反逆の逆戟
目の前に広がる白い砂浜と、青い海……そして浜辺に寝転がるメリハリのきいたダイナマイトボディ……。
「……えっと………………シャチ?」
「沖に棲まうモノと呼ばれてるな」
10M程はあろうかという流線形の身体に大きな背びれとヒレ、白と黒のコントラストも鮮やかな…………。
……うん。どっからどう見てもシャチだね。浮き具の定番の、アレだね!
それがビチビチと浜辺でのたうち回っていて、その周囲では冒険者に皆さんがソレを海に還そうと押したり引いたり力を合わせて頑張っている。
……けれども、カブは抜けまs……もとい、シャチは動きません。
え、何コレ? めっちゃシュールなんですけど!!!
『……娘よ……そこの娘よ……聞こえますか……? ……今、貴女の心に直接話しかけています……』
「こ、こいつ、直接脳内に!?」
『調子に乗ってジョニーと波乗りをしていたら、陸に乗り上げてしまいました……』
「誰だよ、ジョニー!? そして波乗りするのかよ!? 天使になってとか言うつもりか!?」
「あー……落ち着け、リン……。沖に棲まうモノは強力な精神感応力を利用して、人をからかって遊ぶのが好きな連中なんだ……」
年若いようにも、お年を召したようにも、男のようにも、女のようにもとれる、不思議な声が脳内に広がった。
「何事!?」と思って周囲を見回せば、存外につぶらなシャチの瞳が「悪戯成功!」と言わんばかりの色をたたえているのに気が付いた。
咄嗟に突っ込み返してみれば、更にその色が濃くなった。
鋭い歯が生えた口元がグニャリと歪んでいるが、これは、もしかして……笑ってる、のだろうか?
……え、えらく狂暴な微笑みですね!
ポンポンと投げかけられる言葉をポコポコ打ち返して見せれば、半ば呆れたような顔のヴィルさんが間に入ってくれた。
……ってか、精神感応力って……! 恐ろしい能力をお持ちですね!!
『娘よ。お礼はしますので、助けて頂けませんか?』
「……ああ、だからこんなに人が集まってるんですね……」
『皆さん、報酬を約束したら集まってくださいましたよ!』
「……というわけだ。今は少しでも手が欲しい。手伝ってくれるか?」
「わかりました。このまま見殺しにするのも気が引けます、手伝います!」
腕時計を見れば、満潮までまだ1時間以上ある。
このまま陸に上がったままだったら、満潮を待たずに肺が自重で潰れて死ぬか、体温が上がって死ぬか、衰弱しきって海に戻っても力尽きるかのどっちかになる可能性があるか……。
このまま放置しておいて、死んだら食べる……とかも一瞬考えたけど、イルカ系はクセがあるし、それを思えば血抜きとかしてない肉はちょっとねぇ……血生臭そうだよねぇ……。
……それにしても、大きいものでは10トン近くになるというシャチを人力だけで海に戻すって……いったいどうすればいいんだか……。
押しても引いてもビクともしなさそうだし、アリアさんの網に絡めて引っ張ったところで身体が傷つくだけだろうし……なにか、こう……ないかなー??
でも、とりあえずは体表冷やしてあげないといけないよね……だいぶ乾いてる感じがするもの……。
「エドさん、さっきの水キューブって、また作れますか? 作るのが大変なら別の方法を考えるので大丈夫なのですが……」
「水キューブ? うん。簡単に作れるよー。でも、どうして?」
「水キューブで水をぶっかけて、定期的に体温下げてあげた方が良いかもしれないです」
『よく気が付いてくれましたね、娘よ! 私の珠のお肌が日に焼けてしまう所でした……!!』
「…………塩コショウとオリーブオイルでこんがり焼いてやろうかこのシャチめ……」
私の言葉を聞いたエドさんが、さっきよりも大きな水キューブを作ってはシャチの上でパシャパシャと弾けさせてくれた。
ヴィルさんとセノンさんは、水が弾ける前に冒険者の人たちをシャチからいったん離れさせてくれている。
チームワークいいなぁ。阿吽の呼吸、って感じ!
幾分瑞々しさを取り戻した肌に、シャチが嬉しそうな声を上げるんだけど……なんかなー……微妙に腹立つんだよなぁ、このシャチの言動……!
まぁ、これでしばらく体温維持と乾燥の対策はできるとして、問題はこの巨体をどう動かすか、だよ……。
「そもそも何で陸に打ち上げられてるんだろうか、このシャチは……」
『冒険者の方々を脅かそうと思って、海中から浜辺への這いあがりを仕掛けた結果がこのザマですよ☆彡』
「自業自得じゃん!!!!」
……ダメだ、このシャチ……早く何とかしないと……。
そして、自分たちを驚かそうとした犯人を、報酬が出るとはいえ助けようとしている冒険者の皆様は、優しいというか現金というか……。
っていうか、愉快犯はもう、ここで始末しちゃった方が冒険者の皆さんのためになるのでは……??
こんな悪戯しかけてくるのを野放しにしておいたら、いつか死傷者が出てもおかしくない気がするんですが……。
「リン……一応、コレ、幸運の使者、って言われてる……」
「悪戯は好きだが、遭遇すれば獲物や報酬を恵んでくれたりもするんだ」
「あぁー……トリック・スター的な感じですか? また何とも微妙な立ち位置ですね」
『ふふふ……私は冷酷で冷徹なハンターであり、慈悲深い王者なのですよ、娘よ』
眩しい日差しに照らされて、浜辺の人間の視線を独り占めするシャチがドヤァっと胸を張りつつヒレをピコピコと動かしている、
……やっぱり腹立つな、このシャチ!!! 野営車両の台所から、ちょっと出刃包丁取ってこよう……。
お前を竜田揚げにしてやろうか!?
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
ああぁぁぁ……久しぶりに海に行きたいよう……遠泳したいよう……orz
もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。
 





