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ミステリィ イン ブルー

「すまない、リン。それを少し見せてもらっても?」

「あ、はい!」


 少し強張ったような声と共に、ヴィルさんの手がスッとこちらに差し出された。珍しくその眉間にはしわが寄ったままだ。

 うーん……ヴィルさんならごまみそと違っていきなりこの石を食べようとしたりとか、破壊したりはしないだろうし……そもそもパーティリーダーなんだから、こういった戦利品? の管理も仕事の一つだよね!

 ごまみその恨めしげな視線と不機嫌そうにブンブンと振り回される尻尾を横目に、二つ返事で差し出して……巨大バチの体液まみれになっているものを渡しちゃって大丈夫なのか、と思った時には、もうすでに青い石はヴィルさんの手の中にあった。


「ちょっとベトっとしますけど、大丈夫です?」

「ああ、そこはまあ……」


 恐る恐る声をかけてみれば、私の逡巡を物ともしないヴィルさんが手袋で適当に石に着いた体液を拭っていた。それと一緒に、私の手にも洗浄魔法をかけてくれる。

 あ、そっか! そういえば、洗浄魔法ってものがありましたね!

 ……ただ、魔法がかかってるのって私の手にだけ??

 見る間にきれいになった私の手と、いまだにぬらりと妖しく光を反射する石との対比がなんともいえず奇妙な感じがするんですが……。


「そういえば、石に魔法はかけないんですか? ……というか、皆さん凄い顔でこちらを見ていますが、もしかしてワケアリだったりします……?」

「いや…………これは、どう説明するべきか……」


 受け取った石をエドさんの光の玉に翳しているヴィルさんを眺めていると、どことなく物々しい雰囲気を感じるんだよなぁ……。なにかこう……曰く付きの石だったりするんだろうか……。

 矯めつ眇めつして石を眺めていたヴィルさんに恐る恐る尋ねてみれば、その喉から唸るような声が搾りだされてきた。

 イチゴ色のヴィルさんの目が、青い石と私との間を何度か往復し……。


「この石だが、十中八九”魔石”と呼ばれるモノで間違いないだろう」

「ませ、き……ですか?」

「極端なことを言えば、魔力の塊……だな」


 おっと! なんというか、RPG界隈ではよく聞くような単語が聞こえてきたんですけども?? ヴィルさんが続けてくれた説明にも、聞き覚えがあるような気がしますねぇ!

 石に魔法をかけなかったのは、余計な魔力を取り込ませないため、とかかな。

 それにしても、魔力の塊、か……。ごまみその言動を思い返すと”美味しそう”とか言ってたし……魔物からすると魅力的なアイテムなんだろうなぁ。自分に取り込むと能力を増強できる、パワーアップアイテム的な感じなんじゃなかろうか。

 そして、そんな私の推測が確かなら……魔石を体内に取り込むことであのハチが巨大化&パワーアップしちゃって、ハチを食べてるコウモリもその影響を受けて巨大化しちゃった、ってところかな。

 ……ただ、そうなってくると……。


「……あの、ヴィルさん……魔石ってそんなぽんぽん発見されるものなんですか?」

「いや…………話に聞いたことはあったが、俺も見るのはコレが初めてだ」

「ダンジョンの奥深くで見つかったり、竜種が集めていた宝物の中に混ざっていたりするという話は聞いたことがありますね」


 ですよねー。そんな貴重そうなアイテムが、ぽんぽこ出てくるなんてことないよねー!

 頭を捻りつつも現物をまじまじと見つめるヴィルさんと、ヴィルさんから説明を引き継いでくれたセノンさんの言葉を聞く限り、けっこう珍しいモノっぽいもんなぁ。

 ……となると、なんでそんな貴重品ぽいモノがあるんだろう?

 ここら辺にはダンジョンもなさそうだし、竜とかもいなさそうだし……どこか別の場所で魔石を取り込んだハチがこの辺に巣を作ったってこと?

 ……でも、あのハチ……かなり狂暴っぽかったしなぁ。もし最初から魔石を取り込んでたら、人里近くに巣を作ってバンバン人を襲ってそうな感じはするんだ……。

 この辺りに偶然できた魔石を取り込んだせいでああなっちゃった……とかの方が筋は通るかな??


「他にも、マナが溜まりやすい場所にできやすい……という話も聞きますが……」

「だが、この辺にそういった場所はないだろう?」

「マナの溜まる場所は、いわば吹き溜まりですからね……この土地は川もあれば風も吹く。魔石ができるには、少々流れが良すぎます」


 うぅん……ヴィルさんとセノンさんの話を聞いてる限り、この場所に魔石ができる可能性は限りなく低そうだな……。

 ちらりと視線を横に向ければ、私が頭を捻る傍らでヴィルさんとセノンさんも同じように首を傾げている。

 暴食の卓の頭脳班が頭を抱えてるってことは、こりゃ相当難問ぽいなぁ。

 ……ただ、気になる部分は……あるよ。


「……これも、”聖女召喚”の影響……っていう可能性はあるんでしょうか?」


 石がヴィルさんの手に渡ったことで諦めがついたのか、足元にすり寄ってきたごまみそを抱き上げつつ呟いた私の声に、ヴィルさんとセノンさんがもの凄い勢いでこちらを振り向いた。

 ……いや、今までさんざん説明がつきにくい魔物騒ぎが起きてきたことを思うと、もしかしたらそういうこともあるのかなぁ、って……。

 私も、こんなこと考えたくはないけど……。

 場が、凍ったように静まり返る。こちらを見据える赤と青の瞳すら、瞬きを忘れたように大きく見開かれたままだ。

 どれほどそうしていたことか……ふとヴィルさんが詰めていた息を吐きだした。幾度か深呼吸をする間、赤い瞳は伏せられて……ぐっと目を開くのと同時に顔が上げられる。


「……………………いずれにせよ、コウモリが巨大化した原因はつかめたし、ハチの被害も未然には防げた。巨大化したコウモリだけを討伐し、まずは村へ報告することを最優先にするか」

「巣の中に、他に何か残されていないか確認したらコウモリの討伐に向かいましょうか」


 ですね! 言い出しっぺの私が言うのもアレですが、まずは目の前の問題から片付けていった方がいい気がします!

 気分を切り替えるようにさっそく動き始めたヴィルさん達の後を追い、私も巣の中の探索に向かうことにした。


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