士気を上げるためには美味しいご飯は必要不可欠
「致命傷で済んだ」は敢えてそんな感じの表現にしてあります。
説明不足で申し訳ありませんでした。
久しぶりのイクラ丼と肉じゃがでお腹を膨らませた後は、プチ林のそばで一泊だった。
夜中、何かの遠吠えが聞こえた気がしたけど、生存戦略さんの警告も出なかったし、みんなもいるし……と、グッスヤァしてしまいましたよ……。
実際、朝になって話を聞いてみたら、森狼の群れがいたけれど、人を襲ったら報復されることを理解している程度には知能が高いらしく、あくまでも遠吠えだけだった、とのこと。
ちなみに、今日の朝ご飯は街で買った塊ベーコンを使った厚切りベーコンエッグと残り物野菜のスープ、白いご飯だった。
この厚切りベーコンがね……ハチャメチャに美味しいんだよ!
保存食だけあって、そこそこに塩分が高めに作られてるせいか、卵と一緒に食べるときも調味料がなくてもいいくらい。
しっかり燻されてるから表面は濃い飴色なんだけど、切ると中はピンクの身と白い脂肪が良いバランスで層になっててね……フライパンで焼くと、表面はカリカリ、中は肉の感触が残ったままになるんだ!
噛むと脂と肉汁がジュワッッと口の中に溢れてくる上、「肉食べてます!」っていうくらいしっかり歯ごたえがある。
この脂がねぇ……甘いんだよ……! 濃厚なんだけど、全然くどくない。「ドングリを食べて育った豚だからだ」って、お店のおいちゃんが言ってたけど、本当に美味しいんだよぅ!!
それに、口に入れた瞬間から燻製の香りがふわぁっと鼻に抜けて……それを、半熟卵のトロォ~っとした黄味と一緒に食べた日にはね……!!
今日もご飯がきれいさっぱりなくなりましたよ!
「リンがきてから、飯の時間が楽しみで仕方ないな!」
「わかる~~。リンちゃんがいないときは、ねぇ……」
「ん……じごく……」
「依頼をこなすのに、なんでこんな苦行を……と辛酸をなめましたものね」
「お、おぅ……」
朝から皆さんしっかりと食欲を発揮してくれて、きれいに平らげてくださった後の会話がこれだもん…。
今までも暴食の卓の食事に関する闇を垣間見てきたけど、いったいどんな食生活を送っていたのかと非常に気になってしかたがないんだよね……。
しみじみと呟くみんなの瞳から、一様にハイライトが消えてる時点でお察し、かな……。
「ま、まぁ。今日も献立は頑張って考えるんで……! とりあえず、行程を進めちゃっていいですか?」
「そうだな。このペースなら、メルロワの街に着けそうだが……」
「今回は街には入らず、王都への道を行くようにしようねー」
「それが良いでしょう。メルロワの街も、また魅力的な所ですが……」
「たぶん、良い包丁とかも、ある……」
「あ! それは気になります! でも、色々と終わってから楽しんだ方がよさそうですね」
鍛冶の街だけあって、武器防具は言うに及ばず、包丁とかハサミとか、そういった刃物も質の良い物が買えるらしい。
ものすごく気にはなるけど、まずは王都での報告が終わってから、かな。
みんなでワイワイしながら後片付けを終えて、いつも通り私は運転席に。今日の助手席はセノンさんが座ってくれた。
「なるほど……いつも使う馬車と比べたら、乗り心地が格段に違いますね」
「ヴィルさんもおんなじこと言ってましたよ。普通の馬車は尻が割れるって」
「言いえて妙ですね。この乗り心地を体験してしまうと、もう普通の馬車には乗れませんよ」
シートのクッションに目を丸くしたセノンさんが、こちらが浄化されそうな眩しい笑顔を向けてきた。
ちくしょう! 顔がイイ!! もうやめて! 私のHPはもう0よ!!!
……とはいえ、助手席というのが幸いし、面と向かっているわけじゃないからなんとか致命傷で済んでるよ!
いやぁ、危なかった……これ、対面でモロに見てたら、一発で浄化昇天コースだったよね……!
「リンの作る料理は、エルフの里でも見たことがないものばっかりで、食事の時間が楽しみなんですよ」
「そうなんですか? 私は逆に、エルフの里の料理が気になりますけど……どんな感じのご飯だったんですか?」
「森の恵みをふんだんに利用した……といえば聞こえはいいですが、硬い獣肉と山野草ばかりの食事でしたよ」
「あー……家畜じゃなくて狩猟肉メインなんですかね?? セノンさん、解体できるって言ってましたもんね……」
「同じように魔物の肉を使った料理もありましたが、リンの作る料理は格段に美味しいのが不思議です」
くつくつと楽しげに笑う王道美形エルフの顔面偏差値に圧倒されつつハンドルを操る私に、セノンさんが振ってくれる話題は、興味がある話だったり、運転中の私でもすぐに答えられる話ばっかりで……。
美形な上に気配りができて話題選びのセンスもあってって……天は二物どころか三つも四つも与えすぎじゃなかろうか??
「それにしても、久しぶりに日を跨ぐ旅に出た気がしますね」
「そうなんですか? 依頼とかで遠征……とかがあったのでは??」
「我々の場合、野宿の時に料理を作れるメンバーがいませんので……携帯食料だけで凌ぐことになるんですが、どうにも士気が上がらずで……」
「あぁー……栄養バランスとかも崩れそうですもんね……」
「任務は達成できても、精神的なものも含めて負担が大きい……となりまして。最近は日帰りでできる任務ばかり行っていましたよ」
おっと。こんなところにまで思わぬ弊害が……そっかぁ……ご飯が原因で、任務を渋るほど士気が上がらなかったのか……。
そりゃあ切実でしたな……ご飯番が歓迎されるわけだ。
「ですから、こうして日を跨いでの旅に出られるようになったのは、リンのお陰ですよ」
「え、いや……ご飯作ってるだけなんですけどねぇ」
「我々にとっては天からの贈り物のような感じですよ。これからもよろしくお願いしますね」
「こっちの世界でのご飯作り、私もとっても楽しいので、こちらこそよろしくお願いします!」
さっき、「助手席だったから致命傷で済んだ」って言ったじゃん。アレは嘘だ。
太陽の輝きもかくや……というセノンさんの輝くような笑顔は、助手席からでも十分に凶器でした……。
美形って怖い! 改めてそう思いましたよ、ええ。
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