だーいえっとはあしたからー
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これを励みに頑張っていきます!!
雑木林から先ほどの街道に復帰してから、10分程……。整備されてるとはいえ、舗装もされていない道を歩き通してきて流石にキツくなってきたというか、なんというか……。
今まで張り詰めていたいた分がさっきの大泣きで緊張の糸が切れちゃって、自覚してなかった疲れが一気に出ちゃった……っていうのもあるんだけどさ……。
本当はちょっと休みたかったんだけど、道しかないところで休むのはちょっと現実的ではないなー……ということで、どうにかこうにか足を進めておりまする。
……と。何となく、道の先がちょっと開けているように見えるんですが……? ……ちょっと休憩できますかね??
果たして、少し進むと道の横がちょっとした広場くらいの大きさの空き地になっている場所があった。退避路として使われたりしてるのかな?
地面に焚火の跡とかがあるところを見ると、この辺でみんな休憩をしたり、野営をしたりもするんだろうね。
私とヴィルさん以外の人はいないけど、他の人には見えない車がどこでどう事故に遭うかわからないので、ちょっと空き地の奥の方に展開する。
…………いや……いきなり制御を失った暴れ馬とかが突っ込んできて、モーちゃん大破! とか避けたいじゃん? 大破しちゃっても直す手段がない以上、『かもしれない』行動が大事かな、って……。
ま、私の考えすぎだとは思うけどね!!
「あ、そうだ! ヴィルさんの乗車設定もしちゃいますね!」
「じょうしゃせってい?」
「あー……えー……実はですね、コレ……中に乗り込んで動かすことができる……って言ったら、信じてくれます?」
「……………………はぁ!?」
おお! ヴィルさんがめっちゃ呆けた顔してる!! なんかものすごく新鮮な表情ですよ?
でも、まぁ、気持ちはわかる。
大きいだけの『ただの箱』って思ってた物体が動く……って言われても、にわかには信じられないよねー。
しかも、モーちゃんの外観は見えるようにしたり、中に荷物を積んでる姿は見せましたけど、車内に出たり入ったりはしてなかったからなおさらですかねぇ……。
「これが、動く……? いや、リンが嘘をつくメリットは何もない、と思うが……動、く……?」
「俄かには信じられませんよねぇ……。正直、私も『理屈を説明しろ』って言われると言葉に詰まりますし……」
「これは、魔法的なもので動くのか?」
「ごめんなさい! さすがにそこまではわかんないです……」
ガソリンの代わりに魔素とやらが働いてくれているらしいですけど、それが純粋にガソリン代わりになってエンジンを動かしているのか、魔法的な推進力を生みだしてるのかはちょっとよくわからんのですよ……。
エンジン音的な音もするし、振動もあるけど、エンジンがあるように見せてる可能性も微レ存??
何はともあれ、『車が動く』という結果が出るのであれば、エンジンでも魔法でも、構わんのですよ!
呆然としているようなヴィルさんの前で、心の赴くまま『ヴィルさんも乗せてー』とモーちゃんに念じてみる。
……特に何が変わったかわからないが、大丈夫なんじゃないかなー??
そして今気づいたんだけど、モーちゃんのドアハンドル……別に引かなくても開くっぽいんだ……。『開けてー』って念じれば、開いてくれるっぽいよ!!
一歩進んだスマートキーシステム的な??
「まぁ、立ち話もなんですし……中にどうぞー」
「……はい、れ……る……のか?」
「大丈夫ですよぅ! 別に危ないことないですから!」
先に中に入り、開いたドアから顔を出すようにしてヴィルさんを見れば、何とも形容しがたい顔をしている。躊躇い、疑念、不安、畏怖……そして、隠しきれない好奇心を一気に詰め込んで、かきまぜたような顔だ。
それでも、意を決したように表情を引き締め、車内に入ってきてくれるヴィルさんはすごいと思う。
警戒も露に周囲を見ながら、一歩一歩入ってくる感じ? ……何ていうか……アクション映画で、敵が隠れているかもしれない部屋に警戒しながら突入する主人公を見てる感じだな、うん。
こう言っては失礼なんだろうけど、『おっかなびっくり』っていう言葉がしっくりくる。
それでも、内装や家具に目を奪われて、きょろきょろ辺りを見回すヴィルさんの好奇心はすごいと思う。
でも、何となく『冒険者』の人って、好奇心旺盛で勇敢な半面、慎重で臆病なイメージがある。
好奇心旺盛で勇敢じゃなければ冒険なんかにはいかないだろうし、慎重で臆病でなければすぐに命を落としちゃうんじゃないかと思う……っていうだけなんだけど。
「えーと……お肉しまって……バターと小麦粉出して……お砂糖とスパイス下ろしておいて……」
未だ混乱の渦中にあるらしいヴィルさんを他所目に、先ほどドロップしたばかりの丸鳥をチルドルームにブチ込むついでに、冷蔵庫からバターと小麦粉を取り出して、お砂糖とスパイスも棚から降ろす。
今日は、ベリークッキーとジンジャースパイスクッキーの2種類を作ろうと思いますですよ。
クッキーは、厳密な計量が求められるお菓子の世界において、割と分量がおおざっぱでも美味しくできてしまう有能な子だからな!
まぁ、台所の片隅にデジタル秤があったから、ありがたく使わせてもらうんだけどさ。もし秤がなくても、だいたい【粉:砂糖:バター=2:1:1】くらいの割合で作ると美味しい気がするんだ。
今回はそれに、卵も入れてドロップクッキーにしようっと!
………………っていうか、飲んでも飲んでもなくならない麦茶が不思議だなー……と思ってたんだけど、朝半分くらい使ったお米も、さっきちらっと見たらまた容器一杯に詰まってるってどういうことなの…………。
……本当に、今、とにかく声を大にして叫びたい。
『モーちゃんの台所どんだけ~~~!!』と。
……………………なんかもう凄いのとワケわかんないのとで声も出ませんわ……。
うん。とりあえずオヤツを作ろうと思います!
二掴み分くらいのハールベリーを流水で洗い、ザルに取っておいてー……お砂糖も100g分量ってー……小麦粉は100gのものを2個作っておいてー、片方にはスパイスボックスに入っていた粉末ジンジャーとカルダモン、ナツメグ、オールスパイス、シナモンを混ぜておいてー……。
そんでもって、200g入りの缶入りバターをスプーンで削り取って、100g分をステンレスのボウルに入れておく、ん……だけど………………あ…凄い……削っていくそばから何事もなかったように再生してくんだけど……!?
まさかコレも『魔素』とかいう物質の賜物なの?!
…………うん。考えないようにしよう…………。
ちなみに、この辺りでオーブンを180℃に予熱するんだけど、その時にバターを入れたステンレスボウルをほんの少しの間だけ一緒に入れておくと、バターが見る間に柔らかくなるんだ。
火傷しないように……完全に融かしきらないようにする必要はあるけど、割と便利なんだよねぇ……。
バターが柔らかくなった頃にさっと取り出して、お砂糖を加えながら空気を含んで白っぽいクリーム状になるまでザリザリと泡立て器で擦り混ぜていく。多分ここでしっかり混ぜるとあのサクサクザクザク食感になる……んじゃないかなー、と、私は思っている。
車内を観察していたヴィルさんが、いつの間にか私の横で作業を眺めていた。
勢いよく混ぜすぎたせいだろうか。ヴィルさんの指にまで跳ね飛んでしまった中身を、赤い舌がペロリと舐める。
「――――…………甘い……」
「そりゃあそうですよ、バターと砂糖ですもん。甘いもの嫌いですか?」
「いや、嫌いじゃない」
ちらりと横目で見れば、イチゴ色の瞳が存外に輝いていた。
脂肪分も糖分も、エネルギーの塊だ。腹が膨れる……とまではいわないが、カロリー補給と血糖値の上昇には一役買ってくれるだろう。
よく混ざったボウルに、やや灰色がかった殻をパカリと割ってオレンジの黄身色も鮮やかな卵を入れる。『殻が硬い』って説明文にはあったけど、けっこうお高めな地鶏の高級卵程度の固さでしたよ!
泡立て器で軽く混ぜると、瞬く間に白かったバタークリームがカスタードのように黄味を帯びていく。分離しないようしっかり混ぜ合わせると泡立て器をゴムベラに握り替え、半分こになるように別のボウルに取り分けておく。
「ヴィルさん。そこのハールベリーの水気拭いてください」
「これを入れるからか?」
「はい。片方にはハールベリーを入れて、ちょっと厚めになるように落として焼く予定です」
「もう片方は?」
「コッチはスパイスを混ぜて焼きます。甘くて……でもちょっとピリっと香ばしくて美味しいですよ」
手元を覗き込むヴィルさんがたいそう暇そうですので、ちょっとお手伝いしてもらいましょうか。『立ってる者は親でも使え』が小鳥遊家の家訓ですよ!
キッチンペーパーとザルに入れたハールベリーを渡して、ヴィルさんに拭いててもらいましょうかね
私はその間にプレーンの小麦粉をタフタフとボウルの中に振り入れて、ある程度粉っぽさがなくなるまでゴムベラで切るようにして混ぜ合わせて、生地の準備をしますよ。
『終わったぞ』とヴィルさんがよこしてくれたハールベリーも入れて、捏ねないように、潰さないようにさっくりと混ぜる。
……うん。柔らかい漿果だから、どうしても混ぜるときに潰れちゃうよねぇ……。でも、その分生地がマーブルっぽくなるし、緩くもなるし、ドロップクッキー向けだわ。
天板に調理用シートを敷いて、その上にスプーンで生地を落としていると、ちょうどよく予熱が終わったようだ。ピーピーとなるオーブンに天板を突っ込んでやりながら、私はもう一つのボウルを引き寄せる。
じぃぃぃ……っと低い静かな音と共にオレンジ色で満たされた庫内を、ヴィルさんがキラキラと瞳を輝かせながら見守っていた。
焙るように焼かれてじぶじぶ煮立つ果汁が、生地が膨れていくに従ってトロリと零れていって…………うん。お菓子が焼ける様子って、見てて楽しいよね!
私も子供の頃、母が焼くクッキーやらケーキやらが焼けていくのを見るのが好きだったわ。
バターと砂糖とが焼ける馥郁とした甘い香りと、ベリーが煮える爽やかで甘酸っぱい香りが満ちた静かな空間で、私はスパイス入りの小麦粉を篩い入れたボウルを静かに混ぜ合わせるのだった。
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
お菓子の話を書いていると、食べたくなってしまうので困ります……(´・ω・`)
ステンドグラスクッキーとかも可愛いと思います(`・ω・´)
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