『サラド』って言い方、ちょっと浪漫溢れるよね
「それで、どうすればいい?」
「えーと……もしこのクロヨモギが私の知ってる『ヨモギ』と一緒と仮定しての話になりますけど、まずはクロヨモギを乾燥させて、それを細かく切るなり潰すなりして、篩にかけて繊維を取り出して、乾燥させます」
「乾燥させるのは生活魔法……乾燥でできるから、みんな使えると思うよー」
「細かく切り刻むのであれば、私もお手伝いできます」
「どのくらい篩えばいいかは、実物を知ってるリンに任せるか」
皆さん届いた料理や飲み物を各自頬張りつつ喉を湿しつつ、何故かモグサ作りに興味津々なご様子ですよ。「いいから食っとけ。味を知っとけ」ということで、私もご相伴にあずかっております。
今食べてるのは、山猫亭の名物だという『ランダムフライ』。その日手に入った材料のうち、ランダムでフライになって出てくる料理だそうな。
実際、大皿の上にはお肉あり魚あり野菜ありと、様々な種類のフライが山のように積み上がっている。
私が取ったのは、カースシリンプというエビみたいなのと、ベイツという赤カブを揚げ焼きにしたもの。コレに、山猫亭特製ソースやら、ルモネというレモンに似た果汁やら、ゴリゴリ削った岩塩やらをかけて食べるのだ。
カースシリンプはまんまエビフライだねぇ。
キツネ色の衣をかじると、ほんのりとレアに仕上がったプリプリの身からはジュワっと肉汁ならぬエビ汁が溢れ出し、香ばしいエビの香りが鼻に抜けていく。
ベイツもそれ自体に甘みがあって、中はトロトロ外はさっくりと絶妙な熱の通り加減だ。
旨味を逃がさないようしっかりと付けられた衣は、それでもギリギリまで薄くしてあって、カリカリサクサクと軽快な歯触り。
揚げ焼きにすると油っぽくなりがちなんだけど、山猫亭のフライは衣が薄くて軽い上に、ルモネの酸味と爽やかな香りのお陰で油っぽさを感じないので、いくらでも食べられてしまいそうだ。
そこに、こうね……冷たい桃の果実水をグイーっと飲むとだね…………このために生きてるー! って感じがするよね。浮世のアレコレを忘れるよね。
山猫亭は、フライ以外にも『山猫サラド』という店長の気まぐれサラダが有名らしいんだけど、『山猫亭』の名物がフライとサラダってのいうのに、ちょっと思う所がないわけでもない……。
…………アレだよね……牛乳のクリームとか酢の匂いがする香水とか振りかけられた人が材料じゃないよね? 喰い逃げした人のフライ盛り合わせとか、酔っぱらって暴れた人のコブサラダとか、ないよね?
……………………うん。これはもう考えないでおこう。デスフィッシュのフライを食べて、果実水飲んで、きれいさっぱり忘れてしまおう……。
「でも、本当にできるかどうかはわかりませんよ? 種類が違うかもしれないし……」
「違ったら違ったでその時だな。やる前から諦めるな!」
そう。あの時は曲がりなりにも『ヨモギ』を見つけたことで大興奮してしまったんだけど、果たしてクロヨモギからもぐさができるのか……と言われると、ちょっと自信がない。クロヨモギもよく見ると葉の裏に白い繊毛的なのが生えてるからイケるとは思うんだけど、「確実にできる!」と言えないのがつらい……。
一応向こうでも至る所に分布はしてたと思うんだけど、何だかいろいろ種類があるっぽかったしなぁ。流石にその中でもぐさができるのはどの種類……って言うのまではわかんないんだよね……。
確実性のないことに巻き込んでいる後ろめたさに俯いてしまった私の背中を、気合を入れるかのようにヴィルさんの掌がポンと叩く。
顔を上げれば、片方の唇の端を持ち上げてニィっと笑うヴィルさんの顔が見える。
……ご本人にその意図はないんだろうけど、ヴィルさんの顔立ちでそうやって笑われると、不敵に見えるというか、獲って喰われそうというか……。
いや。イケてることはイケてると思いますけどね!
……でも、そうだよね。違ったら違ったで、また別な種類を探せばいいか! もしもぐさができなくても、マイブレンド薬草茶には使えそうだしね!
「そうですね。まずはやってみますか! モグサさえできちゃえば、あとは岩塩とかと一緒に袋に詰めればいいし」
「布なら、任せて! すぐに作る!」
「え?! 作れるんですか!?」
「糸で作れるのは、わたしも、作れる!」
私の隣に座ったアリアさんがフンスフンスしながら胸を張っている。
あぁー……バストが豊満な方がそういうポーズをすると、より、こう…たゆんたゆんするというか、ばいんばいんするというか、胸回りの布地に余裕がなくなるせいで、布地に押しつぶされつつもお胸の形がよりくっきり強調されちゃうというか………………エドさんの周囲の人への視線が怖いのでもうやめてくださいお願いします。
でも、アリアさん繊維関係強いのか……蜘蛛人さんだから??
「そうと決まれば、街の外行こうぜ! 流石に街中で魔法使うわけにいかないしさ!」
「まだ日はありますからね。新人さんの練習、と言えば衛兵も納得するでしょうし」
「行こう、リン」
最後のフライを口に放り込んだエドさんが、アリアさんに手を貸しながら立ち上がった。ジョッキのお酒を飲み干したセノンさんもそれに続く。
咄嗟についていけなかった私の前にはアリアさんの白く嫋やかな手が差し伸べられ、「今から行くのか……」とため息をついたヴィルさんも不承不承に立ち上がった。
……え? 今から行く流れですか? え? え?
思った以上に積極的な皆さんに引っ張られるかのように、私は本日2度目となる大門の外の世界へと赴くことになった。
…………あー!! お金!! お金払わなきゃ!!!!
…………………………………………結局、お金はヴィルさんが立て替えてくれました。「お前ら後で払えよ!!」と、すっかりペチャンコになったお財布を懐にしまったヴィルさんがお三方を睨みつけている。
私も後でお支払いします……ハイ。
リザードマンの門番さんに「そろそろ日が暮れるから気をつけてな~」と見送られ、大門からちょっと離れたところに腰を据える。
私とヴィルさん以外にはまだ見えないであろう野営車両を展開してドアを開ければ、中にはゴッソリと採ってきたクロヨモギの山ができていた。
あの後調子に乗って、45Lのゴミ袋がパンパンになる程度に採っちゃったんだよね……。それも2個分も……。
クーラーボックスに直接魚が触れないように、って、大きめのゴミ袋を常備しておいて本当に良かった!
なにせ、学生時代にもぐさを作ったときは、かなりの量のヨモギを採ってきてたけど乾燥させたらかなり減っちゃったもんな……。
採ってきたヨモギからどの程度の量のモグサができたかを必死で思い出そうとする私の耳に、何かが……人の声のようなものが飛び込んでくる。
掠れ切り、切羽詰まった声の持ち主は、足をもつれさせるようにして大街道を走って……いや、もはやヨロヨロと歩いているとしか言いようのない速度でやってきた。
その全身は赤く染まっている。
「たっ、たす……助けてください……! ふぁ……火熊が! 火熊が出てきて……!!!」
「火熊だと!?」
これは……緊急事態、発生……のようですな……!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
勘のいい皆様はお気づきかと思いますが、タイトルを考えるのがもの凄く苦手です。
何かこう、良いツール的なのはないものか……orz
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