表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/134

エビで鯛を釣るよりも、そのまま食べてしまいたい

 個人的に、ブイヤベース風スープにパンを浸して食べるのが気に入りました。

 外がカリカリ、中はスープを吸ってじゅっとりしてるパンを噛みしめると、炭水化物のありがたみが非常に身に沁みますよ!


 さあ。宴もたけなわではございますが、そろそろエビも食べ頃だと思うのですよ!!

 何しろさっきから香ばしい匂いがふわふわを通し越してブワブワと漂ってきていて、もうたまらんのです!!



「えーび、えーび、え~~~~び~~~~~♪」


「ご機嫌だな、リン」


「だって、エビですよ、エビ! もう大好きです!」



 荷物置き場から革手袋を引っ張り出して、ぎゅぎゅっと両手に装着する。

 野外活動と言えば軍手! ……という向きもあるだろうけど、私は断然革手袋を支持したい。

 何しろ厚みがある分火にも強いし、薪を手で折る時にも痛くなりにくいし、怪我をしにくいし……!

 

 「そうは言ってもゴワゴワしてるでしょう?」という声も聞くが、私が使っている革手袋は老舗の作業用品問屋さんが素材から作り方から拘って作り上げた製品だけあり、めちゃくちゃ使い勝手が良いのですよ!

 パッケージを開けた時点でもう柔らかく手に馴染むのに、国内鞣しの牛革はしっかりと厚みがあって重作業にも耐えてくれるスグレモノなんだよねぇ……。

 洗濯もできて、硬くならなくて……それでいてお値段3ケタ円というお手頃価格!


 …………あえて欠点を上げるなら、人気商品過ぎてなかなか手に入らない、ってことかなぁ……。



「せーの……よいしょー!!」



 そんな革手袋越しにこんがり焼けた伊勢ロブスターをむんずと掴み、そのままバキっと頭と胴体を折り分ける。

 真っ赤に染まった殻から、目が覚めるような真っ白な身が弾け出た。

 とたんにエビ味噌の濃厚な香りが周囲に広がっていく。


 まだ中心まで火が通っていないせいだろう。ほんのりと半透明な芯が残る身からはポタポタと肉汁が滴って、地面を黒く濡らすばかりだ。 

 残りの2匹の頭も折り取って、大型車エビもひょいひょいと皿に乗せていって……あとはドーンとテーブルに乗せてしまう。


 それにしても、運ぶ途中で覗いてみたら、大樽は半分なくなってるし、ワインはもう飲み終わってるし……もうどんだけ胃袋に容量があるんだろうか、この方々は……!



「香ばしくて良い匂いですね、頂きます」


「もうこの匂いだけでもエールが進むよねー! もーいっぱーい!」


「でっかい、エビ! かじっていい? かじっていい??」



 ワインからエールに切り替えたセノンさんの手が真っ先に伸びてきた。ほっそりとしたしなやかな手が、熱さなど全く感じていないかのように豪快にバリバリとエビの殻を剥いていく。

 真っ赤に染まった顔で陽気にグラスを掲げるのがエドさんで、ただ伊勢ロブスター一点のみを真摯に見つめているのがアリアさんだ。

 

 うんうん。やっぱりエビはみんな大好きだよね!

 そして、伊勢ロブスター的な大エビに齧りつく夢は大いに理解できますが、人数分はないので、今日はブツ切りで我慢してほしい所存ですよ……。


 隙あらば丸ごと齧りつこうとするアリアさんを牽制しつつ、伊勢ロブスターを切り分ける。プリプリと弾ける白い身肉は、赤い殻の上に咲く花のようだ。

 ついでに頭も出刃包丁で真っ二つにすれば、クリームの如きエビ味噌がトロリと溢れ出てきた。

 ……多分、このエビ味噌に焼けた身をまぶして食べても美味しいんじゃなかろうか……。



「さて。切り分けましたので、あとはお好きに召し上がれ! エビ味噌はスープに入れても美味しいと思いますよ」


「丸ごと、食べたかった!! ………………………………でも、これでもいい!」



 桜色に上気した頬をぷぅっと膨らませたアリアさんが、真っ先に伊勢ロブスターを頬張って………………さっきまで膨れていたのが嘘のように氷色の瞳を輝かせた。

 うん。美味しいものを食べると、怒ってられなくなりますよねぇ。


 セノンさんもエドさんもフォークを伸ばしてくれているようで何よりですよ!

 そして、暴食の卓(ウチ)の最大の健啖家であろうヴィルさんなんだけど………………。



「ん? どうかしたか?」


「……そんなに気に入りましたか、そのスープ?」


「ああ! 具も美味けりゃスープも美味いからな!」


「ワインやら香辛料を揃えた上で、また作ってみたいですねぇ」



 ペロリと唇を舐めつつ、ヴィルさんが顔を上げた。ひたっすら無言でブイヤベース風スープを食べていたみたいだ。

 そんなに夢中になって食べなくても、誰も取ったりしませんよぅ。


 ……それにしても、皿の上にエビやらカニやらの殻すら残っていないわけですが……まさか……。

 こっそりヴィルさんの様子を窺えば、顎が動くのに合わせてガリガリバリバリと硬いナニカを噛み砕く音が響いていた。


 …………そうですか……殻ごとですか……。うん、まぁ…………口の中を怪我しないようにだけ気を付けてくださいな、うん。

 

 またスープを掬って幸せそうに啜るヴィルさんを横目に、私は大型車エビに手を伸ばした。


 ああ、エビよエビ。法律が許すのであれば自ら取りに行きたい程度には大好きですな、エビ。

 釣りも好きだけど、素潜り漁も気になるんだよねぇ……。漁業権とか色々とめんどくさそうでやってはいないんだけど、こっちの世界ならできるかなぁ?

 でも、水着とか持ってきてないし、水中メガネとかシュノーケルとかもないし…………それに、アレだ。

 海の中であのシャチに遭遇し(あっ)たら面倒だし、素潜りは少し考えようそうしよう。


 不意に浮かんできた、人の神経を逆なでするシャチのドヤ顔を忘れるべく、私は手元のエビに神経を集中するのであった……。


閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。

なかなか更新できずに申し訳ありません。

もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ