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戦闘場所への送迎も業務に含まれますか? はい。含まれます。

作中の一部分は、フィクションの一環として描写しております。

現実世界での交通違反を促すわけではありません。

何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。


 助けを求めてきた人――猫みたいな耳と尻尾のついた獣人のお兄さんだった――は、人影を……私たちを見て緊張の糸が切れたのか、ガクリとその場に倒れこ……みそうになったところを、ヴィルさんが受け止める。



「セノン!」


「わかっています! 神よ 憐れみ給え(キュアル・アップ)!」



 気が付けば、いつの間にかセノンさんが腰に提げていた細身の杖を翳している。幾許かの文言と共に、杖から青白い光が迸り、猫のお兄さんの傷口に降り注いでいく。

 お、おぉぉおおぉぉ……魔法……魔法だ……。回復魔法だ……。

 見る間に血が止まり、肉が盛り上がり、傷を塞いでいく。


 ……す、凄いな……原理はわかんないけど、本当に凄いな……。

 ある程度深い傷って治癒の仕組み上どうしても瘢痕……傷跡が残るんだけど、傷跡(ソレ)すら無いんだもん……。


 ただ、傷は治せても体力まではなかなか戻らないんだろうな。ヴィルさんに支えられたまま、猫兄さんの身体がズルズルと崩れ落ちていく。



「おい、しっかりしろ!! どこだ!? どこで出た!?」


「い、いっぽん、すぎの……ちか、くで……」


「あの辺り、そんなに奥じゃないじゃん! 何で火熊(ファイアベア)なんてデカいのが出るの!?」


「理由は後だ、エド! おい、まだ他に人はいるのか?」


「なかま、が……パーティのみんなが、まだ……!」



 自身の腕に半ば縋るようにしがみつく猫兄さんの目をしっかり見据えつつ、ヴィルさんが声をかける。まだ疲労の色が濃く残る猫兄さんが告げた言葉に、エドさんが悲鳴のような声を上げた。

 

 え? 何そのエドさんの反応?! 平均レベル以上のナニカが出たってこと!?


 しかも、まだその場に人がいるって……! 


 アリアさんが息を呑む音が聞こえ、エドさんに抱き寄せられていた。セノンさんも、指が白くなるほどに杖を握りしめている。

 ……気が付けば、ヴィルさんが私を見ていた。多分同じことを考えてるんだろう。

 応えるように頷き返すと、ヴィルさんはアリアさんとエドさん、セノンさんにも視線を巡らせ、3人もヴィルさんに無言で頷き返す。

 それを見て一度目を瞑ったヴィルさんは、再び目を開くとよろめきながらも立ち上がった猫兄さんに声をかけた。

 


「パーティは……その場に残っていたのは何人だ?」


「さ、3人! 拳闘士(グラップラー)と、魔導士(ソーサラー)と、神官が1人ずつ……パーティ名は【幸運の四葉(クローバー)】です! お願いします、助けてください!!」


「わかってる。アンタはこのままギルドまで行って『【暴食の卓】』が救出に向かった』と伝えてくれ!」


「あ……ありがとうございます!!! 恩に着ます!!!!」



 ヴィルさんの応えに泣きそうに顔を歪ませた猫兄さんが、深く深く頭を下げたかと思うと、弾かれたように飛び出した。

 ボロボロの装備のまま、大街道を大門に向かって走っていく。

 

 ピンと伸びた先が白い尻尾が消えていくのを見送って、ヴィルさんが大きく息を吸う。

 


「リン!」


「了解です! 乗車設定します!」



 鋭さを増した血色の瞳に頷いて、パーティ全員に乗車を許可するよう強く念じた。途端にヴィルさん以外の3人が、身体を強張らせるのが視界の端に映る。

 ……やっぱり、どんな緊急事態でも……いや、緊急事態だからこそ、そんな反応になるよね。



「リンのスキルだ! 乗れ! 急ぐぞ!!」


「り、リンのスキルですか!? ヴィル、いったい何を……!?」


「言っただろ? スカウトしてきたのは『料理のできる【荷物運び(ポーター)】だ』って!! ほら、乗れ! 乗るんだ!!」



 セノンさんすら「訳が分からない」といいたげに顔を顰める中、ヴィルさんは背中を叩き、身体を押し、野営車両(モーちゃん)のキャビンに3人を押し込むように乗せていく。

 それを最後まで見守ることなく、わたしも運転席に乗り込んでエンジンをかけた。

 ナビで一本杉を検索してみると、瞬く間にナビがルートを設定してくれる。大街道を通って、ちょっと大回りするような経路だ。

 ……でも、事は一刻を争うんだろう。だとしたら、たぶん……。



「行くぞ、リン!」


「はい! 森の中を突っ切るのが早いと思うので、道案内お願いしますね!」


「わかってる! 最短で行くぞ!!」


「了解です! 皆さんも、何かに掴まっててくださいね!!!」



 助手席に転がるように飛び乗ってきたヴィルさんの言葉に、やっぱり同じことを考えてたなーと頭の片隅で思う。大回りするより、道を知ってる人がいるなら突っ切った方が早そうだもんね!!

 跳ね上げ式のカウンターで仕切られたキャビンの方にも声をかけ、私はアクセルを思いっきり踏み込んだ。


 多分私以外の誰もシートベルトなんかしてないだろうけど、正直構っていられなかった。どうせこっちの世界では、日本の道路交通法なんて適用されないだろう。

 チラリと後ろを見れば、誰一人として急加速に転ぶことなく体勢を保っている。流石の身体能力だ!

 あとは私がヘマをして、事故らないように気を付けさえすればいい。


 ヴィルさんの案内に従って、右に、左にハンドルを切る。

 流石の野営車両(モーターハウス)でも殺しきれない勢いに、時折車体が大きく弾む。壊れないことを祈るしかないなぁ!



「リン、そろそろだ。お前は乗ったまま、ドアを開けられるか?」

 

「大丈夫です、可能です!」


「よし……アリア! 現場に着いてリンが扉を開けたら、まずは四葉の連中を下がらせろ! セノンはすぐさま回復を!」


「ん。わかった!」


「心得ています!」


「俺とエドで火熊を足止めする! エドは方陣の準備を!」


「OK、OK! 任せといてよ!」



 キャビンのみんなに指示を飛ばすヴィルさんに、それぞれがしっかり応えていく。ピリピリと空気が緊迫しているのが肌でわかる。



「…………なぁ、リン。『能力を隠せ』と言っておきながら、いきなりこんな事になってしまってすまない。だが……」


「気にしないでください、人の命が最優先です! なるべく急ぎますから!」



 ふ、と眉を下げたヴィルさんが、苦渋を滲ませた顔を私に向けている。

 何だかんだで優しくて、面倒見が良くて、責任感も強いヴィルさんのことだ。そもそも今日の採取依頼でも「まずは何度か一緒にやってみて、ダメそうだったら離脱も考えるからスキルは秘密の方向で……」という事で進めていたにもかかわらず、あれよあれよというまにみんなを乗せるハメになったことを気にしてるんだろう。


 でも、能力を隠しておいて人が死ぬより、たとえバレたとしても誰かの命が助かる方が例えようもないほどマシですから!!

 見殺しにしたりしたら、絶対後で死ぬほど後悔するもん!!

 もしコレが原因でなんやかんや言われたり、あの国に連れ戻されそうになったとしても、私は自信と誇りをもって胸を張るもんね!!!

 それに、万が一連れ戻されそうになっても、それこそ何が何でもモーちゃんに飛び乗って城の窓でも何でも割りながら逃げ切ってやる!!!


 そもそも、人の役に立ちたくて医療職になったんだ! 救命上等!! 鍼灸師舐めんな!!!



「……悪いな……。コレでリンに何か不都合が生じたら、全力で守るから」


「気にしないでください! まずは、四葉の人たちの命が助かるよう考えましょう!」



 ……だから、そんな事言わない方向で行きましょう!

 責任感から来た言葉で、まったくもって他意はないとわかってますけど、それでもやっぱり心臓に悪いですから!!!


 思わず漏れそうになった奇声を噛み殺した瞬間、不意に目の前が開けた。

 太くて大きな木が1本に、倒れている人が1人、膝をついているのが1人、辛うじて立っているのが1人。

 そして、真っ赤な鬣のような毛が目に付く、えらく大きな熊のような獣が1匹……。


 ハンドルを切り込みつつ、ブレーキを強く踏み込んだ。耳障りなブレーキ音と共に、勢いを殺しきれなかった車体後部がだいぶ振り回されながらも、どこにも、誰にもぶつからずに野営車両(モーターハウス)が停車する。

 それと同時にドアのコンソールにあるドアの開閉ボタンを押せば、ちょうど倒れている人の直線上で居室のドアが大きく口を開けてくれた。



「行くぞ!! 作戦開始だ!!」



 大きく開けた助手席から飛び降りたヴィルさんが、腰の剣を抜き放ちながら駆けだした。その後ろを、濃紺のケープマントを翻してエドさんが追いかけていく。

 我知らず、祈るように、縋るように指を組んでいた。  

 

 ……ああ……私に何か特別なことができるわけじゃないけど、どうか……どうか上手くいきますように!!!


 

 窓に切り取られた景色の向こう。巨大な赤毛の獣が禍々しい雄たけびを上げた。


閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。

果たして緊張感のあるバトルを書けているか、今からドキドキです。

バトルメインで書いてる方々マジスゲー!と痛感しました。

もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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