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結局さ、クッキーとビスケットって何がどう違うの?

ブクマ・評価、本当にありがとうございます。めちゃくちゃ励みになっております!

何とか投げ出さずに書けています。今後も頑張ってまいります!(`・ω・´)

 オーブンの扉を開ければ、天板にはこんがりと焼きあがったクッキーが並んでいた。

 周囲に漂う濃厚な甘酸っぱい香りとは裏腹に、クッキー本体は熱で弾けたハールベリーから溢れた果汁が生地を紫に染めていて、どことなく不気味な雰囲気を漂わせている。


「なぁ、リン。これはもう食べてもいいのか?」


「まだ熱いんで、もうちょっと待った方が良いと思いますよ、ヴィルさん」


「こ、この匂いの中、現物を目の前にして待つ、のか……?」


「それを言われると……うん……食べちゃいますか……!」



 洗ったボウルの上にBBQ用の網を置いたものをケーキクーラー代わりにして、オーブンから出したてのアツアツベリークッキーを並べてたんだけど……。

 手を翳せばまだ火傷しそうな熱気がまだ伝わってくるクッキーと私とを、ヴィルさんが交互に見てくる。

 口の中火傷するのも大変かなーって思って声をかけたんだけど、ね…………。

 …………期待を裏切られたかのような、ものすごくショックを受けたような顔で見つめられた私に、承諾する(どうぞという)以外の選択肢はなかったんだ……。

 何といっても、『待った方が……』とか言ってた私自身が、内心は食べたかったんだもんなあ……。……焼き立てクッキーの美味しさの誘惑に逆らうのは難しいよね!!

 

 そして結局、私の心配は杞憂だったようだ。

 大口を開けてはぐっとクッキーにかぶりついたヴィルさんの口からは、熱いという声は聞こえてはこなかった。

 ……というより、何の言葉も聞こえてはこない。


 瞳を輝かせて、夢中になって食べているせいだ。

 ……何とも美味しそうですな…………うん。私も頂くことにしましょうか……!



「あつっ!! あ、でも、美味しい!!」


「これは……良いな! 美味い!」



 ふーふーと軽く冷ましたにもかかわらず、ぽっこりと割れて口に入ってきたクッキーは、まだだいぶ熱かった。水分が多めの生地に、更に生ハールベリーが加わっているせいで冷めにくかったのだろうか。

 厚めに盛り上がった生地の中心部は、卵が入っているせいかふっくらとした食感で、口の中でほろほろと崩れていく。そこだけ食べれば甘食のような食感だ。

 だが、薄くなっている端のほうはこんがりと焼けていて、こちらはサクサクとしたクッキーらしい食感になっていた。

 ともすれば口の中の水分を持っていかれそうだが、混ぜ込まれた生ハールベリーから出る果汁のお陰で、口の中パッサパサだよパッサパサ! という事態は避けられている。

 ……というより、むしろ溢れる果汁でお口の中はジューシーなくらいだ。

 そしてそのハールベリーの果汁自体も、熱で水分が飛ばされているはずなのに、甘みも、酸味も鮮やかさを残したままぎゅっと味が凝縮されている。

 こっくりと甘いクッキー生地と、濃厚ながらもどこか軽い甘さのハールベリーが口の中で合わさって、お口の中がニルヴァーナですよ!

 飲み込んだ後に、ふぅっと爽やかな甘酸っぱい香りが残るのも、良い。

 一枚で二度も三度も美味しいクッキーに仕上がってるじゃないか!!

 いやぁ……甘いだけで終わらない分、ついつい進んでしまいますわぁ……恐ろしいですわぁ……。



「っあー!! でも失敗した!!」


「……ん? 何がだ? いくらでも食えそうなほどに美味いが?」


「私らの小腹満たし(オヤツ)にするつもりでしたけど、日保ちしないなぁ、コレ……」



 うん。非常にうっかりしてた!

 いくら火を通したからと言って、元が生ハールベリーじゃあ水分が多すぎる。溢れるほどジューシーなクッキーなんて、あっという間にカビちゃうよね……。


 粗熱の冷めてきたクッキーを手に取ると、ハールベリーの果汁がじんわりと染みているらしく、しっとりとした感触が指先に伝わってきた。

 ……うん。クッキーっていうよりは薄焼き甘食だね!


 まぁ、冷蔵庫に入れておけば明日くらいまでは保つと思…………あー…………。



「やらかした……つい食べちゃった……」


「……俺も、あまりに美味かったから止められなかった……スマン!」


「いや、オヤツにするつもりだったので、結果オーライというか、何というか…ただ、スパイスクッキーの方は明日以降の分に回してもいいですか?」


「ああ、大丈夫だ。気を回してもらって済まない」



 いつの間にか、ケーキクーラーに乗せてたはずのベリークッキーがきれいさっぱりなくなっていた。

 やらかしたわぁ……ついつい全部食べちゃったわ……。これは……これはもう日保ちとかそういった問題じゃありませんわぁ……。


 いや、なんかね……甘い物美味しい! 幸せー!! とか思ってるうちに手が止まらなくなっちゃったというか、何というか……。

 そもそもは、『日保ちする腹の虫抑え(オヤツ)を作ろう!』っていうのが発端だった気がするのに、全部食べちゃうとはこれ如何に? って感じだわ。

 こりゃあ日保ちするよう焼き締められる系のクッキーを、もう一回焼いた方が良いかもしれないな……。まだスパイス出してるし、スパイスクッキーアゲインかなぁ……………。

 うん、すまんね。スパイスクッキー、割と好きなんだよ……。


 でも、まぁ、『私らの空腹を落ち着かせる』という当初の目的と、『甘い物が食べたい』という個人的な欲求は達成できたというか、満たせたというかなので良しとすることにしましょうか!


 ジューシーなクッキーだったけど、続けざまに食べれば水分が欲しくなるよねー……と、ヴィルさんに麦茶を差し出しながら、私も手にしていた最後のベリークッキーを食べようと口を開け……たんだけど……。



「……えー……、と…………食べ、ます?」


「!! いいのか!?」


「あー、はい。なんか……どうぞ……」



 ほんの一瞬だけ、『食べちゃうの?』と言わんばかりにこちらを見つめるイチゴ色の瞳に、口に運ぶ寸前で手が止まった。

 おそらく、ヴィルさん自身も無意識だったんだろうなぁ。はっと我に返ったのか、すぐにその瞳は逸らされたけど、気付いてしまったぶん気が引ける、というか……。

 ……うん。まだ足りなさそうな顔してますもんね……。

 でもコレ、最後の一枚ですし、私ももうちょっと食べたい気がするんですが………………うーん……。


 ………………うん。結局、ベリークッキーを渡してしまいましたよ……。


 …………………………負けた……あの、クッキーを食べてる時のキラキラした目を思い出したらダメだった……!

 チクショウ! 絆されたわけじゃないからな!


 …………でも、そうだよね。さっきヴィルさんには助けてもらったし……。

 負けたわけじゃない! 絆されたわけでもない! さっき助けてもらったお礼だもん、お礼!!


 嬉々としてクッキーを口に運ぶヴィルさんの笑顔にほんのりと心が温かくなったのは、嬉しげにピンと立った耳とブンブン振られるしっぽの幻影が見える程度には喜んでいるように見せるせいだろうか……。

 そこまで喜んでもらえると、作った甲斐がありましたよ!



「リン、それは?」


「ああ。こっちはジンジャースパイスクッキーですね。こっちはこっちで美味しいと思いますよ」



 冷めた天板に改めてスパイスクッキーの生地を落としていく。こちらはなるべく厚みを均等に、そしてベリークッキーよりは薄くなるように心がけながら形成する。

 火の通りが早いよう、すこしでも焼き締められるよう……と思ってのことだけど、吉と出るか凶と出るか……。


 瞬く間にベリークッキーを食べ終えたヴィルさんが素早く反応するけど、こっちは絶対におやつ分としていくらかは死守しよう……。



「…………こちらはまた……別格の香りだな…」


「ふふふ……そうでしょう、そうでしょう。なかなか嗅覚を刺激する香りでしょう?」



 まだ余熱の残るオーブンに、今度はスパイスクッキーを突っ込んでから10分程が経過した。

 現在、車内にはどこかピリっとした爽やかな刺激の混じった甘い香りが立ち込めている。


 個人的に断言してもいい。スパイスクッキーの魅力は、甘いだけじゃないところだ。そう。一味違うのだ。


 ヴィルさんと一緒にオーブンを覗いてみると、オレンジ色の光の中でだいぶ色づいているように見える。

 あと5分くらい焼いて、水分飛ばして…………そういえば、クッキーをしまっておける密閉容器的なヤツ、あったかな??



「そうだ! 今回食材持ち込むのにタッパーも使ったんだった!!」


「たっぱー?」


「蓋が付いてて、しっかり閉めておける容器です!」



 甘い空気の中立ち上がり、キャンプ用品とさっきのドロップ品をしまってある四次元収納へと足を向ける。

 ……何て言うのかな……開けるとね、物置みたいな感じ。

 大きな部屋の中にカートとかタックルボックスとかロッドスタンドとかドロップ品とかが無造作に置いてあって、『カートの中が探したいなー』って思うと、いつの間にかカートが目の前に置かれてるんだ。

 で、カートの中を探しながら『タックルボックス欲しいなぁ』って思うと、これまたタックルボックスがすぐ手の

 届くところにおいてあるという、ね……。


 なんかもう……考えるのはやめようとは思うんだけど、考えちゃうよねぇ……。


 なお、タッパーは無事カートの中から見つかりました。しかも、パッキン付きの、結構大きめの奴がな!!

 スペアリブのマリネを持っていくのに、漬けるのに使ってるビニールが破れて汁が漏れたらやだなあ……と思って、タッパーで保護して持ってきてたのが役に立つとは……!!


 汁漏れもなくきれいなままだったからそのまましまっちゃったんだけど、クッキーを入れるんだから念のため洗っておこう……。


 顔を上げれば、先ほどから漂ってきていた甘い香りが一層強くなっていた。……この匂いかいでると、コーヒーが飲みたくなんだよねぇ……。

 そりゃあ麦茶も美味しいし、ご飯時の冷えた麦茶はジャスティスなんだけど、ショウガをちょっと多めに入れてスパイスを利かせたクッキーには、ちょっぴり甘くしたミルクコーヒーを合わせるのが私的(わたしてき)にジャスティス! だったんだ。

 ……とは言うものの、この世界コーヒーってあるのかな?

 余裕ができたら探してみようっと!!

閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。

久しぶりに、焼き立てクッキーが食べたくなりました……。

……近所のケーキ屋さんに行ってこようかなぁ……。

もし、少しでも気に入って頂けましたら、美味しそうと思っていただけましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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