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ベリーは甘いか酸っぱいか

7月10日 追記

本文を書き直しました。

ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

 ハロー異世界、グッバイ日常。

 ドーモ。気ままな異邦人(エトランゼ)・小鳥遊 倫です。

 現在、ヴィルさんと並んで森に向かいつつ、色々とヴィルさんの話を聞いている所ですよ。

 そもそもヴィルさんはエルラージュを拠点に活動する冒険者で、今回はたまたま私用で一人旅をしている途中で、思いがけない事故にあってしまった……という感じらしいですね。

 不運(ハードラック)(ダンス)っちゃったんですかね。ご愁傷さまです。


 で、そのエルラージュの街は湖の向こう側にある……ということで、このチュートリアル的な採取練習が終わったら、そちらに向かう予定です。


 森は少し高台にあるらしく、1時間半程くらい歩いているとちょっとした上り坂に差し掛かった。道の横が斜面になっている。高さは3m程だろうか。斜面の上はいろんな種類の広葉樹が混じった、雑木林になっているようだ。



「うはぁ……! 空気が美味しい!!」


「空気………………美味い、か……? そもそも腹に溜まらないんじゃないか?」



 いやぁ……それにしても、この空気の清々しいことよ! ヴィルさんが風情のないことを言ってるようだけどキニシナイ!

 瑞々しく生い茂る枝葉が、適度な日陰を作ってくれているせいだろうか? だいぶ日が昇っていて日差しは暖かいけど、風が心地いい涼しさを運んでくれる。

 お借りしたレザーマントは確かにちょっと暑いけど、その分吹き抜けていく風の心地よさは格別ですな!


 ぐるぎゅごごご…………。


【閑さや 腹にしみ入る 虫の声】

 byリン タカナシ 心の俳句



「……もしかしてヴィルさん、もうお腹空いたんですか?」


「小腹は、空いたな」



 予想もしていない所での腹の虫に思わずヴィルさんの方を向くと、小首を傾げつつお腹を押さえて微笑む鬼ぃさんが立っておりました。

 ……親しみやすいイケメンの破壊力、コワイ!!


 …………そういえば、何だかんだで私もお腹空いたなぁ……。朝早く起きると、お腹空くのも早いよね……。

 こりゃあアレだな。時間がある時に、私ら用の日保ちする腹の虫抑え(おやつ)を作っておいた方が良いかもなぁ……。



「……あ! 良いのがある!!」


「どうした、リン?」


「何か生ってますよ! 木の実っぽいのが!! ほら!!」


「……生って、る……か?」


「生ってますよー! ほら、あそこ!! あの土手の上の木! 赤とか濃紫の!!」


「ああ、アレか! …………だが、食えるのか? 木の実は毒のあるものも多いぞ?」



 何か小腹の足しになりそうなものはないか……と周囲を見渡した時、ある木がふと目に留まった。木漏れ日に照らされて、ほんのり緑がかった白い実や赤い実、そして濃紫の実をつけている。

 実家の近くにあった公園の遊歩道に植えられていた、桑の木にそっくりなんですけど!!


 どこー? と掌を日除け代わりにしてまで探すヴィルさんだが、まだその木を見つけられないようだ。ふふふ……私の食べ物サーチアイは、もうすでに何本か同じような木を見つけているぞ!!


 あそこー! と指さして、ようやくヴィルさんもわかったらしい。最後の方なんか私の隣にしゃがみこんで、私の視線の高さに合わせてたけど……そんなに難しいかな?

 しかも、微妙に気になることを呟きますね……。でも確かに、野草って毒がある奴も多いんだよね……。お腹壊すくらいならいいけど、死んじゃったりしたら元も子もないもんな……。


【ハールベリー(食用:美味)

 漿果(しょうか)の一種。小さな粒が集まって1つの果実を形成する。濃紫色に熟したものは甘みが強く、美味。

 未成熟なものは酸味が強く、固いので食用には向かない。

 葉は生薬としても使われ、乾燥したものを煎じて薬草茶として飲むこともある】



生存戦略(サバイバル)さんは言っている……毒がないし美味しここでしぬさだめではないと……!」


「そうなのか? よし、採りに行こう!!」


「え、速っ!! ちょっと待ってくださいよー!」



 食べられると分かった瞬間、目に見えてヴィルさんのテンションが上がった。斜面に向かってトトっと軽く走り寄ったかと思ったら、そのまま軽々と飛び上がり、たった一度斜面を蹴っただけで上まで登っている。


 ……ヴィルさんの身体能力スゲぇな……!!


 うぅぅ……こっちも負けてられないですよ!

 …………負けてられないけど、流石にあんな身体能力はありませんよ!!

 でも、私もかつては木登りに護岸ブロック登り、納屋屋根ジャンプに手すり滑りと、野生児の名をほしいままにしたおてんば娘!

 きっとまだ土手昇りだってできるはず……!


 十分と思えるくらいに距離を取って、助走をつけて…………いざ!!!!



「大丈夫か、リン?」


「………………お手数をおかけしました……」



 結局、慣性に乗って途中までは登れたものの、そのまま登りきることはできませんでした。……昔はもっとひょいひょい登れた気がしたんだけどなぁ……まさか、体重!? 体重なのか!?


 しかも、両手両足を使って必死にクライミングしたものの、あと50cmという所でバランスを崩してヴィルさんに助けてもらうハメになっちゃうとか――――足元の土が崩れて転落しかけたところで、ヴィルさんが腕を掴んで引き上げてくれたんだよね。

『ファイトォォォォ!』『いっぱぁぁぁつ!!』の掛け声が、頭の中にこだましてしまった私は悪くないと思う。



「ごめんなさい、ヴィルさん! 重かったでしょう!? 腕大丈夫ですか!? 痛い所ないですか!?」


「リンの一人や二人軽いもんだ。もう少し重くても大丈夫だぞ」


「えぇぇぇ…………こんな時、どういう顔をすればいいかわからないよ!」


「っっっ!!!! リン!! 痛い!!! 今の痛い!!!!!!」



 冒険者の腕を壊してしまうとか、万死! 私万死!! と思いつつ、引っ張り上げてくれたヴィルさんの腕を慌てて触察してみる。

 ……うん。今時点では、圧痛も運動痛もないみたいだし、炎症の所見もないし……大丈夫、かな?


 ヴィルさんの表情を窺っても、ケロリとした様子しか見受けられない。しかも、大丈夫そうかなー……と思ったとたん、女子的には聞き逃せない言葉をかけられたような気が……。


 私がもっと重かったら、雪だるまですぜ鬼ぃさん……。チクショウ! 良い筋肉しやがって!!!!


 何となく悔しくなったので、触察ついでに腕橈骨筋の筋腹を母指で圧迫してみる。

 ……うん。思った以上にバッキバキやぞ!


 悲鳴を上げるヴィルさんの姿にフフンと鼻を鳴らしつつ、私はベリーを狩るべくボディバッグに入れておいたコンビニ袋を取り出すのであった……。

閲覧ありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたら適宜編集していきます。


桑の実、甘酸っぱくて美味しいですよ! 実を摘む指先とベロが紫になちゃいますけど……。

ジャムにしても美味しいし、果実酒にしてもオツな味です。


もし、少しでも気に入って頂けましたら、ブクマ・評価等していただけるととても嬉しいです。

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