!
「あ、アリアさんとエドさん! もういらしてたんですか?」
「ん! 準備、万端!」
「オレたちはそんなに着替えにくくないからねぇ」
瓶を割らないように、追加商品を潰さないように、気を付けながら急ぎ足で大門前に向かえば、そこにはもうすでにメンバーの姿があった。
エドさんは正直そんなに装備が変わった感じがないんだけど……えっと、アリアさん??
なんていうか、上着の袖口とかズボンの裾とかがめっちゃふわっとフレアな感じの白いアオザイ……といえば伝わるかなぁ?
上半身は体のラインに沿ってぴったりと縫製されていて、あのけしからんお胸がさらにけしからん感じになっているわけですよ!
下半身はふわっとしてるからその対比もあってめちゃくちゃ可愛いんだけど、スリットが脇腹近くまで入ってて、そこからちらちら雪の如き白いお肌が覗いてるのがめっちゃたまらん!!
アリアさんの儚げで透明感のある佇まいにめっちゃピッタリなんですが……!!
しかも、あれ、何だろ……額のところ、ラインストーン的な感じの赤いモノがチラチラ見えるんだけど……??
「……ん……複眼、的な……?」
「ふくがん……ルビーみたいでキレイなモノなんですねぇ……コレがあるとよく見える、とか?」
「そう。気配とかも、より感じられる…………今だと…………セノンが後ろから、来てるでしょう?」
「えぇ! そんなのもわかるんですか!! 凄い!!!」
私の視線に気づいたのか、アリアさんが前髪をちょっと上げてくれた。
眉間の上あたり……額中というツボの辺りに一つと、その左右に一つずつ。そして眉頭のちょっと上に左右それぞれ一つずつ、ルビーのような小さな珠がついていた。
全体的に色素が薄いアリアさんの中で、この複眼だけがはっきりとした色合いを持っている。
そのうちの一つがキラリと光ったかと思うと、アリアさんが教えてくれた通り、アリアさんの背中側の道からセノンさんがゆったりとした歩調でこちらに近づいてくるのが見えた。
「おや。リンも来ていましたか。たっぷり買い込めましたか?」
「お陰様で、ある程度の行程には耐えられると思います」
「それは重畳。あとはヴィルが来たら出発するだけですね」
なお、セノンさんもいつもは淡色のローブ姿だったものが、チョハ……とかいう暗色の服に、宝玉が付いた曲がりくねった木の杖……という、えらくファンタジックなお姿になっておられましたよ。
アリアさんもそうなんだけど、着ている人が絶世の綺麗可愛い美女と王道の美形エルフということで、まったく違和感がないのがすごい……。
「おう。集まってたか!」
「噂をすれば、ですね。リーダーが一番遅くてどうするんですか」
「やっときたな!それじゃ、出発するか?」
「ああ。目的地は街の近くだ。道中はさほど気にしなくていいとはいえ、最近はイレギュラーなことが起こりすぎる。気は抜くなよ?」
「ん! がってん!」
喧騒を抜けてやってきたヴィルさんの恰好は………………私の目からはいつもとあまり変わりはないように見える。
鎧に使われている革の色が違うのと、肩防具や籠手などの具足が増えていること……あとは、武器がツーハンデッドの大剣に変わっていること……が変更点だろうか?
使われてる素材のグレードがアップしてる……とかかもしれないけど、私にはさっぱりだよ……!
何はともあれ、暴食の卓全員集合ですよ!
現在もまだ平々凡々と過ごす街の喧騒を壊さぬよう、固くなりがちな表情筋を叱咤して大門を潜り抜けた。
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
ダイスが荒ぶった結果、ダンジョン内部でのイベントがもの凄いことに……(´・ω・`)
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