おむすびころりん すっとことんのとん
レジャーシートには結局座り切れませんでしたよ。冷静に考えれば一人~二人用のちっちゃいやつだったもんね。
でも、皆さんわりと地べたに座るのに抵抗がないらしく「別にそのままでいいよー(byエドさん)」と、各自涼しそうな木の下やらに座ってお昼になりましたよ。
見張りとかしなくていいのかなー……と思ったのですが、アリアさん曰く「周りに網を張ってるから、大丈夫。それより、ご飯が大事!」とのことで……。
その言葉を信じて、お握りの包みと麦茶の入ったコップを渡して回ったら、私のお役目は一段落かな。
あとはもう、皆さまご自由にお召し上がりくださいな!
私も遠慮なく食べますよ!!
「……おい、しい!! リン、これ、美味しい!!」
「あー……沁みるわぁ……空きっ腹に沁みるわぁ」
「それは何よりでした。もし足りなかったら、次からはもう少しいっぱい作るので言ってください」
まず声が上がったのは、二人並んで座って食べているアリアさんとエドさんから。お握りに齧り付いたかと思うと、目をキラキラさせている。
お腹が空いてる時の炭水化物はなかなかクるものがありますよねぇ、わかります。
パクパクと音が付きそうな勢いで一つ目をペロリと食べたかと思うと、卵焼きを口に入れて、また悶絶するアリアさん。
ペースはゆっくりめながらも、アリアさんにお茶を差し出したり口元のご飯粒を取ってあげたり、かいがいしく……そして何とも幸せそうにお世話をしているエドさん。
「リア充爆発しろ」という気持ちにはならないのが不思議なくらいにイチャつかれてるけど、二人の雰囲気が「幸せです!!」って言ってるから、まぁいいか。
「珍しい味付けの炊き込みご飯ですね。もう少しパラパラとしているものだと思いましたが」
「お米自体を炒めていないのと、お米の種類自体が違うのかもしれませんね」
口をつけた後、矯めつ眇めつお握りを観察しているのがセノンさん。
さっきのヴィルさんとか今のセノンさんの言葉を聞く限り、たぶんこっちの世界でもお米は流通してるんだろう。そしてそれは、インディカ米系統のお米なんじゃないかなー、って思ってる。
何しろ、向こうの世界ではお米の世界的生産量の中で八割を占めてた種類だからね。こっちの世界でもそうなんじゃないかなー、って。
粘り気が少なくパラパラとした食感で、ピラフとかパエリアみたいにスパイスを利かせた料理に使われることが多いお米だから、こっちの世界でもピラフとかに使われてるんじゃないかな?
シンプルなパラパラピラフを、香辛料たっぷりのシチューとか煮込みなんかと一緒に食べると美味しいと思う。カレーでも美味しいと思うけど、こっちの世界に所謂日本的な『カレー』があるかどうか……
ちなみに、モーちゃんの冷蔵庫に入ってたお米はジャポニカ米だから、粘り気が強くてもちもちしているわけですよ。
もしインディカ米も手に入ったら、私もピラフとか作ろう。スパイスいっぱい入れたビリヤニ風のピラフとか、美味しいと思うんだ。
思い思いに食事を楽しんでくれているみんなの姿を見て、ちょっと安心しましたよ。何とか、ご飯番の役目は果たせたかな。
それじゃ、私も頂くことにしましょうかね。
自分の分のゼーラム包みをゆっくりとほどく。包みを縛っている紐は、ゼーラムの葉っぱを細く裂いたものだ。葉っぱ自体に厚みがあって丈夫だったし、葉脈が並行に走っているから裂きやすかったんだ。
……平行脈ってことは単子葉類で、ひげ根で、維管束は不斉中心柱状だな!
それと双璧をなすのが網状脈で、双子葉類で、主根側根があって、維管束は輪状になるのだよ!! 未だに覚えてるぞ!!!
閑話休題。
…………それにしても、自分で作った上に自分で包んでおいてアレだけど、やっぱりこう……お弁当の包みを開ける瞬間って心が躍るよねぇ!
緑の葉っぱを開けると、茶色いお握りと、黄色の卵焼きが見えて…………雰囲気込みでなお美味しそうですよ!
「うん。リンを誘って間違いなかったな!」
「ご期待に添えたようで何よりですよ」
私が一人で興奮している間に早々と一個目のお握りを食べ終わったヴィルさんが、二個目のお握りを持ってニィっと笑いかけてくれた。
…………ついでといわんばかりにまだ残ってる私の卵焼きを見てるけど、コレは私のだからな! あげないからな!!
でもまぁ、喜んでもらえているようで何よりです。
やり遂げた感を噛みしめつつ、まだほんのりと温かい手元のお握りにかぶりつく。
もっちりむっちりと炊きあがった米粒が口の中でほどけて広がるのと同時に、程よく甘しょっぱい味わいもまた広がっていく。
ちょっと大きめに切ったラージラペルのお肉は、火が通ってなお柔らかく、もちもちと適度な弾力で歯を押し返してくる。しっかり味が染みている上に、噛めば噛むほど旨味が滲み出る。
それに対してティラータケは、じっくりと炊きあげられたせいだろうか。シコシコとした歯ごたえは残しつつもはんなりと舌に吸い付くような弾力を備えるようになっていた。
もちろん、魅惑のキノコエキスはなお健在で、食べて噛んで飲み込んで……のループを止めるのが難しい程度の美味しさだ。
ガッつくあまりに喉に詰まりかけたところを麦茶で流し込んでやるのだが、喉の圧迫感がすっと胃に落ちていく感覚すら美味しくてたまらない。
ちょっと箸休め的にゼセリ入りの卵焼きを摘まんでみるが、下手をすればくどくなりそうなほどに濃厚な卵の味を、ゼセリの香気と爽やかな食感が中和して、上品ささえ感じる程度に味を押し上げていた。
「……ちょっと我ながら美味しくできたんじゃない?」
「まったくもって味に関しては文句はないな。だた、惜しむらくはもう少し量があってもいい、って所だな」
「え!? マジですか? ………………マジっぽいですねぇ……」
麦茶を飲み干して顔を上げれば、ヴィルさんどころかアリアさんもエドさんも……セノンさんすらすでに食べ終わっていた。
しかも、割と皆さん「もっと食べたい……」的なお顔なんですがそれはうがぁ くとぅん ゆふ!
結構なお米炊いたと思ったんだけど、足りなかったとは……!
幸い一升炊きの炊飯器なので、次はもっといっぱい炊きますかね。もしくは、汁物があるとまた違うし、副菜も出すようにしようか……。
……でも、まず今の私がやらなきゃいけないことは、まだ残った私のお握りにチラチラと視線を送る腹ペコパーティの気をそらすことだ。
POW対抗で失敗したら襲い掛かってこられたりとか自らの身体を食い破ったりはしないだろうけど、SAN値は大事だぜ!!
「……で、デザートに焼き菓子食べる人いたら挙手!!」
「おかし!」
「この間のアレか! 喰わない理由がない!」
さりげなーく残ったお握りにゼーラムの葉を被せつつ、自分も手を上げながらだしぬけに声を張り上げる。
反応が早かったのは『甘い物好き』と自己紹介したアリアさんと、ベリークッキーもスパイスクッキーも口にしたことがあるヴィルさん。
残りの男性陣も、「甘い物か!」という顔でやや遅ればせながら手を上げている。
…………よしよし。上手く気をそらせた、である。
「焼き菓子も美味かった!」とメンバーに力説をするヴィルさんと、ふむふむと聞いているお三方。
そして、その間にこっそりとお握りの入ったゼーラム包みを服の下に隠す私。
いやぁ……スパイスクッキーアゲインしておいてよかったよね……。
結構な量のクッキーが入ったタッパーに思いを馳せて、私はこっそりとモーちゃんの中へと姿を隠すのだった……。
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
ピラフ、パエリア、ビリヤニ……一度本場のものを食べてみたいです(´∀`)
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