一難去ってまた一難???
道は、思ったよりも平坦だった。轍が作った道のようなものに沿って進んでいく感じかなぁ。
さほど揺れもしなければ、タイヤを取られることもなく……非常に安定した道程ですな!
フロントガラスの向こうに見える空は綺麗に晴れていて、白い雲とのコントラストが非常にキレイだった。
軽く開けた窓からは、爽やかな風が入ってくる。
うむ! 実に良きドライブ日和!!
そして、ナビが示す先……進行方向にはそこそこ高い山が聳えていた。その頂からは、白っぽい煙が吐き出されている。
おそらくは、アレが例の「メルロワ火山」なんだろう。
「思ったよりも煙が薄いですね。火山って聞いてたので、もっと、こう……濛々としてるのかと……」
「ん。かなり昔に、噴火したっきり……今は、おとなしい、っぽい?」
「ああ、なるほど。道とかも、溶岩でデコボコしてたりするのかな、って思ってました!」
窓から入ってくる空気にも硫黄くささはないし、外の風景も溶岩とか火山灰で荒れてる、っていう感じでもないし……アリアさんの話を聞く限りでは、植生がすっかり回復する程度の昔に噴火したきり、噴煙を上げるとかその程度で済んでる、ってことなんだろう。
活性の低い活火山……みたいな感じだろうか??
火山は見えたけど、まだ流石に遠くて麓にあるという街までは確認できないなぁ。
これだけ高い山なら、初めてこっちの世界に来た時も気付きそうなもんだけど、なんだかんだで混乱して目に入ってなかったんだろうね。
「……そういえば……マッドオッター、煮込む、の……??」
「玉ねぎもジャガイモもあるので、それと一緒に煮ちゃおうかな、と。アリアさんは甘めの味付けが好きですか? それとも、しょっぱいのが好きですか?」
「ん……! それは、まよう……!!」
白い煙を吐き出す山を目指して野営車両を走らせていると、ごまみそを抱いたアリアさんが小首を傾げた。
ちょうど玉ねぎもジャガイモもあるし、肉じゃが的な感じにすればご飯とも合うかな、と思っているのですよ。
経木の隙間からチラ見した感じでは、赤身のお肉の上に脂肪層が乗ってる感じだったもんね。水の中で体温が奪われないよう、たっぷり脂肪がついてるんだろうなぁ。
あのお肉なら、甘めの味付けもしょっぱめの味付けも、なんにでも合うんじゃなかろうか??
そう思ってアリアさんに尋ねてみれば、アリアさんもまたお悩みの様子で……。
確かにねぇ……迷うよねぇ……どっちも美味しそうだもん!
「………………リン、その先でくるま、止められる??」
「? 止められますけど、何かありました??」
「……なんか、いそう…………」
「え??」
うんうん迷いつつ頭を捻っていたアリアさんが、ふと真顔で真正面を見据えている。その真剣な表情を見たら、細かいことは聞けなかった。
ゆっくりブレーキを踏み込んで、野営車両を停止させる。
気が付けば、居室部分にいたはずのヴィルさんたちがいつの間にか運転席とキャビンとの境目……跳ね上げ式カウンターの傍までやってきていた。
「リン。扉を開けてくれ」
「わ、わかりました……私はこのまま車内にいて良いですか?」
「そんなにね、強い相手じゃないから大丈夫だと思うけどねー。ほっとくと邪魔だからさ!」
『朕がなー、おまもりするからなー!』
よほど不安そうな顔をしていたんだろう。エドさんがニコニコ笑って手を振ってくれたけど、戦闘とか冒険とかとは縁遠い世界で育った身としては心配なんだよー……。
緊張のせいかきゅっと手を握りしめていた私の足元に、ごまみそがそっとすり寄ってきてくれた。むふんと胸を張りつつ、ぺちぺちと前足で私の足の甲を叩く。
……うん、そだね。さっきも守ってもらったもんね!
詰めていた息がようやく吐けた私の前に、杖を手にしたセノンさんが柔らかな笑みを浮かべて立っていた。
「リン。私たちが外に出たら、この車を少し後ろに下げて頂けると助かります」
「わかりました。作業スペース、というか、戦闘フィールドは広い方がよさそうですものね」
「……というより、この車が汚れてしまうのは俺たちも望むところではないからな。それじゃあ、頼んだ!」
「汚れる……?? え、何があるんですかー!!」
いくばくかの謎を残して、ヴィルさんたちが外へと降りていく。みんなが少し車体から離れたのを見計らい、野営車両をバックさせた。
……あ、すごい! ナビ画面がバックモニターになってるのか!! バックすることがなかったから気付かなかったよ!!
10mくらい離れた頃合いだろうか。
突如、進行予定だった場所から土煙が上がる。
……いや、土煙というよりは、地面が弾けた、というか、なんというか……。何かが地面の下から、土を跳ね上げたような感じの飛び散り方だ。
宙を舞った土が、バラバラと音を立てて周囲に降り注ぐ。
幸いというか、用意周到というか……エドさんの張った魔法が、落ちてくる土を弾いているおかげで、みんなは無事なようだ。
セノンさんのアドバイスに従ってバックしていたおかげで、野営車両も突然の土の雨を被らずに済んでいる。
な、なるほど……汚れるってこのことか……!!
文字通りの「土砂降り」が収まった頃。鋭い爪が付いた鈍色の前足が、ぽっかりと開いた地面の穴の縁にかかり、穴の底から何かがもぞもぞと這い出てくる。
ツンと尖った鼻をむずむずを動かしながら、それは目のない頭部を振りたてた。
「やっぱり出たな!! スチールモール!!!」
『NGYUUUuuuaaaAAAuuUUUUAaaaaaa!!!!!』
剣を構えたヴィルさんの声と、喉の奥から絞り出すような甲高く不気味な咆哮が、青空の下に響き渡った。
閲覧ありがとうございます。
誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。
外出自粛の今だからこそ、外に出た気分になれそうな話を書きたいなぁ、と思うのですが、どうしてもお外ご飯の話になってしまう……(´・ω・`)
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