下拵えも楽しいけれど、やはり火を使ってる時が一番楽しい!
調理実習回(ただし主人公ソロ)。
魚介の下拵え風景、調理風景の描写があります。
なお、小エビでやいのやいのとやっている間にも、出汁はしっかりと取れていた。
一回り大きなお鍋の上に置いたザルに出汁を掬っては空け掬っては空け、ザルに残ったアラや野菜もお玉でグリグリと潰してスープを搾り取っておく。
アラを煮詰めていた鍋が空になるころ、下の鍋には金色の脂がキラキラと光りつつ輪を作って浮いている、少しトロミのついた赤いスープがたっぷりと溜まっていた。
小皿にとって舐めてみると、生臭みは全くない。煮詰まったトマトの甘酸っぱさと、玉ねぎの甘さの奥にスズキのコクとローリエの爽やかさがほんのりと香る、美味しいお出汁でしたよ!
この出汁ベースに、ブイヤベース風のスープ作ろーっと!
「……具材は、どうするの……?」
「そうですねぇ……スルーイカと大型車エビ、カニとホタテっぽい貝と、シーバスの切り身の残りでも入れようかと思ってます!」
「………………もう、ね……聞いてるだけで、美味しそう……!」
「期待を裏切らないよう頑張りますよ! さて、もうひと踏ん張りしますか!」
それほど塩を入れていないのに野菜と魚の旨味が凝縮されており、物足りなさは殆ど感じない程度には濃厚なスープなんだけど、具材を入れたら薄まっちゃうだろうし、もう一摘みだけ塩を入れておこう。
ついでに、隠し味として、ほんのちょっぴりお醤油を加えて味を調えて……改めて火を入れていく。その間に、具材の準備しちゃおうかな……。
イカは、さっきと同様の下処理をしてから身をブツ切りに。肝とゲソは、別レシピに流用しますよ!
ホタテっぽい貝は、テーブルナイフを殻の隙間に突っ込んで、殻と貝柱を切り離すように動かして殻を剥いていく。
黒っぽいウロを取ったら、贅沢に丸ごとスープにブチ込む予定ですよ!
カニちゃんは、フンドシとエラを取ったら出刃包丁で唐竹割り。スズキの切り身もブツ切りに。
それぞれ切ったり割ったりが終わったら、沸騰したスープの中にちゃぽちゃぽ放り込み、ざっとだけ火を通しておけば……。
「ふー!!! スープの下拵え、しゅーりょー!!」
「ん! お疲れ、リン!」
「あ! ありがとうございます! ちょうど喉乾いてたので嬉しいです!!」
……いやぁ……流石にコレだけの量を処理するとなると、結構な時間が必要だった。
野営車両に残って下拵えをする、という選択肢を選んで本当に良かった……!
あとは男性陣が帰ってきたら温め直すだけという鍋を前に嘆息する私に、アリアさんが麦茶の入ったカップを差し出してくれた。
カップの表面に結露ができていないところを見ると、つい今しがた淹れてくれたんだろう。
お礼を言って飲み干せば、キンキンに冷えた麦茶が喉を滑り落ちていった。熱を帯びた身体が、内側からスっと冷たくなっていく。
少し熱中しすぎたかな?? だいぶ身体に熱が籠っていたようだ。若干クラリとくる視界を気力で捻じ伏せて、残った材料を眺めやる。
大型車エビの残りと伊勢ロブスターは直火で焼くから丸のままでいいでしょ? ヴィルさん達が戻ったらイカ炒めて、スープを温めて……?
「あとは……イカの丸太焼きとジャガイモの準備しておこう!」
「……まるた、焼き?」
「イカの胴体の中に肝とゲソを詰めて、丸のままオーブンで焼いちゃうんです」
いったい誰が言い出したのか、小鳥遊家では丸太焼きと呼ばれてましたよ。丸っとゴロンとしている姿が丸太に見えるから……とか何とかかんとか……。
ブイヤベースもどきで余ったゲソと肝は、こちらに流用させて頂こうかな!
2杯分の肝とゲソ、すりおろし生姜とお酒とお味噌をよーく混ぜ合わせ、イカの胴体に詰め込んでいく。隠し味にバターを1欠け、放り込んでおくと風味が良いよ!!
胴の口を楊枝で止めたら、アルミホイルでぴっちりと包んで……あとはオーブンで焼くだけ!
準備さえしておけば、放置プレイをしている間に簡単で美味しくてお酒にもご飯にもよく合うオカズができあがるのだ!!
イカさん万能である。
本当はネギとかを一緒に入れるとなお美味しいんだけど……長ネギ、こっちの世界にもあるかなぁ??
西洋ネギ……リーキだかポロネギって言うんだっけ? そういうのはありそうだから、ソレで代用とかできないかな??
そもそも、西洋ネギを食べたことがないから、代用品にできるかどうかよくわからないけどね……。
ちなみに、ジャガイモはゴロバター用のジャガイモである。
レンジでチンして蒸かしておいて、炒めたゴロバターを上からかけてしまおう……ってぇ寸法よォ!
丸太焼きは味噌味だけど、こっちはお醤油味にする予定だ。なるべく違う味付けの方が、良いでしょ?
「リン。そろそろ、帰ってくる!」
「え!? よくわかりますね、アリアさん! ……愛ですねぇ……!」
「ち、違う、もん! 網、張ってるから……それで、なの!!」
ふと窓の外を眺めたアリアさんが、にっこりと笑う。
…………あー……そっか。ご主人が帰ってくるんですもん。そりゃわかりますよねぇー…………と思ったら、どうやら索敵を兼ねて広げていたアリアさんの網に反応があったからわかったそうだ。
それを踏まえた上でも、照れる美女の何と愛らしいことか……!!
でも、もうすぐ帰ってくるのであれば、ツマミを完成させておきましょうかね!
小エビの唐揚げを二度揚げすべく残った油を熱していく。エビとニンニクの香りが移っているせいか非常に香ばしい匂いがする。
……コレ、後で炒め物にでも使おうかな……? エビ油的な感じで美味しいんじゃなかろうか……??
油が十分に熱くなったところで、バットに上げておいた小エビちゃん達に、もう一度油風呂に浸かってもらう。
じゅばばばばばば!!!!! っと油が一気に沸き上がり、濛々と蒸気が上がる。
肌を焼く小さな油の飛沫に負けずに菜箸で掻き回していれば、次第に殻が硬く軽くなっていく感触が伝わってきた。
試しに小ぶりなものを摘まみ上げ、念入りに冷ました上で口に放り込んでみた。
先ほど食べた小エビの殻の奥底に、僅かながら残っていたメリっとした湿気りがなくなって、カリカリバリバリと軽快な歯応えだけが返ってくる。
うん! これなら、お酒のお摘みには丁度いいだろう!
「リン! アリア! 今戻った! 今日は食うぞ!! そして飲むぞ!!!」
「ただいま、アリア~~~☆ リンちゃんも、ご飯ありがとうね~~!」
「ただいま戻りました、二人とも、何か変わりはありませんでしたか?」
「ん。おかえり!」
エビの唐揚げを皿に盛り終えた丁度その時。
開けっ放しにしていた野営車両の入り口に、賑やかな声と共に大荷物を抱えた男性陣が戻ってきた。
………………あれれー?? 出発時よりも荷物が増えてるように感じるのは私の気のせいかなー?? あれー???
何で小振りとはいえ酒樽抱えてるんですか、ヴィルさん?
パンが山盛りになった籠と一緒に抱えられてるその花束は何ですか、エドさん??
明らかに蓋が閉まっていないクーラーボックスに、何を入れてきたんですか、セノンさん???
「何はともあれ、お帰りなさい! 乾杯用のオツマミ、できてますよ!」
荷物のことはまぁさておいて。
みなさん無事に帰ってきてくれたのなら、それが一番ですよ!
まずはゆっくり、乾杯から始めましょうか!!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
書いていてエビが食べたくなりました……(´・ω・`)
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