Very Berry Nice Day!
7月10日 追記
本文を書き直しました。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
斜面の上は、予想通り雑木林だった。
思ったよりも木と木の間が空いていて、下までしっかり太陽の光が届くようになっている。
下草も刈られた形跡があるし、定期的に人の手が入ってるのかな?
「ああ。この辺りは自然が豊かなもんで、近くの街道を行き来する隊商の連中がたまに林で採取していくんだ。何か月かに一度はギルドから冒険者と樵が派遣されて、林の整備をしてるぞ」
「冒険者の人も行くんですか?」
「野生の獣や魔物が出るからな。それを定期的に間引いて、街道の安全を守るんだ」
「なるほど!」
そういえば、最初にレアル湖に来た時、林の近くを通ったかも! 街道みたいな感じで土が踏み固められてて走りやすかったっけ……。
そっか。隊商が通るような道なら、整備もされてるよね。
ヴィルさん曰く、例年通りの日程であれば1週間ほど前に林の整備と魔物の間引きが行われているはずなので、まだそれほど警戒しなくてもいいとのことらしい。
ちょっと安心しましたよ。
元居た世界では、山菜やキノコ採りの時に熊やらイノシシに襲われる……なんてニュースになってましたからねぇ……。
さて。ボディバッグに入れてきたコンビニ袋を広げて、節度を守りつつさっそく採取開始ですよ!
もちろん、おやつに使う分だけ――自家消費できる分だけを分けてもらう……という意識を忘れずに挑むつもりだ。
森の恵みはみんなのものだよね。
木の高さはそこまで高くない上、根元の低い所からも何本も枝分かれしているので、それほど背が高くない私でも楽に実を採ることができた。
黒く見える程に色づいた実は、軽く触れる程度に力を入れただけでポロポロと落ちる。
薬草茶の原料にもなるという事なので、柔らかそうな若葉もちょっとずつ頂いていこうと思いますよ。
大きめの実を口に放り込むと、甘く濃厚な果汁がジュワっと溢れてくる。微かな酸味が後味に残るからか、口飽きせずにいくらでも食べられてしまいそうだ。うん。昔食べた桑の実の味に、よく似てる気がする。
虫食いや熟していない実を避けながらある程度の量を掌に摘んでおき、掌一杯になったらコンビニ袋に落としてくんだけど……。
「ヴィルさん、ヴィルさん、採るそばから食べないでくださいよー……」
「あ、すまん。甘酸っぱくて美味いもんだから、つい……だが、リンも食べてるだろう?」
「……バレてました? 美味しいですね、ハールベリー!」
なんかねー。袋に入れる前に、ついつい食べちゃうよねー。
私もヴィルさんも、ハールベリーを採ることは採るんだけど、つまみ食いしてる頻度がそれなりに高くてねぇ……。
あ。めちゃくちゃ酸っぱいのに当たっちゃったのかな? ヴィルさんが盛大に顔顰めておりまする。
……何か可哀想になって、今獲ったばっかりのちょっと大きめの実を差し出したら、無言で食べてた。今度は甘かったようで、うんうん頷かれた。
「ヴィルさん、口の周り凄いことになってますよ?」
「ん。あ、スマン……洗浄!」
イチゴ色の瞳を輝かせ、夢中になって食べてるヴィルさんの口の周りは、もうすでに紫に染まっている。
その汚れが、何となく気になってしまったのが運の尽きだろうか。無意識のうちに、手持ちのミニタオルでヴィルさんの口元を拭ってしまっていた。
…………。
………………ハッッ!! やらかした……!!!
食事介助の一環で口元拭ったりもするから、何の気なしに手が出ちゃった!!
しかも、拭ってみたところでなかなか色が落ちない、っていうね……なんかもうごめんなさい!!
思わず手を引っ込めてしまったものの、ヴィルさんに気を悪くしたような様子は特に見られない。それどころか、ちょっと残念そうに見えるのは気のせいだろうか……。
ちょっと眉根を下げつつ、パチンと指が鳴るのと同時に昨日も見た薄緑の光が顕れ、瞬く間にヴィルさんの口元についていた紫色が落ちていく。
昨日と違うのは、今日は私の身体の周りにも光がまとわりつき、果汁で汚れた指先や、クライミングで付いた服の泥汚れを落としていってくれている所だ。
「……お……おぉぉおおぉぉぉ!!! なんかキレイになった!!! 何ですか、コレ」
「『生活魔法』の一つだな。風呂も入れなければ洗濯もできない冒険中はかなり重宝するぞ」
きれいになった手や服を見て年甲斐もなくはしゃいじゃったけど、コレは仕方なくない?
ちょっと汗ばんでいた身体まで、シャワーでも浴びたかのようにサッパリしてるんだぜ!?
すげー!! 魔法すげー!!!! ふぁんたーすてぃーっく!!!
……ん? なんか、視線が……。
恐る恐るヴィルさんを振り向けば、微笑ましいような、生暖かいような……何とも言えない目で見られておりましたよ……。
ちくしょう!! どうせ、年相応の落ち着きのない人間ですよ!! いつまでたっても子供っぽさが抜けないダメ人間ですよ!!
なお、洗浄の魔法があるのに何で事の発端にもなった水浴びをしていたのか聞いてみたのですが、単純に『歩いているうちに暑くなってきたときに、川の水が冷たくて気持ちよさそうに見えたから!』……という、なんともダンスィな理由でしたよ!
……理由はともかく、命があって何よりでしたね……。
……
………………
………………………………
………………………………………うはははは! 大漁大漁!!
摘まみ食いしながらだったけど、なんとかコンビニ袋が重たく感じる程にハールベリーが採れました。
また指が紫色になっちゃったけど、まぁしょうがない。美味しいモノを手に入れるには、代償が必要だよね。
……そう。指先は犠牲になったのだ……食欲の犠牲にな……。
ちなみにヴィルさんに関しては、自分が採った実を袋に入れてもくれたけど、つまみ食いもわりとしていたことをここに記しておく。
…………え? お前はつまみ食いしなかったのかって?
……ついさっき、私とヴィルさんの口周りと指先を中心に、洗浄の呪文をかけてもらいましたが、何か?
うん。私とヴィルさんの食い意地はどっちもどっちでいい勝負だと思うよ、うん。
「リン!!」
「え? ゎぶっっ!!!」
もう少し採っていこうかなー……と、隣の木の枝に腕を伸ばしかけた時。ヴィルさんの鋭い声が鼓膜を震わせた。
それと同時にグイっと身体が引き寄せられ、鼻の頭が何かに勢いよくぶつかる。その衝撃で落ちそうになった袋をギリギリで保持しきった私超エラい!
目の前には、存外に硬い革の胸当て。鼻先を掠めるのは、手入れ用のオイルの匂い……。
身体が締め付けられている感触に何事かと視線を下げてみれば、太い腕が私の身体に回されている。
弾かれたように上がった視線の先には、森の奥を鋭い瞳で睨みつけるヴィルさんの顔があった。
え……!? なに!?!? ……え……わ、私、今……ヴィルさんに抱きかかえられてる!?
状況を認識した途端に、羞恥心が湧き上がる。
いやいや、だって、そんな!! 今までの生きてきた中で、男の人を抱えたことはあっても、男の人に抱えられたことないですよ!?
全身の血が頭部に集中したかのような錯覚を覚える程、顔が熱い……。なのに、頭の芯は凪いだように冷たく醒めていく。
左腕で私を抱き寄せるヴィルさんが、右手で両刃の剣を構えているせいだ。
剣が向けられた先を辿っていけば、黒い鳥のようなモノが3羽……今にも飛びかかってきそうに鋭い蹴爪で地面を掻いている。
何だろ、アレ……おっきいカラス……?
【ファントムファウル(食用:美味)
山間部に住む鳥の魔物。
人を襲うこともある】
…………え? ……まも、の……?
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
ギブ&テイクのバランスが難しいなぁ……。
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