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鳴かぬ蛍の身が焦げるより、グラタン焦がした方が良い

 オーブンに火を入れてチーズ重ね焼きをお任せしてしまう。その間に、私はスズキのソテーと洗いのカルパッチョ風サラダを仕上げるつもりだ。

 洗いはねぇ……ホントは梅肉醤油とか、ワサビ醤油とか酢味噌とかで食べたかったんだけど、発酵食品の風味は好き嫌いが別れやすい所だから……。

 今回はサラダ風にドレッシングで食べようと思いまするよ。



「んー……小麦粉は今回は良いかなー」



 ムニエルも捨てがたいけど、皮目をカリッカリにポワレっぽく仕上げてみようと思う。身そのものの美味しさが味わえるんじゃないかな、と。

 フライパンが熱くなったところに油を敷いて、塩コショウ済みの切り身を皮目から弱火でじっくりと焼いていくのだ!

 この時に魚が縮んで反り返るので、やさーしくフライ返しで押さえてあげるといいと思う。

 

 あとは、弱火を保ったまま、ある程度火が通るまで触らず放っておく。ついつい弄りたくなるけど、我慢の子ですよ!! 変に弄ると、身が崩れちゃうんだよぅ……。


 …………でもね、こうして身体を動かしていると、色々と忘れられるからありがたいわー。



「その間に、トマトとキュウリスライスしーの、冷やしておいた洗い取り出しーの……」


「相変わらず手際が良いな」


「段取り八分、って言いますからねぇ」



 そうこうしているうちに、フライパンの切り身にだいぶ火が入ってきたようだ。一番身が分厚くなっているところの2/3くらいまで、白っぽくなってきている。

 ここまで来たら、切り身を崩さないよう素早く裏返し、反対側をサっと焼いたら出来上がりだ。


 めいめいのお皿に盛りつけ、さっき切ったトマトとキュウリのスライス、洗いを添えて……。

 ソースは、角切りトマトとオリーブオイル、塩と酢をざっくり混ぜたドレッシング風ソース。

 

 具合よく、オーブンが温菜の出来上がりを告げる。おお! 割と良き時間差で出来上がってくれたよ!!


 ふ、と後ろを振り返ると、みなさんもうお席についていらっしゃる……!

 


「お皿、乗るかなぁ……?」


「流石に狭そうだな……昨日のように外で食べるか?」


「んー……ギリギリで何とかなるかと思います。ヴィルさんも席についててください」



 ソテーの皿を備え付けのテーブルに運んでみたんだけど、他にもご飯の大鉢とチーズ重ね焼きが来ることを考えると、ちょっと狭いかなぁ……。

 ……うん、まぁ、ちょっと量がね……調子に乗った自覚はあるよ!

 野菜が手元にあるのが嬉しくて、ついでにソレが美味しくて、箍が外れちゃったよ……。


 それでも、ちょっとテーブルからはみ出るかもしれないけど、何とかなるでしょう!

 私が台所で食べる……という案もあるし、別に続き間だから遮るものもないんだけど、どうせならみんなと一緒に食べたいし!


 人数分のポワレの皿と、大鉢に山と盛ったトマトライスと、まだグツグツと煮えるチーズ焼きと……。


 白木のテーブルが、一気に鮮やかに色づいた。

 ソロキャン用の折り畳み椅子を無限収納から引っ張り出し、お誕生日席に陣取った。



「はい、どーぞ。お待たせしました!」


「…………ずいぶんと野菜が多いようですが……?」


「少しでも食べ応えが出るように、積極的に油気があるよう作ってはみました!」


「あー……ウチの連中、野菜そんなに食べてないもんねー。気ぃ使わせてゴメンねー!」


「いえ。むしろ私が食べたかったので、どっちかというと私のワガママにお付き合いしてもらってる感じですね……却って申し訳ないです」



 わずかに眉を下げてショボンとしたようなセノンさんに頭を下げると、エドさんがさりげなーくフォローしてくれた。

 エドさん、チャラ可愛い外見なのに、実際は気配りの人だよね……。


 でもまぁ、私の野菜食べたい欲にお付き合いしていただいてる、という負い目はありますので、熊肉の方は何とかボリュームが出るようにしたいと思います。



「おい、しい! 野菜なのに、美味しい! チーズと、とまと、美味しい!!」


「あ、アリアが野菜食べてるっ!? り、リンちゃん……どうやって……?」


「素材自体が美味しいので、そのおかげだと思いますよ」



 アリアさんは、さっきのつまみぐ……じゃない、味見でチーズとトマトのマリアージュに気付いたのか、さっそくチーズ重ね焼きに手を伸ばしている。

 それを見たエドさんが零れんばかりに目を丸くしてるけど、そんなに驚くほどのことなのか、そうなのか……。


 こっちの世界の野菜もチーズも、旨味が濃くて美味しいからねぇ。私の料理スキルとかじゃなくて、そもそもの持ち味が特上、っていうお陰じゃないかなー。



「野菜なんぞ、クタクタに煮るか生で食うかの二択と思っていたが……まさかここまで化けるとは……!」


「クタクタか生か、ですか……それは…………うん。野菜嫌いになりますねぇ……」


「そうですね……このトマトライスは良い物です。魚の後に食べるとさっぱりしますし、サラダと一緒に食べても酸味と甘みが程よく広がって……非常に美味しいです」


「そうなんですよ! トマトご飯はさっぱりしてますけど、バターのコクがあるから野菜と食べてもさっぱりしすぎないんです!」 



 トマトの果汁とチーズの旨味をたっぷり吸い込んでてらてらと艶めかしく光るナスをフォークの先に突き刺して、ヴィルさんが感心したように眺めている。

 うん。裏ごししてソースやらピューレにするという場合でもない限り、食感もクソもなくなっちゃった野菜だったナニかを食べるのは辛かろうと思います。

 食感て、実際は結構侮れない要素ですからね。


 最初は「野菜かぁ」っていう顔をしてたセノンさんも、トマトご飯を気に入ってくれたみたいだ。

 次は炒めたバージョンのトマトご飯も作ろう!

 炊き込みバージョンよりコッテリしてて、濃厚で……オムライスにしても美味しいかなー??


 野菜メニューを美味しそうに食べてくれている人たちを眺めつつ、私もスズキのソテーというか、ポワレというかにお箸をつけた。

 カトラリー、地味に足りなかったんだよね……。


 よーく焼いた皮目に箸を入れると、バリっとした感触と共に皮が割れ、その下からふっくらとした真っ白な身が覗く。

 カリカリに焼けた軽快な歯ざわりの皮からは、じっくり焼いたおかげで余計な脂が抜けていて、程よい脂の濃厚さが口に広がっていく。

 たまーに油臭いというか生臭いというか泥臭いというか……何とも言えない臭いのする魚にブチ当たることがあるけど、コレはとても上物だ。別の意味で大当たりだ!

 プリッと弾き返されるような弾力の身も、水分が抜けきる程に焼いていないからほわほわフワフワと柔らかく優しい口当たりだ。


 お酢とトマトの酸味が残った油を洗い流してくれるので、ついついパクパクと食べられてしまう。


 洗いも、歯を入れても途中からはじき返しているのでは……と思える程度にシコシコとした弾力があり、噛むたびにジワリと旨味が滲みだしてくる。


 …………海の魚、美味しいわぁ……!


 ナスとトマトのチーズ重ね焼きは、もう「説明不要!」と言いたくなるほどに約束された美味だった。

 油も果汁も旨味も……吸い込めるだけ吸い込んだナスはくったりと蕩け、加熱されたトマトはわずかな酸味を残して甘く柔く、発酵食品ならではの旨味が詰まったチーズが存分に蕩けて絡まって……。

 最低限の塩コショウくらいしかしていないけど、野菜の甘みの中に一本芯を通すようにチーズのコクが通っているせいか、物足りなさは微塵もない。



「野菜も美味しいモンでしょう?」


「ああ。これなら、野菜を食ってもいいと思えるな……!」


「今後も知恵を絞りますよ! ご飯は美味しい方が、やる気が出ますもんねぇ」



 グッと拳を握ってみせれば、そこにごつんとヴィルさんの拳が当てられる。

 うむ! ご飯番は、今後頑張りますよ!!


閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。

次回はどうしようか迷走中です。

せっかく恋愛色を出したんだから、もう少し揺さぶってやりたいなあ……。

もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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