イカすイカ イカ尽くし 心尽くして喰らう件
今回はイカ尽くしです。イカの解体風景、調理風景、イカ料理などの要素がてんこ盛りです。
苦手な方はご注意ください。
後書きに3行しておきますので、イカやら何やらが苦手な方はそちらを参照していただければ、と思います。
…………どうやらさほど長い時間眠っていたわけではないようで、目が覚めても陽光はまだ燦々と窓から差し込んでいた。
いやぁ……美人の膝枕、凄いわぁ。最高の入眠剤だわぁ。柔らかくて良い匂いがして……もう天国だよね!!
ただ、もうそろそろ男性陣が帰ってきそうな時間帯ではあったので、せめてイカの処理だけでもしておこうと思いますよ。
「……ここに、こう……! 眉間の所に突き刺すと、良い感じに締められるんですよ!」
「……ほう、ほう……!」
「で、胴の中に指を突っ込んで、肝と胴体の接続部分をベリっと引っぺがしたら、肝を破らないよう気を付けつつ引き抜いてですね……」
なお、エドさんから譲り受けた水のキューブは、中のイカを取り出すとシャボン玉が壊れるようにバチンと弾けて、盛大に流しの周囲を濡らして消えた。
まさかこんな仕様になってるとは思わなかったよ!!! 教えておいて欲しかったよ、エドさん……!!
その後片付けを終えて、今、ようやくイカの解体作業中である。
イカは鱗もないし、骨らしい骨もないから捌くのがむっちゃ楽なのですよ。慣れてしまえば、包丁なんかなくても分解ができる程度には、ね。
指を使ってブチブチと胴体と肝がくっついている部分を引き剥がし、エンペラとげそをそれぞれしっかりと握りつつゆっくりと引き抜いて、胴体と肝&ゲソに分解する。
ちなみに、エンペラも指で引っぺがせるし、何となればその部分から皮を剥けるので、積極的に引きはがしていきたい部分の一つかなー。
あとは、胴体から軟骨を抜いて、キモを切り離して、目玉とクチバシ――カラストンビ――を取り除けば、ゲソの付け根まで美味しく頂けるのだから、イカとは誠に良い食材だ。
ゲソは塩でもみ洗いをして、口当たりの悪いリング状の吸盤を掃除してしまいましょうか!
「なれてる、ね」
「好きな食材なもんで、普段からよく料理してたんですよ」
炒め物とかテンプラとか煮物とか、よく作ってましたよ。イカメシも、味とかご飯の量を好きに決められるから一時期突き詰めてたなぁ……。
興味津々という顔で手元を覗き込んでくるアリアさんに、まだしまっていなかった折り畳みイスに座るよう勧めてみた。
とりあえず4杯分の分解は終わったけど、流石に今から作っちゃうと味が、なぁ……。
イカの料理は熱いのも美味しさのうちだと思うのですよ。ワタの旨味とクセが強い分、冷めちゃうとそのクセが強くなる気がするんだ……。
だから、いま処理するのは塩辛だけ! あとはご飯の時に料理するだけにしよう!
だとすると、フライみたいに手のかかる奴はムリだなぁ……。簡単に、手早くできるのにしよう!
…………あくまでも私の予想だけど、男性陣が何かしらを獲って帰ってきそうなんだよねぇ……。そうなるとソレの処理も必要になるだろうし、やっぱり簡単なイカ料理にしよう!!
「スパイス炒めと、イカゴロバターにしようかな。ゴロバターはふかし芋に乗っければボリュームも出るだろうし……」
「おいも……」
「お芋ですねぇ。手早くお腹は膨れますし、加熱してもビタミンは壊れにくいし、有能な子ですよ!」
『芋』という単語が出た途端、アリアさんの表情が若干曇った。
ありゃ……もしかしてジャガイモさんも炭水化物なのに苦手意識持たれ組ですか? 庶民の味方だと思うけど、食べ飽きる……っていう話も聞くしなぁ。
手を変え品を変え、少しでも「美味しい!」って思ってもらえるメニューを考えないとダメかもなぁ。
……今回は、問答無用でイカゴロバター芋にするけどね!!
イカの旨味とバターのコクと醤油の香りがあれば、ジャガイモもきっと美味しいと思ってもらえる……んじゃないかなぁ……。
むしろ、ご飯よりもどっしりとした土台があるジャガイモにじんわりとイカバターが染み込んで、ホクホク部分としっとり部分が楽しめる分、ご飯よりも相性がいいのでは? と、私個人は思っている。
……と、いうことで……。
一杯半のイカをスパイス炒めに、もう一杯半をイカゴロバターに。そして残りの一杯は塩辛にしてしまおう!
スパイス炒めの分は皮を剥いてブツ切り、ゴロバター分は皮を剥かずにぶつ切りにして、冷蔵庫にしまっておく。ゴロバター用に、肝ももちろん取っておくよ!
塩辛の分は、まずは肝にたっぷりと塩をまぶしてキッチンペーパーに包み、冷蔵庫に放置して水分を抜いておく。同じように皮を剥いた胴体にも薄く塩をしたら、こちらはラップをせずに冷蔵庫に入れておく。
こうして水分を抜くことで、濃厚な塩辛ができる、というわけだ! 好みでユズの皮の千切りとかを入れても美味しいよ!
…………今はないから入れられないけどね……!
「リンは、よく思いつくね」
「それだけ食べることが好きなんでしょうねぇ。基本的に、ご飯食べながら次のご飯のこと考えてますよ」
朝ごはん食べてるときはお昼ご飯のこと考えてるし、お昼ご飯食べてるときは晩御飯のこと考えてますよ!!
……そうだ! もし、エドさんが追加イカ獲ってきてくれたら、一夜干しにしようかな……。
適度に水分の抜けたヤツを焙って食べると、ムチムチしてて味が濃くて、美味しいんだよねぇ……。
スパイス炒めに使うべく、最後に残っていたトマトを角切りにしながら、あの何とも言えない弾力を思い出す。
噛み切れない……というわけじゃないんだけど、グニグニと歯を跳ね返しつつ、それでも繊維に沿ってサックリほぐれていく食感と、噛めば噛むほど滲み出る甘みとコク……。
そりゃあ我が故郷の郷土料理でコンニャク煮るときにスルメ使うワケだわ。味、濃いもん!
醤油とスルメ出汁の旨味を吸った玉こんにゃくに、ツンとくる黄色味も鮮やかなカラシをつけてハフハフ頬張ると……もう……!
アレはアレでお酒が進むんだろうけど、こっちの世界にこんにゃくとか、あるのかな……?
「アリア! リン!! ちょっと手伝ってくれ!!!」
「……手伝い?」
「何ですか? 何かありました!?」
使い終わったまな板を洗い始める頃……どこか切羽詰まったようなヴィルさんの声が外から聞こえてきた。
……あのヴィルさんが慌てるって、何があったんだろう……?
私も呼ばれてる、ってことは、危険があるワケじゃないんだろうけど……??
アリアさんとお互いに顔を見合わせながら野営車両を出た私の目の前には、ちょっと予想外の光景が広がっていた……。
3行あらすじ
美人さんの膝枕hshs
下拵え開始
緊急事態発生←今ココ!
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