王都へ向けて
タルタルソースによる大騒動がようやく収まった頃……。私は、すっかり放置されて不貞腐れたごまみその「構えや」攻撃にさらされている。
私の膝の上でプンスカしているごまみそは、残ったフォグバードのお肉と茹で卵でご機嫌を取っても、なかなか曲げたおへそを直してはくれなくて……。
ずしりと重たい体を抱っこしながら、その喉元を撫で続ける、という刑に服している最中である。手を止めると、前足で「もっと撫でれ」って催促されるんだよぅ!!
「そういえば、明日王都に着いたらどういった感じの行動スケジュールになるんですか? お宿とか取ります??」
「いや。先方には……兄貴には俺が行くことを事前に連絡はした……おそらく、向こうから接触がある……と、思う……」
「あ、連絡したんだ! あんだけ渋ってたのに、ヴィルにしてはやるじゃん!」
「さすがにアポイントなしでいきなり行っても、門前払いされるだけだろうしな」
コップに入った麦茶を一気に煽ったヴィルさんが、若干憮然とした顔で息を吐いた。
いつもは冷静なリーダーにしては、珍しく行き渋るなー……とは思ってたけど……ちゃんとアポ取ったりとか、そういう所はちゃんとするんだもん。
ヴィルさん、本当に根が真面目なんだなぁ、と思う。
ヴィルさん曰く、お兄さんは忙しい立場の方らしく、都合がつく頃に何らかの形で向こうから接触してくるのでは? ……ということらしい。
それまでは、下町の露店で買い食いでもするか、と、半ばやけくそのように笑っている。
「おぉー、露店とかあるんですね! エルラージュの街みたいな感じですか?」
「下町の方は似たような雰囲気ですね。高級住宅街の方では、屋台や露店はほとんど見かけませんがね」
「あ、あっぷたうん……そういうものがあるんですね……」
「中心に王城があって、その周りに行政区、アップタウン、ダウンタウン……みたいな感じの作りになってるんだよー」
エドさんがテーブルに指で書いてくれた図を見る限り、王城を中心に同心円状に街が広がってるっぽいなぁ。行政区&ビジネス区と、おハイソなお店やお屋敷が多い高級住宅街、ざっくばらんに賑わう下町……っていう感じになってて、それぞれ住人が違う印象だなぁ、
対してエルラージュは、港町であり、他の地域からの商品が集まる場所……ということもあって、良くも悪くも「商業の街」って言う感じ。街全体が大きな商店街みたいな雰囲気で、ありとあらゆるところにお店があって、身分の上下関係なくみんなわいわい働いている感じ、というか……。
まぁ、成り立ちからして違うんだろうから、街の雰囲気が違うのも当然だよね。
「エルラージュが煉瓦と漆喰の街なら、シュルブランは石と花の街、という雰囲気ですね」
「へぇ! 話を聞く感じではきれいな所なんですね!」
「ん! 下町の屋台も、美味しいの、いっぱい!」
追加の情報を、笑顔のセノンさんが教えてくれた。石と花の街……ってことは、石造りの建物が多いんだろうか。その上で、窓辺とかベランダとかに、お花が植えてある感じなのかな?
想像してみる限り、きれいで明るい感じの街……っていう感じがするなぁ。
ぐっと拳を握って瞳を輝かせるアリアさんの様子を見ると、ご飯も美味しそうだ。
「そういえば、山の幸が名物で、この前山猫亭で食べて美味しかった虹尾長の食べ歩きができるんでしたっけ?」
「虹尾長は、揚げたり焼いたり煮たり蒸したり……それぞれのお店独特の料理が食べられるんだー」
「なんですかそれ、超楽しみです!!」
「人によって、あそこが一番だのなんだのと、話題になる程度には名物だな」
あの濃厚な味を思い出し、思わず唾をのんだ私に、指折りおすすめのメニューを上げてくれながらエドさんが笑う。
そんなエドさんの言葉に、ヴィルさんもコップに麦茶をつぎ足しながら微かに苦笑を浮かべている。
うん。エドさんの挙げたお店に反応したのか、セノンさんとアリアさんが小声で「あの店が」「この店が」……と、自分の推し店舗の話を始めてますもんね……。
うちのパーティでこの調子なんだから、もっと人数の多い街の人たちの間で論争が起きるのもさもありなん、って感じだなぁ。
…………っていうか、皆さん、王都の情報にやけに詳しいような……??
「……あの……もしかして、皆さん、前に王都に行ったことあるんですか?」
「ん? ああ、言ってなかったか。俺たちはもともと、シュルブランを拠点にして活動をしていたんだ」
「まー、その後ヴィルが壮大な家出をすることになったから、エルラージュに拠点を移した、って感じかなー」
「……………………移動の旅、辛かった……よ……」
「主に食事的な意味合いで、ですけどね」
「えー!!!」
いつの間にやらヴィルさんも加わっての推し店舗論争の最中、恐る恐る声をかけてみれば……驚愕の新事実が発覚しましたよ、奥さん!!
皆さん、元・地元民ってことじゃないですか、ヤダー!
どうりで街の構成とか雰囲気とか、いろんなお店に詳しいわけですよね!
冷静に考えれば、パーティメンバーの誰も王都の道やら情報を知らない……という状況よりは、みんなよく知ってる、というのはいいことだと思うけどね、うん。
何というか、大きい都市って、気軽に行っちゃいけない場所とか色々とありそうなイメージがありますしねぇ……偏見かもしれませんけど……。
「何というか……すっかり言い忘れていたな。すまん……」
「いえ、大丈夫です。それだけ皆さんが王都に詳しいのなら、もし私が迷子になってもすぐ見つけてもらえそうで何よりです!」
「……あー…………どうしてだろうな……よそ見をしていてうっかりはぐれるリンの姿しか想像できん……」
思いっきり顔に「うっかりしてた」と書かれているヴィルさんが、慌てて頭を下げてくれた。
そんなヴィルさんに、気にしてませんよー……という意も込めて拳を握ってみたんだけど……逆に眉を下げて眉間を押さえてしまわれたんですが……。
……………………解せぬ……。
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。
さてさて。これからまた少しストーリーを動かしていきたいと思います。
食べ歩きも交えながら、ですが(笑)





