あら美味し 茸は煮らる 肉煎らる 炊けたる米に 勝る物なし
お昼になる2時間ほど前に、採取作業を切り上げる。そろそろご飯の支度をしなくちゃいけないからだ。
こちらの世界に来てから初めての大人数ご飯、ということもあり、ちょっと余裕をもって準備を開始することにしたんだ。
クロヨモギをたんまりと。ルビーファグも何本か……そして、倒木の幹に山程生えていたティラータケをもっそりと回収し、人目がなくて、ちょっと開けたところでモーちゃんを展開する。
昨日いたレアル湖周辺とは違い、この辺は草原のような感じで、土がむき出しになっている所があまりない。
仕方ないけど、今日はモーちゃんの中で料理しないとなぁ……。
ある程度土が見えてないと、焚火台を使うとはいえ、飛んだ火の粉とかで火事になったら大変だしね。
でも、せっかくお天気もいいし、空気も美味しいし、出来上がったらピクニックみたいに外で食べたいなぁ……。
そもそもヴィルさんの方から、今回の所はモーちゃんに乗れることを言わなくてもいいんじゃないか……というお言葉を頂いているため、必然的に外での食事になるわけですよ。
だとすると、おかずがなくてもご飯が食べられるような…………そうだ! 炊き込みご飯にしよう!!
具材は、今採ってきたティラータケがあるし、昨日ヴィルさんがくれたラージラペルのお肉も使わせていただきましょうかね!
「きょうのー、おひるはー、たきこーみごーはーんー♪」
ついつい適当な節回しの鼻歌が出てしまい、まだ緊張した面持ちが解けないままモーちゃんに乗り込んできたヴィルさんにギョっとした顔で見られてしまった……。
不覚!!
「あー……たきこみごはん、とは?」
「具材と一緒に炊き込んだ味付きご飯……ですかねぇ。おかずがなくてもご飯が食べられる優れものですよ!」
「洋風炊き込みご飯みたいなものか。冒険者にはもってこいだな!」
思いっきり動揺が顔に出てしまった私に気付いたのか、ヴィルさんは鼻歌には触れずにさりげなく話を進めてくれる。
良い人や……ヴィルさん、良い人やぁ……!
でも、思いっきり私から目を逸らしたあの瞬間は忘れないからな! 絶対にだ!!
…………いや。多分すぐ忘れます……。台所にお醤油取りに行ったのに、「なんで台所来たんだっけ?」ってなる程度には忘れっぽいんで……。
「とりあえず、まずは具材の準備をしちゃいますかね」
「具は何が入るんだ?」
「今採ってきたティラータケと、昨日貰ったラージラペルを使おうと思います」
まずはキノコの下処理を……傘についた汚れや落ち葉を流して丁寧に洗っていく。キノコを水洗いすると香りも風味も落ちるっていうけど、泥とか食べるよりは良くない??
水道のレバーを上げるだけで蛇口から迸る水に、ヴィルさんがえらくギョっとした顔で後ずさる。
まぁ、ねぇ。見慣れない光景ではあるよね、うん。
汚れが落ちたら手で適当な大きさにパキパキと割って、ザルに空けて水気を切っておくことにしましょうか。
別に包丁で切ってもいいんだけど、キノコは手で裂いたり割ったりした方が、断面から味が染みる気がして好きなだけなんだ。この辺は好みで良いんじゃないかな??
チルドに入れておいたお陰か、ラージラペルのお肉も鮮度が落ちた様子は全くない。ちょっと細長い感じで、程よく脂ののった所を見ると、背肉あたりかな??
こちらは一口大に切って、お醤油とお酒、お砂糖を入れたタレを揉み込んで下味をつけておく、と。
「炊き込みご飯は、先に具材に火を通した方が楽だと思うんですよ……」
「そうなのか? そのまま炊き込んだ方が楽だと思うんだが……」
「生のまま入れると、どうしても水分が出ちゃいますから……水気を抜いておいたほうが水加減が簡単ですから!」
フライパンに油を熱し、割ったティラータケを入れて強火で炒める。ジャアアアア! と油の弾ける陽気な音が車内に響いた。
そのまましばらく置いておくと、肉厚のティラータケからじゅぶじゅぶとキノコエキスが滲みだし、フライパンの底に溜まっていく。
これ! このキノコエキス!! 美味しいんだけど、生で炊き込むとご飯が水っぽくなる原因なんだよねぇ……。味も染み込まない気がするし、さ……。
でも、こうやって火を通して水気を抜いてさえしまえば、旨味たっぷりのキノコエキスが溶け出た煮汁でご飯が炊けるし、具材からでる水気も少ないからご飯も水っぽくならないし、具材自体にも味が染みてて美味しい……という三方良しの炊き込みご飯ができるのだ!
……で、ある程度キノコがくったりしてきたら、タレに漬けておいたラージラペルのお肉もタレごとフライパンにブチ撒ける。
こう……お醤油とお砂糖が煮える甘くて香ばしい香りに、ちょっとしなびたティラータケの香りと、お肉が煮えるありがたい匂いが混じって……うん、至福ですな!
お肉に八分くらい火が通ったところで火を止めて、煮汁に浸らせたまま冷ましておく。余熱で火が通らないようこの時点で具材と煮汁に分けてもいいんだろうけど、個人的に味を染み込ませた方が好きなので……。
「……うん! お肉美味っ!! ってか、ティラータケが予想以上に美味しい!!」
「ラージラペルが美味いのは知っていたが、ティラータケもこうして料理すると味を吸って美味いもんだな」
「ああああ……これは……これが炊き込みご飯になるのが恐ろしいですわぁ……!」
摘まみ喰い……もとい、味見は料理人の特権ですからね!!
火が通っていそうなラージラペルのお肉とティラータケを一つずつ、ヴィルさんと共にこっそりと口に運んでみる。
ラージラペルのお肉は、分類的には野生肉あたりになるんだろうけど、臭みとかはまるで感じない。兎肉は淡泊で鶏肉に似てる……っていう話を聞いたことはあるけど、ラージラペルのお肉は鶏肉とはけっこう違うなぁ……。
鶏肉よりも柔らかくもちもちとした歯触りの肉は、噛みしめるたびに仄かな甘みが舌の根に絡みついてくる。部位によってパサつくところもある鶏肉とは違い、全体的にしっとりとした舌触りだ。
そして、香りも味も薄いと言われているティラータケもなかなかどうして……お肉の旨味と、煮詰まった自身のエキスをも吸い込んでいて、冷遇されるのが可哀想なくらいに美味しく仕上がっている。加熱してもまだ残る、コリコリとした強めの歯ごたえが実に心地いい。
……そうかぁ……コレがご飯に炊き込まれるのかぁ……末恐ろしいな……
想像以上のポテンシャルを秘めた昼食に心胆を寒からしめられつつ、炊飯器のお釜にPET容器からザザーっと適当な量のお米を流しいれてガシュガシュと研いでいく。……お米の研ぎ汁は肥料にいいらしいけど、撒く場所ないもんなぁ……。
ちなみにお米の計量をしないのは、結構元からだ。そもそも向こうで暮らしていた時から、一人暮らしの家には米櫃もないから米袋からザザー……がデフォだったよ!
「別に、量らなくても水加減できるからいいんだ……」
「……リン……誰に言ってるんだ?」
「………………なんかちょっと主張したくなりまして……スミマセン」
無意識のうちに心の声が漏れていたようで、怪訝そうな顔のヴィルさんからツッコミが入る。
誰に言ってるのか私もわからないけど、ここは主張しとかないと! って思っちゃったんだよね……。本当になんでだろ??
……細かいことは置いといて、さっさと炊き込みご飯を作ってしまいましょうか!
ボウルの上にのせたザルにフライパンの中身を空け、煮汁と具材に分けておく。
研いだ米にまずは煮汁を……足りなければ水を足し、人差し指を入れた時に第一関節くらいの水位になるよう加減していくのだ。
今回は具材からまだ少し水分が出ると予測しているため、第一関節に足りない程度の水加減にとどめている。
身体を使った水加減、覚えておくと便利よー。キャンプでも使えるし、お米の残りが一合以上二合未満……とかいう中途半端な時でも使えるし!
あとはもう具材をお米の上に乗せて、炊飯器さんにお任せするだけだ!
美味しくなーれー☆と念じてスイッチを押し……炊けるまで時間があるから、まだ残っているファントムファウルの卵で卵焼きでも作ろうか。
みじん切りにしたゼセリを入れれば、彩りもキレイだしカサ増しにもなるだろうし、ね!
「見事な手つきだな」
「慣れですかねぇ、慣れ……あー……でも、四角いフライパンが欲しいなぁ……」
緑と黄色のコントラストが美しい卵焼きをフライパンでクルクルと巻いていると、ヴィルさんからお褒めの言葉を頂きましたよ!
作り方と味のベースは卵焼きなんだけど、フライパンで作るとどうしてもオムレツみたいな形になっちゃうねー。
個人的に卵焼きは四角であってほしいけど、流石のモーちゃんにも卵焼き用のフライパンはなかったよ……。
ま、味に変わりがあるでなし。良しとしましょうか!
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
なかなかパーティメンバーと絡めない……(´・ω・`)
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