スクランブルするのは卵だけで十分だ!!!
『緊急事態』と言いつつも、平静を装うシーラさんやパーティのみんなの態度が功を奏しているのか、街の人の様子に変化はない。
みんな楽し気に、忙し気に、それぞれの生活を送っているように見える。
……ってことは、たぶん、大規模な魔物暴走が起きそうとか、戦争が起きそうとかではないんだろうな……。
緊急事態とはいうものの、規模はそれほど大きくないってことかな? それとも、今は小事だけどゆくゆくは惨事につながる恐れがあるから緊急に対処が必要な事態ができた、とか……?
いずれにせよ、シーラさんが暴食の卓を案内しているということは、私たちの手に負える事態ではありそう……っていう認識で良いんだろうか……?
「突然の申し出に応じていただいてありがとうです! マスターの所に案内しますです!」
取り留めないことを考えているうちに、気が付けばギルドに着いていたようだ。ペコリと頭を下げたシーラさんがギルドの扉を開けてくれた。
何日かぶりに来た冒険者ギルドは、昼間のせいだろうか。この間夜に来た時よりも格段に込み合っていた。
むくつけき獣耳筋肉野郎共から、凛とした完全獣型お姉さん、妖艶な下半身蛇系美人さん、すらっとしたイケメンやらダボつくローブを纏った少年少女まで……目に付くだけでも十人十色の外見の冒険者さん達が、依頼を探したり達成報告をしたり情報交換をしたりと非常ににぎやかだ。
んー……パッと見た限り、ギルドの方もそこまで差し迫っているような感じはないなぁ……。
ぱたぱたと小走りで案内してくれるシーラさんからのみ、切羽詰まったような雰囲気が見て取れるくらいだ。
首を捻りつつ辿り着いたギルマスさん……トーリさんの部屋は、先日お邪魔した時とは裏腹に堆く積まれた本や巻物、書類があちこちに置かれていた。
そんな部屋の中で、今にも哀を叫び出しそうなギルマスさんが巻物を片手に唸っている。
「暴食の卓さんが来てくれたですよ、マスター!」
「ああ、暴食の卓か! 来てくれて助かったぜ!! すまんが、適当な所に座ってくれ!」
シーラさんの声に反応したギルマスさんが顔を上げて、元々はソファーの辺りを指さしてくれた……んだけど……。
「座る場所がねぇよ! 書類くらい片付けろよ!!」
「ああああ……ごめんなさいです! ちょっと目を離してたらあっという間に散らかっちゃったです」
「トーリさん、片付け苦手そうだもんねぇ……シーラちゃんが片付け手伝ってるんだっけ?」
「大丈夫。シーラは、悪くない」
「そうですよ。貴女は誰かを呼びに行くためにこの部屋を離れたんですから、そこ以降の部屋の状態についてはあそこのギルマスにのみ責任があることです」
「…………いや、でも、調べ物の最中に資料が散乱する案件、わかる気がします……」
……うん。ソファーも本やら何やらで埋まってるよね。
吼えつつも片づけを始めたヴィルさんに倣って、私もソファーやらミニテーブルの上に散乱した紙類を纏めてみる。
ペコペコと頭を下げつつシーラさんが手伝ってくれるけど、その台詞を聞くにシーラさんがこの部屋を片付けてたんだろうなぁ……。
そんなシーラさんへのフォローをサラリと入れられるエドさん達は本当にコミュ力の塊だと思いますよ、ええ。
ちなみに、片付けに参加してはいるものの、私はどうしてこの部屋がこんなに散らかってしまったのかが何となく推理できてしまう……。
恐らく、案件Aを調べてる最中にまた別件で調べなきゃいけない案件Bが出てきて、「まだ途中だから……」と案件Aの資料を出しっぱなしのまま案件Bを始めて、「また使うかも……」と案件Bの資料も出したまままた案件Aに戻って……という過程を繰り返していくうちに資料の置き場所がなくなって、そうなれば資料を別の場所に適当に置き……と。
悪循環を繰り返しに繰り返していく中で、机が埋まり、床にも資料が詰まれ始め、時々雪崩を起こしつつ部屋の中に広がっていき……この惨状が生まれたんじゃないかな……?
……え? やけに具体的だな、って? 私がそうだからだよ!!
整理整頓能力に関して、トーリさんからは同類の香りがするんだもん……。
多分、調べ物が終わったらさっと片付けられるんだけど、終わるまではどうしても資料が散乱するタイプだと思うんだよなぁ……。
「リンも片付けが苦手なのか? 料理の手際を見る限り、段取りやら整頓やらは悪くないように見えるが……?」
「料理に関することなら、使い勝手を考えた収納やら整理整頓やらもできるんですけどねぇ……料理以外の家事はあんまり得意じゃないです」
「そう、なの? 台所とか、キレイだと思う……けど?」
「……まぁ、掃除も洗濯もできなくはないですからねぇ………………あの……やっぱり料理以外の家事もできた方が良いですよね?」
机の上にも下にも転がった巻物を集めていると、床に散乱した書類を拾っていたヴィルさんと目が合った。
そんな不思議そうな顔をされても……。
正直に言えば、そこまできれい好きというわけでもないし、収納のエキスパートというわけでもないのですよ、ええ。
そりゃあ、職業柄、衛生面や清潔感的な所は気を配ってはいたけど、「毎日掃除されていてピカピカの部屋!」とか「きちんとアイロンがかけられたパリっとした服!」……っていうのはムリムリムリムリ!
コロコロ&床用ワイパー万歳! 形状記憶シャツ万歳! いざとなったらクリーニング屋さんへGO! ……な生活でしたよ。
そんな中、趣味と実益を兼ねていたせいもあって、料理だけはマメにやってたんだよねぇ。
もし『生活能力』とかいうステータスがあったとしたら、技能ポイント的なものは料理に全振りしてたんだろうな、うん。
………………い、今更ながら心配になってきたんだけど、こんな裏方で大丈夫なんだろうか……?
「大丈夫だ、問題ない。洗浄魔法があれば、洗濯も掃除も大した問題にはならないからな」
「ん! 埃じゃ、死なない! けど、お腹がすいてたら、戦えない!!」
「ええ。服が汚れようと死にはしませんが、空腹は身体能力も思考力も精神力をも蝕んで、死を招きかねませんからね」
「オレらねぇ、料理以外は割とできるからさ! リンちゃんは料理、オレらはその他、でいいじゃん!」
「あ、ありがとうございます……! 料理だけはできるので、ご飯当番頑張ります!!」
不安が顔に出ていたのか、すかさずみんなからのフォローが入った。
え……マジか! みんな私と考え方が似通ってる!?
ああ、だからこんなに早く打ち解けられたんだな……! 私たち、食いしん坊仲間なんだな……!
もの凄く今更だし、改まって思う事でもないんだろうけど、私、暴食の卓で上手くやっていける自信が湧いてきた! ものすごく湧いてきた!!!
誰とはなしに差し出された手を取れば、次々に掌が重ねられる。
うん。私、やるよ! 美味しいご飯作るよ!
「……………………お前ら、パーティ内の絆を深めるのはいいことだが、そろそろ座ってくれないか?」
「暴食の卓の料理番がせっかくやる気になったんだ。邪魔はしないでほしかったが?」
「緊急事態だ、って言ってんだろ! 野良ダンジョンだ! 魔素の乱れもゆがみもない場所に、突然ダンジョンが湧いて出てきやがった!!」
「何だと!? そんな馬鹿な話があるかよ!」
「実際に生えてきてんだからしょうがねぇだろ! 経緯を話すからさっさと座りやがれこのバカガキ!」
お? 何だか一気に部屋の体感温度が下がりましたよ?
今までの茶番が嘘のようにさっと席に着いた皆さん+私にシーラさんがお茶を持ってきてくれたんだけど、その湯気すら凍らんばかりの雰囲気ですよ?
野良ダンジョン? 生える??
よくわかんないんだけど、ダンジョンって湧いたり生えたりするモノなの?
それに、ダンジョンができて何か問題でもあるの?? ん?????
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
これで少しは動き始めたでしょうか? ファンタジーと言えば、ダンジョンは切り離せない気がするゲーム脳です。
ダンジョン産の素材でできそうなご飯を考えていると、ついつい時間がたってしまいます。
速くそのシーンまでたどり着けるよう頑張ります。
もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。





