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算数酒場はモグサのかほり

計算が合ってるか不安でしかない……orz

 ええ。お菓子の力は偉大でしたよ。「大好き!」とアリアさんに抱きしめられ、けしからんお胸に顔をうずめる結果となったが、後悔はしていない。

 エドさんとセノンさんも喜んでくれたようなので、タッパーに入ってたクッキーがほぼなくなったけど結果オーライということで……。


 アリアさんのお胸に埋もれつつ話を聞いていると、納品分より少し多めのルビーファグが取れたというので、ちょっと早めだけどエルラージュの街に戻ろうか……という流れになったのだ。「欲張っても仕方ありませんからね」というのがセノンさんの談。

 今回の依頼は余剰分も依頼者が納品分と同程度の値段で買い上げてくれるという条件だったため、結構なお金が手に入りましたよ。どうやら急ぎでまとまった量が欲しかったらしく、「たまにある持ち込みだけでは足りない!!」という背景があったようですな。


 結構な好条件だと思うんだけど、セノンさんよくこの依頼もぎ取ったな……。スゲー! と思いつつよくよく話を聞いてみれば、依頼は早い者勝ちらしい。

 ギルドの壁に貼られた依頼一覧から受けたいものを選び、提出すればOKという……カルタ取り的な感じです??

 また、依頼一覧は随時更新されるため、タイミングが良ければ今回の様な好条件の依頼を受けることができる、というわけだ。



「今回の全報酬は銀貨3枚。そのうちの2割が共同金としてプールされます」


「えーと……それじゃあ、共同金は銅貨6枚……残りの銀貨2枚と銅貨4枚を5等分して、更にそのうちの4割を返すわけだから……」


「銅貨に……」


「待って待って! まだ言わないでください、エドさん! えーと……銅貨2枚と鉄貨8枚、銭貨8枚……で、合ってます?」


「……間違いじゃない、けど、銭貨はあんまり使わないから……返却分の端数、切り捨てちゃえば? いいよね、ヴィル?」


「それもそうだな。返却分の端数は切り捨てて、残りはリンの取り分にしていいぞ」


「え……ちょっと待ってくださいね? そうなると、一人頭銅貨4枚と鉄貨8枚から端数切捨て分の1割×4人分を引いて…………銅貨3枚と鉄貨2枚?」


「合ってるな。ほら、これがリンの取り分だ!」


「おおおぉぉぉぉおおぉぉ!! こちらの世界での初給与です!! やったー!!」


 

 「依頼(クエスト)達成なのですよ! おつかれさまです!!」と手を振ってくれるシーラさんに見送られ、打ち上げと称して山猫亭に陣取って……私は皆さんの隣で取り分の計算中ですよ! 四則演算とか共通で良かった……! 

 いやぁ……久しぶりに頭を使った気がする……メモ帳様々ですよ! 計算が得意な人なら暗算もできるんだろうけど、あいにくと算数とも数学とも仲が悪かった私には無理な相談ですな!


 ガリガリと筆算をする私の周りで、皆さんはお酒とツマミと嗜みつつ、一緒に付き合ってくれています。

 

 「よくできました!」と言わんばかりにニッカリと笑ったヴィルさんが、目の前にお金を積み上げてくれた。

 500円玉程の大きさの銅貨が3枚と、それより一回り小さい鉄貨が2枚。こちらに来てから、初めて手に入れたお金……お給料だ!


 おっと!でも、まずは、昨日お借りした宿代――銅貨2枚分――のうちの半分をヴィルさんに返しておきましょうかね……。

 そう思って、銅貨のうちの1枚をヴィルさんに差し出したんだけど……。



「今はまだいい。リンの全財産のうちの3分の1だぞ!? それを取り上げる程非道な真似はしないぞ」


「えー……借金背負ってる方が気になるんですが……」


「何があるかわからんから、まずは貯めておけ。ある程度貯まった時点で返してもらうから……な?」



 本日はエールらしきものを大ジョッキで嗜まれているヴィルさんの手に、やんわりと差し戻されました。ぐぬぅ。ヴィルさんのこの真面目さよ!


 とはいえ、指摘されたことに納得できたので、もう少し貯めてからお渡しすることにしましょうか!


 …………でも、そうか。初給料かぁ……自分で稼いだお金……常識的に使う分なら、好きに使っても誰に咎められることもないお金だ!

 近くを通りかかった店員さんに、果実水をお願いする。

 昨日の果実水が美味しかったので、初給料が出たら自分のお金でまた頼もう……って思ってたんだ!



「そうだ。そういえば、リン。あのクロヨモギはどうするつもりだ?」


「ああ! あれを乾燥させてモグサを作ろうと思うんです! こっちの世界でも使えるかな、って……」


「もぐさ? クロヨモギで作るということは、薬か何かですか?」


「薬っていうか、道具っていうか…………とりあえずまずは袋に詰めて温められるカイロ的な感じで、身体の冷えを取ったり刺激を与えたりするモノを作ろうかなぁ、と」


「冷えを、取る!」



 ニマニマと到着を待つ私の隣であっという間にジョッキを干したヴィルさんが、ふと思い出したようにこちらを見た。昼間の「利幅低いのに……」がまだ尾を引いてたんですか……。

 イメージ的に薬草の知識が豊富そうなセノンさんにも興味を持たれたようで、白皙の美貌がこちらを捕らえる。


 流石にね、直接灸……皮膚の上で燃焼させることによって刺激を与える東洋医学的伝統療法に使用したいと思います! とは言えなかったよ……。直接灸を改めて言葉にしようとすると、スゴイブッソウ。マッポーめいてるよねぇ。

 でも、素人の手作りもぐさでいきなり直接灸は無理だろうから、まずは間接灸とか箱灸とかもぐさカイロとかの方向で頑張りたいと思います。

 将来的には、葉巻作り的なノウハウを身に付けて、棒灸も作ってみたいけどね!


 そして、お灸の得意分野である『身体を温める』ということに反応したのはアリアさんだった。

 昨日、今日と手を握られたり抱き着かれたりしてわかったけど、冷え性っぽいですもんねぇ、アリアさん……。

 服越しですら身体が冷たいって、相当だと思いますよ、うん。



「冷え取り、できますよー。モグサと岩塩と……陳皮とかハーブも入れて、ちょっと温めて……お腹に乗せたり腰に乗せたりすると気持ちいいと思いますよ」


「……リン……作ろ? それ、今すぐ作ろ??」


「今すぐ!? いや、クロヨモギを乾燥させたり砕いたりしてモグサを作るところから始めないといけないから、流石に今すぐは……」



 切なげに潤んだ水色の瞳に確かな情熱を乗せ、ほんのりと頬を染めた美女に手を握られて……相変わらずお人形めいた美貌に見つめられるとドギマギしちゃいますよ!

 ……それにしても、やっぱりアリアさん、冷たい手ですねぇ……。これは確かに「すぐほしい!」ってなっても仕方ないかも……。

 私は年がら年中冷え知らずだけど、だからこそ冬の寝起きとかに身体が冷えてると辛いなぁ……って思うもんなぁ。利用者さんからも、身体が冷えて辛くて……っていう声はよく聞こえてたよ。


 でもなぁ……もぐさカイロ、作るには時間がかかると思うのですよ……何しろ、もぐさの作成から始めなきゃいけないわけだし、ねぇ……。

 試行錯誤することも含めたら、結構かかるんじゃなかろうかなぁ……と思うわけで……。

 


「……乾燥……粉砕…………エディがいるから、大丈夫……! わたしも、協力は惜しまない!」


「うんうん。アリアのためなら、オレも頑張るよー?」


「私も気になりますね……地方に伝わる治療方法でしょうか?」


「………………諦めろ、リン。こいつらに興味を持たれたのが運の尽きだ」



 いつの間にかいちゃいちゃしていたご夫婦と、緩く握った拳で口元を隠しつつ意味ありげに微笑むエルフさんに、私を眺めつつため息をつく鬼ぃさん……。


 ……なんか……詰んでないけど詰んだ気がするなー……。


 ようやく届いた果実水の、仄かな桃の風味を楽しむ余裕くらいは欲しかったよ……うん……。


閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。

もぐさカイロも好きですが、箱灸と棒灸も温まって良いものなのですよ(´∀`)

……というか、異世界なら三稜鍼と吸い玉で瀉血しても怒られないのでは……!?

もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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