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夜空の下で肉を揚げるために

 チーズフォンデュは、鍋肌に張り付いてカリカリのパリパリになったチーズソースの一片まで、きれいにみんなのお腹に収まった。

 香ばしくて美味しかったですよ!

 チーズを塗ったパンの欠片やら残ったソーセージやらをお腹に収めたごまみそも、満足そうにヴィルさんの膝の上でぷーすか寝息を立てている。

 そして、食後の腹ごなしを兼ねて、お土産として渡されたドロップ品の整理をしてるわけなんだけど……その量がすごい。

 お肉の類は言うに及ばず、緑の野草に茶色いキノコに小さいとはいえ卵まで……こりゃまたしばらくはご飯の材料には困りませんなぁ。

 


「それにしても、今回もたくさんドロップしたんですね……!」


「ちょうどフォグバードの群れと遭遇しまして。何羽か捕まえられたんです」


「ふぉぐばーど??」


「まーるいマッシュルームがあるでしょ? あれをどーんと大きくして、足と嘴を生やしたみたいな感じの鳥なんだ。茸っぽいフォルムの鳥だから、茸鳥(フォグバード)っていうんだよ」


「ん。飛ばない、けど……すばしっこいの……。味は、あっさりしてて……美味しいよ!」



 その量に圧倒された私がうわごとのように呟くと、気付いたみんなが獲物の説明をしてくれた。

 私も生存戦略(サバイバル)さんで観察してみたんだけど、「非常に美味」だそうですよ、奥さん!

 見た感じ、手のひらほどのサイズで、ちょっと厚みのある薄いピンク色のお肉だ。見るからにしっとりとしているものの、「あっさりしている」というアリアさんの言葉通り、脂身が少ない感じ。

 ふむふむ……加熱しすぎるとパサつく系のお肉と見た! 高温でさっと火を通すとか、余熱でじっくり火を通すとか……そんな調理法が良いんじゃないかな?

 ……と、なると…………キノコもあるし、山菜もあるし、今夜の天気もよさそうだし……。



「夕飯は、このお肉とかキノコも使って、串揚げパーティとかはどうでしょうかね? 明日には目的地に着くと思うので、壮行会というか景気付け的な感じで、ぱーっと!」


「さんせい!! あげもの、美味しいと思う!!」


「フォグバードの串揚げ……ええ、とても素敵です。間違いないかと思いますよ」


「すっごく良い案だと思うよー。若干一名、まだちょっと燻ってるっぽいしねー」


「…………うるさい……肚は決めた、と言っただろう……」



 串揚げパーティの単語に車内が沸く中、エドさんの言葉にみんなの視線がヴィルさんに集中した。視線を向けられたリーダー(ヴィルさん)が、ちょっぴりバツが悪そうにそっぽを向く。

 ……うん。やっぱりみんな気付いてたか。

 ヴィルさん本人は隠してるつもりなんだろうけど、目的地が近づくにつれて若干雰囲気が沈み気味っぽくてさ……。

 実はね、今回の揚げ物パーティ……そんなヴィルさんのテンションが、ちょっとでも上がってくれるといいなー、っていう思いも込めて提案してみたんだ。

 やっぱり、リーダーには元気でいて欲しいし、いくら自分で納得して決めたとはいえ、問題に立ち向かうのってエネルギーがいるからね。少しでもそれの足しになればなー、って。



「今回は、初お目見えのソースも作りますので……! 揚げ物にはぴったりだと思いますよ!」


「……あ、あげものに、ぴったり……!? わたし、もっと材料獲ってくる!!!」


「……は、初お目見えのソース……!? そんなの追加の獲物獲ってくるしかないじゃん!!」


「あ、コラ!!! 待ちなさい、二人とも!!! ヴィル、リン、私は二人を連れ戻してきます!! まだ出発しないでくださいね!」


「ア、ハイ……」



 うむ。ちょうど材料も買ってあることだし、せっかくなので揚げ物との黄金コンビ・タルタルソースでも……と思って提案を重ねたら、想像以上の効果があった。

 ……アリアさんとエドさんに、だ……。

 キラキラを通り越して爛々と目を輝かせたお二人が、得物を掴んで車外へ飛び出していく。珍しく慌てた様子のセノンさんが、いつもの冷静さが嘘のようにあわただしくその後を追う。

 そんなプチ修羅場において、素直に頷く以外のことを私にできただろうか、いや、できない。



「………………すまん……却って気を遣わせたな……」


「あー……単純に私が食べたかっただけですよー。特製ソースの材料も買ってましたし、あんないいお肉を見たら我慢できなくなりました!」


「……そう、か……そうだな。フォグバードをフライにした時の味を想像するだけで、今にも腹が減りそうだ。この前、凍らせておいたものも使うんだろう?」


「はい! 今回作る特製ソース、魚介系と相性がいいんですよ!」


「それは楽しみだな! リンの作る飯は何でも旨い!」



 静まり返った車内で、ぽつりと言葉を落としたヴィルさんの顔には、困ったような、気恥しそうな……何ともいえない笑みが浮かんでいた。

 咄嗟に上手く返せた自信はないけれど、それで十分だったようだ。

 少し強張っていたヴィルさんの顔から険が消え、いつものような屈託のない笑みが浮かぶ。

 ほんの少しは、壁に立ち向かうための力になれましたかねぇ……。



「とりあえず、皆さんが帰ってくるまで下拵えでもしておきますかね」


「……ちなみに、特製ソースとやらはどんな感じのソースなんだ?」


「ふふふふ……それは食べてのお楽しみです!」



 こっちの世界でマヨネーズを見かけたことはないんだけど、味的にウケルと思うんだ。たぶん、暴食の卓(ウチのパーティ)のメンバーは、少なからず好きな味だと思う。

 冷蔵庫から材料を取り出した私の手元を、興味津々という様子でヴィルさんが覗き込んでくる。

 ワクワクとした瞳でこちらを見つめるヴィルさんに、思わず今すぐネタバラしをしそうになったのをぐっとこらえる。だって、謎は謎のまま、食べるときまでワクワクしてもらってる方が、今のテンションを保てると思うんだなぁ。

 敢えて意味深に微笑んで見せた私は、沸き立つお湯に殻付き卵をお玉で滑り込ませた。

閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。


先日、とうとう書店にて『捨てられ聖女の異世界ごはん旅』が並んでいるのを見ることができました……!

感無量です……!

下のリンクから公式ページに行くことができます。試し読みもありますので、気になる方は読んでいただけると嬉しいです(*´∀`*)


もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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