おのぼりさん丸出しツアー絶賛開催中
「……お、おぉ……おおおおぉぉぉおおぉおおお……」
「大丈夫か、リン? 口が開きっぱなしだぞ……」
「へぶっっ!! で、でも、これは……!!」
路肩を疾走するという力業を使い、エルラージュの街まで到達した私の目の前には、現在とてつもなく高い壁(物理)が立ちはだかっています。
思わずポカンと口を開けたまま見入ってしまった私の顎に、ヴィルさんの手が触れた。
……別に、顎クイだのといった色気のある話ではない。掌で顎を持ち上げられ、口が閉じるよう矯正をされただけである。
なんだろうね?? 顎が外れたように見えたのかな??
そんな風にヴィルさんに気を使わせてしまうくらい、目の前の光景に目を奪われてたんだよねぇ。
大街道に通じる街の出入口には煉瓦でできたアーチ状の巨大な門がそびえ、その両脇を衛兵らしき人が守っているという……ゲームや漫画などで目にしたことがある城塞都市さながらの光景が広がっているのだ。
検問所も兼ねているのであろう門の周囲には背の高い建物が立ち並び、街を囲う壁のような役目をしているのも『城塞都市っぽさ』を醸し出している。
そしてなにより、圧巻なのはその大きさだ。
10mはゆうに超える高さと、いざというときにはそれ自体が防御壁に成りうるだけの奥行き。そして馬車が2台は楽に通れる間口の広さを持った建造物が、奇妙な圧迫感を以て迫り来る。
目の前のすべてが巨大な壁……という非日常感のなせる業なんだろう。
「…ン……! リン! 行くぞ!」
「ふへっ?! え、あ、行くってどこに?」
「アイツらが管を巻いていそうな場所だ。ここからそう遠くない場所にある」
「いや、行くのはいいですけど、入場手続きみたいなのは?」
「さっき終わっただろう……ほら、邪魔になる前に行くぞ」
目の前の建造物に対して、ただひたすら「でけーなー」とか「作るのにどのくらいの期間と費用がかかったんだろー?」とか……ある意味どうでもいいようなことをつらつら考えていた私の思考を、ヴィルさんの声が断ち切った。
顔を上げれば、いつの間に門を潜ったのか、怪訝そうなヴィルさんが立てた親指を賑わう街中に向けてクイクイとしゃくる。
えぇぇ……行くのは良いけど、こういうシチュエーションの時って、身分証の提示が必要だったり、身分証がなければお金払って仮身分証みたいのを発行してもらったり、なんとなれば門のところでステータスチェックして身分証作ったりするものなのでは……??
思わず首を傾げてしまった私を見たヴィルさんの眉根が、途端にぎゅっと歪められる。ただ、怒ってるとか困惑してるというよりも、気忙しそうというか、心配そうと言うかすまなさそうというか、様々な感情が入り交じっているように見えるのは気のせいなんだろうか?
そんな何とも言えない顔のまま、私の傍に大股気味で戻ってきたヴィルさんは私の手首を掴んで街中に向かって歩きだした。
「街の中はまた改めて案内してやるから、今はまずこうして行くぞ。今のリンを一人で歩かせたら、いつになってもたどり着けなさそうだ」
「ア、ハイ。ご迷惑をおかけしてすみません」
「別に迷惑ではないな。ただ、ずいぶんぼうっとしているから、疲れが出たのかと思ってな」
「あぁ。初めて見るものばっかりで珍しくて、つい……」
うむ。気を使われていたようでかえって申し訳ない。
ただ単に、見るもの見るもの全部が珍しくて、気を散らしてばっかりなだけです、ごめんなさい!
手を引かれながら進む先には、いく筋にも分かれて港に注ぐ水路や運河があったり、水路に比例する数の桟橋と、そこに立ち並ぶしっかりと焼き固められた煉瓦でできた倉庫とか……異国情緒を誘ってくるんだ。
それに、すれ違う人達のほとんどが、エルフっぽかったり、ドワーフっぽかったり、獣耳と尻尾があったり、鱗があったりと、生まれて初めて見る人種(?)に内心キャーキャー言いながら興奮してるし、着ている服だって初めて見る系統のモノばっかりで、こう言っては失礼なのかもしれないけど見てて飽きないんだよぅ!
ただまあそのせいで完全におのぼりさん状態なので、ヴィルさんの対処法は正しいと思いますよ。
物凄く恥ずかしいんですが、手を離されてもまた周りに気をとられて迷子になる未来しか見えませんのでな!
「さて。ここが俺達の行きつけの酒場『メニエ・オルダ』……通称・山猫亭だ」
「えー……所謂『冒険者酒場』みたいなやつですか? それとも単に居酒屋さん的な?」
「リンの言う『冒険者酒場』というのがどんな店なのかよくわからんが、食堂兼、酒場兼、宿屋……というのが一番近いかもしれないな。冒険者以外の連中も、よく利用しているぞ」
何度か角を曲がり、何とも興味深い建物や人ごみの中を通り抜け……と歩を進めていると、不意にヴィルさんが足を止めた。
立っているのは、街の中心部からは離れているものの、そこまで端っこでもなく……適度に人通りのある通りに面して居を構える、年季の入った……もとい、なかなか趣のある建物の前だ。
なるほど……ここが冒険者の溜り場ね!
とはいえ、ヴィルさんの話を聞く限りでは冒険者以外の人も普通に利用できるっぽいし、そこまで荒くれてるわけじゃないんだろうけど、なんというか、その……先入観が……。
「一見さんお断り……という程格式がある場所じゃないから、まぁそう緊張するな」
「えーと、そうですね……ハイ……」
私の肩に力が入ったことに気が付いたのか、ふ、と笑ったヴィルさんが、私と繋いでいる手に力を籠める。
いやー……なんか『冒険者の人の行きつけ』……と聞くと、むくつけき連中が集まって酔って騒いだり新人が来たら「ママのオッパイでも飲んでな!」とか言われるイメージがあるんですよね……セッションのたびにそういうRPしてくるGMのせいで!!
カロン……と軽やかなドアベルの音に迎えられつつ、未だに手を放してくれないヴィルさんに先導される形で店のドアを潜り抜ける。
…………中は、確かにヴィルさんが言うとおり、和やかに食事をする人や、仲間内で楽し気に酒を酌み交わす集団、リストのような書付を眺めながらチビチビ酒らしきものを舐める商人風の男性など、様々な人たちが、それぞれの時間を過ごしていた。
先に入ったヴィルさんはしばし店内を見回した後、とある一角に向かって足を進めていく。店の割と隅の方……女性一人、男性二人がすでに席に座っている4人掛けテーブルの方だ。
「おい。今帰ったぞ!」
「は?」
「……えぇー……」
「おや。ずいぶんお早いお帰りで」
私の手を引いたまま声をかけたヴィルさんに、先客達が三者三様の言葉を返す。
……あ。もしかして、話してもらってたパーティメンバーって、この方々なんですかね……??
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