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私のモグサが火を噴くぜ! え? それヤバくない?

 あの後、泥のように眠って、ヴィルさんに起されて、あれよあれよという間に採取依頼に向かうことになりました。


 今回セノンさん達が受注したのは、納品依頼のあったアイテムを採取し、ギルドに収めることで依頼が完了する『採取依頼』と呼ばれる任務らしい。余剰分もギルドで買い取ってもらえるらしく、初心者から上級者までレベルに応じた依頼があるとのことだ。

 現地に到着したら各自適度に散らばって採取をするとのことなので、私はヴィルさんと組んで採取のアレコレを実践してみればいいんじゃないか……という事で、現在、エルラージュから少し離れた林の辺りで、採取実習リターンズですよ!



「ヴィルさん、ヴィルさん、この『ティラータケ』は売れます?」


「売れるが、あまり高くはないな……100(ゲルメ)で鉄貨5枚、ってところだな。それより、目的の『ルビーファグ』を探した方が、余った時に金になるぞ」


「わかりました! 探してみます!!」




 そんな散らばって大丈夫か……と思ったんだけど、それほど強い(だいじ)魔物が出ないので(ょうぶだ)あまり心配はいらない(もんだいない)とのことらしい。

 そもそも、エルラージュ付近の林や森には依頼のために冒険者が頻繁に立ち入るため、強い魔物や魔生物、獣の群れなどもあまりいない……というより、いることはいるのだが、人目を避けて森の奥深くにこもっているため、なかなか遭遇する機会が少ないのだそうな。

 それなら別に採取依頼(クエスト)じゃなく、魔物や獣の討伐依頼(クエスト)でもいいのでは……と思ったけど、前衛の主力であるヴィルさんが抜けている時に万が一大物に遭遇してしまうと、火力不足で削り切れないから……という判断らしかった。

 まぁ、安全マージンは取っておくに越したことはないよねぇ。


 依頼の品を集めつつ、換金して資金にできるような物を採っていこうか、とヴィルさんが提案してくれたので、生存戦略(サバイバル)さんを駆使して探しておりまする。

 尤も、買い取り相場がわからないので、ここは先輩冒険者たるヴィルさんに聞きながら採取を進めてますよ。ついでに、さっきみたいに魔物が出ても困るので、なるべくヴィルさんから離れないように注意してるんだけどね……。


 参考までに……山猫亭で普通の部屋で素泊まりしようとした場合、一泊の相場がだいたい銅貨2枚ほど……食事は軽いものなら鉄貨5枚で食べられるらしい。

 通貨は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨……そうそう機会はないけれども大金貨くらいまでが一般で使われているとのこと。数え方は十進法なので、鉄貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚……と繰り上がっていく方式だ。

 他には、鉄貨の下に悪貨・ビタ銭の類である賤貨があるけど、これは公式には認められていないお金のようだ。大金貨の上には白金貨があるらしいけど、これはあんまり流通していない。かなり大きな取引の時にだけ使われるんだって。


 つまり、先ほど見つけたティラータケ――傘の部分が平らに波打つように大きく開いた肉厚なキノコ――の場合、100g分取れればで軽食が食べられ、400g分取れれば山猫亭で一泊できる……というわけだ。

 ヴィルさんおすすめの『ルビーファグ』は、ルビーのように真っ赤な傘と黄色の軸のキノコのこと。色合いや見た目は毒々しそうだけど、実は無毒な上に香りも味もいい高級キノコなので、これが400g取れた場合、宿で一泊できる上にちょっと豪華なご飯まで食べられてしまうのだ!


 生存戦略(サバイバル)さんで見る限り、ティラータケも十分美味しそうなんだけど、見た目が地味で味と香りが淡泊な分、見た目にインパクトがあって濃厚な味のルビーファグに負けちゃうんだってさ。

 なので、利幅の低いティラータケは、私たちで美味しく頂いてしまいましょう!


 あ、そうそう! (ゲルメ)っていうのは、重さの単位。長さの単位は(モルタ)だそうな。

 ……何ていうか、地味に向こうの世界と似通ってるよね。時間の単位とかも秒、分、時が普通に通じちゃうし。



「あ! またなんかあった!!」



 視界の端で、生存戦略(サバイバル)さんの青枠がキラリと光る。

 意識して使ってみると、生存戦略(サバイバル)さんは食べられるものを探すのにものすごく便利なのだ。


 危険が迫っている時にオートで警告(アラート)を出してくれるように、食べられる物が周囲にある時にもこうして教えてくれるのだ。



【クロヨモギ(可食)

 食用というよりは薬草として扱われることが多い。育ったものはスジが硬く、苦みも強い。

 柔らかな若葉は食用が可能。菓子などに使われることもある。

 水薬(ポーション)や軟膏の材料としても使われるなど、使用用途は多岐に渡る】



 お……おお!!! おおおおおお!!! ヨモギ!! ヨモギちゃんじゃないか!!

 我らが鍼灸師……特に灸師の頼れる相棒・もぐさの原料のヨモギちゃんじゃないか!!!

 これは……これは見逃せませんぞぉぉ!!

 灸師的に、何がなんでも確保しておかねばなりませんぞぉ!!


 特級もぐさを作れるとは思ってはいないけど、普通~粗悪もぐさくらいの等級のヤツは何とかなるんじゃないか?

 専門学校時代に、課外授業の一環としてクラスメイトと作ったお陰で手順はわかるし!

 直接灸には使えないかもしれないけど、間接灸とか温灸とかもぐさカイロとかには使えそうじゃん!!


 俄然! やる気が!! 出てきた!!!


 お菓子にも使えるそうなので、若葉も育った葉っぱも採っていきたいと思いまする。



「ヴィルさん、ヴィルさん! 『クロヨモギ』は売れます?」


「毒消しや傷薬の水薬(ポーション)を作る時に使うんだが、どこにでも生えてるし、誰でも取れるから大した値段にはならないな……子供のお駄賃程度だ」


「マジですか!? 心置きなく使えそうです!!!!」



 それなら、クロヨモギ採り放題しても大丈夫そうですね!! 

 狩り尽くさない程度に採って来ようと踵を返した瞬間、視界の端に赤い枠が飛び出した。


 うぎゃぁ!!! またか!? またか!?!?

 取り乱しそうになる心と身体をぐっと抑えるのと同時に、側にいたヴィルさんがそっと背中を支えてくれる。


 ……っっ……大丈夫……大丈夫だ! ヴィルさんもいる! 大丈夫…大丈夫……!!!


 叫びそうになるのをぎゅっと歯を食いしばって耐えていると、目の前の藪からがさごそと葉や枝が擦れる音がする。



【ビッグフロッグ(可食)

 巨大なカエルの魔生物。動きは鈍く、手を出さなければ危険度はさほど高くない。

 耳腺と皮膚のいぼから乳白色の毒素を分泌する。皮膚に付くと軽い炎症などを引き起こす。

 皮を剥いた後の肉は無毒だが、味がなく食用には向かない】



 ……うへぇぇぁぁぁぁ……で、でかいカエルが……柴犬くらいの大きさのヒキガエルっぽいやつが出てきたー!!

 カエルはべつに嫌いでもないし触ったりするのも大丈夫なんだけど、かなりの大きさな上に感情の読めない目がぎょろぎょろしてるっていうのが、ちょっと……こわいぞ……。

 しかも、お前、あんまり美味しくないのかよ!! ガッカリだ!!


 カエルは動くものを餌として認識する……っていう話を聞いたことがあるし、手を出さなければ危険度は高くないらしいので、とにかくその場でジッと身動きをせずに黙っていてみた。

 しばらくの間無言でにらみ合っていたが、その大きな無機質な瞳をせわしなく動かしたかと思うと、巨大なカエルは出てきたときと同じようにのそのそとどこかへと去っていった。


 冷たい汗が背中を伝う。

 ヴィルさんが側にいるとわかっていたし、あまり危険度が高くない生物を相手にしている……というのもわかっていたが、怖いものは怖いんだよぅ!!



「……ふ、へぇ……カエル……でっけぇ……」


「アイツは煮ても焼いても美味くなくてな……倒す手間を考えると相手にしたくない。向かってこない限りは無視する方向で良いと思う」


「毒持ちですもんねぇ……そういえば、昨日の鳥は『魔物』だったんですけど、あのカエルは『魔生物』ってなってて……何か違いがあるんですか?」


「そうだな……普通の生き物が魔力を帯びたモノが魔生物、魔力を備えてスキル的なモノを使ってくるようになったのが魔物……という感じか?」



 思わず深いため息をつく私の背中を、ヴィルさんがポンポン叩きながら教えてくれた。

 そう簡単なものじゃないんだろうけど、普通の生き物→魔生物→魔物……みたいな順番で進化というかなんて言うのかわかんないけど変化していく……って感じなんだろうね。

 ヴィルさんが説明してくれたことによると、魔生物はスキル的なモノこそ身に付いてはいないけど、普通の生き物と比べると格段に強かったり、大きかったりするらしい。


 思い返せば、超美味しかったミルクトラウトちゃんも『魔生物』って記載されてたもんな。

 ああ! だからミルクトラウトちゃんもデカかったのかー…………いやいや……向こうの世界でも、ロックトラウトとかスチールヘッドとか、デカいやつはいた気がするぞ……??

 まぁ、あのカエルは『魔生物』って言われて納得の大きさですけどね!


 それより何より、ヨモギですよ、ヨモギ!

 我らが灸師の商売道具の原料が存在していた上に、採り放題しても問題なさそうなのが、もうサイコー!!

 これはポイント高いですよ!!


 一番大きなコンビニ袋に周囲のクロヨモギを詰め込む私を、『利幅低いのに……』という顔のヴィルさんが眺めてるけど、今はちょっと待ってください!!

 後でちゃんと、何でこれを収穫していたのか説明しますので……今はちょっと鍼灸師(ほんぎょう)ができるかもしれない喜びに浸らせてください……!


 あーあ……どこかに管鍼法用の鍼が、寸3・1番、寸3・2番、寸6・2番、寸6・3番、2寸3番くらいのラインナップで落ちてないかなぁ……オールステンレス製とかだと、灸頭鍼もできるしなぁ……。


 …………………………………………落ちてるわけないんですけどね!


 誰か、鍼灸師(わたし)に、鍼ぷりーず!!!!

閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。

これからの時期、クーラー等で帰って体を冷やしてしまう方もいらっしゃるとは思うのですが、そんな時のお灸は温まるので良いですよ(´∀`)

私はお腹に千年灸するのが好きです。


もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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