フィッシュオン迷い人
突然ですが、人外×女子が大好物です (ジュルリ
7月9日 追記
資格に関するところを少し書き直しました。
機能訓練計画書……短期目標……長期目標…………月末の報告書……うっ、頭が……!!
「……………ぅん?」
ロッドを前にグネグネと身もだえしていた私の視界の端っこに、何か赤いモノがフッと映った。
インレットのすぐ近く。流れが蛇行して湾のようになっている所に、何か……?
さっきまではなかった色合いに何となく違和感を覚えて目を凝らすと、赤いマントのようなものを身体に巻きつけた人間らしきものが倒れていた。
ああ、なーんだ。人かぁ。ファンタジーでありがちな魔物とかじゃなくて良かっt……。
「人ぉ!?!?」
思わず流しそうになって、咄嗟に我に返った! いやいや、そこは流しちゃいかんでしょ!!!
慌てて近づいてみれば、そこに倒れていたのは『人』というにはちょっとかけ離れている『人外』だった。
見苦しくない程度に切り揃えられた銀髪と、額の両横から延びる2本の小さな角。ゴリマッチョと細マッチョのちょうど中間くらいのがっしりしたガタイに、ファンタジー漫画やゲームでよく見る皮鎧らしきものと剣を身に着けている。
お……おおおぉぉ……鬼ぃさん、ですかね?? ……でもその割に、虎柄のパンツ穿いてないなぁ……。
今回も生存戦略さんがいい仕事をしておられるようで、第一異世界人発見した人外の存在にも、さほど動揺することなく冷静に観察できている。
ちなみに、鬼が虎のパンツを穿いている……っていうのは、『鬼門』の方角が『丑寅』だったから、鬼→うしとら→牛みたいな角と、虎皮の腰巻→虎柄パンツ……という連想ゲーム風にイメージが結びついた……っていう話を聞いたことがあるような、ないような……?
ま、諸説あるみたいだけどね!
目を閉じてるから瞳の色はわからない。整ってるけどちょっと厳つい感じのお顔を見る限り、私と同年代か、少し年上に見えるかな?
そして何より、がっしりとした胸は静かに上下しており、水に浸かっている割には血色のよさそうな顔色をしていた。『瀕死』というわけでもなさそうですし、ちょっと安心しましたよ!
生存戦略さんが警告を出してる様子もないし、近づいても大丈夫、かな??
「あのー……大丈夫ですか? 意識ありますか? 動けそうですか?」
「…………ぅ……あ、あぁ……」
「うーん……意識はありそうですけど、動けなさそうですね……水に浸かってると体温が奪われちゃうんで、ちょっと岸まで引っ張っちゃいますね?」
「あ、いや……」
「ちょっと腕組んでてくださいね~」
恐る恐る鬼ぃさんの近くににじり寄って声をかけてみると、閉じられていた瞳が薄っすらと開いた。声の方向を探しているのか、周囲を確認しているのか……眼球の動きだけで周囲を探っている。
なお、鬼ぃさんの瞳の色は鮮血のように鮮やかなルビー色でしたよ。イチゴ飴みたいで美味しそうですな。
何はともあれ、意識があって何よりですよ! でも、ちょっと動くのは難しそうですね……。
ヨロヨロ起き上がろうとして、そのままベチャッと潰れ……を何度か繰り返して、今はぐったりと仰向けになってますしおすし。
水に浸かってるとどんどん体温が奪われちゃうから、申し訳ないですけどちょっと引きずってでも水揚げしちゃいましょう!
鬼ぃさんがちょっと焦ってるみたいだけど、キニシナイ! 体力を奪われるのをみすみす見逃すわけにもいかんしのぅ……。
鬼ぃさんの頭の方に回りーの、膝を支えにしつつ両手で上半身を起こしーの、組んでもらった鬼ぃさんの両腕を背後から抱きかかえるようにして掴みーの……。
「痛かったらごめんなさい……………………そいやっっ!!!」
「ぅぐっっっっ!!!!」
そしてそのまま、掴んだ腕ごと上半身を少し持ち上げるようにして、水際からちょっと離れたところま引きずりーの……すればOKだ。
うむ。鬼ぃさんが噛み殺したみたいな呻き声をあげるけど、これは、さすがにどうしようもないのですよ……。私1人じゃあ、鬼ぃさんを担いだり抱き上げたりはできないよー。ゴメンネゴメンネー。
もしこれが私よりも小柄なおばあちゃんでー……とかだったら、余裕で抱き上げての移乗が可能なんですけどね!
デイサービス勤めかつ要介護者宅に往診行ってる鍼灸師舐めんなよ! 何だかんだで介護福祉士持ちやぞ!(ドヤァ
……うん。まぁ。鍼灸師も国家資格ではあるんだけどね……。
取得した当時は、アマ指師とか柔整師と違って、鍼灸師は機能訓練指導員になれなくて、あくまで介護員扱いだったんだ……。
資格を取ると会社から補助金出るし、持っといて邪魔になるわけでもないし……と思って取得しちゃったんだよねぇ。
………………まさかそのあと鍼灸師も機能訓練指導員になれるよう、資格要件が緩和されるとは思わなかったよね!!
実技試験のための講習会とか、試験勉強がてら復習できたりとか、いろいろと勉強になったから構わないんだけどさ……。
ちなみに、今度は介護支援専門員資格を取ろうと思ってたんだよなぁ。
…………いつ帰れるかわかんないから、無駄になりそうではあるんだけどね……トホホ……。
職場だって、趣味を楽しみつつ貯金できる程度のお給料は貰ってたし、そこまで理不尽な利用者さんはいなかったし、職場内の人間関係もわりと良かったし、何より患者さんとも施術の合間に他愛ないおしゃべりをしたりと、程よい関係ができてたのになぁ…。
戻れたとしても、長期無断欠勤でクビとかだろうし……。
おのれ……聖女召喚許すまじ。慈悲はない。
……と。
私が白昼丑の刻参りを敢行すべきか迷っているうちに、引きずられた痛みか、衝撃か、はたまたその両方か……何かが刺激になったらしく、上半身を起こした鬼ぃさんがゆるりと胡坐をかいてその場に座り込んだ。ちょっとは回復したのかな?
……いや。どうだろう……? 胡坐かいたまま背中丸めてぐったりしてる所を見ると、まだだいぶ消耗してるのかな……?
さっき見た時はそこまで体力が奪われてる感じはなかったんだけど……。
「あの……水からはあげましたけど、服が濡れたままだと結局体温が奪われちゃうんで、何か拭くもの持ってきますね!」
「濡れて……ああ……これか……洗浄、乾燥」
タオルケットは流石に持ってはいないけど、日差し避けにバスタオルにフードが付いたようなタオルポンチョがあったはずだ。
鬼ぃさんにそう一声かけて離れようとすると、『今ようやく気が付きました』という態の鬼ぃさんが、大儀そうに顔や体にへばりついた髪やマントを眺めやり、パチンと指を鳴らす。
すると、緑と赤の光りがグルグルと鬼ぃさんの身体の周りを旋回し……。
呆気にとられた私が瞬きをする間もなく、水を吸い泥にまみれていた鬼ぃさんの身体と服とが、まるで洗ったかのように綺麗に……そして湿り気一つなく乾いているのだった。
……え? なにこれ……魔法、とかいうやつ? ファンタジー!!!!
思わず感動すらしかけた私の目の前で、鬼ぃさんの身体がぐらりと揺らぐ。
間一髪のところで鬼ぃさんの身体を抱えられたから転倒は免れたけど、もし間に合わなかったら河原の石に頭をぶつけていたところだった。
セーフ! セーフですよ!! ヒヤリハットだけど、転倒事故にはならなかったぜ!!!
事故が起きるとミーティングが長引くんだ、コレが……。事故報告書の作成とか、事故防止の予防策とか…………いや、この状況で、転倒事故とかミーティングとか意味はないんだろうけど、なんていうか、こう……心情的に避けたいものは避けたいんだよね……。
「だ、大丈夫ですか?」
「…………は……」
「は?」
「……腹減った……」
「工工エエェェェェェェエエ工工!?」
プルプル震えながら、何とか顔を上げてくれた鬼ぃさんだが、思いもしない言葉と共に、再びガックリと頭を垂れて気を失ってしまったようだ。
支えていた糸が切れたようにこちらに倒れ掛かってくる身体を何とか支え、再び鬼ぃさんが頭を打たないようにゆっくりと地面に横にする。
ついでに着ていたパーカーを畳んで簡易枕にすると、鬼ぃさんの頭の下に滑り込ませた。
「……お腹すいた、かぁ……」
グゴギュルググルルル……という謎の音が、鬼ぃさんのお腹の辺りから途切れることなく聞こえてくる。腹の虫の鳴き声凄いな!
……あー、まぁ、確かに、鬼ぃさんくらいガタイが良いと、基礎代謝だけでもすごそうだもんね……。
ちょうどミルクトラウトちゃんの血抜きも終わってるだろうし――本当は熟成させた方が美味しいんだけど……――、ご飯くらいは作れるでしょう!
このまま知らんふりっていうのも寝覚めが悪いし、袖振り合うも多生の縁っていうし。
一宿一飯くらいは何とかしますよ、鬼ぃさん!!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
なお、作者の介護現場の知識は約3年ほど前で止まっています。
もしあれから改正があり、鍼灸師でも機能訓練指導員になれるようになっていたらごめんなさい。
7月9日 追記
鍼灸師でも機能訓練指導員になれるようになってたんですね!
やったね! 活躍の場が増えるよ!! 運動訓練で加算が付けられるよ!!!
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