感動の再会とがらんどうの未来と
街の少し手前で野営車両から降りたヴィルさん達が、【幸運の四葉】のメンバーを起こした。
流石に門番さんの目の前で何もないように見える空間から人を降ろすわけにはいかないだろうし、ねぇ。
あ。私はまだ野営車両に乗って姿を隠しつつ、わき道をゆるゆる走行して後を追っておりますよ。だって、戦闘中も現地での話し合い中も姿がなかった荷物運びがいきなり出てくるって、混乱を招くじゃないか。
「先生! シオン! アイーダ! 無事だったんだな、良かった……良かったぁ!!」
「ケント!!」
「ケントぉぉ!!!」
大門の奥で待っていた猫兄さん……ケントくんがこちらの姿をみるやいなや、衛兵さんの制止も間に合わない速度でこちらへ突っ込んできた。
おおぅ! 確かにコレは速い!
その勢いのまま飛びついてきたケントくんの身体を、ハーフエルフのアイーダちゃんと虎獣人のシオンちゃんが2人がかりで抱き留める。
3人の中ではケントくんがずいぶん大人びて見えるけど、獣人さんは身体の成長が早いらしく、年齢的にはまだまだ成人前なんだそうな……。
いや、しかし、仲良きことは美しきかな……。
多分、心配で心配で仕方なくて、でも衛兵さんに止められるから外では待てなくて、やきもきして待ってたところでみんなの姿が見えて、我慢ができなくなって飛び出してきた……っていう感じなんだろうなぁ……。
3人で抱き合いながらわんわん泣いてる子供たちの仲の良さが、心を揺さぶるねぇ……。
そしてそれを眺めるライアーさんの目の優しいこと優しいこと……。
こっちまでジーンとしちゃうよね。エドさんも鼻啜ってるみたいだし、涙もろいのかな?
「【幸運の四葉】さんも【暴食の卓】さんも、おかえりなさいですよ! ご無事で何よりなのです!」
お互いの無事を喜び合う幸運の四葉の後ろから、ちょっと舌っ足らずな高い甘い声と共に、エプロンドレス姿のシーラさんが姿を現した。
彼女もまた、この大門付近で待っていてくれたんだろう。
仄青い燐光のような光がふわふわと浮かぶ不思議なカンテラを手にしているのは、これからギルドに案内するときに足元を照らすためか、見失わないための目印か……。
「ギルドにはもう話が通ってるんだろう?」
「はいです。ギルドマスターも待ってるのです! お疲れかとは思うのですが、皆さんギルドまでご足労くださいです」
「わかった。俺たちも色々と用意をして後を追う。まずは四葉のメンバーを案内してくれ」
「はいです。もともと四葉さんとは別々にお話を伺う予定だったので、用意ができたら来てくださいです」
チラリと私を見たヴィルさんの言葉に、シーラさんは笑顔で頷いた。そのまま謎仕様のカンテラを揺らし、四葉のメンバーを率いてギルドの方へと歩いていく。
それを見送ったヴィルさんが、運転席の窓を叩いてちょっと人目のつかなさそうな場所に誘導してくれた。
「話は聞こえてたか?」
「はい。ギルドに行くんですよね?」
「ああ。しかし、用意をして向かう、と咄嗟に言ってしまった以上、手ぶらでは……さっきのドロップ品を持っていくか……」
「わかりました。ちょうどよさげなモノがあるので、それに包んで持っていきます」
色々と便利だから、風呂敷突っ込んであるんだ。しかも緑の唐草模様のヤツ。
床に積んであった毛皮と爪を風呂敷に包み、首の後ろで担ぐようにすれば、お盗み帰りの泥棒さんと言うか……まぁ、広義の意味では『荷物を運ぶ人間』には見えるよね。
そのままヴィルさん達に紛れるようにしてモーちゃんを降り、スキルをオフにしておく。
隠蔽効果で姿形は見えないだろうけど、見えないからこそ何かがぶつかってきたりしたらイヤじゃない?
門番の衛兵さんたちに『コイツいたっけ?』という顔をされたけど、ヴィルさん達と比べると格段に低い身長のせいで『まぁ見えなかっただけか』ということで済まされてしまったようだ。
…………何だろう……助かったような悔しいような、この釈然としない気持ちは……。
相も変わらずヴィルさんに手を引かれながらギルドに向かえば、笑顔のシーラさんが出迎えてくれた。
「お帰りなさいですよ、【暴食の卓】さん! こちらの部屋でギルドマスターがお待ちですよ!」
「ああ。そうだ、シーラ。ドロップ品を預けておく。報酬がどうなるかわからない以上、俺たちの手元には置いておけないからな」
「はいです。正式に決定するまで、ギルドでお預かりするです!」
肉球の付いた手でとある部屋を示すシーラさんに、ヴィルさんが私が持っていた荷物を示す。
近づいてきたシーラさんに荷物を渡すと、にっこりしながら受け取ってくれた。
そっか。正式に報酬の取り分が決定するまで、「『暴食の卓』の!」とは主張できないだろうし、手元に所持し続けるっていうのも問題があるんだろうなぁ。
飴色に磨かれた扉を開けると、真正面のソファーにがっしりとしたハg……もとい、禿頭のおいちゃんがどっしりと腰を下ろしていた。
右の額に割と深めな十字傷が残っており、左目に黒い眼帯をつけた、何ともキャラの濃いおいちゃんだ。
普通の人間のように見えるけど、実は違う種族だったりするんだろうか……??
「よう、ヴィル。救援任務ご苦労!」
「見殺しにするほど悪人じゃないもんでな」
「それもそうか。まずは、ギルドの長として、所属の冒険者を助けてくれたことに感謝する!」
「同じ街の所属だけどな」
「違いないな!!」
偏見で言わせてもらえば『ガハハ!』と笑いそうな外見にもかかわらず、意外に爽やかに笑う方でしたよ、ギルマスさん。
禿頭でガチムチで眼帯で額に傷と、キャラはめっちゃ濃いのになぁ……。
テンポのいい掛け合いを見ていると、けっこうヴィルさんとも気心が知れてるんじゃないかなーと思うんだが、どうだろう。
「それじゃあさっそくだが、火熊出現に関するギルドの方針を伝えよう」
ひとしきり笑った後、ツルリと頭を撫でたギルマスさんが、ちょっと表情を引き締めて椅子に座り直した。
はてさて……今回の騒動はどんな風に収束するんだろうか、と……我知らず緊張していたのだろうか。いつの間にか握っていた拳の力を緩め、私はそっと息を吐いた。
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
ぐぬぅ。熊肉まで行けなかった……。
次回も多分説明回です。早くご飯食べたい……。
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