ウチのパーティは、朝ご飯はしっかり食べる派が揃っています
火熊討伐時の報酬額をちょこっと変更しました。
金額やら依頼金の相場に関しては感覚頼りのところが大きいため、あまり深く考えないでいただければ幸いです。
結局のところ、心配していた睡眠妨害は杞憂に終わり、皆さんが起きたのは料理が出来上がる頃合いでしたよ。
ぐっすり眠れたようで何よりですな!
「……起きたら、ご飯ができてるって…………幸せ……!」
「わかりみしかありませんね。実にありがたいことです」
今、私の目の間では、起き抜けにもかかわらず旺盛な食欲を見せるアリアさんとセノンさんが、それはもう見事に綺麗な所作で驚異の食欲を見せている。
信じられるか? 動作自体はめっちゃ優雅かつ優美なのに、瞬く間に器の中身がなくなっていくんだぜ……?
周囲を漂うキラキラのイケメン・美女オーラが霞んじゃう程度には残念だよ!
「今日もアリアが可愛い……! リンちゃん、ありがとうね。アリアが喜ぶことは何でもしてあげたいんだけど、どうにも料理だけは相性が悪くてさぁ」
「……わたしも、お料理苦手……エディがお腹壊すのは、もうヤダ……」
「あなた方が作るモノは、到底料理とは呼べない代物ですものねぇ……」
「セノンも人のことは言えないだろうが」
相も変わらず頬っぺたが落ちそうな程に表情を緩ませたエドさんの言葉に、スプーンを咥えたアリアさんがしょんぼりと肩を落とし、そこに追い打ちをかけるセノンにヴィルさんが歯止めをかけていくスタイルが展開されている。
その間も器の中身とお鍋の中身の両方が、ものすごい勢いで減り続けているのは流石というか何というか……。
あの後、冷蔵庫の調味料入れから固形コンソメをも発掘してしまった事により、水増ししたせいで薄れたコクを補えたのが良かったんだろう。パン粥的な具沢山スープは昨日と負けず劣らず、旨味たっぷりに仕上げることができた。
むしろ、魚介だけでなく肉系の要素が加わったことで、旨味の相乗効果……というのだろうか……よりコクが深いような気さえしてしまう。
そんなスープに浮かべたバターで炒めたバゲットは、最初のうちはカリカリガリガリ軽快な歯触りを楽しめるし、だんだんスープを吸ってじゅくじゅくになっていくのも美味しい。
パンが湿気っちゃった場合はフレンチトーストに……っていうのが定石だろうし間違いのない美味しさだろうけど、こうやってスープに入れちゃうのが一番手っ取り早いんじゃないかな、と私は思う。
「今日は特に依頼を受けてもいないし、朝飯を食い終わったら火熊と見回り任務の報酬を分配するか」
「そういえば、報酬出てたんでしたっけ? なんかいろいろあってすっかり忘れてました……」
大鍋いっぱいに入っていたスープがきれいさっぱりなくなったところで、スプーンを置いたヴィルさんが思い出したように呟いた。
あー。報酬の件、すっかり忘れてたわ!
だって、火熊の件でギルドに行ってお泊りして、そこから見回りの現場に直行して、シャチ事件があった上にそのまま打ち上げに移行したもんで、報酬の件を思い出してる暇もなかったんだよねぇ。
私の記憶が正しければ、提示された金額はそこそこに良いお値段だった気がするんだけど、どうだろうか?
6割分でも結構手元には残るだろうし、ヴィルさんに借りていた宿代をお返しした上で余裕があるようなら服とか下着がちょっとほしい、かな……。
……毎日洗浄魔法をかけてもらってるから服も体もキレイなんだけど、着たきりスズメは流石に、ちょっと……。
生地も傷むし、替えの服は必須だと思うんだけど、贅沢なのかな……?
それと、個人消費用の食料品とかも買いたいし、何だかんだで街には行きたいなぁ。
「とりあえず、火熊の緊急討伐依頼報酬で金貨5枚、見回り任務で銀貨5枚……が今回の総額だ」
食べ終わった食器を片付けようとしたら、今回はエドさんが食器とテーブルの両方に洗浄魔法をかけてくれましたよ!
そんな綺麗に片付いたテーブルの上に、ジャラリと硬質な音と共に報酬が入っているらしい革袋が鎮座した。
えーと……確か総額の2割が共同資金としてプールされるから、金貨1枚と銀貨1枚分が共同資金分。
残りを5人で等分して、銀貨8枚に銅貨8枚分が一人頭の取り分。
私の場合、更にそれの6割だから、銀貨5枚と銅貨3枚と鉄貨8枚……。
…………で、いいかな? いいんだよね? 合ってるよね!?!?
「リンちゃん、もう1人前分もらっちゃったら? オレが言うのもアレだけど、誰も反対しないと思うよ?」
「そうですね。報酬はパーティ離脱の一因になりかねません。食事も移動も物流も賄える貴重な人員は、これを機に囲っておくべきだと思いますよ」
「ん。リンのご飯、美味しい! リンのいない生活には、もう戻れない……! いなく、ならないで!!」
例によってメモ帳の端でガリガリと筆算していた私の手元を覗き込んだエドさんが、にっこりと無邪気な笑みを浮かべてとんでもないことを言い放つ。
予期せぬ言葉にハッと頭を上げれば、セノンさんが静かに頷きつつエドさんの主張を裏付けし、隣に座っていたアリアさんにものすごい勢いで抱きしめられた。
え……えぇぇぇぇー!?!?
いや、え……そんないきなりの賃上げとか、私の心の準備が……! それに、パーティリーダーの許可もないわけで、そうそう簡単にお賃金が上がるわけがないのでは……??
「そうだな。昨日話し合ったんだが、俺は……いや、暴食の卓に、お前を手放す気はさらさらない。そのための策は、いくらでも講じさせてもらうぞ」
若干深みを帯びた低い声と共に、私の目の前に銀色の硬貨が8枚と、赤銅色の硬貨が8枚きっちり積み上げられた。
おそるおそる視線を上げれば、イチゴ色の瞳をわずかに眇めたパーティリーダー様が、唇の端だけを吊り上げるようにして、ぱっと見悪役じみた顔で微笑んでいた。
昨日話し合ったって……もしかして、私が寝ちゃった後に、ってこと!?
「あの……別に、前のお給料計算のままでも、このパーティから離脱しよう……とは思ってないんですが……?」
「そうは言うが、取り分は多いに越したことはないだろう? それに、細かい計算が面倒なんでな……ここは俺を助けると思って飲んでくれると助かるんだが……」
すすっと余剰分を戻そうとした私の手を押しとどめたヴィルさんが、わざとらしく肩を竦めてみせた。えぇー……ヴィルさんが計算苦手そうには見えないんですが……。
ついでと言わんばかりに手を取られ、掌に改めて硬貨を乗せられた挙句にそのままぐっと握らされてしまう。
助けを求めるように他のメンバーを眺めてみれば、みんなイイ笑顔で頷くだけで…………。
……あー……コレはアレですわ。私がどうあがこうが、決定事項ですわ。
「リン。お金貰ったら、一緒にお買い物……行こ? 服とか、いるでしょ?」
「あ、買い物いいなぁ! オレも行きたい!!」
「ここで寝泊まりもできるという話も聞きましたし、寝具なども買い揃えた方が良いでしょうね」
「そうだな。いっそ皆で必要なものを買い揃えるか」
呆然とする私をよそに、どんどんと話は進んでいく。
お給金が上がるのは嬉しいんだけど、何らかの外堀をどんどん埋められているように感じるのは気のせいなんだろうか……??
…………。
…………………………。
…………うん! 考えても埒が明かないし、考えてもどうしようもないことを考えたってしょうがない!
とりあえずお給料が上がったことを喜んだ上で、お買い物タイムを満喫することにしようっと!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
未だに「ストーリーってどう進めればいいんだっけ!?」と自問自答しながら書き進める毎日です。
作者の地頭が良くないため、お給料計算を単純にすべく主人公のお給金アップイベントが勃発してしまいました。
……まぁ、ゆくゆくは昇級する予定でしたし、(時期はともかく)シナリオ通り、と思っておくことにします。
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