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海は広いかしょっぱいか


 トマトっぽいのやら、ナスっぽいのやら、キュウリっぽいのやら、キャベツっぽいのやら、ジャガイモっぽいのやら、玉ねぎっぽいのやら、レンコンっぽいのやら……。

 向こうの世界の野菜によく似た野菜が、突撃したお店にはたくさん並んでたよ!

 もうめんどくさいからそのまま呼んじゃうけど、それで通じちゃうのが、また……。この地味なシンクロ性は何なんだろうねぇ。

 正直、味を知らないから大量に買うような冒険はできないなー、と思ってヴィルさんに聞いてみたんだけど、「あそこの肉屋のベーコンはリンゴの香りがほのかにして美味い」とか「むこうの露店の狩猟肉(ジビエ)は下処理がきちんとされてるから美味い」とか「あっちの店のチーズは新鮮なミルクだけを使ってるから甘くて美味い」とか……。

 そういうことはよ~~~~く知ってるのに、野菜のことになると「よくわからん」って言う人からどんなアドバイスを貰え、と!?


 幸い、夏野菜は季節柄よく採れるのかそんなにお高くなかったし、店頭に並んでる野菜を何個かずつ、持ってきていた風呂敷に収まる程度の量を買ってみたよ!

 ニンニクっぽいのとかショウガっぽいのもあったから、ついでにそれも購入している。

 根菜のお店ではちんまりとした可愛らしいおばあちゃんが店番をしていて、「たくさん買ってくれたから」と、ジャガイモを何個かおまけしてくれた。


 おばあちゃん良い人だ……。もしまたお店出してたら、何か買おう……!



「野菜……野菜、か……しかし、食わなければ死ぬかもしれない……」


「野菜の何がダメなんですか?」


「食っても身にならなさそうなところだな!」


「カロリーは控えめですからねぇ」



 野菜を抱えてホクホク顔の私の隣では、パーティリーダーが今にも頭を抱えてしまいそうな程に考えこんでいる。

 キリっとした顔で宣言されても、言ってる内容でせっかくのイケメンが台無しになってますよ。

 ま、燃費の悪いヴィルさんにしてみれば、あんまり歓迎したい食材ではないんだろうね。

 体の調子を整えるのにはお役立ちなんですけどね!


 あれから切々と免疫機能やら感染症の恐ろしさやらについて語ってみたところ、ヴィルさんも野菜の……ひいては食生活の大事さを理解はしてくれたんだけど、頭ではわかってるけど実践するのはなぁ……という段階止まり……っていうのが正確な話かもしれない。

 ついでにヴィルさんおすすめのお店でベーコンとチーズも買い求めて……。



「……あ、リン。おはよう……!」


「おはよー、リンちゃん!」


「おはようございます、リン。何か買ってきたんですか?」


「おはようございます、みなさん! 買ってきたのは秘密です! お昼時のお楽しみ、ですかねぇ」



 大門前に集合していたアリアさんたちが興味津々で風呂敷を覗き込んでくる。


 ……ええ。私もしっかり学習していますよ!

 ここで「野菜がメインです!」とか言おうものなら、任務前だというのに皆さんのテンションがダダ下がるであろうことは!!

 あれだけ私に「リンは俺たちを置いて死なないよな?」と確認してくれたハズのヴィルさんですら「……でも、野菜だもんなぁ……」という感情を殺しきれない程度には、暴食の卓における野菜の地位は低いみたいだ。


 野菜、美味しいと思うんだけどなぁ……。もしかして、こっちの野菜ってそんなに美味しくないんだろうか?

 ……そういえば、トマトとかも昔はめちゃくちゃ酸っぱくて、砂糖かけて食べてたとかいう話だもんな……。


 でも、それにしたって調理次第、ってところもある、と、思いたい!

 


「リン、大丈夫か? そろそろ行くぞ」


「あ、ハイ! 了解です!!」



 覚えている限りの野菜レシピを思い出していた私の背中を、ヴィルさんがポンと叩く。

 割とこうして叩かれてるけど痛くもかゆくもないって言うのは、ヴィルさんがしっかり手加減してくれてるからだろうなぁ。


 エルラージュの東はこの国唯一の港なのだが、そこから南下するように4キロほどが海岸線になっており、遠浅の砂浜になっている所もあれば、岩塊や大きな石がごろごろしている磯部になっている所ありと、なかなかバラエティに富んでいるようだ。

 それだけに海の幸がよく採れる……ということもあり、採取依頼(クエスト)にいそしむ冒険者が絶えない場所になっているのだろう。


 ちなみに、今日は個々に散らばらず、ある程度まとまって哨戒する予定だそうな。



「それじゃ、行きますか! 野営車両(モーターハウス)!!」



 とりあえずは大門を出て、人気がない所で野営車両(モーターハウス)を起動させる。

 今日の現場は昨日の森より離れてるとのことだし、もうバレちゃってるし、野営車両(モーちゃん)で移動しますよ!


 え? 港から浜辺に行けばいいじゃん、って?

 残念ながら、唯一の港……ってことで、港の周囲は警備が厳重なんだよね……。それこそ、許可がある人しか出入りが許されてないレベル。

 だから、冒険者が浜辺に出るには町を出てぐるっと回る必要があるんだよね。



「皆さん大丈夫ですか? 酔ったりしてないですか?」


「問題ありません。改めて体感してみると凄いスキルですね……!」


「……ちょう、速い……!」


「喜ぶアリアが可愛いなぁ……ありがとうね、リンちゃん!!」



 今日はちゃんとソファーに座ってもらい、シートベルトも締めてもらっている。安全マージン大事大事。

 セノンさんもアリアさんも楽しんでいるようで、弾んだ声が運転席まで聞こえてくる。喜んでいただけているようで何よりですよ!

 ……うん。まぁ、若干一名(エドさん)は何かポイントがズレてる気がするけど……通常運転っぽいから大丈夫かな!


 なお、助手席は安定のヴィルさんだ。

 もう慣れたのか、ひょいと胸当てを取るとシートベルトを締めている。


 窓を開けると、まだ涼しさを残した新鮮な空気が車内を駆け巡る。爽やかな新緑の香りが気持ちいいよねぇ。

 例によって大街道を避けて道なき道を走ってるけど、振動はあんまり感じない。



「なぁ、リン……お前、あの野菜どうするつもりだ?」


「そうですねぇ……揚げ焼きにしたナスをトマトとチーズと一緒オーブン焼きにするとか、ジャガイモの千切りを丸く形成してカリっと焼いたりとか、キュウリは麺つゆとお酢で浅漬けですかね」


「…………びたみんやら何やらが大事、ということはわかったが、やっぱり肉が食いたいところだな」



 ガタゴトと草地を走りながら、買い物の中身を知っているヴィルさんとお昼の献立のことやらなにやら、他愛もない会話を楽しめてしまう程度には快適なドライブだ。

 腹に溜まらないとヴィルさんが不満を漏らすけど、油と合わせれば多少は腹持ちも良くなりますよ!

 タンパク質が豊富な何やかやも、チョイ足しするつもりですしね!


 個人的にはナスの焼き浸しとか出汁トマトとかをキンキンに冷やしたものとか、海辺みたいな暑くなりそうなところで食べると美味しいと思うんだけどねぇ。

 肉食系パーティのご飯が野菜だけ、って言うのは、流石に気が引けるのですよ……。



「そうですねぇ……貝類が取れればバターとキャベツと一緒に酒蒸しに……って、貝は砂抜きしないといけないんですよねぇ……魚とか海老とかで作っても美味しいとは思うんですが……あ! 海老はオイル煮にしても美味しいですよね!!」


「魚……海老…………努力してみよう」



 ヴィルさんの目が鋭さを増した。完全に何かをロックオンした感じだ。

 ……お魚さんと海老さん、ゴメンなー。ヴィルさんの食欲と闘志に火を点けちゃったぜ! 眠れる獅子を叩き起こした、とも言うかな?



「ちなみに、見回りの目眩ましで受けた依頼ってなんでしたっけ?」


「大粒のサリ貝5(キロル)の納品だな」


「私は留守番なので、1人頭1kちょいが最低限ですか……大粒限定となるとなかなか大変そうですねぇ」


「まぁ、そこは裏技を使ってどうにかするさ。本当の目的を疎かにはできないからな」



 …………ちなみに、今日の私はモーちゃんの中でお留守番ですよ。

 上位レベルの敵と遭遇する可能性があるエリアの哨戒任務となれば、戦闘ができない私は足手纏いだもん。採取に集中しすぎた私が異変や何かに気付けず、対応が遅れるのはマズかろう……ってなったのですよ……残念!!

 ヴィルさんにお願いしてた護身術を習う時間も、なかなか取れないしねぇ。色々なことが起こりすぎてるよぅ!!


 あぁぁああぁぁー……潮干狩りとかタイドプール漁りとかめっちゃ楽しそうだけど、今日は我慢よ、我慢!

 私がおとなしくしてる分、『お昼御飯用に色々獲ってきてくれる』ってヴィルさんをはじめ、みんながそれぞれに約束してくれたし、それを楽しみにしたいと思います!


 防風林と防砂林の役割を果たしているのだろうか。規則正しく並んだ針葉樹林を横目に走っていると、唐突に目の前を遮るものがなくなった。


 丸みを帯びてどこまでも伸びる水平線と、吸い込まれそうな蒼穹と……深い深い紺碧の世界が広がっている。

 若干生臭みを帯びたような、独特の潮の香りが鼻先をくすぐっていく。

 潮が引き始めた砂浜を見渡せば、何組もの冒険者が採取を始めているようだった。

 ここら辺でみんなには降りてもらった方が良いだろうなぁ。乗降時の姿を見られるわけにはいかないからねぇ。

 人気のない所で車を降りてもらって、あとは海岸線ギリギリまでモーちゃんを乗り付ける。

 


「それじゃあ、行ってくる。大人しくしていてくれよ、リン」


「はい! ご飯作って待ってます! 皆さんも気を付けてくださいね!」


「ん。色々、獲ってくる! 任せて!」


「隠蔽機能はあるようですが、気を付けてくださいね」


「何かあったらすぐに逃げてね? オレたちはこの辺の地理はわかるから、すぐ見つけるからねー」



 運転席から居室(キャビン)に移動して、哨戒任務とついでに採取依頼(クエスト)に赴くみんなのお見送りだ。

 周囲の目を気にしながら、みんなこっそりと手を振ってくれたり、目配せしてくれる。

 海辺とはいえ、砂に潜む魔生物や魔物がいるとのことで、みんな頑丈そうなブーツを着用している。汚れたら洗浄魔法を、濡れたら乾燥魔法をかければいいよね、という認識のようだ。

 魔法って便利ねー。


 ……さて。ヴィルさんの言う『裏技』とやらも気になるけど、まずは肉食系でも食べてくれそうな野菜たっぷりランチでも用意しておくことにしようかな!


閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。

私の釣竿が火を噴かなかった……(´・ω・`)

次回はアリアさんとの摘まみ食い回をお送りできれば、と思います。

もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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